水と水質が関係しているのは、水には温度や溶けている物質、濁り、微生物などさまざまな性質があり、それらをまとめて「その水がどのような状態か」を表すのが水質だからです。 同じH₂Oを主成分とする水でも、川の水、地下水、海水、水道水では含まれる成分や状態が異なります。その違いを調べて、飲用、生物の生息、農業、工業などの用途に適しているかを判断するために水質という考え方が使われます。
水質は単に「きれいか、汚いか」を一つの数値で表すものではありません。pH、濁度、溶存酸素、BODやCOD、窒素・リン、塩分、細菌、有害化学物質など、目的に応じた複数の指標を組み合わせて評価します。つまり、水と水質の関係とは、水そのものの状態を、物理・化学・生物学的な特徴から読み取る関係だと考えるとわかりやすいでしょう。
そもそも「水質」とは何か
水質とは、その水がもつ物理的・化学的・生物学的な性質の総称です。米国地質調査所(USGS)は、水質を、選ばれた物理・化学・生物学的特性に基づき、その水が特定の用途にどれほど適しているかを示すものとして説明しています。
ここで重要なのは、「良い水質」の意味は用途によって変わることです。たとえば、植物への散水に使える水が、そのまま飲料水として適しているとは限りません。逆に、飲料水に求められる厳しい基準のすべてが、工業用水や景観用水に同じ形で必要になるわけでもありません。
そのため水質は、「水がどのくらい純粋か」だけを示す言葉ではありません。何に使う水なのか、どの生物が暮らす水域なのか、人の健康に関係するのかといった目的と合わせて評価されます。
なぜ同じ「水」でも水質が違うのか
1. 水には多くの物質が溶けるから
自然界の水は、ほとんどの場合、純粋なH₂Oだけでできているわけではありません。雨水は大気中の気体や粒子を取り込み、川や地下水は岩石や土壌と接触してミネラルを溶かします。海水には多くの塩類が含まれています。
このように、水は移動する場所や接触する物質によって組成が変わります。カルシウムやマグネシウムが増えれば硬度が変わり、塩類が増えれば電気伝導度や塩分も変化します。人間活動によって窒素、リン、農薬、金属、有機物などが加わることもあります。
2. 水の温度や流れ方が違うから
水質は、溶けている物質だけで決まりません。水温、流速、水深、日光の当たり方なども重要です。
たとえば、水に溶ける酸素の量は水温の影響を受けます。また、流れの速い川では大気から酸素が取り込まれやすい一方、流れが弱く有機物の分解が多い場所では酸素が減少することがあります。USGSも、溶存酸素は河川や湖の水質を知るうえで重要な指標だと説明しています。
3. 微生物や生物活動があるから
川、湖、地下水などには、多様な微生物が存在します。微生物は有機物を分解し、その過程で酸素を消費したり、窒素化合物などを変化させたりします。藻類や植物による光合成も、水中の酸素や栄養塩の状態に影響します。
そのため水質は、化学成分だけを測ればすべてわかるものではありません。大腸菌などの微生物学的な指標も、特に飲料水や衛生を考えるうえで重要です。
水質を調べる代表的な指標
水質には多くの測定項目があります。代表的なものを知ると、水がどのように評価されているかが見えてきます。
pH
pHは、水が酸性か中性かアルカリ性かを表す指標です。pHが大きく変化すると、水生生物に影響したり、水道設備の腐食や水処理に関係したりします。
濁度
濁度は、水中の細かな粒子によって水がどの程度濁っているかを示します。土砂、微生物、有機物などが多いと濁りが強くなることがあります。ただし、見た目が透明でも有害な化学物質や微生物が含まれている場合があるため、「透明=安全」とは限りません。
溶存酸素(DO)
溶存酸素は、水中に溶けている酸素の量です。魚や多くの水生生物は、この酸素を利用して生きています。USGSは、河川や湖の溶存酸素量から水質について多くの情報が得られるとしています。
BODとCOD
BOD(生物化学的酸素要求量)は、水中の有機物を微生物が分解するときに必要となる酸素量を示す指標です。一般に、有機物による汚れが多いとBODが高くなりやすくなります。
COD(化学的酸素要求量)は、酸化剤を使って水中の物質を酸化するときに消費される酸素量に相当する指標です。日本の水質環境基準では、河川では主にBOD、湖沼や海域では主にCODが生活環境項目として使われています。
窒素・リン
窒素やリンは生物に必要な栄養素ですが、水域に過剰に入ると藻類や植物プランクトンが増えすぎる「富栄養化」を引き起こすことがあります。藻類の大量増殖や、その後の分解による酸素不足が水生生物へ影響する場合もあります。
細菌や化学物質
飲料水や公共用水域では、微生物や有害化学物質の存在も重要です。日本では水道水について、水道法に基づく水質基準が定められており、環境省の2026年4月1日施行の一覧では52項目の水質基準が示されています。一般細菌、大腸菌、カドミウム、鉛、ヒ素、硝酸態窒素・亜硝酸態窒素、トリハロメタン類など、多様な項目が対象です。
「水質が良い」とはどういう意味か
「水質が良い」という言葉は便利ですが、科学的には目的を明確にする必要があります。
飲料水なら、人の健康を守るために微生物や化学物質が基準内にあることが重要です。川や湖なら、水生生物が生息できるだけの溶存酸素があるか、有機汚濁や富栄養化が進んでいないかなどが重視されます。農業用水なら塩分や特定成分が作物や土壌へ与える影響も問題になります。
WHOの飲料水水質ガイドラインも、飲料水の安全を守るには微生物学的、化学的、放射線学的、物理的な要素などを総合的に評価し、取水源から利用者までリスクを管理する考え方が重要だとしています。
つまり、「水質が良い」とは単に不純物が少ないという意味ではなく、その水の用途に対して問題となる性質や物質が適切な範囲に保たれていることだといえます。
日本では水質をどのように守っているのか
日本では、公共用水域と水道水で目的の異なる基準が設けられています。
環境省の「水質汚濁に係る環境基準」は、河川、湖沼、海域などの公共用水域について、人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持することが望ましい水質条件を定めています。健康に関する項目と、BOD、COD、溶存酸素などの生活環境に関する項目が分けて設定されています。
一方、水道水には、水道法に基づく水質基準があります。これは蛇口から供給される水が飲用に適した安全性を確保するための基準です。公共用水域の環境基準とは目的が異なるため、同じ「水質基準」という言葉でも内容や使い方は同じではありません。
この違いからも、水質が「一つの絶対的な良し悪し」ではなく、用途とリスクに応じて評価されることがわかります。
水質はどのように悪化するのか
水質が変化する原因には、自然由来のものと人間活動由来のものがあります。
- 生活排水:有機物、窒素、リン、洗剤などが水域へ入ることがあります。
- 農業:肥料由来の窒素・リンや、農薬などが雨によって流出する場合があります。
- 工場・事業場:適切に処理されない排水が流れれば、化学物質や有機物が水質へ影響します。
- 都市からの流出:道路や市街地にたまった汚れが雨水とともに河川へ流れ込むことがあります。
- 自然現象:大雨による土砂流入、火山や地質由来の成分などによって水質が変わることもあります。
したがって、水質が悪化しているからといって、原因が必ず一つとは限りません。土地利用、流域の人口、季節、降雨、水温など複数の条件を合わせて調べる必要があります。
水質は季節や天気でも変わる
同じ川や湖でも、水質は一年中まったく同じではありません。
大雨の後には土砂や道路上の物質が流れ込み、濁度や一部の成分濃度が変化することがあります。反対に、雨による増水で特定物質の濃度が薄まる場合もあります。夏に水温が上がれば、溶存酸素が減りやすくなる一方、植物プランクトンの増殖が活発になることもあります。
そのため、水質を正確に把握するには一度だけ測るのではなく、場所や季節、時間帯を考えながら継続して調査することが重要です。環境省の水質調査方法でも、公共用水域の環境基準の達成状況を把握するため、年間を通じた定期的な採水・分析が基本とされています。
見た目やにおいだけで水質は判断できない
水質を考えるときに注意したいのは、人の感覚だけでは安全性を判断できないことです。
濁っていたり強いにおいがあったりする水は異常に気づきやすい一方、無色透明でも細菌や有害物質が含まれる可能性があります。USGSも、水質は見ただけでは判断できないと説明しています。
反対に、鉄やマンガンなどによって色やにおいが生じても、それだけで直ちに重大な健康リスクを意味するとは限りません。水質は測定値と用途別の基準を使って判断する必要があります。
水質と水循環はつながっている
水質は、その場所だけで決まるものではありません。水は蒸発、降水、地表流、地下への浸透、河川流出などを通じて地球上を移動します。
雨が地面へ浸透すると、土壌や岩石との接触によって成分が変化します。地下水が川へ湧き出せば、河川の水質にも影響します。川に入った物質は下流や海へ運ばれることもあります。
このため水質を守るには、測定地点だけでなく、その上流や流域全体を見る必要があります。WHOの飲料水ガイドラインでも、飲料水の安全管理を取水源から消費者まで一貫して行う考え方が重視されています。
身近な水で考えるとわかりやすい
水と水質の関係は、身の回りの水を比べると理解しやすくなります。
- 水道水:飲用できるよう微生物や化学物質などが管理されています。
- 川の水:地質、降雨、生活排水、農業、流量などの影響を受けます。
- 地下水:地中を通る間にミネラルが溶け込み、地質によって成分が大きく異なることがあります。
- 海水:多くの塩類を含むため、淡水とは塩分や電気伝導度が大きく異なります。
- 池や湖:水が長くとどまるため、栄養塩や藻類、水温による成層などの影響を受けやすい場合があります。
どれも主成分は水ですが、置かれた環境によって性質が変わるため、それぞれ異なる「水質」をもつのです。
まとめ
水と水質が深く関係しているのは、水が周囲の環境と物質をやり取りしながら、その状態や成分を変えていくからです。そして、その水の状態を測定し、用途に適しているかを判断する考え方が水質です。
- 水質は水の物理・化学・生物学的な性質の総称である
- 水質は一つの数値ではなく、pH、濁度、溶存酸素、BOD・COD、栄養塩、微生物など複数の指標で評価する
- 同じ水でも、地質、気候、生物、人間活動によって水質は変わる
- 「良い水質」の意味は、飲用、生態系、農業など用途によって異なる
- 日本では公共用水域の環境基準と水道水の水質基準が、それぞれの目的に応じて設けられている
- 見た目が透明でも安全とは限らず、測定と基準による評価が必要である
- 水質は水循環や流域全体の環境と密接につながっている
つまり、水質とは水とは別のものではありません。水がどのような環境を通り、何を含み、どのような状態にあるのかを表す「水のプロフィール」のようなものなのです。

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