なぜ食べ物にうま味を感じるのか?

昆布だし、かつお節、干ししいたけ、肉、魚、チーズ、トマトなどを食べると、私たちは甘味・塩味・酸味・苦味とは違う、厚みのある「うま味」を感じます。

うま味は「おいしい」という総合評価そのものではありません。グルタミン酸などのうま味物質を舌の味蕾にある受容体が検出し、その情報を神経信号へ変えて脳へ伝えることで生じる基本味の一つです。

さらに、グルタミン酸にイノシン酸やグアニル酸が加わると、うま味が大きく強まる「相乗効果」が起こります。日本料理で昆布とかつお節を組み合わせると、単独よりも強いうま味を感じるのは、この仕組みが関係しています。

目次

結論:うま味物質がT1R1/T1R3などの受容体を刺激し、その信号を脳がうま味として認識するから

食べ物にうま味を感じる仕組みは、次のように整理できます。

  • グルタミン酸などのうま味物質が唾液に溶けて味蕾へ届く
  • 味細胞にあるT1R1/T1R3などのうま味受容体が刺激される
  • 細胞内でPLCβ2などを介する情報伝達反応が起こる
  • 細胞内のカルシウム濃度が上昇し、TRPM5などを介して味細胞が興奮する
  • ATPが放出され、味覚神経へうま味の情報が伝わる
  • 信号が脳で処理され、「うま味」として知覚される
  • IMPやGMPが共存すると、グルタミン酸による受容体応答が強まり、うま味の相乗効果が起こる

つまりうま味とは、食べ物の化学成分そのものではなく、うま味物質を味覚系が検出し、その信号を脳が「うま味」と解釈した結果です。

うま味の代表的な物質は何?

代表的なうま味物質は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸です。

昆布には遊離グルタミン酸が多く含まれ、これが昆布だしのうま味の中心になります。グルタミン酸はタンパク質を構成するアミノ酸の一つですが、タンパク質に結合した状態よりも、遊離した状態でうま味として感じられやすくなります。

一方、かつお節にはイノシン酸、干ししいたけにはグアニル酸といった5′-リボヌクレオチドが多く含まれます。これらも単独でうま味に寄与しますが、特に重要なのはグルタミン酸と一緒になったときです。

日本味と匂学会誌の解説でも、5′-イノシン酸と5′-グアニル酸はうま味を呈し、L-グルタミン酸と共存すると、うま味が相乗的に増強することが整理されています。

舌ではどこでうま味を感じているの?

舌の表面には乳頭と呼ばれる構造があり、その一部に味蕾があります。味蕾は複数の味細胞からできており、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味などの基本味を検出します。

食べ物をかむと、グルタミン酸や核酸系のうま味物質が唾液に溶け、味蕾にある味細胞へ届きます。

かつては味ごとに舌の場所が完全に分かれているという「舌の地図」が広まりましたが、現在ではうま味を含む基本味は舌の複数の領域にある味蕾で検出されると考えられています。

したがって、うま味専用の場所が舌の一か所にあるわけではありません。

うま味受容体T1R1/T1R3とは何?

うま味受容で中心的な役割を持つ受容体の一つが、T1R1とT1R3という二つのタンパク質が組み合わさったT1R1/T1R3です。

この受容体はGタンパク質共役型受容体の仲間で、味細胞の表面に存在します。ヒトでは主にL-グルタミン酸などのうま味刺激に反応します。

T1R1/T1R3は、甘味受容体T1R2/T1R3とT1R3を共有しています。しかし、T1R1と組み合わさるとうま味、T1R2と組み合わさると甘味というように、受容体の組み合わせによって認識する味が変わります。

なお、うま味受容にはT1R1/T1R3以外のグルタミン酸受容体が関与する可能性も研究されています。動物実験ではT1R1やT1R3を欠いてもグルタミン酸への応答が完全には消えない例があり、うま味受容の全体像には複数の経路が関わる可能性があります。

受容体が刺激されると、どうやって神経信号になるの?

グルタミン酸などがT1R1/T1R3を刺激すると、味細胞の内部で情報伝達反応が始まります。

受容体からの信号はGタンパク質を介してPLCβ2を活性化し、細胞内のカルシウム濃度を上昇させます。その結果、TRPM5という陽イオンチャネルが働き、味細胞が脱分極します。

味細胞が十分に興奮するとATPが放出され、近くの味覚神経にある受容体を刺激します。すると、うま味の情報が電気信号として脳へ送られます。

この仕組みは甘味や苦味の受容と共通する部分がありますが、最初に刺激される受容体が異なるため、脳へ送られる情報は「うま味」として区別されます。

なぜ昆布とかつお節を合わせるとうま味が強くなるの?

うま味の特徴として有名なのが「相乗効果」です。

昆布に多いグルタミン酸と、かつお節に多いイノシン酸を組み合わせると、それぞれを単独で使ったときよりも、はるかに強いうま味を感じることがあります。干ししいたけに多いグアニル酸も、グルタミン酸とうま味の相乗効果を示します。

T1R1/T1R3では、グルタミン酸が受容体の主な刺激物質として働き、IMPやGMPは受容体がグルタミン酸に反応しやすい状態を安定化すると考えられています。

その結果、同じグルタミン酸濃度でも、核酸系うま味物質が共存すると味細胞の応答が強まり、私たちはより強いうま味として感じます。

この相乗効果は、日本料理の「合わせだし」だけでなく、肉とトマト、チーズとトマトなど、さまざまな食材の組み合わせでも起こり得ます。

グルタミン酸ナトリウムは「塩味」もあるの?

グルタミン酸ナトリウム、いわゆるMSGは、グルタミン酸とナトリウムからなる塩です。

水に溶けると、グルタミン酸イオンとナトリウムイオンに分かれます。グルタミン酸側はうま味受容体を刺激し、ナトリウム側は濃度によって塩味へ多少寄与することがあります。

そのため、MSGの味を考えるときは「うま味だけの物質」と単純化せず、食品中では塩味やほかの味との相互作用も含めて考える必要があります。

ただし、MSGの特徴的な味の中心はグルタミン酸によるうま味です。

うま味と「おいしい」は同じ意味なの?

同じではありません。

「うま味」は、甘味、塩味、酸味、苦味と並ぶ基本味の一つです。一方、「おいしい」は、味だけでなく香り、温度、食感、見た目、空腹状態、経験、好みなどを脳が総合して判断する評価です。

そのため、うま味が強い食品が必ずおいしいとは限りません。うま味が強すぎたり、塩味や酸味とのバランスが悪かったりすれば、好ましく感じないこともあります。

逆に、うま味がそれほど強くなくても、香りや食感、甘味、酸味との組み合わせによって、とてもおいしく感じる食品もあります。

つまり「うま味」は味覚の種類、「おいしい」は食品全体に対する総合評価です。

うま味があると、なぜ料理に厚みを感じることがあるの?

うま味は、単独で感じたときよりも、塩味や香り、脂質、食感などと組み合わさったときに料理全体の印象を変えることがあります。

グルタミン酸や核酸系うま味物質が加わると、味の持続感や厚みが増したように感じることがあります。また、うま味が塩味の満足感を補うことで、料理によっては塩分を増やさなくても味がまとまったように感じられる場合があります。

ただし、これは「うま味が他の味をすべて強くする」という意味ではありません。食品の濃度や組み合わせによって相互作用は変わります。

うま味は、ほかの基本味や香りと組み合わさることで、全体の風味を形作る一要素として働きます。

人によってうま味の感じ方は違うの?

同じ食品を食べても、うま味の感じ方には個人差があります。

味覚受容体の遺伝的な違い、味蕾の状態、唾液、年齢、食経験、普段食べている料理などが影響する可能性があります。

また、うま味物質を検出できる感度と、うま味の強い食品を好むかどうかは同じではありません。感度が高い人が必ずうま味の強い食品を好むわけではなく、嗜好には文化や経験も大きく関わります。

そのため、「うま味を感じる仕組み」と「うま味をおいしいと評価する仕組み」は分けて考える必要があります。

うま味はタンパク質そのものの味なの?

タンパク質を構成するアミノ酸の中には、うま味に関係するものがありますが、タンパク質そのものを舌がそのまま強いうま味として感じているわけではありません。

特に重要なのは、食品中に遊離しているグルタミン酸です。肉や魚、チーズ、発酵食品などでは、熟成や発酵、加熱などによってタンパク質が分解され、遊離アミノ酸が増えることがあります。

その結果、原料の状態よりもうま味が強くなる場合があります。

さらに肉や魚では核酸が分解されてイノシン酸などが生じることがあり、グルタミン酸との相乗効果によってうま味が増すこともあります。

まとめ

食べ物にうま味を感じるのは、グルタミン酸などのうま味物質を舌の味蕾にある受容体が検出し、その情報を神経信号へ変えて脳へ伝えるからです。

中心的な受容体の一つがT1R1/T1R3で、刺激されるとPLCβ2、細胞内カルシウム、TRPM5などを介して味細胞が興奮し、ATPを通じて味覚神経へ情報が伝わります。

また、グルタミン酸にイノシン酸やグアニル酸が加わると、受容体の応答が強まり、うま味の相乗効果が起こります。昆布とかつお節の合わせだしが強いうま味を持つのは、その代表例です。

そして「うま味」は「おいしい」と同じ意味ではありません。うま味は基本味の一つであり、おいしさはうま味を含む複数の味、香り、温度、食感、経験などを脳が統合した総合評価です。

つまりうま味とは、食べ物に含まれるアミノ酸や核酸関連物質を味覚系が検出し、それを脳が一つの基本味として解釈することで生まれる感覚なのです。

参考資料

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