食品の賞味期限は、製造日から適当な日数を足して決めるものではありません。実際には、その食品を一定期間保存しながら、味、香り、色、食感、微生物、理化学的な変化を調べ、どこまで品質を保てるかを確かめて設定します。
賞味期限が保存試験や加速試験から決められるのは、食品の品質が時間とともにどのように変化するかを実測し、その変化速度から「期待される品質を十分に保てる期間」を科学的に推定する必要があるためです。長期間保存できる食品では、高温などで品質変化を速める加速試験も利用されますが、加速条件で起きる変化が通常保存と同じとは限らないため、最終的には実際の保存条件で妥当性を確認することが重要です。
賞味期限は「時間と品質変化」の関係から決める
食品は保存中に少しずつ変化します。脂質が酸化して風味が落ちたり、水分移動で食感が変わったり、色素が分解して見た目が変わったりします。
そこで期限を設定するときは、時間の経過に伴ってどの品質項目がどのように変化するかを追跡します。ある時点で商品として期待される品質の範囲を外れるなら、その変化が賞味期限を決める重要な指標になります。
消費者庁の食品期限表示ガイドラインでも、期限は食品の特性に応じて、微生物試験、理化学試験、官能検査などの客観的な指標を用い、科学的・合理的な根拠に基づいて設定することが求められています。
保存試験では何を調べる?
保存試験では、製品を実際の保存条件またはそれに近い条件で一定期間保管し、定期的に品質を測定します。
微生物試験では、一般生菌数、酵母、カビなど、食品ごとに問題となる微生物の増減を確認します。理化学試験では、pH、水分活性、酸価、過酸化物価、色、粘度など、食品の品質変化を数値化できる項目を測定します。
官能検査では、味、香り、色、食感など、人が実際に感じる品質を評価します。食品によっては、理化学的な変化より先に人が風味の劣化を感じることもあります。
どの検査項目を使うかは食品によって違う
すべての食品で同じ検査項目を使うわけではありません。
油脂を多く含む食品では酸化が賞味品質を左右しやすいため、過酸化物価や酸化臭の官能評価が重要になることがあります。乾燥食品では吸湿による食感変化が問題になる場合があります。
精米の保存試験では、理化学測定に加えて官能評価を行い、官能試験の総合評価が賞味期限設定で重要な指標になった研究例があります。
つまり期限設定では、その食品で最も早く品質限界へ達する可能性のある項目を見つけることが重要です。
「実保存試験」は最も直接的な方法
実保存試験では、実際に想定する保存温度で製品を保管し、時間の経過とともに品質を確認します。
たとえば常温保存の商品なら、想定する室温条件で数か月から数年にわたって保存し、品質がどこまで維持されるかを調べます。
この方法の長所は、実際の販売・保存条件に近いため、得られた結果を直接解釈しやすいことです。
一方で、賞味期限が1年、2年と長い食品では、製品開発段階で結果が出るまで非常に長い時間がかかります。そこで利用されるのが加速試験です。
加速試験とは何を「加速」するのか?
加速試験では、通常より高い温度など、品質変化が速く進む条件で食品を保存し、短い期間で変化の傾向を観察します。
多くの化学反応は、温度が高くなると速く進みます。酸化、褐変、ビタミン分解などが温度依存で進む場合、高温条件での変化速度を測定し、通常の保存温度でどのくらい時間がかかるかを予測できます。
スモモジャムの賞味期限設定研究では、24℃での通常保存に加えて、34℃と44℃で加速保存を行い、理化学試験と官能評価の結果から賞味期限予測を試みています。
なぜ高温で保存すると未来の変化を予測できる?
温度と化学反応速度の関係を説明する代表的な考え方がアレニウス式です。
この式では、反応速度定数と絶対温度の関係を数式で表します。複数の温度で品質変化の速度を測れば、その温度依存性を使って、より低い保存温度での変化速度を推定できます。
食品の賞味期限予測では、色の変化、酸化、香気の低下など、ある程度一定の反応速度モデルに従う品質変化に利用されることがあります。
ただし、アレニウス式を使えばどんな食品でも正確に予測できるわけではありません。
加速試験が使いやすい品質変化とは?
加速試験が比較的使いやすいのは、高温にしても通常保存と同じ種類の反応が、単に速く進む場合です。
たとえば脂質酸化や一部の色変化、成分分解などは、温度による速度変化をモデル化できる場合があります。
酸化によって賞味品質が決まる食品を扱ったレビューでも、実保存試験と加速保存試験の両方が利用され、受容限界となる酸化指標や反応速度を設定する重要性が整理されています。
「どの変化を期限の指標にするか」と「その変化が温度によってどう速くなるか」を適切に選ぶことが、加速試験の精度を左右します。
微生物試験は単純に高温へすればよいわけではない
微生物による変敗を、高温で単純に加速できるとは限りません。
温度が変わると、増殖しやすい微生物の種類そのものが変わる場合があるからです。通常温度ではある微生物が支配的でも、高温条件では別の微生物が増える可能性があります。
スモモジャムの研究でも、保存温度を高くすると生育する微生物種が変わる可能性があるため、微生物試験は高温条件の加速試験には適用せず、通常保存条件で評価しています。
このように、加速試験は「温度を上げればすべてを短期間で再現できる方法」ではありません。
食品は複雑なので加速試験だけでは決められない
食品は、脂質、たんぱく質、糖、水、塩、酸、香気成分など、多くの成分からできています。
温度を上げると、一つの反応だけでなく複数の変化が同時に速くなります。また、通常保存ではほとんど起こらない反応が、高温条件では目立つ場合もあります。
消費者庁の期限表示ガイドライン見直しに関する資料でも、食品マトリックスは複雑であるため、長期保存食品を加速試験だけで決めることは難しく、実際に保存して設定期間の妥当性を確認する必要があると示されています。
加速試験の予測が外れることがあるのはなぜ?
加速試験では、「高温で起きる変化と通常温度で起きる変化が同じ機構に従う」という前提が必要です。
しかし、温度が上がると反応経路が変わったり、包装材料の性質が変わったり、食品構造が変化したりすることがあります。
また、複数の品質変化のうち、高温ではAという反応が最も速く、通常温度ではBという反応が先に品質限界へ達することも考えられます。
そのため、加速試験の結果は予測であり、最終的には実保存試験との整合性を確認する必要があります。
官能評価はなぜ重要?
理化学データが変化していても、人が食べたときに違いを感じないことがあります。逆に、数値変化が小さくても、香りや食感の変化を敏感に感じる場合もあります。
賞味期限は「期待される品質を十分に保てる期限」なので、消費者が感じる味、香り、食感も重要です。
精米の保存試験では、官能評価が理化学測定より敏感に品質劣化を検出した例があります。このように、食品によっては官能評価が期限設定の中心となることがあります。
限界値はどうやって決める?
保存試験では、測定値を集めるだけでは期限を決められません。
どの状態までを許容できるかという「品質限界」を決める必要があります。たとえば色差、酸化指標、食感、香りなどについて、商品として受け入れられる範囲を設定します。
その限界へ達するまでの時間を、保存試験や予測モデルから求めます。
この限界値は、法令上の規格、業界基準、過去の品質データ、官能評価などをもとに設定されます。
試験結果より少し短い期限にすることがあるのはなぜ?
試験に使う製品と、実際に販売されるすべての製品が完全に同じとは限りません。
原料のばらつき、製造ロット差、流通中の温度変動、包装状態などによって、品質変化の速度に差が出る可能性があります。
そのため、保存試験で品質が保てた期間をそのまま表示期限にするのではなく、食品の特性に応じて一定の余裕を持たせることがあります。
ただし、根拠なく大きな余裕を取れば期限が不必要に短くなり、食品ロスにつながります。余裕の取り方も科学的に考える必要があります。
開発途中では予測、発売後は実データで確認することもある
商品開発では、発売前に長期間の実保存データをすべてそろえられない場合があります。
そこで、短期間の保存試験、過去の類似製品データ、加速試験、反応速度モデルなどを組み合わせて初期の期限を設定し、その後、実保存試験を継続して予測の妥当性を確認することがあります。
重要なのは、予測モデルを「答え」と考えるのではなく、実測データと組み合わせて更新することです。
保存温度が違えば期限も変わる
同じ食品でも、保存温度が違えば品質変化の速度は変わります。
精米の保存研究では、保存温度が高いほど官能品質の低下が早く、低温ほど長く品質を保てる結果が示されています。
そのため賞味期限は、表示された保存方法とセットで意味を持ちます。「25℃以下」「直射日光を避ける」「要冷蔵」などの条件を守らなければ、試験で確認した品質保持期間をそのまま当てはめることはできません。
賞味期限を設定する理由とは別の話
食品に賞味期限が設定されているのは、保存中に品質が変化するため、その食品が期待される品質を十分に保てる期間を消費者へ示す必要があるからです。
一方、この記事で扱っているのは、その期限を実際に「どう測り、どう予測するか」という評価方法です。
保存試験では実際の変化を測り、加速試験では短期間のデータから通常保存時の変化を予測します。この二つを適切に使い分けることが、科学的な期限設定につながります。
まとめ
賞味期限が保存試験や加速試験から決められるのは、食品の品質が時間とともにどのように変化するかを測定し、その変化が許容限界へ達するまでの時間を科学的に推定する必要があるためです。
保存試験では、微生物、理化学特性、官能品質などを実際の保存条件で追跡します。加速試験では、高温などで品質変化を速め、その温度依存性から通常条件での変化を予測します。
ただし、食品は複雑で、加速条件で通常保存と同じ変化が起こるとは限りません。そのため、加速試験は予測の道具として使い、最終的には実保存データで妥当性を確認することが重要です。
参考資料
- 消費者庁「食品表示法等(食品期限表示の設定のためのガイドライン)」
- 尾形(斎藤)美貴ほか「スモモジャムを対象とした賞味期限設定に関する検討」日本食品保蔵科学会誌
- 横江未央・川村周三「精米の賞味期限の設定(第2報)貯蔵中の食味の変化」
- Calligaris S, et al. Shelf-life Assessment of Food Undergoing Oxidation-A Review.

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