なぜ食品の酸化は保存温度や時間によって進み方が変わるのか?

食品を保存していると、油っぽいにおいが出たり、色が変わったり、風味が弱くなったりすることがあります。その大きな原因の一つが「酸化」です。

酸化というと、単に食品が空気中の酸素と触れて変化する現象のように思えますが、実際には脂質の自動酸化、光によって促進される光酸化、酵素が関わる酸化など、いくつもの経路があります。そして、その進み方は保存温度や保存時間だけでなく、酸素、光、金属、食品中の脂肪酸組成、抗酸化成分、包装方法などにも左右されます。

そのため、同じ食品でも高温で保存した場合と低温で保存した場合、短期間と長期間では、酸化の程度や現れるにおい・色・栄養成分の変化が異なります。

目次

食品の酸化とは何が起こっているの?

食品の保存中に問題になりやすいのが脂質の酸化です。油脂を構成する脂肪酸、とくに二重結合を多く持つ不飽和脂肪酸は酸化を受けやすく、反応が進むとまず過酸化物やヒドロペルオキシドなどの一次酸化生成物が生じます。

これらはさらに分解され、アルデヒド、ケトン、アルコールなどの二次酸化生成物になります。二次酸化生成物の中には非常に低い濃度でもにおいを感じるものがあり、油の「古いにおい」や魚臭、青臭さなどの原因になります。

日本の脂質酸化研究でも、多価不飽和脂肪酸が保存中などに酸化され、生成したカルボニル化合物などが食品の風味に大きな影響を与えることが示されています。

なぜ温度が高いと酸化が進みやすいの?

化学反応の速度が上がるから

一般に、温度が高くなると分子の運動が活発になり、化学反応が進みやすくなります。脂質酸化も例外ではなく、一定の範囲では保存温度が高いほど反応速度が上がりやすくなります。

日本食品工業学会誌に掲載されたモデル食品の研究では、油脂や脂肪酸を30℃、0℃、-20℃で保存し、酸化の進み方を比較しています。その結果、油脂では30℃保存で酸化が著しく、低温ほど酸化が抑えられる傾向が確認されました。

このため、油脂を多く含む食品では、低温保存が酸化を遅らせるための基本的な方法の一つになります。

ただし「温度だけ」で酸化速度は決まらない

温度を下げれば酸化は遅くなりやすいものの、必ず完全に止まるわけではありません。前述の研究でも、不飽和度の高い脂肪酸では-20℃でも酸化が進む例がありました。

これは、食品中の脂質の種類や状態、酸素量、光、金属イオンなどによって、低温下でも酸化反応が継続するためです。冷凍食品でも保存期間が長くなると、脂質酸化によって風味が変わることがあります。

なぜ保存時間が長いほど酸化が目立つの?

酸化反応が連鎖的に進むから

脂質の自動酸化では、最初に反応が始まる「開始」、反応が連鎖する「進行」、反応性の高い物質同士が結合して止まる「停止」という段階があります。

保存初期には見た目やにおいの変化が小さくても、酸化生成物が蓄積し、反応が連鎖的に進むと、ある時点から風味劣化が目立ちやすくなります。

つまり、保存時間と酸化の程度は単純な直線関係とは限りません。初期には変化がゆっくりでも、酸化反応が進行すると急速に品質が低下することがあります。

一次酸化生成物が減っても「酸化が改善した」とは限らない

酸化の評価では過酸化物価などが使われますが、過酸化物は酸化が進むと分解して二次生成物になります。そのため、保存後期に過酸化物価が低下したからといって、食品が元の新鮮な状態に戻ったとは限りません。

酸化の程度を正しく見るには、一次生成物と二次生成物、におい、色など複数の指標を組み合わせることが重要です。

酸素が多いほど酸化は進むの?

脂質の自動酸化には酸素が関わるため、食品の周囲に酸素が多いほど酸化が進みやすくなる場合があります。このため、真空包装やガス置換包装などで酸素を減らすことは、酸化抑制の代表的な方法です。

ただし、酸素を完全にゼロにすることは難しく、包装内に残る酸素や包装材を透過する酸素もあります。また、一度酸化反応が始まっている食品では、わずかな酸素でも反応が続くことがあります。

そのため、酸素対策だけでなく、低温、遮光、適切な包装材などを組み合わせることが効果的です。

光が当たると酸化が速くなるのはなぜ?

光、とくに特定の波長の光は、食品中の色素などを介して「一重項酸素」と呼ばれる反応性の高い酸素種を生じさせることがあります。この一重項酸素は不飽和脂肪酸などと反応し、光酸化を進めます。

光酸化は通常の自動酸化とは反応経路が異なり、非常に速く進むことがあります。透明な容器に入った油や乳製品、飲料などで遮光包装が使われるのは、光による品質劣化を抑える目的があります。

海外のレビューでも、光は食品中の酸化反応を促進する重要な因子として整理されています。

食品によって酸化の速さが違うのはなぜ?

脂肪酸の「不飽和度」が違うから

脂肪酸は二重結合が多いほど一般に酸化されやすくなります。魚油に多いEPAやDHAのような高度不飽和脂肪酸は栄養上重要ですが、酸化しやすい性質も持っています。

一方、飽和脂肪酸は比較的酸化されにくいため、同じ条件で保存しても食品によって酸化速度が大きく異なります。

鉄や銅などの金属が反応を促進することがある

食品中に微量の鉄や銅などの金属イオンが存在すると、過酸化物の分解などを促し、酸化反応を加速することがあります。肉や魚などでは、ヘム鉄などが脂質酸化に関係することがあります。

そのため、同じ脂質量でも食品の構造や含まれる成分によって酸化安定性は異なります。

抗酸化成分の量も違うから

食品にはビタミンE、ポリフェノール、カロテノイドなど、酸化反応を抑える働きを持つ成分が含まれることがあります。これらはラジカルを捕捉したり、反応性酸素を失活させたりして、酸化の進行を遅らせます。

ただし、抗酸化成分そのものも高温や強い光によって分解する場合があります。したがって、「抗酸化成分が入っているから酸化しない」ということではありません。

水分量も酸化に影響するの?

食品中の水分と酸化の関係は単純ではありません。水分活性が非常に低い乾燥食品でも、脂質酸化が進むことがあります。

食品の物理構造、脂質と水の位置関係、金属イオンや抗酸化成分の移動性などによって、酸化速度が変わるためです。粉末食品や乾燥食品では表面積が大きく、酸素に触れやすいことも酸化を促す要因になります。

したがって、「乾燥しているから酸化しない」とは限りません。

酸化を抑えるには何を組み合わせればよい?

食品の酸化を抑える方法には、低温保存、遮光、酸素を減らす包装、酸素を通しにくい包装材、抗酸化成分の利用などがあります。

海外の食品科学レビューでも、脂質酸化を抑える方法として、真空包装、ガス置換包装、抗酸化物質、低温保存などが挙げられています。

ただし、最適な方法は食品によって異なります。油脂の多い食品、魚、肉、ナッツ、乳製品、乾燥食品では、酸化を促進する条件や品質劣化の現れ方が違うためです。

家庭でできる酸化対策

家庭では、食品表示に書かれた保存方法を守ることが基本です。油、ナッツ、乾物などは直射日光や高温を避け、開封後はできるだけ空気との接触を減らします。

冷蔵・冷凍指定の食品は適切な温度で保存し、長期間保存しすぎないことも重要です。開封後は容器のふたをしっかり閉め、必要に応じて密閉容器に移すことで、酸素や湿気の影響を抑えやすくなります。

また、油に古いにおい、苦味、刺激臭など明らかな異常がある場合は、表示期限だけで判断せず、使用を避けることが安全です。

まとめ

食品の酸化が保存温度や時間によって変わるのは、酸化が温度に依存する化学反応であり、保存中に反応生成物が蓄積していくからです。高温では多くの場合、脂質酸化が速くなり、低温では遅くなりますが、低温でも酸化が完全に止まるわけではありません。

さらに、酸化の進み方は酸素、光、脂肪酸の不飽和度、鉄や銅などの金属、抗酸化成分、食品の構造や包装によっても変わります。

食品を長く良い状態で保存するには、「温度だけ」「時間だけ」で考えるのではなく、低温、遮光、酸素管理、適切な包装、保存期間を組み合わせて考えることが大切です。

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