米を玄米から白米へ精米すると、外側のぬか層が少しずつ取り除かれ、でんぷんを多く含む胚乳が残ります。小麦では、粒を砕いてふるい分けることで、ふすまや胚芽と胚乳を分け、白い小麦粉を取り出します。
どちらも「外側を取り除いて中身を利用する」操作ですが、仕組みは同じではありません。米は粒の形をできるだけ保ったまま表面を削るのに対し、小麦は粒をあえて段階的に砕き、外皮と胚乳の壊れ方や粒の大きさの違いを利用して分離します。
結論:穀粒の組織ごとに「硬さ・壊れ方・粒度」が違うため、機械的に分けられる
米や小麦の精製が成立する主な理由は、次の四つです。
- 穀粒は、外皮・胚芽・胚乳という性質の異なる組織からできている
- 米では、比較的硬い胚乳を残しながら、外側のぬか層を摩擦や研削で剥がせる
- 小麦では、外皮を大きめの破片として残し、胚乳を細かく砕くように調湿・ロール粉砕できる
- 砕いた後に、粒の大きさや重さの違いを使って、ふるい分けや風力選別を繰り返せる
つまり精製とは、穀物を単純に「削る」「挽く」作業ではありません。穀粒の構造と物性の違いを利用して、目的の組織をできるだけ純度よく取り出す分離操作です。
まず穀粒はどんな構造をしている?
米や小麦の粒には、外側の保護組織、次世代の植物になる胚芽、そして栄養を蓄える胚乳があります。
胚乳にはでんぷんが多く、穀物食品の主要なエネルギー源になります。一方、外側の層には食物繊維やミネラルが多く、胚芽には脂質やビタミンなどが多く含まれます。
重要なのは、これらの組織が化学組成だけでなく、機械的な性質も違うことです。硬さ、弾力、割れやすさ、粒になったときの大きさが違うため、機械で力を加えたときに同じようには壊れません。
米の精米は、なぜ粒の形を残したまま進められる?
米では、主に玄米の表面にあるぬか層を取り除き、胚乳を白米として残します。
農林水産省の資料では、米は小麦に比べて胚乳が硬く、摩擦などの衝撃でも砕けにくい性質があると説明されています。このため、米粒全体を粉にしなくても、表面側を少しずつ削ることができます。
精米では、米粒同士や米粒と機械部品との接触を利用して外層を剥がす方法と、砥石状のロールで表面を削る方法が使われます。
胚乳まで強く削りすぎると砕米や歩留まり低下が起こるため、精米は「外層だけを効率よく除く」ように圧力や回転速度を調整する必要があります。
摩擦式精米では何が起きている?
摩擦式精米では、精白室の中で米粒を動かしながら圧力を加え、米粒同士や米粒と精白ロール・金網との接触を繰り返します。
その摩擦と擦れによって、表面のぬか層が剥離します。剥がれたぬかは金網の外へ排出され、白くなった米粒が残ります。
農業機械学会誌の精米機解説でも、摩擦式は米粒に圧力をかけ、摩擦作用と擦離作用を利用して糠層を剥がす方式として説明されています。
ただし、圧力が強すぎると米粒が割れやすくなります。精白度を上げながら砕米を減らすには、米粒へかかる力を均一にすることが重要です。
研削式精米では何が違う?
研削式では、表面が粗い研削ロールや砥石を高速で回転させ、米粒の表面を削り取ります。
摩擦式が米粒同士の押し合いや擦れを多く利用するのに対し、研削式はロール表面とのせん断や研磨作用を強く利用します。
研究では、研削ロールの粒度や回転数によって、玄米の削られ方や精白米の形状が変わることが示されています。
酒造用米のように高い精米歩合まで削る場合は、米粒を割らずに外側から均一に削る必要があるため、研削条件の制御が特に重要になります。
なぜ米では「削る」のに、小麦では「砕く」の?
小麦は米と粒の構造が異なります。
農林水産省は、小麦では外皮が硬く、胚乳が比較的やわらかく砕けやすいこと、さらに粒に深い溝があるため外皮を粒のまま完全に剥がしにくいことを、製粉して利用する構造上の理由として挙げています。
つまり、小麦では米のように外側を均一に削って白い粒を作るより、粒を砕いて中の胚乳を細かい粉として取り出すほうが合理的です。
小麦製粉は、外皮を大きな破片として残しながら、胚乳を細かく砕くことを目指した分離工程です。
小麦を粉砕する前に、なぜ水を加える?
現代の製粉では、粉砕前に小麦へ水を加えて一定時間置く「調湿」や「テンパリング」が行われます。
農林水産省の製粉工程でも、粉砕の前に水を加え、外皮をはがれやすくし、胚乳をやわらかくする工程が示されています。
この前処理によって、外皮と胚乳の機械的性質の差を大きくできます。外皮は大きな薄片として残りやすくなり、胚乳はロールで砕かれやすくなります。
結果として、粉砕後の粒径差が明確になり、ふるい分けで両者を分けやすくなります。
最初のロールでは、なぜ細かい粉にしすぎない?
小麦製粉では、最初から粒全体を微粉末にしてしまうと、外皮も細かく砕けて小麦粉へ混ざりやすくなります。
そこで、最初の「ブレーキ工程」では溝のあるロールを使い、粒を開くように割って胚乳を外皮からはがします。
ローラー製粉の解説では、最初の破砕は製粉工程の中でも特に重要で、穀粒構造に応じて胚乳を取り出しながら外皮を大きく保つことが分離効率を左右するとされています。
つまり、目的は「一度で粉にすること」ではなく、「後で分けやすい壊し方をすること」です。
砕いた後は、なぜ何度もふるいにかける?
ロールで砕いた小麦は、細かい胚乳粉、大きめの胚乳片、外皮片、胚芽片などが混ざった状態になります。
そこで、何段ものふるいで粒径ごとに分けます。細かい粉は小麦粉として回収し、大きい胚乳片は次のロールへ送り、さらに細かくします。
外皮片は比較的大きく残りやすいため、ふるいの上に残りやすくなります。
農林水産省も、溝付きロールによる粉砕、複数のふるいによる選別、風による外皮と胚乳片の分離、溝のないロールによる再粉砕を繰り返す段階式製粉を説明しています。
風でも分けるのはなぜ?
同じ大きさの粒でも、胚乳片と外皮片では密度や形が違います。
外皮は薄く軽いため空気流の影響を受けやすく、胚乳片は比較的重く落ちやすい性質があります。
そこで、ふるいだけでなく風力を利用すると、粒径だけでは分けにくい外皮と胚乳をさらに分離できます。
このように、現代の製粉は「大きさ」「重さ」「形」「硬さ」という複数の物理特性を組み合わせた分離工程です。
なぜロール粉砕とふるい分けを何度も繰り返す?
一回で強く粉砕すると、胚乳は細かくできますが、外皮まで細片化して小麦粉に混ざりやすくなります。
そこで、段階的に少しずつ胚乳を外皮から取り外し、その都度ふるい分けます。
近年のレビューでも、工業的な小麦製粉は洗浄、調湿、粉砕、ふるい分けを連続させ、外層・胚芽とでんぷん質胚乳を段階的に分離する工程として整理されています。
時間はかかりますが、この方法なら胚乳の回収率を高めながら、ふすまの混入を抑えやすくなります。
小麦の硬さが違うと製粉の仕方も変わる?
変わります。
硬質小麦と軟質小麦では、胚乳中のでんぷん顆粒とたんぱく質の結びつき方が異なり、粉砕したときの粒の大きさや損傷でんぷんの量が変わります。
硬質小麦は比較的大きな粒として割れやすく、強力粉などに向く製粉特性を持ちます。一方、軟質小麦は細かく崩れやすく、薄力粉などに向く性質があります。
そのため、ロール間隔や粉砕条件は原料小麦の硬さや用途に合わせて調整されます。
「精製度」はどうやって調整する?
米では、どこまでぬか層を削るかによって、玄米、分づき米、精白米など精米度を変えられます。
小麦では、どの製粉画分をどこまで小麦粉へ取り込むかによって、精製度や灰分、色、栄養組成が変わります。
外層に近い画分を多く混ぜるほど、食物繊維やミネラルは増えますが、色が濃くなり、製パン性なども変化します。
つまり精製度は、単に機械を長く動かす時間ではなく、「穀粒のどの組織を最終製品へ残すか」という分離設計です。
外皮と胚乳は、完全にきれいに分かれる?
完全には分かれません。
穀粒の各組織は境界でつながっており、粉砕すると外皮に胚乳が付着したり、細かなふすまが小麦粉側へ混ざったりします。
小麦ふすまは、実際には外皮だけでなく、糊粉層や少量の胚乳が付着した複合的な画分です。
そのため製粉では、「外皮を100%除いて胚乳だけにする」ことより、歩留まりと純度のバランスを取りながら目的に合う粉を得ることが重要です。
強く削る・細かく砕くほど良いわけではない
米で精米を強くしすぎると、胚乳まで削れて歩留まりが下がり、砕米も増えます。
小麦でも粉砕を強くしすぎると、ふすまが細かくなって小麦粉へ混入しやすくなり、でんぷん顆粒の損傷も増えます。
損傷でんぷんは吸水性が高く、パンや麺の生地特性へ影響するため、用途に応じて適切な範囲に制御する必要があります。
精製は「力を強くかけるほど良い」工程ではなく、目的の組織だけを選択的に分けるための力加減が重要です。
米と小麦の精製を比べると何がわかる?
米と小麦は、同じ穀物でも精製の考え方が大きく違います。
米では、硬い胚乳を一粒のまま残し、表面のぬか層を外側から取り除きます。
小麦では、深い溝を持つ粒から外皮だけをきれいに剥くのが難しいため、粒を砕き、比較的丈夫な外皮と砕けやすい胚乳の違いを利用して分けます。
この違いは、精製技術が機械だけで決まるのではなく、原料となる穀粒そのものの構造に合わせて設計されていることを示しています。
既存の「なぜ外皮や胚芽を取り除くのか?」とは何が違う?
精製する目的を考える記事では、食感、加工適性、保存性、栄養成分の変化が中心になります。
一方、本記事が扱うのは、実際に外層と胚乳をどのように物理的に分けるかという仕組みです。
米では摩擦・研削、小麦では調湿・ロール粉砕・ふるい分け・風力選別という違いに注目することで、精製という工程そのものの構造を理解できます。
まとめ
米や小麦が精米・製粉で外層と胚乳を分けられるのは、穀粒の各組織で硬さ、壊れ方、粒の大きさ、重さが異なるためです。
米では、比較的硬い胚乳を残しながら、摩擦や研削によって表面のぬか層を剥離できます。小麦では、調湿によって外皮と胚乳の性質の差を利用しやすくしたうえで、溝付きロールで粒を開き、ふるいと風で外皮を分け、残った胚乳をさらに細かく砕きます。
つまり穀物の精製とは、単純に外側を捨てる作業ではありません。穀粒の構造を読み取り、組織ごとの物理的な違いを利用しながら、必要な部分を選択的に取り出す分離技術なのです。
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参考資料
- 農林水産省「小麦粉はどのようにしてつくられますか。」
- 農業機械学会誌「研削,摩擦一体タテ形精米機」
- Handbook of Powder Technology「Roller Milling of Wheat」
- Foods「Processing and Valorization of Wheat Bran, Germ and Their Fractions: An Evidence-Graded Review of Composition, Technologies and Applications」

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