なぜ食品は吸湿するのか?

せんべいやクッキーを開封したまま置くと湿気てやわらかくなったり、粉末食品が固まったり、乾燥海苔がしんなりしたりすることがあります。こうした変化の中心にあるのが、食品が周囲の空気から水分を取り込む吸湿です。

食品が吸湿するのは、食品中の水分状態と周囲の空気中の水蒸気の状態がつり合っていないとき、水分がその差を小さくする方向へ移動するからです。乾燥した食品を湿度の高い空気に置くと、食品の表面へ水分子が吸着し、さらに内部へ移動していきます。

つまり、吸湿は「食品が水を呼び寄せる」現象ではありません。食品と周囲の空気が、それぞれの温度と湿度に対応する水分平衡へ近づこうとするために起こる水分移動です。

目次

食品は周囲の湿度に応じた「平衡含水率」へ近づく

食品を一定の温度と湿度の空気中へ長時間置くと、やがて水分の出入りがほぼつり合う状態に近づきます。このときの食品の水分量を平衡含水率と呼びます。

食品がその環境での平衡含水率より乾いていれば、空気中の水蒸気を取り込んで吸湿します。反対に、食品の水分が平衡含水率より高ければ、水分を放出して乾燥します。

2020年の日本食品工学会誌の総説では、水分活性と平衡含水率の関係を示す「水分収着等温線」が、食品中の水と固形成分の相互作用を理解する基本的な手段として整理されています。

したがって、吸湿と乾燥は別々の現象ではなく、同じ水分平衡の中で逆方向に起こる変化です。

相対湿度が高いほど吸湿しやすいのはなぜ?

空気の相対湿度が高いということは、その温度で空気中に存在する水蒸気量が、飽和状態に近いことを意味します。

乾いた食品の表面では、食品内部の水分状態に応じた水蒸気圧があります。周囲の相対湿度が高く、空気側の水蒸気圧が食品とつり合う値より高い場合、水分子は空気側から食品側へ移動しやすくなります。

そのため、梅雨時や高湿度の場所では、乾燥食品が短時間で湿気ることがあります。逆に、乾いた空気の中では食品から水分が失われやすくなります。

食品によって吸湿しやすさが違うのはなぜ?

同じ湿度の場所に置いても、砂糖を多く含む粉末、クラッカー、米、ナッツなどでは吸湿の程度が異なります。

これは、食品中の糖、塩、たんぱく質、多糖、でんぷんなどが水分子と異なる強さで相互作用するためです。水と結びつきやすい極性基を多く持つ成分は、水分子を吸着しやすくなります。

また、食品の内部構造や空隙の多さも影響します。多孔質の食品では表面積が大きく、水蒸気が内部へ入り込みやすい場合があります。

精白米でも、相対湿度と平衡含水率には一定の関係があり、吸湿特性を水分吸着等温線として表せることが国内研究で示されています。

水分活性と吸湿はどう関係する?

食品の水分を考えるときは、単なる水分含量だけでなく、水分活性も重要です。

水分活性は、食品中の水がどの程度自由に振る舞えるかを示す指標で、同じ水分含量でも食品成分との結びつき方によって異なります。一定温度では、水分活性は食品と平衡にある空気の相対湿度と深く関係します。

食品が吸湿して水分活性が上がると、化学反応や酵素反応が進みやすくなったり、条件によっては微生物が増殖しやすくなったりします。

そのため、吸湿は「少しやわらかくなる」だけの問題ではなく、保存安定性にも関わります。

せんべいやクッキーが湿気ると食感が変わるのはなぜ?

乾燥したせんべいやクッキー、クラッカーでは、でんぷんや糖、たんぱく質を含む固形成分が硬く脆い状態を作っています。

そこへ水分が入ると、水分子が食品成分の間に入り込み、分子が動きやすくなります。水は食品の高分子に対して可塑剤のように働き、硬く脆い状態から、やわらかく変形しやすい状態へ移行させることがあります。

2020年の国内総説では、水分収着によってガラス転移温度が低下し、水がガラス状食品の可塑剤として働くことが説明されています。

これが、乾いたスナック食品が吸湿すると「サクサク」から「しんなり」へ変わる大きな理由の一つです。

粉末食品が吸湿すると固まるのはなぜ?

粉ミルク、粉末調味料、インスタント飲料などでは、吸湿によって粉が固まり、流れにくくなることがあります。これを固結やケーキングと呼びます。

吸湿すると粉の表面に水分が増え、粒子同士が付着しやすくなります。糖などを多く含む粉末では、水によって表面が軟化したり、一部が溶けたりして、粒子同士をつなぐ液体架橋が生じることもあります。

その後、水分状態が変わると溶けていた成分が再結晶化し、粒子同士が強く結合することもあります。

そのため、粉末食品では吸湿を防ぐ包装が、流動性と使いやすさを保つうえで重要です。

吸湿すると微生物が増えやすくなることがある

乾燥食品は、水分活性が低いため、多くの細菌やカビ、酵母が増えにくい状態にあります。

しかし、保存中に吸湿して水分活性が上がると、微生物が利用できる水が増えます。その結果、もともと増殖できなかった微生物が活動しやすい条件へ近づくことがあります。

ただし、吸湿した瞬間に腐敗するわけではありません。微生物の増殖には水分活性のほか、温度、pH、酸素、栄養、保存時間なども関係します。

それでも、乾燥によって保存性を高めた食品では、吸湿を防ぐことがその保存性を維持する基本条件になります。

吸湿すると酸化や褐変も変わるのか?

食品中の化学反応速度は、水分量や水分活性によって変化します。

水分が非常に少ない状態では分子が動きにくく、反応が進みにくい場合があります。そこへ吸湿して分子運動が活発になると、メイラード反応など一部の反応が速くなることがあります。

一方、脂質酸化のように、水分活性との関係が単純な直線ではない反応もあります。水が少なすぎても多すぎても反応速度が異なり、食品の組成によって挙動も変わります。

そのため、「吸湿するとすべての劣化反応が同じように速くなる」とは限りませんが、水分状態が品質安定性を左右する重要な要因であることは共通しています。

温度が変わると吸湿量も変わる

食品の平衡含水率は、相対湿度だけでなく温度にも左右されます。

同じ相対湿度でも温度が違えば、水分子の運動や食品成分との相互作用が変化し、平衡含水率が変わることがあります。このため、水分収着等温線は通常、一定温度ごとに測定されます。

2015年の水分活性測定と水分収着等温線に関するレビューでも、食品の吸湿・脱湿特性を評価する際には、温度と十分な平衡時間を考慮する必要があると整理されています。

保存試験で温度と湿度を同時に管理するのは、このためです。

吸湿と乾燥で同じ経路をたどらないことがある

食品では、一度乾燥した後に吸湿させた場合と、一度湿った食品を乾燥させた場合で、同じ相対湿度でも水分量が一致しないことがあります。

この違いをヒステリシスと呼びます。乾燥や吸湿の過程で、細孔構造、でんぷん、たんぱく質などの状態が変わるため、元と同じ水分保持状態へ完全には戻らないことがあります。

つまり、食品の吸湿性は「現在の湿度」だけでなく、その食品がそれまでどのような乾燥・吸湿履歴を受けたかにも影響されます。

防湿包装はどうやって吸湿を防ぐ?

乾燥食品の包装には、空気中の水蒸気を通しにくい材料が使われます。

包装材料にはそれぞれ水蒸気の通しやすさがあり、防湿性の高いフィルムや多層包装を使うことで、外気から食品へ入る水分を減らすことができます。

さらに、乾燥剤を同封して包装内部の湿度を低く保つ方法もあります。シリカゲルなどの乾燥剤は食品そのものではなく包装内の水分を吸着し、食品が吸湿する駆動力を小さくします。

ただし、包装を開封すると外気との水分交換が始まるため、開封後は密封し直すことが重要です。

吸湿しやすい食品ほど品質が悪いわけではない

吸湿性は食品の成分と構造に由来する物性であり、それ自体が品質の良し悪しを意味するわけではありません。

たとえば糖を多く含む粉末や乾燥果実は吸湿しやすいことがありますが、それは糖が水と相互作用しやすいためです。逆に、吸湿しにくい食品でも別の理由で酸化や香りの劣化が進む場合があります。

重要なのは、食品の吸湿特性を理解し、その食品に合った湿度・包装・保存条件を選ぶことです。

家庭ではどうすれば吸湿を抑えられる?

乾燥食品の吸湿を抑える基本は、湿った空気との接触を減らすことです。

  • 開封後は袋や容器をしっかり密閉する
  • 湿気の多い場所を避ける
  • 必要に応じて食品用乾燥剤を利用する
  • 大袋は使う分だけ取り出し、長時間開けたままにしない
  • 冷蔵庫から出した容器は、結露に注意してから開封する
  • 製品に指定された保存方法を優先する

特に温度差が大きい場所では、容器表面や内部で結露が起こり、単なる吸湿より多くの水分が食品へ付く場合があります。

まとめ:食品の吸湿は空気との水分平衡へ近づくために起こる

食品が吸湿するのは、食品中の水分状態と周囲の空気の湿度がつり合っていないとき、空気中の水蒸気が食品へ移動し、その環境での平衡含水率へ近づくためです。

食品の吸湿量は、相対湿度、温度、糖・塩・たんぱく質・でんぷんなどの組成、内部構造、乾燥履歴によって変わります。

吸湿すると、水分活性が上がり、せんべいやクッキーの食感が軟化したり、粉末が固結したり、保存安定性が低下したりすることがあります。

つまり、食品の吸湿を理解するには、「水分が増えた」という結果だけでなく、食品と空気が水分を交換しながら平衡へ近づく現象として考えることが重要です。

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主な参考資料

  • 熊谷仁「食品の物性そして水-水分活性とガラス転移」日本食品工学会誌、2020年。
  • 村田敏ほか「精白米の水分吸着等温線に関する研究」農業機械学会誌、1996年。
  • “Methods for measuring water activity (aw) of foods and its applications to moisture sorption isotherm studies.” Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 2015.

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