マヨネーズでは油が浮くような分離、ヨーグルトでは乳清がにじみ出る離水、果汁飲料では果肉や微粒子が沈む沈降が起こることがあります。見た目はどれも「分離」ですが、内部で起きている仕組みは同じではありません。
違いを生むのは、食品が乳化系、ゲル系、懸濁系のどの構造を持っているかです。
つまり分離の仕方は、何が分散しているのか、何がその分散状態を支えているのか、重力・界面・ゲル収縮のどの力が安定性を崩すのかによって変わります。
マヨネーズは「油滴を水相に分散した乳化食品」
マヨネーズは、大量の油が微細な油滴となって水相中へ分散した水中油滴型エマルションです。
油滴の表面には卵黄由来のリン脂質やたんぱく質が吸着し、油と水の界面を安定化しています。
この界面膜が十分に強く、油滴が小さく保たれている間は、油は一つの大きな層へ戻りにくくなります。
しかし油滴同士が凝集したり、界面膜が壊れて合一したりすると、粗大な油滴が生じ、最終的には油相と水相の分離へつながります。
マヨネーズの分離では「クリーミング」と「合一」を区別する
乳化食品では、油滴が重力や浮力で上方へ集まる現象をクリーミングと呼びます。
クリーミングでは油滴そのものが壊れていなければ、再び混ぜることで戻せる場合があります。
一方、油滴同士が融合して一つの大きな油滴になる合一が進むと、元の微細な分散状態へ戻しにくくなります。
2019年の国内総説でも、食品エマルションの不安定化には凝集、クリーミング、合一など複数の過程が関与すると整理されています。
油滴が大きくなるほどマヨネーズは分離しやすい
液滴径が大きくなると、重力による移動速度は大きくなります。
そのため均質化が不十分だったり、保存中に合一が進んだりすると、クリーミングが速くなります。
逆に油滴が小さく、連続相の粘度が高く、界面膜が強ければ、重力分離は遅くなります。
ヨーグルトは「たんぱく質ゲルが水を抱え込む食品」
ヨーグルトでは、マヨネーズのような油滴の分散だけでなく、乳たんぱく質が三次元ネットワークを作ることが重要です。
乳酸発酵でpHが下がると、カゼインミセルの電荷状態が変わり、たんぱく質同士が集まってゲルを形成します。
このゲル網目の中に水分や脂肪球などが保持されることで、ヨーグルト特有の半固体状の構造が作られます。
ヨーグルトの「離水」は油が浮く現象ではない
ヨーグルト表面に透明または淡黄色の液体がたまることがあります。これは主に乳清で、ゲル内部に保持されていた水相が外へ出たものです。
この現象はシネレシス、日本語では離水と呼ばれます。
マヨネーズのクリーミングが液滴の重力移動であるのに対し、ヨーグルトの離水は、たんぱく質ゲルの網目が水を保持できなくなることで起こります。
ヨーグルトのゲルが収縮すると水が押し出される
形成されたゲルネットワークが時間とともに再配列したり、収縮したりすると、網目の中に保持されていた水が外へ押し出されます。
ゲルが弱い場合や網目が粗い場合は水保持能が低く、離水が目立ちやすくなります。
2023年のヨーグルト離水レビューでは、たんぱく質組成、スターター菌、発酵条件、加熱処理、均質化、冷却、安定剤などが水保持能とシネレシスへ影響すると整理されています。
ヨーグルトでは加熱処理が離水を減らすことがある
発酵前の乳を加熱すると、ホエイたんぱく質が変性し、カゼインミセルと相互作用しやすくなります。
その結果、より密で水を保持しやすいゲル構造が形成されることがあります。
国内の2025年研究でも、乳清たんぱく質のゲル特性を改善するとヨーグルトの離水が減少する例が報告されています。
増粘多糖がヨーグルトの離水を抑える理由
ペクチン、ゼラチン、各種ガムなどの安定剤は、水相の粘度を高めたり、たんぱく質ネットワークと相互作用したりします。
これによって水の移動が遅くなり、ゲル内部へ水を保持しやすくなります。
ただし添加量が多すぎると、不自然な粘りや別の食感欠陥が生じるため、単に多く入れればよいわけではありません。
果汁飲料は「固体微粒子を液体中へ分散した懸濁系」
果汁飲料には、果肉、細胞壁断片、ペクチン、色素を含む微粒子などが液体中へ分散しています。
このような系では、粒子の密度が液体より大きければ、重力によって徐々に下へ沈みます。
これが沈降です。
乳化食品のクリーミングでは軽い油滴が上へ移動し、果汁飲料では重い固体粒子が下へ移動するという違いがあります。
果汁飲料では粒子径が沈降速度を左右する
固体粒子が大きいほど、重力による沈降速度は一般に大きくなります。
そのため果肉や細胞片を細かく均質化すると、沈降を遅らせやすくなります。
一方、粒子同士が凝集して大きな塊を作ると、見かけの粒子径が増え、沈降が速くなる場合があります。
果汁飲料では液体の粘度も安定性を左右する
連続相の粘度が高いほど、粒子は移動しにくくなります。
そのため、ペクチン、キサンタンガム、CMCなどのハイドロコロイドを加えると、沈降速度を低下させられる場合があります。
2025年の果実飲料レビューでも、ハイドロコロイドは望ましくない沈降や濁度低下を抑えるために利用されると整理されています。
同じ「上下に分かれる」現象でも中身は違う
マヨネーズでは油滴が浮上し、果汁飲料では固体粒子が沈降します。
どちらも重力による移動が関係しますが、分散している物質の密度が連続相より軽いか重いかで移動方向が逆になります。
さらにヨーグルトでは、粒子が上や下へ移動することより、ゲルが水を保持できるかどうかが中心です。
見た目の「二層化」だけでは、分離機構を判断できません。
安定化方法も食品構造によって違う
マヨネーズでは、液滴径を小さくし、界面膜を強くし、連続相の粘度を高めることが重要です。
ヨーグルトでは、たんぱく質ゲルの網目を強くし、水保持能を高めることが重要です。
果汁飲料では、粒子径を小さくし、凝集を防ぎ、液相粘度を適切に高めることが重要です。
同じ「増粘剤を使う」という操作でも、その目的は食品ごとに異なります。
温度変化でマヨネーズが不安定になる理由
乳化食品では温度変化によって油脂の結晶状態、界面膜の性質、連続相粘度が変化します。
油脂結晶が液滴同士を橋かけすると、部分合一が進むことがあります。
特に凍結すると水相に氷が形成され、液滴が狭い未凍結領域へ濃縮されるため、油滴同士が接触しやすくなります。
そのため乳化食品は凍結・解凍で分離することがあります。
ヨーグルトでは振動や攪拌でも離水が変わる
セットタイプヨーグルトのゲルは静置状態で形成されています。
輸送中の振動や強い攪拌でゲルネットワークが破壊されると、水保持能が低下し、乳清が出やすくなることがあります。
一方、撹拌型ヨーグルトでは、製造時に意図的にゲルを壊して均一な粘性を作ります。
同じヨーグルトでも製品タイプによって、望ましいゲル構造と離水対策は異なります。
果汁飲料ではpHやイオンでも粒子凝集が変わる
果汁中の粒子やペクチンなどは表面電荷を持つことがあります。
pHやカルシウムなどのイオン濃度が変わると、粒子間の反発力が弱まり、凝集が進む場合があります。
凝集して粒子が大きくなれば、沈降速度も増加します。
そのため果汁飲料では、粘度だけでなく粒子間相互作用の制御も重要です。
乳化・ゲル・懸濁が同時に存在する食品もある
実際の食品は、一つの構造だけでできているとは限りません。
ヨーグルトには脂肪球が分散し、果汁乳飲料では乳化した脂肪と果肉粒子が同時に存在することがあります。
ソースやドレッシングでは油滴、香辛料粒子、多糖ネットワークが共存します。
このような複合食品では、クリーミング、沈降、凝集、ゲル収縮など複数の不安定化が同時に起こることがあります。
「分離しない食品」は熱力学的に安定とは限らない
乳化食品や懸濁食品の多くは、熱力学的には完全に安定な状態ではありません。
それでも、液滴や粒子を小さくし、界面やゲルを強くし、粘度を高めることで、分離速度を製品の賞味期間より十分遅くできます。
食品加工で目指すのは、永遠に分離しない状態ではなく、必要な保存期間中に品質上問題となる分離を起こさない速度論的安定性です。
見た目から分離原因を考えるときのポイント
上部に油層ができているなら、乳化破壊やクリーミング・合一が疑われます。
透明な液体がゲル表面へ出ているなら、離水・シネレシスが考えられます。
底へ粒子の堆積層ができているなら、懸濁粒子の沈降が中心である可能性があります。
このように、何がどちらへ移動したのかを見ることで、分離機構を区別しやすくなります。
まとめ:食品構造が違うため、分離を起こす力も違う
マヨネーズ・ヨーグルト・果汁飲料で分離の仕方が違うのは、それぞれの基本構造が異なるためです。
マヨネーズは油滴を水相へ分散した乳化系で、クリーミング、凝集、合一が主要な不安定化になります。
ヨーグルトはたんぱく質ゲルが水を保持する構造で、ゲルの収縮や弱い網目によるシネレシスが重要です。
果汁飲料は固体微粒子を液体中へ分散した懸濁系で、粒子径、密度差、凝集、液相粘度が沈降を左右します。
つまり食品の分離を比較するときは、何が分散し、何がそれを支え、どの力がその構造を崩しているのかを見ることが重要です。
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主な参考資料
- 松村康生「乳化系食品における品質制御要因の解明」日本食品科学工学会誌、2019年。
- 吉澤圭祐ほか「オリーブ葉水抽出物による乳清タンパク質の物性改善効果とヨーグルトへの応用」日本食品科学工学会誌、2025年。
- Arab M. et al. “A comprehensive review on yogurt syneresis: effect of processing conditions and added additives.” Journal of Food Science and Technology, 2023.
- “Application of various hydrocolloids in fruit-based beverages to improve their properties: A review.” International Journal of Biological Macromolecules, 2025.

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