せんべいやクッキーを袋から出しておくとしけったり、粉末食品が固まったり、乾燥した海苔がやわらかくなったりすることがあります。これらは、食品が周囲の空気から水分を取り込む「吸湿」が進んだ結果です。
ただし、同じ食品でも、梅雨時と冬、密閉容器の中と開封した袋、短時間と長時間では吸湿の進み方が違います。これは、食品と空気の間で水分が移動する方向と速度が、相対湿度、温度、保存時間、食品の組成、構造、包装条件などによって変わるためです。
結論:食品は周囲の空気と水分の「つり合い」に近づこうとする
乾燥した食品を湿った空気中に置くと、空気中の水蒸気が食品へ移動します。逆に、食品の方が水分を多く持っていれば、食品から空気へ水分が出ていきます。
この水分移動は、食品と周囲の空気の状態がつり合うまで続きます。一定温度で、周囲の相対湿度と食品の平衡水分量との関係を示したものが「水分収着等温線」です。日本食品工学会誌の総説でも、水分収着等温線は食品中の水と固体成分の相互作用を知るための重要な情報になると説明されています。
したがって、吸湿速度や最終的な水分量は、単に「空気が湿っているかどうか」だけでは決まりません。食品側の性質と、空気側の条件の両方を見る必要があります。
相対湿度が高いほど、一般に吸湿しやすくなる
空気中に含まれる水蒸気の割合を表す指標の一つが相対湿度です。周囲の相対湿度が高いほど、乾燥食品の表面付近に多くの水蒸気が存在し、食品へ移動する水分の駆動力が大きくなりやすくなります。
たとえば、乾燥したクラッカーを低湿度の部屋に置いた場合より、高湿度の部屋に置いた場合の方が、しけるまでの時間は一般に短くなります。粉末食品でも、高湿度条件では粒子表面へ水が吸着し、粒子同士がくっついて固まりやすくなることがあります。
ただし、ある相対湿度で最終的にどれだけ水を吸うかは食品ごとに異なります。水分収着等温線の形は、でんぷん、たんぱく質、糖、塩、食物繊維などの組成や食品構造によって違うからです。
「水分量」と「水分活性」は同じではない
食品の吸湿を理解するうえでは、水分量だけでなく「水分活性」も重要です。
水分活性は、食品中の水がどの程度自由に移動・反応できる状態にあるかを示す指標です。同じ水分量でも、水が糖や塩、たんぱく質などと強く相互作用している食品では、水分活性が異なることがあります。
一定温度では、食品の水分活性と平衡状態にある周囲空気の相対湿度には対応関係があります。そのため、食品を異なる湿度環境に置いたときの平衡水分量を調べると、水分収着等温線を作ることができます。
食品の品質変化では、この水分活性が重要です。吸湿によって水分活性が上がると、食感が変わるだけでなく、化学反応や微生物の増殖条件も変わる可能性があります。
保存時間が長いほど、平衡状態へ近づく
食品を高湿度の空気中に置いても、内部まで一瞬で水分が移動するわけではありません。まず表面へ水蒸気が吸着し、その後、食品内部へ水分が拡散していきます。
そのため、保存時間が短ければ表面付近だけが湿っていても、中心部はまだ乾燥している場合があります。時間が経つにつれて内部にも水分が移り、最終的に周囲の空気と平衡に近づきます。
水分活性測定や水分収着等温線の研究でも、試料内の水分が均一になるまで十分な平衡時間が必要とされています。つまり、同じ湿度でも「何時間置いたか」によって測定される水分量や食感が変わり得ます。
食品が厚いほど、内部まで湿るのに時間がかかる
吸湿は表面で起こるだけではありません。表面に取り込まれた水分が食品内部へ移動する必要があります。
薄いクラッカーや粉末では、水分の移動距離が短いため、比較的早く全体の状態が変わります。一方、厚い乾燥食品や大きな塊では、中心部まで水分が到達するのに時間がかかります。
また、食品内部に細かい空隙が多いか、でんぷんやたんぱく質の網目が密か、脂質が多いかといった構造も、水分の移動速度に影響します。
温度が変わると、平衡水分量と移動速度の両方が変わる
温度は吸湿に二つの面から影響します。
一つは、水分移動の速さです。温度が上がると分子運動が活発になり、水蒸気や食品内部の水分が移動しやすくなる場合があります。
もう一つは、平衡状態そのものが変わることです。水分収着等温線は温度によって変化するため、同じ水分活性でも、食品が保持する平衡水分量が同じとは限りません。食品によって差はありますが、一般に温度が高くなると水と固体成分との結合状態が変わり、同じ水分活性での平衡水分量が低下する例が多く報告されています。
ただし、実際の保存では温度変化によって相対湿度も変わることがあります。そのため、「温度が高いから必ず吸湿量が増える」「低温なら必ず吸湿しない」と単純には言えません。温度と湿度を組み合わせて考える必要があります。
糖や塩が多い食品は、水を引きつけやすいことがある
糖や塩など、水と強く相互作用する成分を多く含む食品では、空気中の水分を吸着しやすい場合があります。
たとえば砂糖を多く含む粉末や乾燥果実では、吸湿によって表面がべたついたり、粒子同士が固まったりすることがあります。塩や糖を多く含む食品では、高湿度条件で水分を取り込むと、固体成分の一部が溶けて液状化に近い状態になることもあります。
一方、脂質が多い食品では、水と相互作用する親水性成分の割合が相対的に低く、同じ湿度でも吸湿量が小さい場合があります。ただし実際の食品は複数成分からできているため、一つの成分量だけで吸湿性を予測することはできません。
でんぷんやたんぱく質も水を保持する
乾燥食品の固体成分には、でんぷん、たんぱく質、食物繊維など多くの親水性成分があります。これらの分子には水と相互作用できる部位があり、周囲の湿度が上がると水分子が吸着します。
低い湿度では、まず結合しやすい部位へ少量の水が強く吸着します。さらに湿度が上がると、多層的に水が増え、分子の動きも大きくなります。
食品工学では、このような吸湿による状態変化を、ガラス転移と関連付けて考えることがあります。乾燥した菓子や粉末食品では、水が可塑剤として働き、硬く安定したガラス状態から、より柔らかく分子運動の大きい状態へ移ることがあります。
吸湿すると「しける」だけでなく、固まりや変形も起こる
吸湿による品質変化は、単なる水分増加ではありません。
クラッカーやせんべいでは、吸湿によってガラス状態が崩れ、パリパリした食感が失われます。粉末では粒子表面がやわらかくなったり、一部成分が溶けたりして、粒子同士が結合し、固結することがあります。
砂糖を含む食品では、吸湿によって結晶表面が溶け、乾燥時に再結晶することで白化や表面変化が起こる場合もあります。
つまり、吸湿は食感、流動性、外観、香りの保持など複数の品質要素へ影響します。
包装は、外気から食品へ水分が入る速度を変える
密封包装には、空気との接触を減らすだけでなく、水蒸気の移動を抑える役割があります。
しかし、包装材はすべて同じ性能ではありません。プラスチックフィルムには水蒸気を通しやすいものと通しにくいものがあり、厚さや温度条件でも透過性が変わります。
食品と外気の水分移動を扱ったレビューでも、包装や可食性バリアを通した水分移動は、食品の非線形な水分収着特性や、水分量によって変わる拡散性のため、単純な一定速度では表せないとされています。
そのため、乾燥食品では「袋に入っているから安心」ではなく、食品に合った水蒸気バリア性の包装を使うことが重要です。
開封後に吸湿しやすくなるのはなぜか
未開封の包装では、外気と食品の間に包装材があるため、水蒸気の移動はある程度抑えられています。開封すると、そのバリアがなくなり、食品が室内の空気へ直接さらされます。
湿度の高い季節では、開封直後から食品表面へ水蒸気が移動しやすくなります。開口部を閉じても完全密閉でなければ、空気の出入りが続き、徐々に吸湿が進みます。
乾燥剤が使われるのは、袋内の水蒸気を取り込み、食品の周囲を低湿度に保つためです。ただし、乾燥剤にも吸湿できる量の限界があり、開封後に外気が大量に入ると効果は低下します。
同じ食品でも「乾かした履歴」で吸湿の仕方が変わることがある
食品の水分収着では、吸湿するときの曲線と、乾燥して水分を放出するときの曲線が完全には一致しないことがあります。この現象はヒステリシスと呼ばれます。
乾燥過程で食品組織が収縮したり、細孔構造が変わったり、成分が結晶化したりすると、その後に再び水分を吸うときの経路が変わるためです。
つまり、現在の温度と湿度が同じでも、「どのように乾燥された食品か」「以前にどの湿度を経験したか」によって平衡水分量や吸湿速度が異なる場合があります。
吸湿を抑えるには、低湿度と水蒸気バリアを組み合わせる
乾燥食品の吸湿を抑える基本は、食品と高湿度の空気をなるべく接触させないことです。
- 開封後はできるだけ密閉する
- 高湿度の場所を避ける
- 食品に合った防湿性の高い包装を使う
- 必要に応じて乾燥剤を利用する
- 開封後は長期間放置しない
ただし、冷蔵庫から出した直後の冷たい食品を湿った室内空気へさらすと、表面で結露することがあります。低温保存した乾燥食品は、包装を閉じたまま室温へ戻すなど、結露を避ける工夫が必要な場合があります。
まとめ
食品の吸湿が湿度や温度、保存時間で変わるのは、食品と空気の間で水分が移動し、平衡状態へ近づこうとするためです。
相対湿度が高いほど一般に吸湿は進みやすくなりますが、最終的な水分量は、食品の水分収着等温線によって決まります。この等温線は温度や食品組成によって変わるため、同じ湿度でも食品によって吸う水分量は異なります。
さらに、食品の厚さや内部構造、保存時間、包装材の水蒸気透過性、糖や塩、でんぷん、たんぱく質などの成分も吸湿の進み方へ影響します。
乾燥食品の「しける」「固まる」「べたつく」といった変化を防ぐには、低湿度環境を保ち、外気との水分移動を抑える包装や密閉を組み合わせることが重要です。
参考資料
- 熊谷仁「食品の物性そして水-水分活性とガラス転移」日本食品工学会誌, 2020
- 村田敏ほか「精白米の水分吸着等温線に関する研究」農業機械学会誌, 1996
- Zhang L, Sun DW, Zhang Z. Methods for measuring water activity of foods and its applications to moisture sorption isotherm studies. Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 2017
- Bourlieu C, et al. Edible moisture barriers: how to assess their potential and limits in food products shelf-life extension? Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 2009

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