住まいの収納というと、「物を見えない場所へしまうためのスペース」と考えられがちです。しかし、収納の役割は見た目を整えることだけではありません。衣類、食器、食品、掃除道具、季節用品、書類、趣味用品など、暮らしの中で使う物を適切な場所に置き、居室の床や家具の上を本来の生活行為に使えるようにすることが大きな目的です。
収納が不足すると、必要な物が部屋の中へあふれ、歩く場所や作業場所を圧迫します。反対に、収納量が多くても、使う場所から遠かったり、奥深くて出し入れしにくかったりすれば、暮らしやすい収納とはいえません。
つまり、住まいに収納が必要なのは、生活用品を居室から適切に分けて保管し、必要なときに取り出して戻せるようにすることで、限られた住宅面積を生活・家事・休息に使いやすくするためです。
収納は「余った場所」ではなく住まいの機能の一部
住宅には、食べる、眠る、着替える、料理する、洗濯する、掃除する、仕事や勉強をするなど、多くの生活行為があります。そのたびに道具や衣類、消耗品を使います。
これらの物には、使っている時間より保管している時間の方が長いものも少なくありません。季節家電、来客用品、工具、旅行用品、予備の日用品などは、必要なときだけ取り出し、それ以外は生活の邪魔にならない場所へ置いておく必要があります。
国土交通省の住生活総合調査では、「収納の多さ、使い勝手」が住宅の質を評価する項目の一つとして扱われています。収納は単なる付加設備ではなく、住宅の使いやすさを構成する要素として位置づけられています。
また、London City Hallの住宅設計指針では、収納と動線は、調理・食事・仕事・遊び・休息など多様な生活行為を支える空間として扱われています。十分な収納がないと、持ち物が居室を占有し、生活空間として使える面積を狭めると説明されています。
住まいに収納が必要になる5つの理由
1.居室を本来の生活行為に使えるようにするため
収納がない場合、衣類の箱、掃除道具、日用品のストック、季節用品などを、リビングや寝室の床、家具の上に置くことになります。
同じ床面積の住宅でも、物が居室へ出ているほど、実際に歩く・座る・作業するために使える面積は小さくなります。
London City Hallの住宅設計指針でも、十分な収納がないと持ち物が居室のスペースを奪い、その部屋を楽しみながら使うことを制限するとされています。
収納は床面積を増やすものではありません。しかし、物の保管場所を確保することで、既にある床面積を生活のために使いやすくします。
2.必要な物を使う場所の近くへ置くため
収納は「全部を一か所へ集めること」ではありません。物は、使う場所との関係で置き場所を考える必要があります。
調理器具はキッチン、タオルは洗面所、掃除用品は掃除する場所の近く、上着や外出用品は玄関付近というように、使用場所と収納場所が近いほど、取りに行く移動を減らせます。
反対に、毎日使う物を遠い納戸へ入れると、収納量は十分でも使い勝手が悪くなります。収納は「保管容量」と「使う場所への近さ」の両方で考える必要があります。
日常生活では、出す作業だけでなく、使った後に戻す作業もあります。戻す場所が分かりやすく近ければ、物が一時置きのまま残りにくくなります。
3.生活用品の量や種類が家庭によって違うため
必要な収納量は、住宅の床面積だけでは決まりません。家族人数、年齢、仕事、趣味、衣類の持ち方、季節用品の種類などによって、家庭内にある物の量と種類は変わります。
日本の住宅収納研究では、1,066世帯、513品目の生活用品を調査し、保有する用品の種類や量が家族のライフステージなどの条件と関係することが示されています。
たとえば、乳幼児がいる家庭ではベビーカーや育児用品が必要になり、学齢期には教材や学校用品が増えます。趣味が変われば道具も変わり、在宅勤務が増えれば書類や仕事用品を置く場所が必要になることがあります。
そのため、住宅の収納は「一般的な家庭ならこれだけあれば十分」と固定的に決めるだけでなく、実際の持ち物と暮らし方に合わせる必要があります。
4.物を使う頻度に応じて置き場所を分けるため
すべての物を同じ位置へ置く必要はありません。
毎日使う物は手が届きやすい場所、週や月単位で使う物はその周辺、季節や年に数回しか使わない物は上部や奥など、使用頻度によって位置を分けると収納を使いやすくできます。
1987年の住宅収納研究では、建築的な収納空間と収納家具の位置・量、生活用品の収納場所などを調べ、ライフサイクルによって生活用品量が変化することや、住宅内の収納システムを生活用品との関係から考える必要性が示されています。
よく使う物とほとんど使わない物を同じ優先度で収納すると、毎日使う物が奥へ入り、出し入れのたびに別の物を動かすことになります。収納では「入るか」だけでなく、「どの頻度で出し入れするか」を考えることが重要です。
5.暮らしの変化に合わせて物の配置を変えるため
住まいは長期間使いますが、持ち物は同じではありません。
子どもの成長、就職、退職、趣味の変化、在宅勤務、介護などによって、必要な物と使う場所は変わります。
住宅収納の研究でも、ライフスタイルの違いによって保有物や収納への評価が異なり、生活スタイルを踏まえた収納計画が必要だとされています。
そのため、棚の高さを変えられる、可動棚を使う、部屋の用途が変わったら収納の役割も変えるなど、収納には一定の柔軟性がある方が使いやすくなります。
収納量が多ければ暮らしやすくなる?
収納不足は問題になりますが、収納量を増やすだけで暮らしやすくなるとは限りません。
収納スペースを増やしすぎれば、その分だけ居室や通路として使える面積は減ります。また、奥行きが深すぎる収納では、手前の物を出さないと奥の物を取れず、何を入れたか分からなくなる場合があります。
London City Hallの住宅設計指針でも、収納を独立した面積要件として設けながら、住宅全体の床面積や部屋の機能を損なわないよう計画することが求められています。
重要なのは、収納面積を最大化することではありません。必要な物が収まり、出し入れでき、居室の機能を圧迫しない量と配置にすることです。
収納はどこに配置すると使いやすい?
玄関
靴、傘、上着、バッグ、防災用品、外遊び用品など、外出と関係する物を置く場所です。家の奥へ持ち込む必要のない物を玄関付近で収納できれば、室内の移動や片付けを減らせます。
キッチン
食器、調理器具、食品、日用品など、多くの物を短時間に出し入れします。よく使う物を作業位置の近くへ置き、重い鍋などは無理なく持てる高さへ置くと使いやすくなります。
洗面・脱衣所
タオル、洗剤、着替え、衛生用品などを使います。洗濯や入浴の動線と収納を合わせれば、別室へ取りに行く回数を減らせます。
リビング
書類、リモコン、充電器、子どもの用品、趣味用品など、家族共用の物が集まりやすい場所です。小さな物ほど一時置きが増えやすいため、共用物の定位置があると整理しやすくなります。
個室
衣類、寝具、学用品、仕事用品など、個人で使う物を収納します。共用収納へすべて集めるより、個人で管理する物は使う人の近くへ置いた方が戻しやすい場合があります。
「隠す収納」と「見せる収納」はどちらがよい?
収納には、扉の中へ入れる方法と、棚などへ見える状態で置く方法があります。
隠す収納は見た目を整えやすく、ほこりを避けやすい一方、扉を開けないと中身が分からないことがあります。見せる収納は取り出しやすく、何があるか分かりやすい反面、物が多いと視覚的に雑然としやすくなります。
どちらか一方が正解ではありません。毎日使う物は見える位置、使用頻度の低い物は扉の中へ入れるなど、用途に応じて使い分ける方法があります。
収納を計画するときに確認したい4つのこと
何を持っているか
収納を考える前に、衣類、寝具、食品、家電、掃除用品、書類、趣味用品など、現在の持ち物を把握します。収納量は持ち物の量と合っている必要があります。
どこで使うか
使う場所と収納場所が離れていないか確認します。毎日運んでいる物があれば、置き場所を近づけられないか検討します。
どのくらいの頻度で使うか
毎日、週単位、季節単位など、使用頻度で分けます。高頻度の物ほど、取り出しやすい高さと位置へ置きます。
将来、量や用途が変わるか
家族構成や生活スタイルが変わったときに、棚や収納区画を変更できるか確認します。固定しすぎない収納は、住み方の変化へ対応しやすくなります。
まとめ
住まいに収納が必要なのは、衣類や生活用品を単に隠すためではなく、限られた床面積を食事、休息、家事、仕事など本来の生活行為に使えるようにするためです。
収納が適切に配置されていれば、必要な物を使う場所の近くへ置き、取り出す・使う・戻すという流れを短くできます。また、家族人数やライフステージによって変わる生活用品にも対応しやすくなります。
ただし、収納は多ければ多いほどよいわけではありません。居室を圧迫しない量、使う場所との距離、出し入れのしやすさ、使用頻度、将来の変化を合わせて考えることが重要です。
収納を住宅の「余った場所」ではなく、生活を支える空間として計画することで、同じ床面積でも暮らしやすく、片付けやすい住まいをつくりやすくなります。
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参考資料
- 国土交通省「令和5年住生活総合調査」
- 住宅建築研究所報「住宅の収納空間に関する総合研究 その1・モノ保有の標準化の追求」
- 住宅建築研究所報「住宅の収納空間に関する総合研究(2) 収納空間の標準化の追求」
- London City Hall「Housing Design」

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