同じ広さの家でも、使いやすい収納の場所や大きさは家庭によって違います。玄関に収納を多く必要とする家もあれば、洗面所やキッチン、寝室の収納を重視した方が暮らしやすい家もあります。
その理由は、収納が単に「物をしまう空間」ではなく、何を、どこで使い、どのくらいの頻度で出し入れするかという生活動線と結び付いているからです。さらに、収納する物の大きさや重さ、湿気への弱さ、子どもや高齢者の使いやすさなどによっても、適した位置や形は変わります。
収納は「量」だけでなく「使う場所との近さ」が重要
収納というと、まず広さや容量を考えがちです。しかし、十分な収納面積があっても、使う場所から遠ければ出し入れの手間が増え、物を元の場所へ戻しにくくなります。
例えば、外出時に使う靴、傘、帽子、かばんなどは玄関近くにある方が便利です。洗濯物は、洗う場所、干す場所、たたむ場所、しまう場所が近いほど移動を短くできます。調理器具や食器は、キッチンや食卓の近くにある方が使いやすくなります。
国土交通省の高齢者向け住宅設計指針でも、日常使用する収納について「適切な量」が確保されるだけでなく、「無理のない姿勢で出し入れできる位置」に設けることが示されています。つまり、収納は容量と位置を一体で考える必要があります。
生活動線が違えば、同じ家族人数でも収納場所は変わる
家族の人数が同じでも、暮らし方が違えば適した収納計画は変わります。
例えば、共働きで洗濯を夜にまとめて行う家庭では、室内干しスペースと衣類収納を近づけると移動が少なくなります。子どもが小さい家庭では、リビングに玩具や学用品の収納を設けると、使った場所の近くで片付けやすくなります。在宅勤務が多い家庭では、書類や仕事道具を生活用品と分けて管理できる収納が必要になる場合があります。
国土交通省が紹介する高齢期の住まいの改修でも、生活動線や家事動線を短くし、それに合わせて収納場所を工夫する考え方が示されています。収納を動線上に配置すると、「使う→しまう」という行動を短くしやすくなります。
使用頻度によって収納する高さを変える
収納は、何をどの高さに置くかでも使いやすさが変わります。毎日使う物を床近くや高い棚に置くと、しゃがむ、かがむ、踏み台に乗るといった動作が増えます。
よく使う物は、立ったまま手を伸ばしやすい範囲に置き、使用頻度の低い物を上段や下段へ回すと、日常の負担を減らしやすくなります。特に高齢者や身体機能が低下した人では、無理な姿勢を取らずに出し入れできることが重要です。
一方、子どもの収納では、子ども自身が戻せる高さに玩具や衣類を置くことが片付けやすさにつながります。ただし、危険物や薬品、刃物などは子どもの手が届かない場所や施錠できる収納に分ける必要があります。
収納する物の性質によって適した場所は違う
収納する物は、すべて同じ環境に置けばよいわけではありません。
衣類や布団、紙類は湿気が多い場所ではカビの影響を受けやすくなります。米国環境保護庁(EPA)は、寝室のクローゼットでも室内湿度が高いと衣類や家具などにカビが生える可能性があると説明しています。特に外壁に面した収納や、空気が動きにくい押し入れでは、壁面が冷えて局所的に湿度が高くなることがあります。
そのため、収納内部を物で詰め込み過ぎず、必要に応じて空気が流れる隙間を確保することが大切です。濡れた傘や雨具、使用直後のスポーツ用品などは、乾燥させてからしまう方が湿気を持ち込みにくくなります。
一方、食品や日用品のストックは、温度、湿度、直射日光、害虫などへの配慮が必要です。収納は「空いている場所へ入れる」のではなく、物の性質に合う環境を選ぶ必要があります。
大きさと奥行きが合わない収納は使いにくい
収納が大きければ必ず使いやすいとは限りません。奥行きが深すぎる棚では、手前の物に隠れて奥の物が見えにくくなります。逆に、掃除機や季節家電、布団のような大きな物をしまうには、十分な奥行きや高さが必要です。
例えば、日用品や食品のストックは浅めの棚の方が一覧しやすく、二重三重に物が重なるのを防ぎやすくなります。衣類なら、ハンガーを掛けるための奥行きが必要です。布団や大きなスーツケースなら、棚板の位置を変えられる収納の方が対応しやすい場合があります。
収納の形は、床面積だけでなく、収納する物の寸法や出し入れの方法に合わせて考えることが重要です。
家族の変化に合わせて必要な収納も変わる
収納の使い方は、長い期間ずっと同じではありません。子どもの成長、進学、独立、在宅勤務の開始、介護などによって、持ち物や生活する場所は変わります。
子どもが小さい時期は玩具やベビーカーの収納が必要でも、成長後は学用品や衣類、趣味用品が増えることがあります。子どもが独立すれば、空いた部屋や収納を別の用途に転用できます。反対に、高齢期には高い棚を使いにくくなり、日常用品を低い位置へ移す必要が生じる場合があります。
このため、棚板の高さを変えられる収納や、用途を固定し過ぎない納戸など、暮らしの変化に対応できる余地を持たせると長く使いやすくなります。
収納家具は地震や転倒への安全性も考える
収納を増やすために背の高い家具を置く場合は、収納量だけでなく転倒にも注意が必要です。特に、子どもが引き出しや棚に登ったり、重い物が上部に集中したりすると、家具が不安定になることがあります。
米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、たんすや本棚などの転倒事故を防ぐため、家具を壁へ固定し、重い物を低い位置に置き、子どもが登りたくなる物を高い棚に置かないことを勧めています。
地震がある日本では、家具固定や配置の安全性はさらに重要です。収納を計画するときは、通路をふさがないか、転倒したときに避難経路を塞がないかも合わせて確認する必要があります。
「大きなウォークインクローゼット」が最適とは限らない
大容量のウォークインクローゼットは便利ですが、どの家にも必ず最適とは限りません。
一か所に収納を集めると管理しやすい反面、日用品を使うたびにそこまで移動する必要が出ることがあります。廊下や室内の一部を収納通路として使うため、床面積に対して実際に物を置ける割合が小さくなる場合もあります。
逆に、玄関、洗面所、キッチン、寝室などに小さな収納を分散させると、使う場所の近くに物を置きやすくなります。ただし、分散し過ぎると在庫を把握しにくくなり、同じ物を重複して買うこともあります。
集中収納と分散収納のどちらがよいかは、持ち物の量、家の広さ、家事の流れ、誰が片付けるかによって変わります。
収納計画は「何を持っているか」から考える
新築や引っ越しで収納を考えるときは、収納スペースの大きさを先に決めるより、現在持っている物を種類ごとに整理する方が現実的です。
まず、玄関用品、衣類、寝具、食品、掃除用品、書類、趣味用品、季節用品などに分けます。次に、それぞれを「毎日使う」「週に数回使う」「年に数回しか使わない」といった頻度で分類します。そして、使用場所と使用頻度の両方から収納位置を決めます。
この方法なら、日常用品を取り出しにくい場所へ押し込んだり、ほとんど使わない物が便利な位置を占有したりすることを減らせます。
まとめ
住まいの収納に違いがあるのは、家庭ごとに持ち物の種類、使う場所、使用頻度、身体状況、生活動線が違うからです。
収納は広さだけでなく、「使う場所の近くにあるか」「無理のない姿勢で出し入れできるか」「物の大きさや湿気への弱さに合っているか」「安全に使えるか」という条件で使いやすさが変わります。
そのため、収納計画では最初から大きな収納を一つ設ければよいと考えるのではなく、何をどこで使うかを整理し、動線と物の性質に合わせて収納場所を決めることが重要です。
参考資料
- 国土交通省「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」
- 高齢者住宅協会・国土交通省関連サイト「コンパクトな住まいにシンプルに暮らそう」
- U.S. Environmental Protection Agency “Interactive Mold House Tour”
- U.S. Consumer Product Safety Commission “AnchorIt.gov”

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