なぜ衣服の毛玉は毛羽が絡み合って成長するのか?

セーターやスウェットを着続けていると、表面に小さな毛のかたまりが現れます。これが毛玉、繊維分野ではピルと呼ばれるものです。

毛玉は、いきなり丸い球として生まれるわけではありません。まず摩擦で糸の中の繊維が表面へ引き出されて毛羽になり、その毛羽が何度もこすられて絡み合い、小さなかたまりへ変わります。さらに周囲の毛羽を巻き込みながら成長し、最後には毛玉を支えている繊維が切れると脱落します。

つまり衣服の毛玉は、「毛羽の発生→絡み合い→成長→脱落」という段階的な仕組みで生じます。毛玉の目立ちやすさは、毛羽がどれだけ出るかだけでなく、できた毛玉がどれだけ長く布表面へ残るかによっても変わります。

目次

最初の段階は、摩擦で繊維が表面へ引き出されること

布は、たくさんの繊維をまとめた糸から作られています。着用や洗濯で布がこすられると、糸の内部にあった繊維の端が少しずつ表面へ引き出されます。

この表面へ出た細い繊維が「毛羽」です。毛羽が増えると布表面は新品時よりふわつき、光の反射も変わります。

日本家政学会の編布の摩擦実験でも、摩擦回数の増加に伴って毛羽立ちやピルが発生し、素材によって外観変化の進み方が異なることが確認されています。

毛羽は往復する摩擦で互いに絡み合う

表面へ出た毛羽は、そのまま一本ずつ独立しているとは限りません。

歩行や腕の動き、バッグとの接触、洗濯中の衣服同士のこすれによって、毛羽は前後左右へ曲げられます。すると、隣り合う繊維同士が交差し、引っ掛かり、少しずつ絡み合います。

繊維製品消費科学の古典的なピリング研究でも、毛羽の絡み合いがピル形成の重要な段階として扱われています。

この段階では、まだ大きな毛玉ではなく、小さな繊維の結び目やかたまりが布表面に作られます。

絡み合った毛羽は摩擦で締まり、球状へ近づく

毛羽のかたまりがさらにこすられると、ゆるく絡んでいた繊維が互いに巻き付き、結び目が締まっていきます。

海外の繊維工学資料では、ピリングの進行は、毛羽形成、絡み合い、毛玉の成長、摩耗による脱落という段階で整理されています。

摩擦が続くと、周囲から新しい毛羽がかたまりへ取り込まれます。その結果、最初は小さかった毛玉が徐々に大きく、丸く、密な形になっていきます。

毛玉は数本の繊維で布につながっている

成長した毛玉は、布から完全に離れているわけではありません。

毛玉の一部の繊維は、もとの糸や布へつながったままです。これらの繊維が、毛玉を表面へ固定する「支え」の役割をしています。

そのため、毛玉が目立つかどうかは、毛玉そのものの大きさだけでなく、支えている繊維がどれほど切れにくいかにも左右されます。

繊維が強いと、できた毛玉が長く残りやすい

毛玉を支える繊維が摩擦で切れれば、毛玉は自然に脱落します。

一方、繊維強度が高く、繰り返し曲げても切れにくい場合、毛玉は布表面へ長く残ります。

このため、強い合成繊維を含む布では、毛玉が一度できると脱落しにくく、外観上目立つ場合があります。逆に、繊維が比較的切れやすい素材では、毛羽や毛玉ができても摩耗の途中で落ちやすいことがあります。

日本家政学会の摩擦実験でも、ポリエステル編布では発生したピルが容易に脱落せず、摩擦回数の増加とともに外観低下が進んだ一方、綿編布では繊維が脱落しやすく、抗ピル性が高く見える結果が示されています。

毛玉の数は、作られる速さと落ちる速さの差で決まる

毛玉は、時間とともに一方向へ増え続けるとは限りません。

摩擦の初期には、新しい毛羽が多く発生するため毛玉の形成数が増えます。しかし、摩擦を続けるうちに毛玉を支える繊維が切れ、脱落も増えます。

海外の繊維工学資料では、表面の毛玉数は「形成される速さ」と「脱落する速さ」のバランスで決まり、ある時点で最大になった後、減る場合があると説明されています。

つまり、毛玉が多い布は「毛玉を作りやすい」だけでなく、「作った毛玉を落としにくい」布でもあるのです。

糸から繊維が抜け出しやすいと、毛羽が増えやすい

毛玉の最初の材料は毛羽なので、繊維が糸の中へどれだけしっかり保持されているかが重要です。

撚りが弱く、繊維同士の締まりが小さい糸では、摩擦で繊維端が外へ出やすくなる場合があります。反対に、適度に撚りが強く、繊維がまとまっている糸では、毛羽の発生を抑えやすくなります。

ただし、撚りを強くすれば必ずよいわけではありません。撚りを増やすと、柔らかさやふくらみ、肌触りが変化します。

抗ピル性は、風合いとのバランスを取りながら設計されます。

布の密度が低いと、繊維や糸が動きやすい場合がある

糸がゆるく配置された布では、摩擦を受けたときに糸が動きやすく、繊維が表面へ出る機会が増えることがあります。

海外の繊維工学資料でも、ゆるい編地は緊密な編地よりピリングしやすい傾向が示され、布のカバーファクターを高めることが抗ピル対策の一つとして挙げられています。

ただし、密度を高くしすぎると柔軟性や通気性が変わるため、用途に応じた設計が必要です。

編物は柔らかく動きやすいため、ピリングが目立つことがある

セーターなどの編物は、糸をループ状につないだ構造です。

この構造は伸縮性や柔らかさを作る一方、糸が動く余地も大きく、摩擦で毛羽が引き出されやすい場合があります。

海外のピリング研究でも、ニットウェアは織物よりピリングが問題になりやすいことが指摘されています。

ただし、編物なら必ず毛玉が多いわけではありません。糸の撚り、編み密度、素材、仕上げ加工によって大きく変わります。

起毛素材は、最初から表面に毛羽が多い

フリースや起毛ニットは、保温性や柔らかい触感を得るため、意図的に表面へ毛羽を作っています。

この毛羽は空気を含みやすく、暖かさや肌触りに役立ちます。しかし、表面へ出ている繊維が多いため、摩擦を受けると絡み合いの材料も多くなります。

つまり、毛羽は衣服の機能や風合いに役立つ一方、毛玉形成の出発点にもなり得ます。

洗濯では衣服同士の摩擦が毛玉を進める

洗濯機の中では、衣服が回転し、折れ曲がり、他の衣服とこすれます。

この機械作用で新しい毛羽が出たり、すでにある毛羽が絡み合ったりします。ファスナーや面ファスナー、硬い装飾が他の衣服へ触れると、局所的な摩擦が強くなる場合もあります。

毛玉を減らしたい場合、衣服を裏返す、洗濯ネットを使う、面ファスナーを閉じるなどの方法は、表面への直接摩擦を減らす助けになります。

ただし、洗濯だけが原因ではないため、これだけで毛玉を完全に防げるわけではありません。

着用中の局所摩擦が、同じ場所の毛玉を増やす

毛玉ができる位置には偏りがあります。

わき、袖口、ひじ、腰、バッグが触れる肩、シートベルトが当たる胸元などは、日常動作で同じ場所へ摩擦が繰り返されます。

そのため、衣服全体ではきれいでも、一部だけ毛羽立ちや毛玉が強く出ることがあります。

いつも同じ場所へ毛玉ができる場合は、素材だけでなく、日常の動作や持ち物との接触も原因として考える必要があります。

抗ピル加工は、毛羽を出しにくくしたり毛玉を残りにくくしたりする

毛玉を減らすには、生成サイクルのどこかを弱めればよいと考えられます。

たとえば、余分な表面毛羽を焼き取る、糸の撚りを調整する、布密度を高める、繊維を表面へ固定する加工を行う、といった方法で毛羽の発生を抑えられます。

別の考え方として、強すぎる繊維の一部を処理し、できた毛玉が摩耗で脱落しやすいようにする方法もあります。

海外の繊維工学資料でも、抗ピル対策は繊維、糸、布構造、仕上げ加工をまとめて考える必要があるとされています。

毛玉の評価では「毛羽」「毛玉」「マット化」を分けて見る

ISO 12945-1:2020は、回転式のピリングボックスを用いて、布のピリング、毛羽立ち、マット化への抵抗性を評価する方法を定めています。

ISO 12945-4:2020では、ピリング、毛羽立ち、マット化を外観から評価する方法が定められています。

これは、衣服の表面変化が「毛玉の数」だけでは表せないためです。毛羽が多いが毛玉は少ない布、毛玉は少ないが表面が寝てマット化する布など、見た目の変化には複数の種類があります。

毛玉を取るときは、周囲の繊維まで引き出さない

できた毛玉は毛玉取り器などで取り除けます。

ただし、毛玉を手で強く引っ張ると、毛玉を支えている繊維だけでなく、周囲の繊維まで糸から引き出し、新しい毛羽を作る場合があります。

毛玉だけを表面で切り取るように処理し、生地を削りすぎないことが重要です。

毛玉取りは生成の原因をなくす方法ではないため、同じ摩擦が続けば再び毛玉ができることがあります。

まとめ

衣服の毛玉が毛羽の絡み合いによって成長するのは、摩擦で糸の内部から表面へ出た繊維が、繰り返し曲げられ、互いに絡まり、周囲の毛羽を巻き込むからです。

毛玉は「毛羽の発生→絡み合い→成長→脱落」というサイクルで変化します。繊維が糸から抜け出しやすいほど毛羽は増え、繊維が強く切れにくいほど、できた毛玉は表面へ長く残りやすくなります。

つまり毛玉の目立ちやすさは、毛羽を作る速度と、できた毛玉が落ちる速度の両方で決まります。素材、糸、布構造、摩擦条件、仕上げ加工を組み合わせて考えることで、毛玉の仕組みと対策を理解しやすくなるのです。

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