なぜ腐植の量や性質は場所や条件によって違うのか?

結論から言うと、土の腐植に場所や条件による違いがあるのは、土へ入る有機物の量と、微生物によって分解される量のバランスが、気温・水分・植生・土の粒子や鉱物・地形・土地利用によって変わるからです。植物残さが多く供給され、しかも分解が遅い場所では腐植が蓄積しやすくなります。反対に、有機物の供給が少ない、または高温・好気的な条件などで分解が速い場所では、腐植は蓄積しにくくなります。

同じ地域にある土でも、森林と草地、斜面上部と谷底、乾いた畑と湿った土地では、腐植の量や性質が違うことがあります。これは腐植が、一度できたら変わらない物質ではなく、有機物の供給・分解・安定化・流出が常に進む中で保たれているからです。

目次

腐植の違いを決める基本は「入る量」と「分解される量」

土壌中の腐植や土壌有機物の量を考えるとき、最も基本になるのは収支です。

土へは、落ち葉、枯れ根、作物残さ、堆肥、動物や微生物の遺体などが有機物として入ります。一方、それらは細菌や菌類などの土壌微生物によって分解され、炭素の一部は二酸化炭素として土から失われます。

農研機構の総説では、土壌有機物量は、土壌へ供給される有機物量と、土壌微生物によって分解される量によって決まると整理されています。

したがって、腐植が多い場所とは単に「植物が多い場所」ではありません。有機物の供給量が多く、なおかつその一部が分解されずに残りやすい条件がそろっている場所です。

気温が違うと腐植量が変わるのはなぜか

微生物による有機物分解は温度の影響を受けます。一般に、微生物が活動できる範囲では、温度が高いほど分解反応は速くなりやすい傾向があります。

USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)は、気候が土壌有機物量に影響する主要因の一つであり、温暖で湿潤な条件では有機物の分解が速く、冷涼な条件では遅くなると説明しています。

そのため、同じような植生から同程度の有機物が供給されても、冷涼な場所では分解が遅く、土中に有機物が蓄積しやすい場合があります。

日本の火山灰土壌を対象にしたJ-STAGE掲載研究でも、標高に伴う気候条件の違いと腐植特性の地域差との対応が報告されています。腐植の分布には母材や植生なども関わりますが、温度条件は分解速度を通じて重要な要因になります。

水分条件が違うと分解速度も変わる

水分も腐植量を大きく左右します。

土が極端に乾燥すると、微生物が利用できる水が不足し、有機物の分解は進みにくくなります。一方、水分が適度にあり、空気も十分入る土では微生物が活動しやすく、分解が進みます。

さらに水が多くなり、孔隙の多くが水で満たされると、酸素が土の中へ入りにくくなります。すると好気的な微生物の活動が制限され、有機物分解が遅くなる場合があります。

USDA NRCSも、土壌有機物の分解は水分と通気性の影響を受け、飽和して酸素が少ない土では分解が大幅に遅くなるとしています。

湿地や泥炭地で多量の有機物が蓄積することがあるのは、植物から有機物が供給される一方、過湿・低酸素によって分解が追いつきにくいことが大きな理由です。

植生の違いは有機物の「量」と「入り方」を変える

森林、草地、農地では、土へ有機物が入る場所や量が違います。

森林では、落ち葉や枝が地表へ多く供給されます。根からも有機物は供給されますが、地上部からの落葉が目立ちます。

一方、草地では細かな根が表層土の中に広く分布し、枯死と再生を繰り返します。そのため地表だけでなく土の内部へ直接有機物が供給されやすくなります。

USDA NRCSは、草原植生の土では森林植生の土より有機物含量が高いことが多く、その理由として草本の根や地上部が毎年大量に土へ加わることを挙げています。

ただし、森林か草地かだけで腐植量が決まるわけではありません。気候、土質、火災、人間管理などが組み合わさるため、同じ植生でも場所によって腐植量は異なります。

有機物の質が違うと分解の速さも変わる

土へ入る有機物は、どれも同じ速さで分解されるわけではありません。

糖やアミノ酸など微生物が利用しやすい成分は比較的速く分解されます。一方、セルロース、リグニンなどを多く含む植物組織は、分解により時間がかかることがあります。

また、有機物中の炭素と窒素の比率、植物の種類、木質化の程度などでも分解速度は変わります。

そのため、同じ重量の落ち葉や作物残さが土へ入っても、どの植物由来かによって腐植として残る割合は同じではありません。

粘土や鉱物が違うと腐植の残りやすさが変わる

腐植量の地域差を生む重要な条件が、土の鉱物組成です。

土壌有機物の一部は、粘土鉱物などの表面へ吸着したり、鉄・アルミニウムを含む鉱物と結びついたりします。このように鉱物と結びついた有機物は、微生物や酵素から物理的・化学的に保護され、分解が遅くなる場合があります。

特に火山灰由来の土壌では、非晶質の鉱物やアルミニウム化合物が有機物を強く保持し、厚い暗色表層が発達することがあります。

J-STAGE掲載の日本の火山灰土壌研究でも、腐植の安定化にはアルミニウムに富む非晶質粘土鉱物との結合が関係することが論じられています。

つまり同じ量の植物残さが供給されても、有機物を鉱物表面で保護しやすい土と、そうでない土では、長期的な腐植蓄積量が異なる可能性があります。

砂質土と粘土質土でも腐植の残り方が違う

砂質土では粒子が大きく、単位重量あたりの表面積が小さいため、有機物を鉱物表面に保持する場所が少ない傾向があります。また通気性が高く、条件によっては微生物による分解も進みやすくなります。

一方、粘土を多く含む土では、粒子表面が多く、団粒内部に有機物が取り込まれることもあります。そのため有機物が分解者から隔離され、比較的長く残る場合があります。

農研機構の土壌有機物レビューでも、微細団粒内部に取り込まれた有機物が物理的に保護されることや、粘土鉱物との結合が有機物の安定化に関わることが整理されています。

ただし、「粘土が多ければ必ず腐植が多い」とは限りません。温度、植生、水分、有機物供給量などの影響も同時に受けるためです。

地形によって腐植量が違うのはなぜか

斜面の上部と下部、尾根と谷底では、腐植量が異なる場合があります。

斜面上部では、雨水による侵食によって表土や有機物が流出しやすく、土層が薄くなることがあります。一方、斜面下部では上から運ばれた土粒子や有機物が堆積し、厚い表土が形成される場合があります。

また、谷底では水分が多くなり、酸素不足によって有機物分解が遅くなることもあります。

J-STAGE掲載の美瑛丘陵地の研究では、斜面上部では腐植層が薄く、斜面下部では上部からの土壌の再堆積によって土層が厚くなり、腐植含量も多くなる例が報告されています。

つまり腐植の分布は、「その場所でどれだけ作られたか」だけでなく、侵食・運搬・堆積によって有機物を含む土が移動した結果でも変わります。

母材による違いも腐植蓄積に関係する

土壌のもとになる岩石、火山灰、河川堆積物などを母材と呼びます。

母材によって、粘土鉱物の種類、鉄・アルミニウムの状態、粒径、排水性、pHなどが変わります。これらは微生物活動や有機物の安定化に影響するため、結果として腐植量にも差が生まれます。

森林総合研究所などによる氷ノ山地域の研究では、厚い多腐植質A層の生成に、冷涼な気候、テフラを含む母材、長期間のササ植生、地形的安定性など複数の条件が関係したことが示されています。

腐植量は一つの要因だけで決まらず、母材と気候・植生・地形が組み合わさった結果として現れることがわかります。

耕作すると腐植が減ることがあるのはなぜか

人間による土地利用も腐植量を大きく変えます。

耕起すると、土がほぐれて空気が入りやすくなり、それまで団粒内部などに保護されていた有機物が微生物へ利用されやすくなる場合があります。また、作物を収穫して植物体をほ場外へ持ち出すと、自然植生に比べて土へ戻る有機物量が少なくなることがあります。

USDA NRCSは、耕起による通気の増加が微生物活動と有機物分解を促進し、土壌有機物を減少させる要因になり得るとしています。

農研機構の総説でも、水田を畑へ転換した場合やダイズ作などで土壌有機物の分解が促進される例が整理されています。

反対に、作物残さを還元したり、堆肥などを継続的に施用したり、被覆作物を利用したりすることで、有機物の供給量を増やすことができます。

水田と畑で腐植の動きが違うのはなぜか

水田と畑では、土壌中の酸素環境が大きく違います。

水田が湛水されると孔隙が水で満たされ、酸素が不足します。この状態では好気的な有機物分解が抑えられます。一方、排水して畑として利用すると土中へ酸素が入り、有機物分解が速くなることがあります。

農研機構のレビューでは、水田転換畑で土壌有機物の分解が促進されることが整理されています。

このため、同じ土壌でも土地利用や水管理を変えるだけで、腐植の増減速度が変わることがあります。

腐植は深さによっても違う

腐植は一般に表層で多く、深くなるほど少なくなる傾向があります。

地表には落ち葉や作物残さが入り、表層には細かな根も多いため、有機物の供給量が大きいからです。深層では新しい有機物の供給量が少なくなります。

ただし、深い土層にも根由来の炭素や溶存有機物、鉱物と強く結びついた有機物が存在します。また、過去の地表が火山灰や土砂に覆われ、古い腐植層が埋没して残る場合もあります。

そのため「表層ほど腐植が多い」という傾向はありますが、土壌生成の履歴によって例外もあります。

同じ地域の畑でも腐植量が違う理由

隣り合う畑であっても、腐植量が同じとは限りません。

長年の作物種類、残さの処理、堆肥施用量、耕起方法、排水条件、侵食の程度などが異なると、有機物収支も変わります。

さらに、同じほ場内でも斜面上部と下部で侵食・堆積が違えば、腐植量にむらが生じることがあります。

このため、腐植を含む土壌有機物を適切に管理するには、地域平均だけではなく、実際のほ場ごとの土壌診断や管理履歴を確認することが重要です。

腐植が多ければ必ず良い土なのか

腐植は土の保水性、団粒形成、養分保持、微生物活動などに重要ですが、多ければ多いほど無条件に良いというものではありません。

腐植量が多い背景には、湿潤で排水不良な条件がある場合もあります。また、火山灰土壌では腐植が多くてもリン酸が強く固定され、作物が利用しにくいことがあります。

農林水産省は、腐植を含む土壌有機物が団粒形成、養分保持、緩衝など多くの機能に関わると説明していますが、作物生産では同時に排水性、pH、養分状態なども確認する必要があります。

したがって腐植は、土壌の重要な指標の一つではありますが、単独で土の良否を決める数字ではありません。

場所や条件による腐植の違いをまとめると

  • 腐植量は、有機物の供給量と微生物による分解量の収支で変わる
  • 冷涼な条件では分解が遅く、腐植が蓄積しやすい場合がある
  • 適度な水分と酸素は分解を促す一方、過湿・低酸素では分解が遅くなる
  • 森林・草地・農地では有機物の供給量と入り方が異なる
  • 粘土鉱物や火山灰由来の鉱物は、有機物を安定化させることがある
  • 斜面上部では侵食で腐植が失われ、下部では堆積によって多くなる場合がある
  • 母材の違いは粘土鉱物、pH、水分条件を通じて腐植量に影響する
  • 耕起や畑転換は酸素供給を増やし、分解を速めることがある
  • 堆肥や作物残さの還元は、土へ入る有機物量を増やす
  • 同じ地域でも土地利用履歴や管理方法によって腐植量は変わる

つまり、土の腐植に場所や条件による違いがあるのは、腐植が環境から独立した固定成分ではなく、植物からの有機物供給、微生物分解、鉱物による保護、侵食・堆積、人間の管理が同時に作用する動的な蓄積物だからです。「どれだけ有機物が入ったか」と「どれだけ分解・流出せずに残れたか」の差が、その場所の腐植量として表れているのです。

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出典・参考資料

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