なぜ土の酸性度は季節によって変わるのか?

結論から言うと、土の酸性度が季節や環境によって変化するのは、雨による塩基の流亡、乾湿による土壌溶液の濃さ、植物の養分吸収、微生物による窒素変換、施肥、石灰施用、湛水と排水による酸化還元状態などが時間とともに変わるからです。ただし、土壌pHは毎日まったく別の値になるわけではありません。粘土や腐植にはpH変化を和らげる緩衝作用があり、短期変動の大きさは土の種類や管理条件によって異なります。

また、季節で変化するpHと、何年もかけて進む土壌酸性化は区別する必要があります。短期的には水分や塩類濃度、根や微生物の活動によってpHが揺れ、長期的には降雨によるカルシウム・マグネシウムなどの流亡や肥料の影響が積み重なって土壌の酸性化が進みます。

目次

そもそも土壌pHは何を表しているのか

pHは、土壌中の水素イオンの状態を表す指標です。一般にpH7付近を中性、それより低い値を酸性、高い値をアルカリ性と呼びます。

ただし、実際の土壌では水素イオンだけでなく、カルシウム、マグネシウム、カリウム、アルミニウムなど多くのイオンが土壌水と粘土・腐植の表面を行き来しています。

USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)は、土壌pHが養分の溶けやすさ、鉱物の風化、陽イオン交換部位に保持される成分などに関わる重要な化学性だと説明しています。

つまりpHは固定された「土の名前」ではなく、その時点の土壌溶液と交換部位の化学的なバランスを反映する値です。

季節でpHが変わる最大の理由の一つは土壌水分

USDA Agricultural Research Service(ARS)は、土壌pH、土壌窒素、可給態リンなどを39か月にわたり毎月測定し、温度、水分、植物生育などの年周期が測定値に季節変動を生じさせることを報告しています。

土が乾くと、土壌水の量が減るため、溶けている塩類やイオンの濃度が高くなります。逆に雨で土が湿ると、土壌溶液が希釈され、さらに一部のイオンが下方へ移動します。

そのため同じ地点でも、乾燥期と雨期では、土壌溶液の組成とpHがまったく同じとは限りません。

特に塩類濃度の変化が大きい土では、乾湿によるpH変動も大きくなりやすくなります。

雨が多い時期に土が酸性化しやすいのはなぜか

日本のように降水量が多い地域では、雨水が土の中を通るときにカルシウムやマグネシウムなどの塩基性陽イオンを下方へ運びます。

農林水産省は、土壌酸性化の原因として、雨水の浸透に伴う交換性塩基の溶脱を挙げています。塩基が失われると、粘土や腐植の交換部位で水素イオンやアルミニウムの割合が相対的に高まり、土壌は酸性側へ傾きます。

そのため梅雨や長雨の時期に一度だけ急激に酸性化するというより、雨の多い環境で塩基の流亡が長く積み重なることが、長期的な酸性化につながります。

排水がよく水が深くまで浸透する場所ほど、条件によっては塩基流亡が進みやすくなります。

乾燥期には「濃縮」によってpHが動くことがある

乾燥が続くと、土壌水が蒸発し、溶けている塩類の濃度が上がります。

NRCSの土壌pHに関する技術資料では、季節的な水分変化により塩濃度が変動し、それがpHの季節変動の一因になると説明されています。

乾燥地域や施設栽培では、降雨による洗い流しが少ないため、肥料由来の塩類が蓄積しやすく、乾燥期にはその影響がさらに強く現れる場合があります。

したがって、乾季と雨季のpH差は「酸が新しく大量発生したかどうか」だけではなく、土壌溶液の濃さの違いでも生じます。

窒素肥料は季節的なpH変化にどう関係するのか

アンモニウムを含む肥料が土へ入ると、微生物による硝化によって硝酸へ変わります。この過程では水素イオンが生じるため、土壌を酸性側へ動かす作用があります。

農林水産省も、生理的酸性肥料の施用やアンモニウム態窒素の硝化・流亡を土壌酸性化の原因として挙げています。

硝化は微生物による反応なので、温度、水分、酸素の影響を受けます。したがって同じ量の肥料を施しても、低温期と暖かい生育期、乾燥時と適湿時で反応速度は同じではありません。

作物の施肥時期と微生物活動の季節性が重なることで、pHの短期的な変化にも差が生まれます。

植物が育つ季節には根の周囲のpHも変わる

植物は根から養分を吸収するとき、電荷のつり合いを保つために水素イオンや水酸化物イオンに関係する物質を根の周囲へ放出します。

アンモニウムを多く吸収する場合と硝酸を多く吸収する場合では、根圏pHの変化方向が異なることがあります。

また、根は有機酸や糖類などを放出し、根圏の微生物活動も変えます。

そのため植物が活発に育つ春から夏と、収穫後や休眠期では、根の近くの化学環境は同じではありません。ほ場全体の平均pHが大きく変わらなくても、根圏では局所的なpH差が生じることがあります。

有機物分解でもpHは動く

落ち葉、作物残さ、堆肥などの有機物が分解されると、有機酸、二酸化炭素、アンモニウムなどさまざまな物質が生じます。

その後の硝化や有機酸の分解を含め、複数の反応が連続して起こるため、有機物分解がpHへ与える影響は常に一方向とは限りません。

温度と水分が変われば分解速度も変わるため、秋に植物残さが大量に入った後、春に地温が上がった時期などでは土壌化学反応の速さが変わります。

つまり季節によるpH変化には、生物活動の季節変化も重なっています。

水田では湛水するとpHが変わりやすい

水田では、畑とは異なる大きな季節変化が起こります。

農林水産省の資料では、湛水すると土の孔隙から空気が追い出され、残った酸素も微生物による有機物分解で消費されるため、土壌が還元状態へ移ると説明されています。

還元が進むと、硝酸、マンガン、鉄などが順に還元されます。農研機構も、湛水後に酸化還元電位が数日単位で低下する様子を連続計測で確認しています。

農林水産省は、こうした湛水下の還元化に伴って、酸性土壌ではpHが上昇することがあると説明しています。つまり水田では、入水前と湛水中でpHが同じとは限りません。

なぜ湛水すると酸性土壌のpHが中性側へ近づくのか

湛水で酸素がなくなると、微生物は酸素以外の物質を利用する還元反応へ移ります。

鉄などの還元反応では水素イオンが消費されるため、酸性土壌ではpHが上昇しやすくなります。

FAO AGRISに収録された水田土壌の研究でも、初期pHが6.5未満の土では、湛水後にpHが約7へ近づく傾向が確認されています。

ただし、どの土でも同じ速度・同じ幅で変化するわけではありません。初期pH、陽イオン交換容量、有機物量、湛水期間などによって反応は異なります。

落水すると湛水中の変化が逆方向へ戻ることがある

水田から水を抜くと、土の孔隙へ再び空気が入り、還元状態から酸化状態へ戻ります。

鉄や硫黄などの化学状態が変わり、湛水中に中性側へ動いていたpHが再び元の方向へ戻ることがあります。

農林水産省も、水田の落水によって土壌が酸化的な状態へ変わることを示しています。

このため水田では、湛水・中干し・落水という水管理そのものが、季節的な土壌化学性の変化をつくります。

石灰施用の時期でもpHは変わる

酸性土壌を改良するために炭酸カルシウムなどの石灰資材を施用すると、水素イオンが中和され、pHは上昇します。

ただし施用直後から永久に同じpHが続くわけではありません。石灰の反応には時間がかかり、その後は降雨による塩基流亡、作物吸収、施肥などによって再び変化します。

したがって、石灰を施用した直後と栽培終了後のpHが違うのは不思議ではありません。

農林水産省が作物ごとの適正pHに合わせて土壌酸度を調整することを勧めているのも、pHが管理可能であり、同時に時間とともに変化する性質だからです。

土の種類によって季節変動の大きさが違う

同じ酸が加わっても、すべての土でpHが同じだけ変わるわけではありません。

粘土や腐植が多く、陽イオン交換容量が大きい土では、交換部位に多くのイオンを保持できるため、pHの急変を緩和しやすくなります。

一方、砂質で粘土や腐植が少ない土では緩衝力が小さく、施肥や溶脱の影響がpHへ表れやすい場合があります。

このため季節変動を比較するときは、同じ地域でも土性や有機物量の違いを無視できません。

採土する時期が違うと分析値を単純比較できないことがある

土壌pHは、採取した時期の水分、肥料施用からの経過時間、作物生育、塩濃度などの影響を受けます。

USDA ARSの長期月別調査が示すように、pHには年周期に伴う変動があり、一回だけの採土値を長期間の代表値とみなすと誤差が生じることがあります。

そのため土壌診断で経年比較をする場合は、できるだけ同じ作付け時期、同じ施肥との時間関係、同じ採土深で採取すると比較しやすくなります。

特に肥料や石灰を施用した直後の土と、収穫後の土をそのまま比較すると、季節差と管理差が混ざってしまいます。

測定方法でもpH値は変わる

土壌pHには、水を使って測るpH(H2O)や塩化カリウム溶液を使うpH(KCl)など複数の測定方法があります。

また、土と液体の比率、振とう時間、乾燥状態などが違えば測定値にも差が出ます。

そのため、「春はpH5.8、秋はpH5.3だった」という数字を季節変化として解釈する前に、同じ測定法で測ったか確認する必要があります。

本当の季節変化と測定条件の違いを分けることが、土壌診断では重要です。

季節変動と長期的な酸性化はどう違うのか

季節変動は、乾湿、植物生育、微生物活動、湛水・排水、塩濃度などによって一年の中でpHが上下する現象です。

一方、長期的な酸性化は、降雨による塩基流亡、酸性化を促す肥料の継続施用、収穫による塩基持ち出しなどが何年も積み重なることで進みます。

短期変動では翌季にある程度戻ることがありますが、カルシウムやマグネシウムそのものが土から失われれば、石灰などで補わない限り長期的な変化として残ります。

したがって、土壌pHを管理するときには、一回の測定値だけでなく過去数年の傾向を見ることも重要です。

季節や環境による酸性度の変化をまとめると

  • 土壌pHは固定値ではなく、水分・塩類・根・微生物活動などで季節変動する
  • 雨が多い環境ではカルシウムやマグネシウムなどの塩基が溶脱し、長期的に酸性化しやすい
  • 乾燥すると土壌溶液が濃縮され、塩類条件の変化によってpHが動くことがある
  • アンモニウム肥料の硝化は水素イオンを生じ、酸性化に関わる
  • 植物の養分吸収や根からの物質放出は根圏pHを変える
  • 有機物分解の速度は温度・水分で変わり、土壌化学反応にも影響する
  • 水田では湛水による還元化で酸性土壌のpHが中性側へ動くことがある
  • 落水すると酸化状態へ戻り、pHも再び変化する
  • 石灰施用はpHを上げるが、その後の降雨・施肥・作物吸収で再び変化する
  • 季節比較では採土時期・深さ・測定方法をそろえる必要がある

つまり、土の酸性度が季節や環境によって変化するのは、土壌中の水・塩類・根・微生物・酸化還元反応が一年を通して動き続けているからです。短期的には乾湿や湛水、植物生育などでpHが揺れ、長期的には降雨による塩基流亡や施肥履歴が酸性度そのものを変えていきます。土壌pHを正しく理解するには、一回の数字だけを見るのではなく、その時の水分状態、栽培管理、季節、測定条件まで合わせて考えることが重要です。

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出典・参考資料

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