なぜ植物が利用できる土の養分は季節によって変わるのか?

結論から言うと、土の養分が季節や環境によって変化するのは、温度・水分・酸素・植物の生育・微生物活動・降雨・施肥などが変わることで、養分が「植物に使える形へ変わる速さ」「土に保持される量」「水で流される量」「植物に吸収される量」が変化するからです。特に窒素は季節変動が大きく、暖かく適度に湿った土では有機物から無機態窒素が供給されやすくなります。一方、大雨では硝酸が流亡しやすく、過湿では脱窒によって窒素が失われる場合があります。

重要なのは、土に含まれる養分の総量と、植物がその時点で利用できる可給態・無機態の養分量を分けて考えることです。季節によって大きく動きやすいのは後者です。土壌中の全窒素や粘土鉱物に含まれるカリウムなどは短期間では大きく変わらなくても、根が吸える形の養分は数日から数週間でも変化します。

目次

土の養分には「貯蔵されている養分」と「今使える養分」がある

土壌には、さまざまな形で養分が存在します。

  • 土壌水に溶けていて根が吸収しやすい形
  • 粘土や腐植の交換部位に保持された形
  • 有機物の中に組み込まれた形
  • 鉱物や難溶性化合物として固定された形

これらは互いに移り変わります。たとえば有機物中の窒素は、微生物による分解と無機化によってアンモニウムなどへ変わり、さらに硝化によって硝酸へ変化します。

農研機構の可給態窒素に関する手引きでは、室内で測定した可給態窒素から実際のほ場で無機化される窒素量を推定する際、栽培期間、地温、水分、土壌量などの違いを考慮する必要があるとされています。

つまり同じ土でも、春・夏・秋・冬で「今作物に供給される養分量」は同じではありません。

春に養分供給が増え始めるのはなぜか

冬の低温期には、土壌微生物の活動が低下します。そのため有機物から窒素や硫黄などが無機化される速度も遅くなりやすくなります。

春になって地温が上がり、土壌水分が適度になると、細菌や菌類の活動が高まり、有機物の分解が進みます。

USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)は、温度、降雨、土壌水分、通気性が窒素の無機化や窒素循環に大きく影響し、暖かく湿った条件では冷涼・乾燥条件より有機物分解と窒素放出が速くなると説明しています。

このため春は、気温上昇とともに土壌からの窒素供給が増える時期になります。ただし、土が過湿だったり低温が続いたりすれば、同じ春でも無機化速度は低くなります。

夏は養分供給が多くなりやすいが、乾燥すると変わる

夏は地温が高いため、適度な水分と酸素があれば微生物活動が活発になり、有機態窒素の無機化が進みやすくなります。

農研機構の日本土壌インベントリーには、地温を使って畑土壌由来の可給態窒素や有機質資材からの窒素供給量を推定する仕組みがあります。これは、同じ土壌でも地温によって実際の窒素供給速度が変わるためです。

一方、真夏に土が強く乾燥すると、微生物活動は低下します。また植物の根も水不足によって養分を吸収しにくくなります。

したがって、「暑いほど養分供給が増える」と単純には言えません。温度と水分の両方が適切であることが重要です。

乾燥後の雨で窒素供給が一時的に増えることがある

長く乾燥した土では、微生物活動が抑えられています。

そこへ雨が降って土が再び湿ると、微生物活動が急に再開し、乾燥中に蓄積した有機物や死んだ微生物細胞などが分解されます。その結果、無機態窒素の供給が一時的に増えることがあります。

農研機構の可給態窒素手引きでも、一度風乾した土を再び湿らせると、生土のまま培養した場合より窒素無機化量が増える「乾土効果」が紹介されています。

このため、乾季と雨季がはっきりした環境や、夏の乾燥後にまとまった雨が降る条件では、土壌窒素の動きが大きくなることがあります。

大雨が降ると硝酸が流れやすい

窒素のうち硝酸態窒素は、水に溶けやすく、土粒子に強く保持されにくい性質があります。

そのため大雨や過剰灌水で水が根域より下へ移動すると、硝酸も一緒に流れやすくなります。

USDA NRCSは、硝酸態窒素が根域から溶脱しやすく、その程度は土性と土壌水分に左右されるとしています。特に砂質土は大きな孔隙が多く水が速く通るため、硝酸流亡のリスクが高くなる場合があります。

つまり雨期には、微生物による窒素供給が進んでも、その直後の強雨で硝酸が失われれば、植物が利用できる窒素量は減少することがあります。

過湿になると窒素が気体として失われることもある

長雨や湛水で土の孔隙が水に満たされると、酸素が不足します。

このような条件では、微生物が硝酸を利用して呼吸する脱窒が起こり、窒素の一部が窒素ガスや亜酸化窒素として大気へ失われます。

USDA NRCSは、飽和した土では好気的な無機化が遅くなる一方、脱窒による窒素損失が起こりやすくなると説明しています。

したがって、雨が多ければ養分が増えるわけではなく、過湿条件では窒素供給と損失のバランスが大きく変わります。

植物の生育によって土の養分量は減っていく

植物は成長すると、根から窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどを吸収します。

生育初期には吸収量が少なくても、葉や茎が大きくなると養分吸収量も増えます。収穫物として植物体をほ場外へ持ち出せば、その中に含まれる養分も土壌系から失われます。

このため、春の栽培前と生育盛期、収穫後では、同じ場所の無機態窒素や交換性カリウムなどの量が同じとは限りません。

農林水産省の土壌診断資料でも、pH、EC、無機態窒素、有効態リン酸、交換性塩基などは施肥や栽培によって変化しやすい項目として扱われています。

肥料を施すと養分量は急に増えるが、その後は形が変わる

化学肥料を施すと、土壌中の無機態養分は短期間で増えます。

しかし、施用された養分がそのまま同じ形で残るわけではありません。アンモニウムは硝酸へ変わり、硝酸は植物に吸収されたり水で流亡したりします。

リン酸は鉄・アルミニウム・カルシウムなどと反応して利用しにくい形になることがあります。カリウムは土壌溶液と粘土の交換部位の間を移動し、植物に吸収されたり、条件によっては流亡したりします。

したがって、施肥直後、数週間後、収穫後では土壌分析値が違うのが自然です。

リンは窒素ほど動きやすくないが、利用しやすさは変化する

リンは硝酸に比べると土壌中を移動しにくい養分です。

しかし「移動しにくい」ことと「いつでも植物が使える」ことは同じではありません。リン酸は土壌中の鉄やアルミニウム、カルシウムなどと反応し、難溶性の形になることがあります。

また、pHによってリン酸の利用性は変わります。根や微生物の活動もリンの溶解や吸収に関係します。

そのため季節によるリンの変化は、窒素のような大きな流亡だけではなく、可給態になる割合や植物に吸収される量の変化として現れやすくなります。

カリウムも時間とともに減ることがある

カリウムは土壌水に溶けた形と、粘土や腐植の交換部位に保持された形の間を移動します。

植物が吸収すると、交換部位に保持されていたカリウムが土壌水へ補給されます。一方、施用されたカリウムが多くても、作物吸収や水の移動によって時間とともに減る場合があります。

農研機構の有機物施用試験では、交換性カリウム含量が時間とともに低下した例が示されています。これは、施用直後の養分状態がその後も固定されるわけではないことを示す一例です。

特にCECが小さい砂質土では、カリウムを保持できる量が小さいため、季節的な施肥と降雨の影響を受けやすくなります。

カルシウムやマグネシウムも雨と植物吸収で変化する

カルシウムやマグネシウムは、粘土や腐植の交換部位に保持される塩基性陽イオンです。

雨水が土壌中を通過すると、条件によってこれらの成分も下方へ移動します。また植物に吸収され、収穫物として持ち出される分もあります。

長期的に塩基が失われると土壌pHも低下し、ほかの養分の利用性まで変わります。

そのため養分の季節変化は一元素だけで完結せず、pHやCECを通じて相互に影響し合います。

水田では湛水と落水で養分の形が大きく変わる

水田では、湛水すると土中の酸素が急速に減ります。

酸化還元状態が変わると、窒素、鉄、マンガン、リンなどの化学状態も変わります。アンモニウムが比較的残りやすくなる一方、硝酸は脱窒によって失われやすくなります。

また、鉄の還元に伴ってリン酸の溶けやすさが変わる場合があります。

落水して土へ再び酸素が入ると、これらの反応は再び酸化側へ動きます。したがって水田では、湛水・中干し・落水という季節的な水管理そのものが養分状態を変えます。

冬は養分がなくなるのではなく、動きが遅くなる

冬に地温が下がると、微生物による有機物分解や窒素無機化は遅くなります。

そのため植物が利用できる無機態窒素の新たな供給は少なくなりやすくなります。

しかし、土中の有機態窒素や鉱物に保持された養分そのものが冬に消えるわけではありません。多くは「貯蔵された状態」で残り、春に温度と水分条件が整うと再び循環が活発になります。

この点でも、養分の総量と利用可能量を分けて考えることが重要です。

季節比較では採土時期をそろえる必要がある

土壌診断で養分量を比較するときは、採土時期が違うと結果の解釈が難しくなります。

施肥直後の土と収穫後の土では、無機態窒素やカリウムなどの値が違って当然です。大雨直後なら硝酸が流亡している可能性があり、乾燥後なら塩類濃度が高くなっている場合があります。

農林水産省が公開する土壌診断資料では、無機態窒素、有効態リン酸、交換性塩基など、施肥や栽培で変化しやすい項目を継続的に診断する考え方が示されています。

経年変化を見る場合は、できるだけ同じ作付け時期、同じ施肥からの経過期間、同じ採土深で比較することが大切です。

季節や環境による養分変化をまとめると

  • 土壌養分には、総量と植物が使える可給態・無機態の量がある
  • 地温が上がり、適度に湿ると微生物による窒素無機化が進みやすい
  • 強い乾燥では微生物活動と植物の養分吸収が低下する
  • 乾燥後の再湿潤で窒素無機化が一時的に増えることがある
  • 大雨では硝酸が根域より下へ流亡しやすい
  • 過湿・低酸素では脱窒による窒素損失が起こりやすい
  • 植物の生育と収穫によって土壌から養分が持ち出される
  • 肥料施用後も、養分は吸収・固定・流亡・変換によって変化する
  • リンは移動しにくいが、pHや酸化還元状態で利用しやすさが変わる
  • 季節比較では施肥時期、降雨、採土深などの条件をそろえる必要がある

つまり、土の養分が季節や環境によって変化するのは、養分が土の中で静止しているのではなく、有機物から放出され、粘土や腐植に保持され、水で移動し、微生物によって形を変え、植物に吸収され続けているからです。春の地温上昇、夏の乾湿、雨期の流亡や過湿、植物の生育と収穫、施肥や水管理がその流れを変えます。土壌養分を正しく見るには、単に「どれだけ含まれているか」ではなく、「その季節にどの形で存在し、どれだけ植物が利用できるか」を考えることが重要です。

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出典・参考資料

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