なぜ土壌微生物の活動や群集構成は季節によって変わるのか?

結論から言うと、土の微生物が季節や環境によって変化するのは、土壌温度、水分、酸素、pH、有機物の供給量、植物の根の活動などが一年の中で変わり、それぞれの条件に適した微生物が活動しやすくなったり、逆に活動を弱めたりするからです。春から夏に温度が上がると活発になる微生物がいる一方、真夏に土が乾きすぎれば活動は低下します。長雨で土が水に満たされると酸素が減り、好気性微生物が活動しにくくなる一方、低酸素条件を利用する微生物が相対的に重要になります。

つまり、季節によって変わるのは「微生物がいる・いない」だけではありません。微生物の活動量、増えやすい種類、群集の組み合わせ、そして有機物分解や養分循環の速さが変化します。日本森林学会の研究でも、森林土壌の細菌・真菌の群集構造が初冬・初春・盛夏で異なることが示されています。

目次

土の微生物は何によって活動が決まるのか

土壌には細菌、古細菌、菌類など多様な微生物が生息しています。これらは落ち葉や枯れ根などの有機物を分解したり、窒素や硫黄などの元素を別の形へ変えたり、植物の根と共生したりしています。

USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)は、土壌生物の活動を左右する条件として、温度、水分、pH、塩類、酸素、養分、有機物などを挙げています。微生物は種類ごとに好む環境が違うため、土の状態が変われば、活動しやすい微生物の組み合わせも変わります。

そのため、季節変化を考えるときは、「何月だから増える」と単純に考えるより、その時期の土壌温度、水分、植物生育、酸素条件を合わせて見ることが重要です。

春に微生物活動が高まりやすいのはなぜか

冬の低温期には、多くの微生物の代謝が遅くなります。春になって地温が上がり、土に適度な水分があると、酵素反応や有機物分解が進みやすくなります。

また、植物が芽吹き、根が伸び始めると、根から糖、有機酸、アミノ酸などの有機化合物が周囲へ供給されます。これらは根圏微生物のエネルギー源になるため、植物の成長開始は土壌微生物の活動にも影響します。

日本森林学会の北海道東部の森林研究では、初冬、初春、盛夏で細菌・真菌の群集構造が異なっていました。これは、季節によって温度だけでなく、植物からの炭素供給や土壌水分なども変わるためです。

夏は暖かいから微生物が最も活発とは限らない

温度が上がると、多くの微生物反応は一定の範囲で速くなります。そのため、春から初夏にかけて地温と水分が適度なら、有機物分解や土壌呼吸は活発になりやすくなります。

しかし、真夏に土が強く乾燥すると話は変わります。微生物は水の薄い膜の中で物質を受け渡すため、水分が不足すると活動しにくくなります。

NRCSは、土壌呼吸が土壌温度だけでなく水分、pH、通気性、有機物量などに左右され、乾燥した高温土壌では微生物活動が低下すると説明しています。

したがって「暑い季節ほど微生物が多い」と一律には言えません。温度と水分の組み合わせが重要です。

土が乾燥すると微生物はどうなるのか

土壌が乾くと、微生物が利用できる水が減り、溶けた養分や有機物も移動しにくくなります。

その結果、多くの微生物は増殖速度を落としたり、休眠に近い状態になったりします。乾燥に強い種類は残りやすく、乾燥に弱い種類は活動を抑えられるため、群集構成も変化します。

つまり、乾燥期には微生物そのものが完全に消えるのではなく、活動の強さと優勢な種類が変わると考えるほうが正確です。

乾燥後に雨が降ると微生物活動が急に高まることがある

乾燥していた土へ雨が降ると、水分が戻ることで微生物活動が再開します。

乾燥中に壊れた細胞や蓄積していた有機物が利用されるため、再湿潤後に土壌呼吸や分解が一時的に強まることがあります。

このため、同じ平均的な土壌水分でも、「ずっと適度に湿っていた土」と「強く乾燥した後に急に湿った土」では微生物の反応が違います。

季節の変わり目や夏の干ばつ後の降雨では、このような乾燥と再湿潤の履歴が微生物活動へ影響します。

雨が多すぎると微生物活動が落ちることがある

水分は微生物に必要ですが、多すぎても問題が起こります。

土の孔隙が水で満たされると、空気が占める空間が減り、酸素が土中へ入りにくくなります。多くの微生物は酸素を使って呼吸するため、過湿になると活動が制限されます。

NRCSは、土壌生物の活動が水分と通気性の両方に影響されると説明しています。土壌呼吸についても、水分が適度な範囲では高まりやすい一方、過度に湿ると酸素不足が制限要因になります。

そのため梅雨や長雨の時期には、乾燥時とは別の理由で微生物活動が低下することがあります。

水田では微生物の主役が変わる

水田のように土が長く水に浸かると、土壌中の酸素は急速に減ります。

すると、酸素を必要とする好気性微生物の活動は弱まり、酸素を使わなくても活動できる嫌気性・通性嫌気性の微生物が重要になります。

こうした微生物は、硝酸、鉄、硫黄化合物などを利用した反応に関わり、土壌の酸化還元状態や養分の形を変えます。

つまり同じ土でも、畑状態と湛水状態では微生物群集と物質循環の仕組みが大きく異なります。

秋は落ち葉や枯れ根が増え、微生物の餌が変わる

秋になると、落葉樹林では落ち葉が地表へ大量に供給されます。草本植物や作物も、生育終了後に枯れた根や残さを土へ残します。

これらは微生物の新しいエネルギー源になります。ただし、糖やタンパク質を多く含む分解しやすい有機物と、木質成分の多い分解しにくい残さでは、利用しやすい微生物が違います。

そのため秋は、単に微生物量が増えるのではなく、供給される有機物の種類が変わることで群集の構成や分解活動が変わる時期でもあります。

冬になると微生物は死んでしまうのか

冬になっても土壌微生物がすべて死ぬわけではありません。

低温になると代謝や増殖は遅くなりますが、多くの微生物は休眠状態や低い活動状態で生き残ります。また、積雪が厚い場所では雪が断熱材として働き、外気ほど土壌温度が下がらないこともあります。

日本森林学会の研究では、初冬や融雪後の初春にも細菌・真菌群集が確認され、盛夏とは異なる群集構造を示していました。

つまり冬は「微生物がいない季節」ではなく、低温条件に適応した群集と低い活動状態が中心になる季節です。

植物の根がある場所では季節変化が大きくなることがある

根の周囲を根圏と呼びます。

植物が活発に光合成する季節には、根から微生物へ多くの炭素化合物が供給されます。共生する菌根菌は、植物から炭素を受け取り、その代わりにリンや窒素、水などの獲得を助けます。

日本森林学会の研究では、共生真菌が盛夏に根圏で多くなる傾向が見られ、植物からの炭素供給の季節差が関係すると考えられています。

一方、細菌群集では根圏と非根圏で差が見られ、pHや含水率との関連も報告されています。

pHは季節変化の土台になる

土壌pHは、どの微生物が活動しやすいかを左右する重要な条件です。

微生物の種類によって好むpH範囲が異なるため、酸性の強い土、中性に近い土、アルカリ性の土では群集構造が違います。

pHは季節ごとに大幅に変わるとは限りませんが、降雨、施肥、植物の養分吸収、湛水などによって多少動きます。

日本森林学会の森林研究でも、根圏細菌群集とpHの関連が示されています。季節変化を考えるとき、温度や水分だけでなく、その土の基本的なpH条件も無視できません。

有機物の量と質で微生物群集は変わる

微生物の多くは、有機物をエネルギー源として利用します。

落ち葉、枯れ根、堆肥、作物残さなどが増えれば、利用できる炭素源も増えます。ただし、有機物の種類によって分解しやすさが違うため、同じ量を加えても同じ微生物群集になるわけではありません。

FAOの資料では、土壌有機物の分解速度が温度や水分などの気候条件に強く影響されると整理されています。温暖で適湿な条件では分解が進みやすく、冷涼な条件では遅くなりやすいため、気候は微生物の餌となる有機物量にも長期的に影響します。

耕起や踏圧でも微生物環境は変わる

農地では、人間の管理によって土壌環境が季節的に大きく変わります。

耕起すると土が混ざり、空気が入りやすくなり、団粒や孔隙の状態も変わります。湿った土を重い機械で踏むと締め固まりが起こり、酸素や水の移動が制限されることがあります。

このような物理環境の変化は、微生物の活動場所や酸素供給を変えます。

したがって、同じ畑でも耕起直後、作物生育中、収穫後では、土壌微生物が置かれる環境が同じではありません。

微生物の「量」と「種類」は同じようには変化しない

微生物の季節変化を見るときは、全体の活動量と群集構成を分ける必要があります。

たとえば春から夏に土壌呼吸が増えても、それがすべての微生物が同じ割合で増えたことを意味するわけではありません。ある細菌群が増え、別の菌類が減ることもあります。

日本森林学会の研究で、細菌・真菌とも季節によって群集構造が異なったことは、この点を示しています。

つまり「微生物が活発になった」という情報だけでは、どの種類が増えたかまではわかりません。量・活動・種類の三つを分けて見ることが重要です。

季節変化が養分循環にも影響するのはなぜか

微生物は有機物を分解し、その中の窒素やリンなどを植物が利用しやすい形へ変えます。

温度や水分が適度で微生物活動が高まれば、養分の無機化も進みやすくなります。一方、乾燥・低温で活動が弱まれば供給速度は低下します。

過湿条件では酸素不足により別の代謝経路が優勢になり、硝酸の脱窒などが起こる場合があります。

したがって季節による微生物の変化は、単なる生物相の変化ではなく、植物が利用できる養分量や土壌中の物質循環にもつながります。

季節や環境による微生物変化をまとめると

  • 春は地温上昇と植物根の活動開始で微生物活動が高まりやすい
  • 夏は適湿なら活動が高まりやすいが、強い乾燥では低下する
  • 乾燥後の再湿潤で微生物活動が一時的に強まることがある
  • 長雨や湛水では酸素が減り、好気性微生物が活動しにくくなる
  • 低酸素条件では嫌気性・通性嫌気性微生物の役割が大きくなる
  • 秋は落ち葉や枯れ根によって有機物の供給量と種類が変わる
  • 冬は活動が低下するが、微生物がすべて消えるわけではない
  • 根圏では植物からの炭素供給によって季節変化が強く現れることがある
  • pH、有機物、耕起、踏圧なども群集構造と活動を変える
  • 季節によって微生物の活動量だけでなく、細菌・菌類などの群集構成も変化する

つまり、土の微生物が季節や環境によって変化するのは、土壌が温度・水分・酸素・植物・有機物の面で一年中同じ状態ではないからです。微生物はその変化に応じて活動を強めたり弱めたりし、優勢になる種類も入れ替わります。春の地温上昇、夏の乾湿、秋の有機物供給、冬の低温、植物の根の季節性が重なり、土の中の微生物群集と養分循環は絶えず変化しているのです。

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出典・参考資料

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