なぜ大雨の後は山の斜面が崩れやすくなるのか?

結論からいうと、大雨の後に山の斜面が崩れやすくなるのは、雨水が地中へ大量にしみ込むことで、土や岩のすき間に水がたまり、斜面を支える力が弱くなるからです。 特に、地下水位や「間隙水圧」が上がると、土粒子どうしがかみ合って斜面を支える力が小さくなります。さらに土そのものが水を含んで重くなり、重力で斜面下方へ動こうとする力も大きくなります。

重要なのは、危険が雨の最中だけとは限らないことです。雨が止んだ後も、地表からしみ込んだ水が斜面内部をゆっくり移動し、地下水や間隙水圧が高い状態が続くことがあります。そのため、雨が弱まったり止んだりした後に斜面崩壊が起こる場合もあります。

目次

そもそも斜面はなぜ普段は崩れないのか

山の斜面には、常に重力によって土や岩を下へ動かそうとする力が働いています。それでも普段は崩れないのは、土粒子どうしの摩擦、粘着力、岩盤の強度、植物の根などが斜面を支えているからです。

斜面が安定している状態では、「下へ動かそうとする力」より「その場にとどめようとする抵抗力」のほうが大きくなっています。

ところが大雨によって地中の水分状態が大きく変わると、このバランスが崩れます。重力側の力が強まったり、抵抗力が弱まったりして、限界を超えると土や岩が一気に動き始めます。

大雨の水は斜面の中へどう入っていくのか

雨が降ると、一部は地表を流れて川へ向かいますが、一部は土のすき間や岩盤の割れ目から地下へ浸透します。

雨が短時間で終われば、しみ込んだ水が地下へ抜けたり、斜面外へ流れ出たりすることで、水分量が大きく増えない場合もあります。

しかし強い雨や長時間の雨が続くと、排水される量より入ってくる水の量が多くなります。すると土のすき間が次第に水で満たされ、地下水位が上昇したり、特定の地層の上に水がたまったりします。

気象庁は、大雨によるがけ崩れや土石流の危険度には「今降っている雨」だけでなく、「これまでの雨によって土壌中にどれだけ水分がたまっているか」が深く関係すると説明しています。この考え方を数値化したものが土壌雨量指数です。

斜面崩壊の鍵になる「間隙水圧」とは何か

土は、砂粒や粘土粒子だけでぎっしり詰まっているわけではありません。粒子と粒子の間には小さなすき間があり、そこには空気や水が入っています。このすき間を「間隙」と呼びます。

大雨によって間隙の中に水が増えると、水が周囲の土粒子を押す圧力が高くなることがあります。これが「間隙水圧」です。

間隙水圧が高くなると、土粒子どうしを実質的に押し付けている力が小さくなります。土質力学では、この粒子間で実際に働く力を「有効応力」と呼びます。

有効応力が小さくなると、土粒子どうしの摩擦による抵抗が弱まり、斜面がすべりやすくなります。

USGSの降雨誘発型地すべり研究でも、降雨浸透による土壌水分と間隙水圧の変化が斜面不安定化を理解する重要な観測対象とされています。

水を含むと土が重くなることも関係する

乾いた土より、水を多く含んだ土のほうが単位体積あたりの重さは大きくなります。

斜面上の土が重くなると、重力によって斜面下方へ動こうとする力も増えます。その一方で、地下水位や間隙水圧の上昇によって斜面を支える抵抗力は低下します。

つまり大雨では、「動かそうとする力が増える」と同時に「支える力が弱くなる」という二つの変化が重なることがあります。

ただし、斜面崩壊では単純な重量増加だけが原因ではありません。実際には、地下水の流れ、間隙水圧、土の性質、地層構造などが組み合わさって安定性が変化します。

乾いた土がぬれるだけでも強度が変わる

完全に水で満たされていない土では、土粒子の間に水と空気が共存しています。このような「不飽和土」では、水の表面張力による吸引力が粒子どうしを引き付け、見かけ上、土を安定させる働きをすることがあります。

大雨で土がぬれると、この吸引力が弱まります。その結果、地下水位が大きく上昇する前でも、表層土の強度が低下する場合があります。

土木研究所の研究でも、降雨による斜面表層の含水量増加に伴い、不飽和土の負の間隙水圧が低下し、斜面の強度が低下することが表層崩壊の重要な要因として扱われています。

なぜ「雨が止んだ後」に崩れることがあるのか

雨が止めば、すぐに斜面の中の水も減るように思えます。しかし、地下の水の動きには時間がかかります。

地表に降った雨水は、土や岩盤の割れ目を通って徐々に深い場所へ移動します。場所によっては、降雨から数時間後、場合によってはもっと後になって地下水位や間隙水圧が高くなることがあります。

USGSの地すべり研究では、降雨後に地下の間隙水圧が時間差で上昇し、それが斜面移動を引き起こす例が観測されています。また、深い地すべりでは雨水が深部まで浸透するまでに、より長い時間がかかることもあります。

そのため、雨が止んだ瞬間に斜面が元の安定状態へ戻るわけではありません。斜面内部に水が多く残っている間は、危険度が高い状態が続く可能性があります。

「これまでに降った雨」が重要なのはなぜか

同じ1時間に50mmの雨が降っても、その前まで乾燥していた場合と、数日間雨が続いて土が十分ぬれていた場合では、斜面内部の状態が違います。

すでに土壌中に多くの水がたまっている状態では、新たに降った雨を地中に保持できる余裕が小さくなっています。そのため地下水位や間隙水圧が上がりやすくなり、表面流も増えます。

気象庁が土砂災害の危険度判定に土壌雨量指数を用いているのは、この「先行する雨」の影響が大きいからです。

したがって、大雨の危険性を見るときは、直前の1時間雨量だけでなく、それまで数時間〜数日間にどれくらい雨が降っていたかも重要です。

水がたまりやすい地層では崩れやすくなる

山の斜面内部は均一ではありません。水を通しやすい砂質土や割れ目の多い岩盤と、水を通しにくい粘土層や緻密な岩盤が重なっていることがあります。

上からしみ込んだ水が水を通しにくい層にぶつかると、その境界付近に水がたまりやすくなります。そこで地下水位や間隙水圧が上がると、その境界がすべり面になることがあります。

国土交通省は、表層崩壊について、厚さ0.5〜2m程度の表層土が、表層土と基盤層の境界に沿って滑落する比較的小規模な崩壊として説明しています。

このため同じ量の雨が降っても、地層構造や地下水の通り道によって崩れやすさは大きく違います。

谷やくぼ地では水が集まりやすい

斜面の形も重要です。尾根では水が左右へ分かれやすい一方、谷や斜面のくぼ地では周囲から水が集まります。

地表だけでなく、地下水も地形や地層に沿って集まることがあります。そのため、谷頭や集水地形では大雨時に地下水位が上がりやすく、表層崩壊が起こることがあります。

国土交通省も、深層崩壊について、集水面積が大きい場所など水の力がかかりやすい地形は相対的に発生しやすいと説明しています。

風化した土や岩は大雨で崩れやすい

山の表面にある岩石は、長い年月の中で雨、温度変化、化学反応などによって風化し、もろくなります。

風化が進むと、硬い岩盤が細かな土や岩片へ変化し、粒子どうしの結びつきが弱くなります。そこへ大量の雨水が入り込むと、斜面の安定性がさらに低下します。

また、断層や節理などの割れ目が多い岩盤では、水が深部へ入りやすく、割れ目に沿って水圧が高まる場合があります。

つまり大雨は、それまで長期間かけて進んできた風化や亀裂の影響を、一気に表面化させる「引き金」になることがあります。

急斜面ほど崩れやすいのはなぜか

斜面が急になるほど、重力のうち斜面に沿って下向きに働く成分が大きくなります。

そのため、同じ土質・同じ水分条件なら、一般には急斜面のほうが不安定になりやすくなります。

国土交通省の土砂災害に関する資料でも、がけ崩れは急な斜面で起こり、大量の雨が地中へしみ込むと発生しやすいと説明されています。

ただし、傾斜だけで危険性は決まりません。緩い斜面でも地すべりが起こることがありますし、急斜面でも硬い岩盤で安定している場所があります。

表層崩壊と深層崩壊では雨の効き方が違う

斜面崩壊には、浅い表層だけが崩れるものと、より深い地盤まで崩れるものがあります。

表層崩壊は、比較的浅い土層へ雨水が浸透し、短時間〜長時間の強い雨をきっかけに発生することがあります。

一方、深層崩壊では、より深い地下水の変化や岩盤の亀裂、長期間の降雨が重要になる場合があります。国土交通省は、降雨による深層崩壊では短時間雨量より長時間降雨の影響が大きいとされることを紹介しています。

そのため、「何mm降れば必ず崩れる」という一つの基準ですべての斜面を説明することはできません。

すべての大雨で斜面が崩れるわけではない

同じ大雨を受けても、崩れる斜面と崩れない斜面があります。

違いを生む主な条件には、次のようなものがあります。

  • 斜面の傾斜
  • 土や岩石の強さ
  • 風化の程度
  • 地下水の通り道
  • 透水性の異なる地層の重なり
  • 谷やくぼ地など水の集まりやすさ
  • 過去の地すべり・崩壊履歴
  • 植生や人工的な斜面改変

USGSも、降雨誘発型地すべりの発生には雨量だけでなく、土壌水分、間隙水圧、地質・地形など複数の条件が関係するとしています。

崩れた土が土石流になることもある

大雨で崩れた土砂が急な谷へ入ると、水と混ざりながら高速で流れ下り、土石流へ移行することがあります。

USGSは、降雨で発生する浅い地すべりの中には、急斜面や渓流へ入った後、土砂と水が混ざった高速の土石流へ変化するものがあると説明しています。

このため斜面崩壊は、崩れた場所の直下だけではなく、谷を通じて下流へ影響が広がる場合があります。

なぜ雨が止んだ後も注意が必要なのか

大雨の後は、地表の天気が回復しても、斜面内部ではすぐに乾燥しません。

土壌中の水分量が多い状態が続き、地下水が斜面内部を移動し、場所によっては間隙水圧がさらに上がることがあります。

気象庁の土砂災害危険度は、現在の雨だけでなく、土壌中に蓄えられた水分の影響を考慮しています。つまり、雨が止んだこと自体は斜面がすぐ安全になったことを意味しません。

実際の危険度を確認するときは、斜面の見た目だけで判断せず、気象庁の大雨警報(土砂災害)、土砂災害警戒情報、土砂キキクルなど公的な防災情報を確認することが重要です。

まとめ

大雨の後に山の斜面が崩れやすくなる最大の理由は、雨水が斜面内部にたまり、土や岩を支える力を弱くするからです。

  • 大雨で雨水が地中へ大量に浸透する
  • 土壌水分や地下水位が上昇する
  • 間隙水圧が高くなると有効応力が低下し、土粒子どうしの摩擦抵抗が弱くなる
  • 不飽和土では、ぬれることで土を支えていた吸引力が低下することがある
  • 水を含んだ土は重くなり、斜面下方へ動こうとする力も増える
  • 地層境界や谷など、水が集まりやすい場所では特に不安定になりやすい
  • 地下水や間隙水圧には時間差があるため、雨が止んだ後に崩れることもある

つまり、大雨は単に斜面の表面をぬらすだけではありません。雨水が地下へ入り、土の力学的な状態と地下水の流れを変えることで、普段は安定している斜面を崩壊の限界へ近づけます。大雨後の斜面が危険なのは、目に見えない地下の水がまだ動き続けていることがあるためです。

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