なぜ川の水質は生き物の種類に影響するのか?

結論からいうと、川の水質は、生き物が呼吸したり成長したり繁殖したりするための環境条件そのものだからです。 水に含まれる酸素の量、水温、pH、有機物や栄養塩、濁り、有害な化学物質などが変わると、その条件に耐えられる生き物と耐えにくい生き物が分かれます。その結果、同じ「川」でも水質によって見られる魚、昆虫、貝、甲殻類、藻類などの種類が変わります。

ただし、水質だけで川の生き物のすべてが決まるわけではありません。流れの速さ、水深、川底が砂か石か、日陰の多さ、瀬や淵の有無、上流・下流とのつながりなども重要です。水質は、生き物の種類を決める多くの条件の中でも、とくに基本的な「生きられるかどうか」を左右する要因の一つです。

目次

生き物にはそれぞれ「暮らしやすい水質の範囲」がある

人間が極端に暑い場所や酸素の少ない場所では長く活動しにくいのと同じように、水生生物にも適した環境の範囲があります。

魚や水生昆虫は、水中に溶けた酸素を使って呼吸します。ある種は酸素が豊富な冷たい水を好み、別の種は比較的暖かく酸素が少なめの水にも耐えられます。pHについても、急激な酸性・アルカリ性の変化に弱い種と、比較的広い範囲に適応できる種があります。

このため、水質が変わると、まず条件に敏感な種が減り、耐性の高い種が残ることがあります。さらに水質が大きく悪化すると、生き物全体の数や種類が減る場合もあります。

環境省と国土交通省が実施している全国水生生物調査では、サワガニやカワゲラ類など、川にすむ特定の水生生物を「指標生物」として使い、その生息状況から水質を判定しています。これは、生物の種類と水質条件に一定の対応関係があることを利用した調査です。

溶存酸素が少ないと、暮らせる生き物が限られる

水質の中でも、生き物に直接影響しやすいのが「溶存酸素(DO)」です。これは水の中に溶けている酸素の量を表します。

魚や多くの水生昆虫、甲殻類などは、この酸素をえらなどから取り込みます。そのため、溶存酸素が少なくなると呼吸が難しくなり、酸素を多く必要とする種は生息しにくくなります。

米国環境保護庁(EPA)は、溶存酸素を水域が水生生物を支えられるかを見る重要な指標としており、酸素が低下すると敏感な動物が移動したり、健康状態が悪化したり、死亡したりすることがあると説明しています。

一方、低酸素に比較的強い生き物は、他の種が減った環境でも残ることがあります。そのため、どの種類の生き物がいるかを見ると、その場所で長い時間どのような水質だったかを推測する手がかりになります。

有機物が増えると、分解のために酸素が使われる

川に生活排水や落ち葉、動植物の遺骸などの有機物が入ると、微生物がそれらを分解します。このとき微生物は酸素を消費します。

有機物が多すぎると酸素の消費量も増え、水中の溶存酸素が低下しやすくなります。その結果、酸素を多く必要とする魚や水生昆虫が暮らしにくくなります。

日本の河川水質では、有機物による汚れの程度を示す代表的な指標としてBOD(生物化学的酸素要求量)が使われています。環境省の河川に関する生活環境の環境基準でも、BODと溶存酸素量は水質を評価する主要項目に含まれています。

BODそのものが生物を直接攻撃するというより、分解される有機物が多いと酸素消費が増え、その結果として生物に影響が出るという関係が重要です。

水温が変わると、種類の分布も変わる

水温は「水質」という言葉から少し外れて見えるかもしれませんが、水生生物の生息条件を考えるうえでは欠かせません。

魚や水生昆虫の多くは、周囲の水温の影響を強く受ける変温動物です。水温が上がると代謝が変わり、必要とする酸素量や餌の量も変化します。しかも一般に、暖かい水ほど溶け込める酸素の量は少なくなるため、高水温と低酸素が同時に生き物への負担になる場合があります。

国土技術政策総合研究所の研究者による河川水辺の国勢調査データの解析では、魚類や底生動物の出現と水温・水質項目との関係が調べられ、特に冷水性の魚類では水温との強い対応が示されています。

つまり、同じ川でも上流の冷たい場所と下流の暖かい場所では、暮らしやすい魚の種類が違うことがあります。水温は、生物の分布を分ける重要な環境条件です。

pHが大きく変わると、生理機能に負担がかかる

pHは、水がどの程度酸性またはアルカリ性かを表す指標です。自然の川でも地質や流域環境によってpHは異なりますが、生き物にはそれぞれ適応できる範囲があります。

極端な酸性やアルカリ性になると、魚のえらの働きや体内のイオン調節などに負担がかかることがあります。また、pHは水中の化学物質の形や毒性にも影響するため、単独の数字以上に生態系への影響を持つことがあります。

環境省の河川の環境基準でも、pHは水産利用や自然環境保全を考える主要な水質項目の一つとされています。

ただし、「中性に近ければ必ず良い」という意味ではありません。自然に弱酸性の水域など、その地域本来の水質に適応した生き物もいます。重要なのは、その川の自然条件から大きく外れた変化が起きていないかを見ることです。

窒素やリンが多すぎると、生態系のバランスが崩れることがある

窒素やリンは、植物や藻類の成長に必要な栄養塩です。少なすぎても生産が進みませんが、多すぎると藻類が急激に増えることがあります。

EPAは、窒素やリンが過剰になると藻類が水域の処理能力を超えて増殖し、水質や餌資源、生息環境に影響し、魚などが必要とする酸素を減らすことがあると説明しています。

藻類は日中には光合成で酸素を生みますが、夜間には呼吸をし、死んだ藻類が微生物に分解されるときにも酸素が消費されます。そのため、栄養塩が過剰な水域では溶存酸素が大きく変動し、低酸素が起こりやすくなることがあります。

栄養塩の増加によって藻類の種類や量が変われば、それを食べる小動物や魚の餌環境も変化します。水質の変化は、一つの生物だけでなく食物網を通して生態系全体へ広がることがあります。

濁りや細かい土砂も、生き物の種類を変える

大雨の後や工事現場から土砂が流れ込んだときなど、川が濁ることがあります。濁りの原因となる細かな土砂が増えると、水中に届く光が減り、藻類や水草の光合成がしにくくなる場合があります。

また、細かな土砂が川底に大量に積もると、石と石の間のすき間が埋まります。そこは水生昆虫の幼虫、小型の甲殻類、魚の卵などが利用する重要な空間です。

砂や泥がえらに付着したり、魚が餌を見つけにくくなったりすることもあります。そのため、濁りや浮遊物質の量が変わると、川底にすむ生き物を中心に種類の構成が変わることがあります。

有害な化学物質は、種ごとに異なる影響を与える

農薬、重金属、工業由来の化学物質などが水域へ入ると、水生生物に直接的な毒性を示す場合があります。

重要なのは、生き物によって感受性が同じではないことです。ある濃度で影響を受ける種もあれば、同じ条件でも比較的影響を受けにくい種もあります。

EPAの水生生物向け水質基準では、多数の化学物質について、淡水・海水の生物を短期的または長期的な影響から守るための基準が設定・推奨されています。こうした考え方からも、水中の化学物質の種類と濃度が生物相を左右することがわかります。

水質が変わると「敏感な種」と「耐性の高い種」の割合が変わる

川の生き物は、水質への強さが同じではありません。清浄で酸素の多い環境を必要とする種もいれば、有機物が多く酸素がやや少ない環境でも生きられる種もいます。

そのため、水質悪化の初期には、生き物が一斉にいなくなるのではなく、まず敏感な種が減り、耐性のある種の割合が高くなることがあります。

この性質を利用するのが「生物指標」です。環境省と国土交通省の全国水生生物調査では、川底などにすむ生物を採集し、どの指標生物が見つかったかによって水質を4階級で判定しています。

化学分析は採水した瞬間の状態を詳しく測れますが、生き物はその場所で一定期間暮らしているため、過去から続く水質の影響をある程度反映します。このため、化学的な水質測定と生物調査を組み合わせると、川の状態をより総合的に理解できます。

「きれいな水ほど生き物の種類が必ず多い」とは限らない

ここで注意したいのは、「水がきれいなら、どんな生き物でもたくさん住める」というわけではないことです。

たとえば、非常に冷たく栄養塩の少ない上流では、水質は清浄でも、そこで暮らせる生物は冷水や速い流れに適応した種類に限られます。逆に、下流の穏やかな場所では、水温や流れ、底質が異なるため、別の種類が増えることがあります。

生物多様性は、水質だけでなく、生息場所の種類がどれだけあるかにも左右されます。瀬、淵、砂州、礫底、水草帯、倒木の陰など、多様な環境がある川では、それぞれに適応した生き物が共存しやすくなります。

したがって、水質は「種類を決めるフィルター」の一つだと考えるとわかりやすいでしょう。水質条件を通過できる種の中から、さらに流速や川底、餌、捕食者などの条件によって実際に生息する種類が決まります。

水質以外の条件も同時に見なければならない

同じ水質の二つの川でも、生き物の種類が同じとは限りません。

  • 流速が速いか遅いか
  • 川底が岩、礫、砂、泥のどれでできているか
  • 水深や川幅がどのくらいあるか
  • 日陰や水草、倒木などの隠れ場所があるか
  • 堰やダムで上下流の移動が妨げられていないか
  • 餌となる藻類や昆虫が十分にいるか

こうした物理的な環境と水質が組み合わさって、その川の生物相がつくられます。

そのため、川の環境を改善するときも、水質を良くするだけでなく、瀬や淵、河岸植生、魚の移動経路などの生息場所を守ることが重要です。

水生生物を調べると、川の状態が見えてくる

川の水質を知る方法には、水を採取してpHやBOD、溶存酸素、浮遊物質などを測定する方法があります。これに加えて、どんな生き物が暮らしているかを見る方法もあります。

水生昆虫などの底生動物は、魚より移動範囲が小さいものが多く、その場所の環境条件を反映しやすいという特徴があります。カワゲラ類のように比較的清浄な水を好む生物がいるか、汚濁に強い生物ばかりになっていないかを見ることで、水質変化の手がかりを得られます。

一方で、指標生物が見つからない理由が必ず水質とは限りません。洪水で流された、川底が変わった、季節が違う、採集方法が違う、といった原因もあります。そのため、生物調査の結果は水質測定や河川環境の観察と合わせて判断することが大切です。

まとめ

川の水質が生き物の種類に影響するのは、生き物ごとに生存・成長・繁殖できる水質条件の範囲が異なるからです。

  • 溶存酸素が少ないと、酸素を多く必要とする生物が暮らしにくくなる
  • 水温は生物の代謝や分布に影響し、溶存酸素とも関係する
  • pHが大きく変わると、生理機能や化学物質の影響が変わる
  • 有機物が多いと、その分解で酸素が消費される
  • 窒素やリンが過剰になると藻類が増え、酸素や餌環境が変化する
  • 濁りや細かな土砂、有害物質も生息できる種類を変える
  • 水質に敏感な種と耐性のある種の違いを利用して、水生生物から水質を判定できる

つまり、水質は「どの生き物ならその川で暮らし続けられるか」を選び分ける環境条件の一つです。 ただし実際の生物相は、水質だけでなく流れ、川底、水深、餌、河川のつながりなども含めて決まります。川の生態系を理解するには、水の化学的な状態と生息場所の両方を見ることが重要です。

関連する「なぜ?」

参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次