結論からいうと、川によって運ぶ土砂の量が違うのは、「水が土砂を動かす力」と「上流から運べる土砂がどれだけ供給されるか」の両方が川ごとに違うからです。 流量が大きく勾配が急な川は土砂を動かす力が大きくなりやすい一方、そもそも流域に削られやすい土や岩が少なければ、運ぶ土砂量は多くなりません。逆に、崩壊や侵食で大量の土砂が供給される川では、洪水時に非常に多くの土砂を運ぶことがあります。
つまり、土砂量は単純に「大きな川ほど多い」「急な川ほど多い」とは決まりません。雨や洪水、河床勾配、地質、土壌、植生、土地利用、粒の大きさ、ダムなどの条件が組み合わさって、その川の土砂輸送量が決まります。
川の土砂量は「運ぶ能力」と「土砂の供給」で決まる
川が運ぶ土砂を理解するとき、最も大切なのは二つの条件を分けて考えることです。
- 運搬能力:その流れが、どれだけ多く・大きな土砂を動かせるか
- 土砂供給:上流や河岸から、実際にどれだけ土砂が川へ入ってくるか
米国地質調査所(USGS)は、河川の土砂輸送が流れと上流からの土砂供給の両方に支配されると説明しています。流れが強くても運ぶ材料がなければ土砂量は増えず、反対に大量の土砂があっても流れが弱ければ途中で堆積します。
このため、同じ流量の二つの川でも、片方は濁って大量の砂を運び、もう片方は比較的澄んでいることがあります。
流量が大きいほど土砂を運びやすい
川の水量が増えると、水深や流速が増し、川底や河岸に働く力も大きくなります。普段は動かない砂利や礫も、大雨や洪水時には動き始めます。
日本の河川における浮遊土砂輸送量と流量の関係を調べた土木学会の研究では、浮遊土砂輸送量は流量の増加に伴って大きく増える傾向が確認されています。特に山地河川では、他の河川より浮遊土砂量が大きい傾向も示されています。
土砂輸送は平常時より洪水時に集中することが多く、一年間の土砂量のかなりの部分が、数回の大きな出水によって運ばれる川もあります。
そのため、年間降水量が同じでも、弱い雨が均等に降る流域と、強い豪雨が頻繁に起こる流域では、川が運ぶ土砂量が大きく異なることがあります。
河床勾配が急な川は土砂を動かす力が大きくなりやすい
川の勾配も土砂輸送に大きく関係します。
水は高い場所から低い場所へ流れます。短い距離で大きく高度を下げる急勾配の川では、流れが持つエネルギーが大きくなり、川底の砂礫を動かしやすくなります。
河川工学では、流量と勾配から流れが土砂を動かす力を評価する考え方があります。USGSも、河川の土砂輸送能力を左右する重要な条件として流量と河川勾配を挙げています。
ただし、急な川なら必ず土砂量が多いわけではありません。川底が固い岩盤で、周囲から新しい土砂がほとんど供給されなければ、強い流れでも運ぶ材料そのものが少なくなります。
地質や岩石の種類で「土砂のできやすさ」が違う
川が運ぶ土砂の材料は、もともとは流域内の岩石や土壌です。そのため地質が違えば、土砂の生産量も変わります。
風化しやすい岩石や、崩れやすい斜面が多い流域では、雨や凍結融解、地震などによって多くの土砂が生まれやすくなります。斜面崩壊や土石流が起これば、一度に大量の砂礫が河道へ供給されます。
一方、非常に硬い岩盤が広がり、斜面が安定している流域では、同じような流量でも川へ供給される土砂が少ない場合があります。
酒匂川流域を対象にした研究では、降雨、土壌、地形などのデータから流域内の侵食量と河川への土砂供給量を推定しており、川から流出する土砂量を理解するには、河道内の流れだけでなく流域での土砂生産を考える必要があることが示されています。
流域の広さによって土砂の供給源の数が違う
流域が広ければ、それだけ多くの斜面、支流、河岸から土砂が供給される可能性があります。
大きな流域では、多数の支流がそれぞれ土砂を本川へ運びます。大規模な崩壊地や火山地域、農地などが流域内に含まれていれば、土砂供給量が増える場合があります。
ただし、流域が広いほど必ず河口へ届く土砂量が多いわけではありません。途中に盆地、湖、ダム、緩勾配の河道などがあると、土砂の多くが途中で堆積します。
つまり、流域面積だけでなく、土砂がどこで生まれ、どこで貯まり、どこまで運ばれるかを見る必要があります。
植生や土地利用で土砂の流れ込み方が変わる
森林、農地、市街地などの土地利用も土砂供給に影響します。
植生に覆われた斜面では、葉や落ち葉が雨滴の衝撃を弱め、根が土を支えます。また、地表の水の流れも遅くなるため、表土が流出しにくくなる場合があります。
一方、裸地、造成地、耕作地などでは、強い雨によって土壌粒子が流出しやすい条件になることがあります。
USGSが米国全土の浮遊土砂を分析した研究でも、土砂供給には土地利用だけでなく、土壌の侵食されやすさ、浸透性、斜面勾配、降雨などが影響するとされています。
そのため、同じ規模の川でも、流域が森林中心なのか、農地や造成地を多く含むのかによって、浮遊土砂の量が変わることがあります。
山地河川で土砂量が大きくなりやすい理由
日本の河川を比較した研究では、山地河川の浮遊土砂輸送量が全体として大きい傾向が報告されています。
山地では勾配が急で、洪水時の流れが強くなりやすいことに加え、斜面崩壊や河岸侵食などによって土砂が供給されやすい場合があります。
特に豪雨や地震の後には、山腹に大量の不安定土砂が残り、その後の降雨のたびに川へ流れ込むことがあります。そのため、大きな災害の後に数年間、土砂流出が増えることもあります。
ただし、山地河川でも流域の地質や植生が安定していれば土砂量が少ない場合があります。山地というだけで一律に決まるわけではありません。
粒の大きさによって運ばれ方が違う
「土砂」といっても、大きな礫から砂、シルト、粘土まで粒の大きさはさまざまです。
大きな礫や砂利は川底を転がったり跳ねたりして移動し、主に洪水時に運ばれます。これを掃流砂と呼びます。
細かな砂やシルト、粘土は、水中に浮いた状態で運ばれることがあり、浮遊砂として長い距離を移動します。
USGSは、粗い土砂の輸送量は流れの強さと河床材料に強く左右される一方、細かな浮遊土砂では上流からどれだけ材料が供給されるかが特に重要になると説明しています。
そのため、同じ土砂の「重量」でも、川によって大きな石を多く動かすタイプと、細かな泥を大量に運ぶタイプがあります。
川底や河岸が削られる量も川によって違う
土砂は流域の斜面から来るだけではありません。川そのものが土砂の供給源になることもあります。
洪水時に河岸が崩れたり、川底の砂州が削られたりすれば、その土砂が下流へ運ばれます。
蛇行部の外岸、狭窄部、合流点など、流れが集中する場所では局所的な侵食が大きくなる場合があります。
USGSの広域解析でも、河道自体が浮遊土砂の主要な供給源の一つになることが示されています。したがって、同じ流域の土地利用でも、河岸の削られやすさや河道形状が違えば輸送土砂量は変わります。
途中で土砂がたまる川では下流への輸送量が減る
上流で大量の土砂が生産されても、そのすべてが河口まで運ばれるわけではありません。
川が山地から平野へ出て勾配が緩くなると、運搬能力が低下して大きな礫や砂が堆積します。扇状地や砂州は、このような堆積によって形成されます。
さらに湖、湿地、遊水地などでも流れが弱くなり、土砂がたまりやすくなります。
つまり、河口で観測される土砂量は「流域で生産された量」ではなく、途中に蓄えられた量を差し引いた結果です。
ダムは下流へ運ばれる土砂量を大きく変える
人間が造ったダムも、川ごとの土砂量の違いを生む大きな要因です。
上流から土砂を含んだ水が貯水池へ入ると、流速が急に小さくなります。そのため砂や礫の一部が貯水池内に沈み、ダム下流へ流れる土砂量が減ります。
国土交通省は、山地から海岸までの土砂移動を「流砂系」として一体的に捉え、ダム貯水池の堆砂、下流河床の粗粒化、海岸侵食などを総合的に管理する必要があるとしています。
ダムによる土砂遮断が大きい川では、上流で土砂が多く生産されていても、下流で観測される量が少なくなることがあります。
このため近年は、土砂バイパス、排砂、ダム下流への置き土などによって、土砂の連続性を回復させる対策も行われています。
同じ流量でも土砂量が毎回同じとは限らない
河川の土砂輸送には「履歴」があります。
たとえば大きな洪水の直後には、斜面や河岸から大量の土砂が供給され、川底にも動きやすい砂が多く残っていることがあります。その状態では、次の洪水で多くの土砂が運ばれます。
ところが何度も洪水が続いて動きやすい砂が減ると、同じ流量でも土砂濃度が低くなる場合があります。
USGSの研究でも、同じような流量であっても河床の砂の粒度や上流からの土砂供給状態によって、輸送される砂の濃度が数倍変化することが示されています。
つまり、「流量が毎秒100立方メートルなら土砂量は必ず○トン」と単純には決められません。
大雨や土砂災害の後は土砂量が急増することがある
川の土砂量は一年中一定ではありません。
台風、集中豪雨、地震などで斜面崩壊が多数発生すると、一度に大量の土砂が河道へ入ります。その後の洪水で、その土砂が少しずつ下流へ運ばれます。
このため、ある川の土砂量を比較するときには、長期平均だけでなく、大規模災害の有無や観測した年の洪水条件も確認する必要があります。
土砂移動は、水の流れよりも不規則で、特定の大きな出来事に強く左右される現象です。
河川ごとの違いを整理すると
- 流量:大きな洪水ほど多くの土砂を動かしやすい
- 勾配:急勾配ほど土砂を運ぶ力が大きくなりやすい
- 地質・土壌:風化・侵食されやすい流域ほど土砂が供給されやすい
- 土地利用・植生:表土が守られているか、裸地や造成地が多いかで供給量が変わる
- 粒径:礫・砂・泥では必要な流れの強さと移動距離が違う
- 河岸・河床侵食:川自体が土砂の供給源になる場合がある
- 貯留:平野、湖、湿地などで土砂が途中に堆積する
- ダム:貯水池で土砂が捕捉され、下流への供給量が減ることがある
まとめ
川によって運ぶ土砂の量が違うのは、水が土砂を動かす能力と、運ぶ材料である土砂の供給量が、流域ごとに異なるからです。
- 流量が大きく勾配が急な川は、土砂を動かす力が大きくなりやすい
- 地質や斜面崩壊、河岸侵食によって川へ供給される土砂量が違う
- 森林、農地、裸地など土地利用によって表土流出量が変わる
- 礫、砂、泥では運ばれ方が異なる
- 途中の平野や湖、ダムで土砂が堆積すれば下流への輸送量は減る
- 同じ川でも洪水や災害の履歴によって土砂量は大きく変動する
つまり、土砂量は「川の大きさ」だけでは決まりません。 どれだけ強い水が流れるかと、どれだけ土砂が用意されているか、その土砂が途中でどれだけ貯まるかという三つの条件を見ることで、川ごとの違いを理解しやすくなります。

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