なぜ洪水の後に川幅が変わることがあるのか?

結論からいうと、洪水の後に川幅が変わることがあるのは、普段よりはるかに強い流れが河岸を削ったり、川底や砂州を動かしたり、別の場所に大量の土砂を堆積させたりするからです。 河岸が大きく侵食されれば川幅は広がり、反対に流れの弱い場所へ土砂がたまり、その後に植生が定着すれば、低水路の幅が狭くなることもあります。

つまり、洪水後の川幅は「必ず広がる」とは限りません。流量、流速、河岸の材料、河床の勾配、砂州の形、流木、周囲の地形、護岸の有無などによって、広がる場所、ほとんど変わらない場所、逆に狭くなる場所が生まれます。

目次

洪水では普段より大きな力が河岸にかかる

大雨で川の流量が増えると、水深と流速が大きくなり、川底や河岸に働く力も強くなります。普段は動かない砂や礫が動き、河岸の土砂も削られやすくなります。

川幅が広がる代表的な仕組みが「河岸侵食」です。流れが河岸の下部を削ると、その上にある土が支えを失い、塊のまま崩れることがあります。

米国地質調査所(USGS)がニューメキシコ州のRio Puercoで大洪水後の河岸変化を調べた研究では、強い流水による河岸下部の侵食と、その後の上部河岸の崩壊が組み合わさり、調査区間の川幅が平均で大きく拡大しました。

このように、洪水時の川幅変化は水が直接土を削る作用だけでなく、河岸全体の安定性が失われて崩れる作用によっても進みます。

カーブの外側では川幅が広がりやすい

川が曲がっている場所では、主な流れが外岸側へ寄りやすくなります。洪水時にはその傾向が強まり、外岸に強い流れが当たることで河岸侵食が進むことがあります。

外岸が後退すると、その断面では川幅が広がります。一方、内岸では流れが比較的弱く、砂や礫が堆積することがあります。

そのため、洪水後に川全体が均一に広がるのではなく、「片側だけ河岸が後退して幅が増えた」という変化も珍しくありません。

河岸侵食の位置は砂州の発達や流れの集中する場所とも関係するため、同じ流量でも区間によって拡幅量に大きな差が生まれます。

河岸が崩れやすい材料かどうかで変化量が違う

川幅がどれだけ変わるかは、河岸が何でできているかにも左右されます。

砂や細かな土でできた河岸では、洪水時の流水によって比較的削られやすい場合があります。下部が洗掘されれば、上部の河岸が自重で崩壊することもあります。

一方、硬い岩盤が河岸を構成している場所では、同じような洪水でも横方向への侵食が小さくなる場合があります。

2017年7月の九州北部豪雨後に地質の異なる3河川を調査した研究では、河道変化の程度に大きな違いが確認されています。白木谷川では風化した岩盤の洗掘や大量の土砂移動に伴って大規模な川幅拡大が起きた一方、別の河川では新鮮な岩盤が露出し、河床洗掘や渓岸侵食が比較的抑えられたとされています。

つまり、洪水規模だけで川幅変化を予測することはできず、河岸・河床の地質条件も重要です。

洪水で河床が削られると河岸が不安定になる

洪水時には河岸だけでなく、川底も変化します。

川底が深く削られる「洗掘」が起きると、河岸の根元が不安定になります。河岸の高さが相対的に大きくなり、斜面として支えきれなくなると、河岸が崩れて川幅が広がることがあります。

USGSの河道安定性に関する研究でも、河道が深くなることと河岸崩壊が結びつき、河岸の高さが限界を超えると横方向の拡幅が起こる場合があると整理されています。

つまり、川幅の拡大は「横から削られた結果」だけではありません。先に河床が下がり、その後に河岸が崩れるという順序で起きることもあります。

大量の土砂が流れ込むと流路そのものが変わることがある

豪雨では斜面崩壊や土石流によって、山から大量の土砂や流木が川へ入ることがあります。

大量の土砂がそれまでの河道を埋めると、水は同じ場所を流れ続けられなくなります。水が左右へ広がったり、新しい低い場所へ流れたりして、結果的に川幅が大きくなることがあります。

九州北部豪雨後の白木谷川では、河道から供給された大量の土砂が元の流路を埋め、広い谷底へ氾濫流が広がったことで大規模な川幅拡大が起きました。

別の研究でも、豪雨時に土砂崩れで河道が埋まり、流路変更や川幅拡幅が起きたことが被害拡大の一因とされています。

このような場合、川幅変化は単純な河岸侵食だけではなく、「元の河道が埋まる→水が別方向へ流れる」という流路変更によって生じます。

流木が流れを変え、局所的な拡幅を起こすこともある

洪水時には倒木や流木も大量に流されることがあります。

流木が橋脚や狭い場所に引っかかると、水の流れがせき止められたり、左右へ向きを変えたりします。その結果、通常なら強い流れが当たらない河岸へ水が集中し、侵食が進むことがあります。

九州北部豪雨後の河道変化を調べた研究でも、白木谷川の大規模な川幅拡大には、橋脚に引っかかった流木が影響した可能性が指摘されています。

このため、洪水後に橋の周辺だけ川幅や流れ方が大きく変わっている場合があります。

川幅が広がると流れの力が分散することもある

河岸侵食で川幅が広がると、水が流れる空間も大きくなります。

同じ流量なら、断面が広がることで水深や流速が小さくなる場合があります。すると、それ以上の河岸侵食が進みにくくなり、ある程度の幅で拡幅が止まることがあります。

急流河川を対象に将来の洪水流量と川幅の関係を数値解析した研究では、流量規模が大きいほど川幅も大きくなる一方、川幅は無限に広がり続けるのではなく、流路形態の変化とともに一定値へ近づくケースが示されています。

つまり、洪水による拡幅には、流れのエネルギーを分散して河道が新しい形へ調整する側面もあります。

川幅の変化は「侵食」と「堆積」の差で決まる

川幅を変える作用は侵食だけではありません。

洪水によって運ばれた砂や礫は、流れが弱くなった場所に堆積します。カーブの内側、流れが分散する場所、河道が広がった場所などでは砂州が成長することがあります。

国土交通省の河川砂防技術基準では、河岸線の移動には侵食による後退だけでなく、堆積による前進もあり、それらが低水路の川幅の拡大・縮小として現れることがあると整理されています。

したがって、ある洪水で左岸が2メートル削られても、右岸側で2メートル分の砂州が成長すれば、川の中心位置は動いても川幅そのものは大きく変わらない場合があります。

反対に、両岸が削られれば大きく拡幅し、両側で堆積が進めば縮小することもあります。

洪水後に川幅が狭くなることもある

「洪水=川幅が広がる」というイメージがありますが、長期的には逆の変化も起こります。

洪水で一度広がった河道の中に、その後の小さな出水で細かな土砂がたまることがあります。水面より高い場所に砂や泥が堆積すると、草本や樹木が定着しやすくなります。

植生が生えると流れへの抵抗が増え、さらに細かな土砂が捕捉されやすくなります。その結果、高水敷のような地形が形成され、普段水が流れる低水路の幅が狭くなる場合があります。

国土交通省の河道変化に関する資料でも、拡幅後の河床に植生が繁茂し、その周辺に細粒土砂が堆積することで川幅が縮小する過程が整理されています。

このため、洪水直後に広がった川が、数年から数十年かけて再び狭くなることもあります。

大洪水ほど必ず川幅変化が大きいとは限らない

洪水が大きければ河岸侵食も必ず大きくなるように思えますが、実際の河川では単純ではありません。

国土交通省の河川砂防技術基準では、河岸侵食について、大出水時ほど必ず侵食が大きくなるという関係が常に認められるわけではないため、さまざまな洪水規模を調べることが望ましいとされています。

河岸がすでに護岸で固定されていれば大洪水でも横方向へ動きにくい場合があります。逆に、比較的小さな洪水でも、流れが弱い河岸へ集中すれば大きな侵食が起きることがあります。

また、洪水前の砂州位置や植生、橋や堰などの構造物によっても、水がどの河岸へ当たるかは変わります。

そのため、「洪水規模」だけではなく、「どこへ流れが集中したか」を見る必要があります。

河岸の植生は川幅変化を抑えることがある

河岸に生える植物の根は、土をつなぎ止める働きを持っています。

USGSのRio Puercoの研究では、河岸や氾濫原の木本植生が失われた区間で、大洪水時に大きな横方向侵食が発生しました。研究では、植生がなくなったことで河岸に作用する流れへの抵抗や河岸保護効果が小さくなったことが、大きな拡幅につながったとされています。

ただし、植生があれば洪水でも絶対に削れないわけではありません。流速が非常に大きい場合や、根より下の部分が洗掘された場合には、植生ごと河岸が崩れることがあります。

植生は川幅変化を左右する一つの条件ですが、流量や河岸材料との組み合わせで効果が変わります。

護岸や堤防がある場所では自然な拡幅が抑えられる

市街地や道路沿いの河川では、河岸を護岸で固定している場所があります。

護岸が洪水時の力に耐えれば、自然河岸のような横方向の侵食は抑えられます。そのため、同じ川でも自然河岸の区間だけ大きく広がり、護岸区間では幅がほとんど変わらないことがあります。

一方、横方向へ広がれないと、流れのエネルギーが河床方向へ向かい、河床低下が進む場合もあります。

国土交通省は災害復旧で、必要な流下能力を確保する際に過度な河床掘削を避け、川幅を広げることで洪水時の流速増加を抑える考え方を示しています。

つまり、川幅は洪水によって自然に変わるだけでなく、人の河川整備によっても変化の仕方が制約されます。

洪水後の川幅変化は航空写真や測量で調べる

河川管理では、洪水の前後で川がどれだけ変化したかを調べます。

横断測量を行えば、川底の高さや河岸位置の変化を詳しく確認できます。航空写真や衛星画像を使えば、長い区間の河岸線や砂州の変化を比較できます。

国土交通省の技術基準でも、最大の河岸侵食が測量断面の位置で起きるとは限らないため、空中写真を併用して川幅変化を把握することが重要だとされています。

近年は航空レーザー測量やドローンによる三次元地形データも使われ、洪水前後の河床・河岸変化をより細かく把握できるようになっています。

川幅が変わると次の洪水の流れ方も変わる

洪水で川幅が変わると、その変化は次の洪水にも影響します。

川幅が広がれば、同じ流量でも流れが分散し、場所によっては流速が小さくなります。一方、新しくできた砂州によって主流が片側へ寄れば、次の洪水では別の河岸が強く削られることがあります。

また、川幅が狭くなって流れる断面が小さくなれば、次の増水時に水位が上がりやすくなる場合があります。

つまり、洪水は単にその時の川を流れるだけではなく、河道の形を変え、その新しい形が次の洪水の流れ方を決めるという相互作用があります。

川幅変化を左右する主な条件

  • 洪水流量・流速:大きいほど河岸や河床へ強い力が働きやすい
  • 河岸材料:砂や細粒土は削られやすく、岩盤は比較的動きにくい
  • 河床洗掘:河床が下がると河岸が不安定になり崩壊することがある
  • 土砂供給:大量の土砂が河道を埋めると流路が変わり、川幅が広がる場合がある
  • 砂州:流れを片側へ寄せ、侵食位置や堆積位置を変える
  • 流木:橋脚などで詰まり、局所的に流れを変えることがある
  • 植生:河岸を安定させる一方、洪水後の堆積地を固定して川幅縮小にも関係する
  • 護岸・堤防:自然な横方向の流路移動を制限する

まとめ

洪水の後に川幅が変わることがあるのは、強い流れによる河岸侵食・河床洗掘と、土砂の堆積や流路変更が同時に起こり、河岸線の位置が変わるからです。

  • 洪水時には河岸を削る力が大きくなり、河岸崩壊で川幅が広がることがある
  • 河床が深く削られると河岸が不安定になり、後から崩れることがある
  • 大量の土砂や流木によって元の流路が変わり、大規模な拡幅が起こる場合がある
  • 河岸の地質や植生、護岸の有無によって変化量は大きく違う
  • 侵食だけでなく堆積による河岸線の前進も起こるため、川幅が縮むこともある
  • 洪水直後に広がった河道が、数年かけて植生と堆積によって再び狭くなる場合もある

つまり、洪水後の川幅は、その洪水の大きさだけでは決まりません。 流れがどこへ集中し、河岸がどれだけ削られ、土砂がどこへ積もったかという結果として、川はそのときの条件に合わせて新しい形へ変化するのです。

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