なぜダムができると下流へ運ばれる土砂が減ることがあるのか?

結論からいうと、ダムができると下流へ運ばれる土砂が減ることがあるのは、川の流れが貯水池に入ったところで急に弱まり、上流から運ばれてきた砂や礫、細かな泥が貯水池の中に沈みやすくなるからです。 本来なら下流へ流れていた土砂の一部がダム湖にたまるため、その先の川へ届く土砂量が減ります。

ただし、ダムがあれば土砂が完全に止まるわけではありません。 細かな粒子の一部は放流水とともに下流へ流れることがありますし、洪水時の排砂、土砂バイパス、ダム下流への置き土などによって土砂移動の連続性を補う方法もあります。実際の影響は、ダムの大きさ、貯水池の形、流入する土砂の粒径、洪水の規模、放流方法などによって変わります。

目次

川はもともと水と一緒に土砂を下流へ運んでいる

自然の川では、水だけでなく砂、礫、シルト、粘土などさまざまな大きさの土砂が上流から下流へ移動しています。

大きな礫や砂利は主に洪水時に川底を転がったり跳ねたりして移動し、細かな砂や泥は水中に浮いた状態で長い距離を運ばれます。

この土砂は、川底や砂州をつくる材料になるだけでなく、下流の氾濫原、河口の三角州、海岸の砂浜などにも供給されます。

国土交通省は、山地から河川、河口、海岸までを土砂が連続して移動する一つの「流砂系」として捉え、土砂の量と質を流域全体で管理する考え方を示しています。

ダム湖に入ると流れが急に遅くなる

ダムによって川がせき止められると、その上流には貯水池ができます。

川の中では比較的速く流れていた水も、広く深い貯水池へ入ると流速が大きく低下します。すると、それまで水の力で運ばれていた土砂を支えきれなくなり、重い粒子から順に沈み始めます。

USGSも、河川が貯水池へ入ると水の流れが遅くなるため、それまで流れていた土砂が貯水池底へ沈降し、ダムや貯水池に堆積すると説明しています。

つまり、ダムが土砂を機械的に「ろ過」しているわけではありません。流速が低下して運搬力が小さくなることが、土砂が貯水池内に残る大きな理由です。

大きな礫や砂ほど上流側にたまりやすい

土砂は粒の大きさによって沈みやすさが違います。

礫や粗い砂のように粒が大きく重いものは、流れが弱くなると比較的早く沈みます。そのため、貯水池の上流端付近にたまりやすく、三角州のような堆積地形をつくることがあります。

一方、シルトや粘土のような細かな粒子は沈む速度が遅いため、貯水池のより下流側まで運ばれます。それでも水が十分長く滞留すれば、最終的には多くが沈降します。

このため、ダム湖の中では上流から下流へ向かって堆積物の粒径が細かくなることがあります。

下流へ行くはずだった土砂が貯水池にたまる

貯水池に土砂が堆積すると、本来その先へ運ばれるはずだった材料がダム上流に残ります。

国土交通省は、大規模なダムが大量の水とともに大量の土砂も貯留し、流砂系における土砂移動の連続性を遮断して、下流への土砂供給量を減少させる施設になり得ると説明しています。

実際、ダム下流では土砂供給量の減少に伴って、河床低下や河床材料の粗粒化などが課題になることがあります。

つまり、ダムの影響を見るときは「貯水池にどれだけ土砂がたまるか」だけでなく、その結果として下流にどれだけ土砂が届かなくなるかも重要です。

下流では細かな砂や礫が減りやすくなる

ダム下流では水そのものは放流されますが、貯水池で土砂が捕捉されていると、「水は流れるのに土砂が少ない」状態になることがあります。

この状態では、下流の川底にある細かな砂や小礫が洪水時に運び去られても、上流から同じ量が補給されません。

すると、比較的動きにくい大きな礫が河床表面に残り、川底が粗い粒子で覆われる「粗粒化」や「アーマー化」が進むことがあります。

二瀬ダム下流を対象にした研究でも、土砂供給量が少ない場所ほど河床の粗粒化が起こりやすく、土砂を還元することで粒径構成が変化することが示されています。

河床が低下することもある

土砂供給が減った一方で、下流へ流れる水の力が十分に大きい場合、河床の砂や礫だけが少しずつ運び去られることがあります。

新しい土砂が補充されなければ、河床の高さが低くなることがあります。これが河床低下です。

河床低下が進むと、橋脚など河川構造物の基礎が露出しやすくなったり、河岸が不安定になったりすることがあります。

国土交通省も、流砂系の土砂管理上の課題として、ダム貯水池の堆砂だけでなく、下流の河床低下や河床材料の粗粒化を挙げています。

ただし、すべてのダム下流で同じ変化が起こるわけではない

ダム下流の変化は、川ごとに大きく異なります。

USGSが米国カリフォルニア州のSanta Ana Riverを調べた研究では、ダムによる典型的な河床粗粒化や侵食の影響は、ダム直下の比較的短い区間に限られる可能性が示されています。

下流に大きな支流が合流すれば、その支流から新しい砂や礫が供給されます。河岸侵食や斜面崩壊によって途中から土砂が加わることもあります。

したがって、ダムから遠く離れるほど、支流や河岸など別の供給源によって土砂量が回復する川もあります。

ダムの「捕捉率」は粒の大きさや貯水池条件で違う

貯水池に入った土砂のうち、どれくらいがその中に残るかは一定ではありません。

大きな礫や砂は沈みやすいため捕捉されやすい一方、非常に細かな粒子は洪水時などに放流水と一緒に下流へ通過することがあります。

また、貯水池が大きく水の滞留時間が長ければ、細粒土砂も沈みやすくなります。反対に、洪水時に大量の水が短時間で通過する場合には、一部がダムを越えて下流へ運ばれることがあります。

つまり、「ダムが土砂を何%止めるか」は、ダムの形や運用、流入土砂の粒径、流量によって変わります。

洪水を調節すると土砂輸送の機会も変わる

ダムは土砂を捕捉するだけでなく、下流の流量変化も調整します。

洪水調節によってピーク流量が小さくなれば、下流で大きな礫や砂を動かす力も小さくなる場合があります。

一方、一定規模の放流が行われれば、河床の土砂が動くこともあります。

そのため、ダム下流の土砂環境は、「どれだけ土砂が供給されるか」と「どれだけの流れが土砂を動かすか」の両方によって決まります。

下流の生き物にも影響することがある

川底の砂や礫の大きさは、水生昆虫や魚の生息環境と関係しています。

細かな砂や小礫が減り、大きな礫だけが残ると、河床のすき間や底質の多様性が変化します。そこを利用する底生動物の種類や数も変わることがあります。

二瀬ダムの研究では、土砂供給量や河床粒径と、底生動物の生活型や生息場所との間に関係が確認されています。

このため、ダム下流への土砂還元は、単に川底を埋めるためではなく、生物の生息環境を回復する目的でも行われることがあります。

河口や海岸への土砂供給も減ることがある

川の土砂は河道の中だけで使われるわけではありません。

砂や泥の一部は河口まで運ばれ、三角州や干潟、砂浜の形成や維持に関わります。

ダムによって下流へ届く土砂が減ると、長期的には河口や海岸への供給量も減る場合があります。

USGSがElwha Riverのダム撤去を調べた研究では、二つのダムが長期間にわたって大量の土砂を貯留し、下流の土砂供給を減らして河口デルタの侵食に影響していたことが報告されています。ダム撤去後には貯留されていた土砂が下流・沿岸へ運ばれ、河口周辺に大きな堆積が起きました。

この事例は、ダムと海岸が離れていても、川を通じて土砂収支がつながっていることを示しています。

ダム自身にも「堆砂」という問題が起こる

下流へ行かなくなった土砂は、消えるわけではありません。多くは貯水池の中にたまります。

これをダム堆砂と呼びます。

土砂が長年にわたって蓄積すると、貯水池の有効容量が小さくなり、治水や利水などダム本来の機能に影響する可能性があります。

USGSも、貯水池では河川の流れが遅くなるため土砂が沈み、長い時間をかけて貯水容量を減らす問題が起きると説明しています。

つまり、ダムによる土砂捕捉は、下流だけでなくダム自身の維持管理にも関わる問題です。

土砂を下流へ戻す方法がある

土砂移動の連続性を保つため、各地でさまざまな対策が行われています。

ダム下流への置き土

貯水池などから取り除いた砂や礫をダム下流の河原へ置き、洪水時の流れで自然に下流へ運ばせる方法です。

土砂バイパス

洪水時に流入する土砂を貯水池へ入れず、トンネルなどを通してダム下流へ送る方法です。

排砂・通砂

排砂ゲートなどを利用し、流れの力で貯水池内の土砂を下流へ通過させる方法です。

国土交通省は、こうした方法を総合的な土砂管理の具体策として挙げています。

土砂を戻せば多いほどよいわけでもない

下流への土砂供給を増やせば、必ず環境が良くなるとは限りません。

一度に大量の細粒土砂を流せば、水が強く濁ったり、魚の産卵床や底生動物の生息場所を埋めたりする可能性があります。

また、河道に土砂が過剰に堆積すれば、水位を上げて治水上の問題になることもあります。

そのため、土砂還元では量だけでなく、粒径、投入場所、投入時期、洪水との組み合わせを考える必要があります。

国土交通省も、流砂系全体で土砂の「量と質」のバランスを見ながら、治水・利水・環境を両立させる総合土砂管理を進めています。

ダム撤去で土砂供給が急増した例もある

ダムが土砂移動を遮っていることは、ダム撤去後の変化からも確認できます。

米国Elwha Riverでは、大型ダムの撤去によって、それまで貯水池に蓄積していた大量の砂・礫・泥が下流へ供給されました。

USGSによると、ダム撤去後には河床が広い範囲で上昇し、河床材料が細かくなり、河口沖にも大量の砂礫が堆積しました。

これは、ダムが存在していた間に下流の土砂供給が大きく抑えられていたことを示す代表的な事例です。

ダム下流の土砂量を左右する主な条件

  • 貯水池の大きさ・滞留時間:水が長くとどまるほど土砂が沈みやすい
  • 土砂の粒径:大きな砂や礫ほど捕捉されやすい
  • 洪水規模:大流量時には細粒土砂が通過することがある
  • 放流方法:排砂や通砂を行うかで下流供給量が変わる
  • 支流の有無:ダム下流で支流から新しい土砂が供給されることがある
  • 河岸侵食:下流河道自体が新しい土砂供給源になることがある
  • 土砂還元対策:置き土や土砂バイパスによって供給を補える

まとめ

ダムができると下流へ運ばれる土砂が減ることがあるのは、川が貯水池に入ることで流速が落ち、それまで運ばれていた砂や礫、泥がダム湖内に沈んでしまうからです。

  • 自然河川では水と土砂が一緒に下流へ移動している
  • 貯水池では流れが遅くなり、土砂が沈降する
  • その結果、ダム下流への土砂供給量が減ることがある
  • 下流では河床低下や粗粒化が進む場合がある
  • 河口・海岸への土砂供給にも影響が及ぶことがある
  • 影響はダムや川の条件によって異なり、支流などから土砂が補われる場合もある
  • 置き土、土砂バイパス、排砂などで土砂移動を補う対策が行われている

つまり、ダムは水の流れだけでなく、川を流れる土砂の連続性も変える施設です。 下流の川や河口、海岸を長期的に保つには、水量だけでなく「土砂がどこからどこまで移動しているか」まで流域全体で考える必要があります。

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