湖の水が濁ったりにおったりすることがあるのは、雨で流れ込む土砂、湖底から巻き上がる泥、植物プランクトンの増殖、落ち葉や藻類などの有機物の分解といった変化が、水の見た目やにおいを変えるからです。
濁りとにおいは別々に起こることもあります。大雨の直後には土砂で茶色く濁っていても強いにおいがない場合があります。一方、見た目はそれほど濁っていなくても、藍藻類などがつくるカビ臭物質によって土やカビのようなにおいを感じることがあります。
そのため、湖の状態を理解するときは「何が水中に浮いているのか」と「どのような物質が水や空気中へ出ているのか」を分けて考えることが大切です。
濁りは水中に細かな粒子が増えると起こる
澄んだ水でも、細かな土砂や生物が大量に浮かぶと光が散乱され、向こう側や湖底が見えにくくなります。このような状態が濁りです。
水資源機構は、水中に浮遊する粒子状物質が多くなると、濁りや透明度の低下が起こると説明しています。また、植物プランクトン量を示すクロロフィルaも湖の見た目に大きく関係します。
つまり濁りは、単に「泥が入った」という一種類の現象ではありません。土砂、植物プランクトン、有機物の粒子など、光を遮ったり散乱させたりするものが増えた結果として起こります。
大雨の後は流域から土砂が流れ込みやすい
大雨が降ると、湖の周囲の斜面や畑、道路、河岸などから細かな土が雨水とともに川へ流れ込みます。川の流量が増えると、普段は動きにくい砂や泥まで運ばれ、湖へ大量に入ることがあります。
米国地質調査所(USGS)は、湖の濁りや堆積物の増加は、強い雨による侵食と激しい流出で起こりやすいと説明しています。
そのため、晴天時には青や緑に見えていた湖が、台風や豪雨の後に茶色や黄褐色になることがあります。河口近くでは濁った水が帯状に広がり、時間がたつと重い粒子から沈んで透明度が回復していきます。
風が強いと湖底の泥が巻き上がることもある
湖が濁る原因は外から入る土砂だけではありません。
浅い湖では、強風で波が大きくなると湖底まで水が動き、底にたまっていた細かな泥が再び水中へ巻き上がることがあります。この現象を再懸濁といいます。
USGSは、強風やボートの波、底をかき回す魚などによって底泥が再懸濁し、濁りが増える場合があるとしています。
このため、雨が降っていなくても風の強い日に湖が急に濁ることがあります。特に浅く広い湖では、風の影響が湖底まで届きやすくなります。
植物プランクトンが増えると緑色に濁る
植物プランクトンが大量に増えることも、湖が濁って見える大きな原因です。
富栄養化した湖では、窒素やリンなどの栄養分、水温、光などの条件がそろうと、藻類や藍藻類が急増することがあります。水資源機構は、アオコを植物プランクトンが大量に増え、水面が青緑色の粉や膜で覆われるように見える現象として説明しています。
この場合、土砂で茶色く濁るのとは違い、緑色、青緑色、黄緑色などに見えることがあります。水面に筋や膜ができたり、ペンキを流したような見た目になったりすることもあります。
植物プランクトンが増えると透明度も低下し、湖底へ届く光が少なくなるため、水草の生育環境にも影響します。
湖の「カビ臭」は藍藻類などがつくる物質が原因になる
湖や貯水池で問題になる代表的なにおいの一つが、土やカビのようなにおいです。
米国環境保護庁(EPA)は、シアノバクテリアの一部がジェオスミンや2-メチルイソボルネオール(2-MIB)などの物質をつくり、土臭・カビ臭の原因になることがあると説明しています。
日本でも、ダム貯水池でアオコとカビ臭が同時に問題になることがあります。9つのダム貯水池を対象にした研究では、アオコの原因となる藍藻類と、カビ臭を引き起こす藍藻類の発生を抑えるため、曝気循環による対策が検討されています。
ただし、アオコが見えれば必ずカビ臭が出るわけではなく、カビ臭があるから必ずアオコが目立つわけでもありません。原因となる種類や水温、栄養塩などによって状況は変わります。
藻類や水草が腐ると別の悪臭が出ることがある
においの原因はカビ臭物質だけではありません。
大量に増えた藻類や水草が死ぬと、微生物がそれらを分解します。その過程では酸素が消費され、腐敗した有機物がたまると不快なにおいが発生することがあります。
USGSは、富栄養化と過剰な藻類増殖によって水の透明度が低下し、酸素不足、腐敗した有機物の蓄積、不快なにおいなどが生じることがあるとしています。
水面にアオコが厚く集まって死滅すると、カビ臭とは異なる強い腐敗臭を感じる場合もあります。
酸素が少ない湖底ではにおいの原因物質が生じる場合がある
深い湖や水の動きが小さい場所では、夏に表層と深層が混ざりにくくなり、湖底近くの酸素が減ることがあります。
さらに、湖底にたまった有機物を微生物が分解すると酸素が消費されます。酸素が極端に少ない環境では、水質の化学状態も変化し、場所によっては硫化水素などのにおいを持つ物質が生じることがあります。
USGSは、有機物の分解が水中の酸素を消費し、富栄養化した湖では低酸素化や不快なにおいにつながることがあると説明しています。
ただし、湖で感じるすべての悪臭が硫化水素によるものではありません。においの種類だけで原因を断定することはできません。
暑い時期は濁りやにおいが起こりやすくなることがある
夏は水温が高く、日射も強いため、植物プランクトンや藍藻類が増えやすい条件が整う湖があります。
高水温では水中に溶けられる酸素量も少なくなります。さらに水温成層が発達して深層への酸素供給が弱くなると、湖底付近では有機物分解による酸素消費の影響が大きくなります。
そのため、夏の高温、栄養塩の多さ、水の滞留、弱い風などが重なると、アオコ、カビ臭、低酸素など複数の水質問題が同時に現れることがあります。
反対に、秋冬に湖全体が混ざるようになると、深層へ酸素が供給され、夏とは違う水質状態になる湖もあります。
雨は濁りを増やす一方、藻類を薄めることもある
大雨が降れば必ず湖の状態が悪化するとは限りません。
大雨では土砂が流れ込んで濁りが増えることがありますが、同時に大量の水が湖へ入り、植物プランクトンや一部の溶存成分を薄める場合もあります。流出河川がある湖では、水の入れ替わりが進んで藻類が湖外へ流れ出すこともあります。
一方で、雨とともに窒素やリンが大量に流入すれば、数日後に植物プランクトンが増える可能性もあります。
したがって、大雨の直後の茶色い濁りと、その後の緑色の濁りは、同じ雨をきっかけにしていても別の仕組みで起こっている場合があります。
水の色やにおいだけで安全性は判断できない
濁っている、緑色をしている、におうという見た目だけで、水が安全か危険かを判断することはできません。
EPAは、シアノバクテリアのブルームが見えても必ず毒素があるとは限らず、逆に目立つブルームがなくても毒素が存在する場合があるため、必要に応じて検査で確認することが重要だとしています。
また、カビ臭物質であるジェオスミンや2-MIBのにおいそのものが、直ちに健康被害を意味するわけではありません。臭気とシアノトキシンの発生は必ず一致するわけではありません。
湖水の安全性を判断するときは、見た目やにおいだけでなく、濁度、クロロフィルa、窒素・リン、溶存酸素、藍藻類、必要に応じて毒素などを測定する必要があります。
濁りとにおいの主な原因を整理すると
- 大雨:流域から土砂が入り、茶色や黄褐色に濁ることがある
- 強風:浅い湖で底泥が巻き上がり、濁りが増えることがある
- 植物プランクトンの増殖:水が緑色や青緑色に見え、透明度が下がる
- 藍藻類:種類によってジェオスミンや2-MIBなどのカビ臭物質をつくる
- 有機物の腐敗:死んだ藻類や水草の分解によって不快なにおいが生じる
- 低酸素化:湖底付近の化学状態が変わり、においの原因物質が生じることがある
- 季節・天候:水温、雨、風、水の混ざり方によってこれらの現象の起こりやすさが変わる
まとめ
湖の水が濁ったりにおったりすることがあるのは、土砂や底泥、植物プランクトン、有機物などが増えたり動いたりし、水の見た目と化学状態が変化するからです。
濁りは主に浮遊する粒子や植物プランクトンが光を散乱・吸収することで起こります。においは、藍藻類がつくるカビ臭物質や、有機物の分解・腐敗などによって生じます。
大雨、強風、高温、栄養塩の増加などは、それぞれ違う経路で湖の状態を変えます。そのため、昨日まで澄んでいた湖が突然茶色くなったり、夏に緑色になってにおいが出たりすることがあります。
ただし、見た目やにおいだけでは原因や安全性を断定できません。湖の状態を正しく知るには、気象や流域の状況とともに、水質を複数の指標で確認することが重要です。
参考資料
- 水資源機構 一庫ダム管理所「水質状況」
- ダム工学「曝気循環によるアオコ・カビ臭抑制の効果検証」
- U.S. Geological Survey「Lakes and Reservoirs」
- U.S. Environmental Protection Agency「Managing Cyanotoxins in Public Drinking Water Systems」

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