なぜ火山ガスの成分や濃度は季節や環境で変わることがあるのか?

火山の火山ガスは、春夏秋冬だけでマグマ由来の成分が自動的に大きく変わるわけではありません。火山ガスの放出量や基本的な組成を変える主な要因は、地下のマグマの上昇・冷却・結晶化、火山ガスの分離、熱水系の状態などです。一方、降雨・地下水・気温・気圧・風などの環境条件は、ガスが地表へ出る途中で水に溶けたり、地表付近で拡散したりする過程に影響します。そのため、同じ火山でも季節や天候によって、噴気の温度、見かけのガス濃度、成分比が変わることがあります。

つまり、「季節が火山ガスをつくり替える」というより、地下から来たガスが浅い地下水や大気と相互作用することで、地表で観測される姿が変化すると考えるのが適切です。

目次

まず、火山ガスはどこから来るのか

気象庁によると、火山ガスは地下のマグマに含まれていた揮発性成分が、圧力低下などによって気泡として分離し、地表へ放出されたものです。主成分は水蒸気で、そのほか二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、二酸化炭素(CO2)、塩化水素(HCl)などが含まれます。

マグマが上昇すると圧力が下がり、溶けていたガス成分が分離しやすくなります。さらにマグマが冷却・結晶化すると、残った液体に揮発性成分が濃集し、ガス放出が進むことがあります。

そのため、火山ガスの本質的な変化を考えるときには、まず地下のマグマ供給や熱水系の変化を見る必要があります。

季節よりも火山活動そのものが大きな変化を生む

火山ガス放出量が大きく増えたり、SO2やCO2などの比率が変わったりした場合、地下でマグマが移動している可能性があります。

気象庁は、SO2が遠隔測定できることから、その放出量を火山活動評価の指標として利用しています。USGSも、SO2やCO2の放出量、SO2/H2SやCO2/SO2などの比率を継続的に測ることで、マグマが浅部へ上昇しているか、熱水系の状態が変わっているかを調べています。

したがって、火山ガスの長期的な増減を「季節の変化」と判断する前に、地震、地殻変動、噴気温度など他の火山観測と合わせて確認する必要があります。

雨や地下水があると火山ガスの組成が変わる

マグマから分離した火山ガスは、地表まで上昇する途中で地下水に触れることがあります。このとき、水に溶けやすい成分は地下水へ取り込まれます。

USGSは、SO2が浅い地下水へ溶解・反応して地表まで届きにくくなる現象を「scrubbing(スクラビング)」と説明しています。HClやHFも水に溶けやすいため、地下水の多い火山では地表の噴気で少なく見える場合があります。

一方、CO2はSO2ほど熱水に除去されにくいため、地下水の影響を受けたガスでは相対的にCO2の割合が高く見えることがあります。

このため、同じマグマから出たガスでも、乾いた経路を通る場合と、雨水や地下水の多い経路を通る場合とでは、地表で測定される組成が違うことがあります。

雨季と乾季で噴気の組成が変わる例もある

実際に、火山噴気の化学組成に季節変動が観測された例があります。

イタリア・ヴルカーノ島の高温噴気を1987~1989年に継続観測した研究では、噴気中の水蒸気量に季節的な変動が見られ、その一部は浅い帯水層の影響と考えられました。一方、H2、SO2、HCl、HFなどの変動には、深部の供給系の化学・動的変化も関係するとされています。

この例が示すのは、季節変動が見えても、それをすべて外部環境のせいにしてはいけないということです。浅い地下水の影響と、深部マグマ・熱水系の変化を分けて考える必要があります。

強い雨で噴気温度やガスの流れ方が変わることもある

低温の噴気では、降雨や気圧変化の影響が比較的現れやすい場合があります。

チリ北部のラスタリア火山で行われた研究では、強い降雨の後に噴気温度が低下し、大気圧などの外部条件がガス流速やCO2濃度の変化に関係することが報告されています。

これは、地下深部のマグマが雨で直接冷やされたという意味ではありません。雨水が浅い地下へ入り、低温の熱水・噴気系に影響した結果と考えるのが適切です。

特に低温噴気では、浅部地下水との混合が大きいため、季節や天候の影響が観測値に現れやすくなります。

高温の火山ガスは外部環境の影響を受けにくい

産業技術総合研究所・地質調査総合センター(GSJ)が薩摩硫黄島で調べた高温火山ガスでは、800~900℃に達する噴気がマグマから直接由来すると考えられています。

このような高温ガスでは、出口付近まで高温状態が保たれ、マグマ性ガスの特徴が比較的そのまま残ります。

一方、100℃前後など比較的低温の噴気では、地表近くで地下水と反応し、硫黄成分や塩化水素などが失われることがあります。GSJの有珠山の調査でも、低温噴気が地下水との反応によって組成を変えたと考えられています。

つまり、季節や環境の影響の大きさは、噴気の温度と地下経路によっても違います。

風向・風速は火山ガスの「放出量」と「地表濃度」で役割が違う

風は、地下から出るガスの化学組成を直接決める主因ではありません。しかし、地表へ出た後のガスがどこへ運ばれ、どれだけ薄まるかを大きく左右します。

気象庁は、SO2やH2S、CO2などが空気より重く、風が弱いと谷やくぼ地などにたまりやすいと説明しています。特に無風・曇天時には拡散しにくく、地表付近の濃度が高くなることがあります。

一方、強い風が吹けばガスは速く拡散し、同じ放出量でも地上で測る濃度が低くなることがあります。

したがって、「今日はガス濃度が低い=火山ガス放出量が減った」とは限りません。観測では風向・風速を考慮する必要があります。

気圧が変わると噴気の出方が変わる場合がある

大気圧は、地表へ噴き出すガスにかかる外側の圧力です。低温の浅い噴気系では、気圧変化がガス流量や噴気温度に影響することがあります。

ラスタリア火山の研究では、大気圧などの外部要因が噴気のガス速度やCO2濃度と関係していました。

ただし、深部から大量のマグマ性ガスが供給される場合には、その変化のほうがはるかに大きな意味を持ちます。気圧の影響があるからといって、火山ガスの長期増加をすべて天気のせいにすることはできません。

気温が低いと「白い噴気」が目立ちやすくなる

寒い日に火口や噴気孔から白い煙のようなものがよく見えることがあります。

しかし、白く見えているものの多くは、火山ガス中の水蒸気が冷えて細かな水滴になったものです。SO2やCO2そのものが白く見えているわけではありません。

気温や湿度が低い条件では水蒸気が凝結しやすいため、同じ程度のガス放出でも白い噴気が大きく見えることがあります。

そのため、「冬は噴気が白く大きいから火山活動が強い」と見た目だけで判断することはできません。

降雨が増えるとSO2が少なく見えることがある

浅い地下水が増えれば、上昇するSO2が水に溶け込む機会も増える可能性があります。その結果、マグマからはSO2が放出されていても、地表で測定される量や組成が変わる場合があります。

USGSは、こうしたスクラビングによって、上昇するマグマからのSO2信号が弱くなり、火山ガス観測だけではマグマ上昇を捉えにくくなる場合があるとしています。

このため、地下水の多い火山や火口湖をもつ火山では、CO2、H2S、温泉・湖水の化学組成なども合わせて監視することが重要になります。

同じ火山でも噴気孔ごとに季節変化の大きさが違う

火山体の地下には、複数の割れ目や熱水経路があります。ある噴気孔は深部のマグマ性ガスを直接受け取り、別の噴気孔は浅い地下水を多く通ることがあります。

そのため、同じ火山でも、高温噴気では年間を通して比較的安定した組成を示し、低温噴気では雨量や地下水位に応じて水蒸気量・噴気温度・成分比が変化することがあります。

観測では、一つの噴気孔だけでなく、複数地点を継続して比較することが重要です。

季節変動と火山活動の変化をどう見分けるのか

火山研究では、火山ガスだけを見て判断しません。降雨量、気温、気圧、風速、地下水位などと、地震活動、地殻変動、噴気温度、SO2放出量などを同時に比較します。

たとえば、毎年同じ雨季に噴気温度や水蒸気量が似た変化を繰り返すなら、季節的な地下水の影響が疑われます。

一方、降雨や気温とは関係なくSO2放出量が急増し、火山性地震や山体膨張も同時に進めば、地下のマグマ活動の変化がより強く疑われます。

このように、繰り返す季節性と、火山内部からの非季節的な変化を分けることで、観測データを正しく解釈します。

火山ガスを変化させる条件を整理すると

  • マグマの上昇・供給:SO2やCO2などの放出量と成分比を変える主要因です。
  • 冷却・結晶化:マグマ中の揮発性成分の分離を進めます。
  • 地下水:SO2、HCl、HFなどを吸収し、地表ガスの組成を変えることがあります。
  • 降雨:浅い帯水層や低温噴気系を通じて、噴気温度や水蒸気量に影響する場合があります。
  • 気圧:浅い噴気系のガス流速や濃度へ影響することがあります。
  • 風向・風速:地表での火山ガス濃度と拡散方向を大きく変えます。
  • 気温・湿度:水蒸気の凝結を変え、白い噴気の見え方に影響します。
  • 噴気温度:高温噴気ほどマグマ性の特徴を保ちやすく、低温噴気ほど地下水との反応を受けやすい傾向があります。

まとめ:季節は火山ガスの「見え方」と浅部での変化に影響する

火山の火山ガスは、季節だけで基本的な発生源が変わるわけではありません。放出量や組成を大きく変える主因は、地下のマグマ供給、上昇、冷却、結晶化、熱水系の変化です。

一方、雨や地下水はSO2などを吸収して地表で観測される組成を変えることがあり、風向・風速はガスの拡散方向と地上濃度を変えます。気温や湿度は水蒸気の凝結を左右するため、白い噴気の見え方にも季節差が生じます。

さらに、低温噴気では降雨や気圧の影響が現れやすく、実際に季節的な化学変化が観測された火山もあります。ただし、そうした変化には深部の火山活動が重なっている場合もあります。

「深部のマグマが火山ガスの基本を決める→上昇途中で地下水と反応する→地表では風・気温・気圧の影響を受ける→季節変動と火山活動による変化を観測で分ける」と整理すると、火山ガスが季節や環境によって変化する理由を理解しやすくなります。

関連する「なぜ?」

参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次