水質は、水に溶け込む物質や浮遊する粒子、微生物、水温などが、流域からの流入・地質との反応・生物活動・大気とのガス交換・沈降・流出といった過程によって変化することで成り立っています。 つまり水質は、水そのものに最初から固定されている性質ではありません。水がどこを通り、何と接触し、どれだけ滞留し、そこでどのような化学反応や生物活動が起こったかを反映した結果です。
川、湖、地下水、海、水道水では、同じH₂Oを主成分としていても水質が違います。それは、水が受け取る物質と、水の中で起こる変化、そして水から取り除かれる物質のバランスがそれぞれ異なるからです。水質の仕組みは、「入ってくるもの」「水中で変化するもの」「出ていく・除かれるもの」の三つに分けて考えると理解しやすくなります。
そもそも水質とは何か
水質とは、水がもつ物理的・化学的・生物学的な性質をまとめて表す考え方です。USGS(米国地質調査所)は、水質を、選ばれた物理・化学・生物学的特性に基づいて、ある用途にどれほど適した水かを評価するものとして説明しています。
水質は一つの数値で決まるものではありません。水温、pH、濁度、電気伝導度、溶存酸素、BOD、COD、窒素、リン、塩類、金属、微生物など、多数の項目を目的に応じて組み合わせて評価します。
したがって「水質が成り立つ仕組み」とは、こうした各項目の値が、どのような自然現象や人間活動によって決まるのかを考えることです。
水質をつくる基本は「流入・変化・流出」
ある川や湖の水質を考えるとき、まず重要なのは水の中へ何が入るかです。雨、地下水、支流、土砂、落ち葉、生活排水、農地からの流出などによって、さまざまな物質が水域へ運ばれます。
次に、水の中ではその物質がそのまま残るとは限りません。溶解、酸化還元、沈殿、吸着、微生物による分解、植物プランクトンによる吸収などが起こり、物質の形や濃度が変わります。
さらに、物質は下流へ流れたり、底へ沈んだり、大気へ放出されたり、生物に取り込まれたりして水中から除かれます。この三つの過程の収支によって、その時点の水質が決まります。
雨が降ると水質が変わるのはなぜか
大気と地表の物質を水が運ぶから
雨水は純粋なH₂Oだけではありません。大気中の二酸化炭素や微粒子などを取り込み、地表へ降った後は土壌や道路、農地などにある物質を溶かしたり運んだりします。
雨が強く降ると、土壌粒子が河川へ流れ込み、濁度や浮遊物質量が上昇することがあります。農地では肥料由来の窒素やリンが流出する場合があり、市街地では道路上に蓄積した粒子やさまざまな物質が雨水とともに水路や川へ入ることがあります。
一方、増水によって水量が大きくなることで、特定の溶存物質の濃度が一時的に低下する場合もあります。つまり雨は、単純に「水を汚す」「水をきれいにする」のどちらかではなく、物質の供給と希釈の両方を引き起こします。
地質が違うと水質が変わるのはなぜか
水は地表や地下を移動するとき、土壌や岩石と接触します。その間に岩石を構成する成分の一部が水へ溶け込みます。
たとえばカルシウムやマグネシウムを含む鉱物が多い地域では、それらのイオンが地下水や河川水へ溶け込み、水の硬度が高くなることがあります。鉄やマンガンなども、地質や酸化還元条件によって水へ溶け出す量が変化します。
USGSは、天然水の水質が流域の地質、土壌、気候、水と岩石の接触時間などによって変化すると説明しています。特に地下水は地中を長時間移動することがあるため、その地域の地質を強く反映した水質になる場合があります。
水温は水質にどのような仕組みで影響するのか
水温は、それ自体が水質項目であるだけでなく、ほかの多くの水質項目を変化させます。
まず、気体が水に溶ける量は温度によって変わります。一般に水温が高くなると酸素は溶けにくくなるため、夏の湖や流れの弱い水域では溶存酸素が低下しやすくなります。
また、温度が上がると微生物や生物の代謝・分解反応が活発になることがあります。有機物の分解が進めば酸素消費量も増えるため、温度上昇と生物活動が組み合わさって溶存酸素を減らす方向へ働く場合があります。
USGSは、溶存酸素が河川や湖の水質を知る重要な指標であり、水温、流れ、有機物の分解などによって大きく変化すると説明しています。
溶存酸素はどのように決まるのか
溶存酸素(DO)は、水に溶けている酸素の量です。魚や多くの水生生物は、この酸素を利用して呼吸します。
水中の酸素には、主に大気からの溶け込みと、水中植物・植物プランクトンの光合成による供給があります。反対に、生物の呼吸や微生物による有機物分解では酸素が消費されます。
流れの速い川では水面がよくかき混ぜられるため、大気から酸素が入りやすくなります。停滞した水域ではこの交換が弱くなります。さらに有機物が大量に流入すると、微生物がそれを分解するときに酸素を消費し、DOが低下することがあります。
つまりDOは、「酸素がどれだけ供給されるか」と「どれだけ消費されるか」の収支で決まります。
BODとCODは何を表しているのか
BOD(生物化学的酸素要求量)は、主に水中の有機物を微生物が分解するときに消費される酸素量を利用して、有機汚濁の程度をみる指標です。有機物が多く、微生物による分解が活発になるほどBODが高くなりやすくなります。
COD(化学的酸素要求量)は、酸化剤を用いて水中の物質を化学的に酸化したときに消費される酸化剤量を酸素量に換算した指標です。
日本の公共用水域の環境基準では、生活環境項目として河川では主にBOD、湖沼・海域では主にCODが用いられています。また、溶存酸素量、浮遊物質量、窒素・リンなども水域の状態を評価する項目として使われています。
これらは水質をつくる原因そのものではなく、水中で起こっている有機物の流入や分解などの結果を数字として捉えるための指標です。
窒素とリンが増えると水質はどう変わるのか
窒素とリンは、生物の成長に必要な栄養元素です。適量なら生態系を支える重要な物質ですが、水域へ過剰に供給されると富栄養化を進めることがあります。
窒素やリンが増えると、条件によって植物プランクトンや藻類が増殖します。増えた生物が死ぬと、その有機物を微生物が分解します。この分解で酸素が消費されるため、特に底層で酸素不足が生じることがあります。
酸素が少なくなると、底泥の中で進む化学反応も変化します。その結果、底泥に保持されていたリンや金属成分などが水中へ戻りやすくなる場合があります。すると栄養塩がさらに供給され、水質変化が持続することもあります。
このように、水質は一つの成分だけで決まるのではなく、生物活動と化学反応が互いに影響し合うことで形成されます。
微生物は水質をどう変えるのか
水中や底泥には多くの微生物が存在しています。微生物は有機物を分解し、炭素、窒素、硫黄などの物質循環を進めます。
たとえば有機物の分解では酸素が消費されます。酸素が少ない条件になると、硝酸など酸素以外の物質を利用する微生物反応が起こりやすくなり、窒素化合物の形が変化します。
一方、人や動物の排せつ物などが水へ入れば、病原性をもつ可能性のある微生物も水質上の問題になります。このため飲料水では、化学物質だけでなく微生物学的な安全性が特に重視されます。
WHOの2026年版飲料水水質ガイドラインでも、水の安全性は微生物・化学・放射線・物理的要因などを含め、取水源から利用者までリスクを管理する考え方で扱われています。
pHはなぜ水質の仕組みに重要なのか
pHは水が酸性かアルカリ性かを表します。pHそのものも生物に影響しますが、さらに重要なのは、さまざまな化学物質の溶けやすさや形態を変えることです。
金属の中には、pHが変化すると水に溶けやすい形と沈殿しやすい形が変わるものがあります。また、アンモニアなどもpHによって存在する化学形態の割合が変わり、生物への影響が異なる場合があります。
そのためpHは、単独の数値というだけでなく、ほかの水質成分の挙動を左右する「反応条件」の一つです。
流れが速い川と湖で水質が違うのはなぜか
水がその場所にどれくらい長くとどまるかも、水質を決める重要な要素です。
流れの速い河川では、水と物質が比較的短時間で下流へ運ばれます。また、水面がかき混ぜられるため大気との酸素交換が進みやすくなります。
一方、湖や貯水池では水が長くとどまりやすく、植物プランクトンの増殖、粒子の沈降、底泥での分解などが進む時間があります。夏に水温差による成層ができる湖では、表層と底層の水が混ざりにくくなり、底層で酸素が消費されても新しい酸素が補給されにくくなる場合があります。
そのため、同じ量の栄養塩や有機物が入っても、水の滞留時間や混合状態によって水質への影響は変わります。
地下水の水質はどのように形成されるのか
地下水では、地表水とは少し違う仕組みが強く働きます。雨水が地中へ浸透すると、土壌や岩石の孔隙を通りながら移動し、その間に鉱物から成分が溶け込みます。
地下では大気との直接の接触が少ないため、酸素が消費されると還元的な環境になることがあります。そうすると鉄やマンガンなどの溶けやすさが変わり、水質に反映される場合があります。
また、地下水は流れが遅く、地中に長期間とどまることがあります。そのため、地下水の水質は地質と地下での滞留時間の影響を受けやすいのが特徴です。
人間活動は水質形成の仕組みにどう入るのか
自然の水質形成に、人間活動からの物質供給が加わると水質は大きく変化することがあります。
- 生活排水:有機物、窒素、リンなどを水域へ供給することがあります。
- 農業:肥料成分や農薬などが降雨流出や地下への浸透によって水域へ移動する場合があります。
- 工場・事業場:排水に含まれる化学物質や有機物が水質へ影響する可能性があります。
- 都市化:舗装面からの流出が増え、土砂、油分、さまざまな物質が短時間で水域へ運ばれることがあります。
- 地下水揚水やダム:水量や滞留時間、地下水と河川の交換を変え、間接的に水質へ影響する場合があります。
USGSも、都市・工業開発、農業、鉱業など多様な人間活動が自然水の水質を変えると説明しています。
水質は「浄化」されることもある
水に入った物質は、すべてそのまま下流まで残るわけではありません。自然の水域には、物質を除去・変換する仕組みもあります。
粒子は流れが弱い場所で沈降し、土壌や底泥へ吸着される物質もあります。有機物は微生物によって分解され、窒素化合物の一部は微生物反応によって窒素ガスへ変わり大気へ戻ることがあります。植物や藻類が栄養塩を取り込むこともあります。
ただし、こうした自然浄化には限界があります。流入する物質量が処理・除去できる量を上回れば、濃度が上昇して水質悪化につながります。また、一度底泥へ蓄えられた物質が条件変化によって再び水中へ戻ることもあります。
水道水の水質は自然水とどう違うのか
水道水は、河川水や地下水などを原水として取り入れ、人が飲用できるよう浄水処理と管理を行った水です。
浄水場では、原水の水質に応じて凝集、沈殿、ろ過、消毒などを組み合わせ、濁り、微生物、化学物質などを管理します。したがって水道水の水質は、自然の水質形成に加えて、人為的な処理と管理によって調整された結果です。
日本では水道法に基づいて水質基準が定められており、環境省の令和8年4月1日施行の基準では52項目が水質基準として示されています。基準は水質を「つくる仕組み」そのものではなく、処理後の水が飲用に適した状態かを評価・管理するためのものです。
水質の仕組みを順番に整理すると
- 雨、地下水、支流、人間活動などから水と物質が水域へ入る
- 岩石や土壌から成分が溶け、水温やpHなどの条件が決まる
- 水中で化学反応や微生物分解、生物による取り込みが起こる
- 大気とのガス交換や光合成によって酸素などが供給される
- 有機物分解や生物の呼吸によって酸素や物質が消費される
- 粒子の沈降、吸着、流出などで物質が水中から取り除かれる
- 流入量と変換・除去量のバランスによって、その時点の水質が決まる
- その状態をpH、DO、BOD、COD、濁度、窒素・リン、微生物などの指標で測定する
つまり水質は、ある物質が「ある・ない」だけで決まる静的なものではありません。水が動き、物質が入り、反応し、出ていく中で常に変化する動的な状態です。
まとめ
水の水質が成り立つ基本は、水が周囲から物質を受け取り、その物質が化学反応や生物活動によって変化し、沈降・流出・ガス交換などで出入りすることです。
- 水質は物理・化学・生物学的な性質の組み合わせである
- 雨、地質、土壌、地下水、人間活動などが物質を水へ供給する
- 水温やpHは化学反応や生物活動、気体の溶けやすさを変える
- 溶存酸素は大気・光合成からの供給と、呼吸・分解による消費のバランスで変化する
- 窒素・リンが過剰になると富栄養化や酸素不足につながることがある
- 微生物は有機物分解や栄養元素の循環を通して水質を変える
- 流れや滞留時間によって、沈降・混合・生物活動の影響が変わる
- 水質はpH、DO、BOD、COD、濁度、栄養塩、微生物など複数指標で評価する
つまり水質は、水に付けられた単なる「きれい・汚い」という評価ではありません。水が流域や大気、地質、生物、人間活動と物質をやり取りした結果としてつくられる、絶えず変化する水の状態なのです。
関連する「なぜ?」
参考資料
- 環境省「水質汚濁に係る環境基準」
- 環境省「水質基準項目と基準値(52項目)」
- J-STAGE「日本における森林生態系の物質循環と森林施業との関わり」
- U.S. Geological Survey「Water Quality Questions & Answers」
- U.S. Geological Survey「Dissolved Oxygen and Water」
- World Health Organization「Guidelines for drinking-water quality: fourth edition incorporating the first, second and third addenda」

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