水の氷に場所や条件による違いがあるのは、凍るときの温度、圧力、塩分、不純物、冷える速さ、気泡の入り方、そして凍った後の温度変化が異なるからです。 同じH₂Oからできる氷でも、湖の氷、海氷、家庭の冷凍庫でできる氷では、凍り始める温度、透明度、塩分、結晶の大きさ、内部構造などが同じとは限りません。
つまり「氷」という名前は同じでも、どんな水が、どんな環境で、どのように凍ったかによって性質が変わります。日常の大気圧付近では主に六方晶の氷Ihができますが、海水では塩分、人工製氷では冷却方向や気泡、高圧では別の氷相まで関係します。
氷の基本構造は共通している
日常的な大気圧付近でできる普通の氷は、主に氷Ihと呼ばれる六方晶の結晶です。液体の水では水分子が動きながら水素結合を組み替えていますが、凍ると水分子はより規則的な結晶格子へ並びます。
USGS(米国地質調査所)は、氷では水分子が液体より規則的な格子をつくり、分子間隔が広がるため、普通の氷は液体水より密度が小さいと説明しています。
したがって、湖の氷も冷凍庫の氷も、基本となるH₂Oの結晶構造には共通点があります。違いは、その結晶がどのように成長し、何を内部に取り込んだかによって生まれます。
淡水と海水では凍り始める温度が違う
純水は大気圧付近では0℃近くで氷と液体水が平衡になります。ただし、実際の水は0℃になった瞬間に必ず凍るわけではなく、核生成が起こるまで過冷却状態になることがあります。
海水では、塩が溶けているため凝固点が低下します。気象庁は、オホーツク海などの海氷について、海水はおよそマイナス1.8℃で結氷すると説明しています。
NSIDC(米国国立雪氷データセンター)も、海水は淡水より低い温度まで冷えなければ凍らず、平均的な海水では約マイナス1.8℃が代表的な凍結温度になるとしています。
このため、同じ気温でも淡水湖では氷ができているのに、塩分の高い海ではまだ凍っていないという違いが起こります。
海氷には塩がそのまま入るのか
海水が凍っても、塩の大部分は氷の結晶格子には入りません。 氷結晶が成長するとき、塩分は液体側へ押し出されます。
NSIDCによると、海氷ができ始めると針状の微小な氷結晶が形成され、塩分の多くは周囲の海水へ排出されます。ただし、一部の高塩分水は氷結晶の間に「ブライン」と呼ばれる濃い塩水の小さなポケットとして取り残されます。
そのため、新しくできた海氷は純粋な淡水氷とは違い、内部にブラインや気泡を含みます。海氷の塩分、強度、熱の伝わり方などは、この内部構造の影響を受けます。
若い海氷と古い海氷で性質が違うのはなぜか
海氷はできた直後の状態がずっと続くわけではありません。時間がたつと、氷の内部に残ったブラインが重力や融解水の流れなどによって外へ抜けていきます。
NSIDCは、多年氷では一年氷よりブラインが少なく、塩分が低くなると説明しています。長く残った海氷では、内部の塩分がかなり減り、より淡水に近い性質になります。
つまり、同じ北極海の海氷でも、できたばかりの氷と何年も残った氷では、塩分、内部の空隙、硬さなどが異なります。
湖の氷と海氷では内部構造が違う
淡水湖では塩分が少ないため、海氷のような高塩分のブラインポケットは基本的に形成されません。湖氷では、主に気泡、不純物、結晶粒界などが内部構造を左右します。
一方、海氷では塩分排出とブラインの残留が重要です。凍結が進むと塩分濃度の高い水が周囲へ排出され、海氷内部にはブラインチャンネルと呼ばれる通路ができることもあります。
したがって、見た目が同じ白い氷でも、淡水氷と海氷では内部に含まれる液体や塩分の状態が大きく異なります。
透明な氷と白い氷の違いは何か
氷が白く見える大きな理由の一つは、内部に気泡や微細な不均一構造があり、光を散乱するためです。
水には空気が溶けています。凍結すると、気体は氷結晶に入りにくいため、成長する氷の前方へ押し出されます。凍る速度が速かったり、空気が逃げる場所がなくなったりすると、気泡として氷の内部へ取り込まれることがあります。
北海道大学低温科学研究所の研究では、成長する氷と水の界面付近で形成された気泡が氷結晶へ取り込まれ、その分布や形が自然氷・人工氷の内部構造に影響することが観察されています。
一方、気泡や不純物を外へ逃がしながら一定方向にゆっくり凍らせると、透明度の高い氷をつくりやすくなります。
凍る速さで結晶や気泡が変わる
氷の成長速度は、内部構造を左右する重要な条件です。
ゆっくり凍る場合、水分子が結晶格子へ整然と組み込まれる時間が長くなり、溶けていた気体や不純物も成長界面の前方へ押し出されやすくなります。
急速に凍らせると、気泡や不純物が逃げる時間が短く、氷の中へ取り込まれやすくなる場合があります。また、結晶粒が細かくなることもあります。
J-STAGEに掲載された放射冷却による製氷研究では、冷却方法の違いによって氷の成長速度や気泡の取り込まれ方が変わり、放射冷却でつくられた氷は透明で、観察条件では大きな気泡がほとんど見られなかったことが報告されています。
家庭の冷凍庫の氷が中心ほど白くなりやすいのはなぜか
家庭の製氷皿では、容器の外側や上側など、冷たい部分から氷が成長していきます。凍結が進むと、溶存気体や不純物はまだ凍っていない液体側へ押し出されます。
最後に残った中心部や内部の水には、気体や不純物が濃縮されやすくなります。そこが凍ると微細な気泡や不均一構造が多くなり、光を散乱して白く見えることがあります。
逆に、一定方向からゆっくり凍らせ、気体や不純物を最後まで外へ逃がすようにすると、透明な氷をつくりやすくなります。
気温が低いほど氷は同じように成長するのか
気温が低いほど水から熱を奪いやすくなるため、一般には氷の成長が速くなる条件になります。しかし、実際の湖や海では、風、積雪、水の流れ、水深なども影響します。
たとえば氷の上に雪が積もると、雪は断熱材のように働き、大気の冷たさが氷下面まで伝わりにくくなります。そのため、非常に寒い地域でも雪が厚く積もれば、氷の成長速度が抑えられることがあります。
また海では、下から比較的暖かい海水が供給されれば、表面の気温が低くても氷が成長しにくいことがあります。
したがって、「気温が低いほど必ず厚い氷になる」とは限らず、熱がどの方向へどれだけ移動するかが重要です。
場所によって氷の厚さが違うのはなぜか
自然の氷の厚さは、凍結期間だけでなく、熱収支によって決まります。
- 気温:低温が長く続くほど氷は成長しやすい
- 積雪:断熱効果によって氷の成長を遅らせることがある
- 水流:流れる水が熱を運ぶため、川や湧水周辺では氷が薄くなることがある
- 水深:深い水域では蓄えられた熱の影響を受ける
- 塩分:海水では凍結温度が低くなり、淡水より凍りにくい
- 日射:氷や雪が吸収する太陽エネルギーによって融解量が変わる
このため、同じ湖の中でも河川の流入口や湧水がある場所、風で雪が飛ばされる場所などでは氷厚が違うことがあります。
海氷と氷山は同じ氷ではない
海に浮かぶ氷には、海水が凍ってできた海氷と、陸上の氷河や氷床から海へ流れ出した氷山があります。
海氷は海水から直接できるため、形成直後にはブラインを含みます。一方、氷山のもとになる氷河氷は主に陸上へ降った雪が長い時間をかけて圧縮され、氷へ変化したものです。そのため塩分は海氷よりはるかに少なく、基本的には淡水氷です。
同じ海に浮かんでいても、できた場所と原料水が違うため、内部構造や塩分も異なります。
圧力が変わると別の種類の氷ができる
日常の大気圧付近では主に氷Ihが安定ですが、水には氷III、氷V、氷VI、氷VIIなど、圧力と温度によって異なる結晶相があります。
IAPWSは、氷Ihだけでなく氷III、V、VI、VIIについて、液体水との融解境界を温度と圧力の関係として整理しています。
高圧氷の中には、普通の氷Ihより分子が密に詰まり、液体水より高密度になるものもあります。
したがって「氷は水より軽い」という性質は、日常環境でできる普通の氷Ihには当てはまりますが、すべての圧力条件の氷にそのまま当てはまるわけではありません。
氷の温度が変わると内部も変化する
氷は一度できたら内部構造が完全に固定されるわけではありません。
海氷では温度が変わると、ブラインの量や濃度が変化します。暖かくなるとブラインポケットが大きくなり、通路がつながって塩分が排出されやすくなることがあります。
また、自然の雪氷では時間とともに結晶粒が変形・再結晶したり、気泡の形が変わったりする場合があります。
つまり氷の違いには「凍った瞬間の条件」だけでなく、「その後どんな温度履歴を経験したか」も関係します。
条件による違いを比較すると
- 淡水氷:塩分が少なく、海氷のようなブラインをほとんど含まない
- 新しい海氷:ブラインポケットを含み、淡水氷より塩分が高い
- 古い多年海氷:時間とともにブラインが抜け、塩分が低くなる
- ゆっくり凍った氷:気泡や不純物を押し出しやすく、透明になりやすい場合がある
- 急速に凍った氷:気泡や不純物を取り込みやすい場合がある
- 家庭の氷:凍結方向によって中心部に気泡や不純物が集まり、白く見えることがある
- 海氷:淡水より低い温度で形成される
- 高圧下の氷:氷Ihとは異なる結晶相になることがある
まとめ
水の氷に場所や条件による違いがある最大の理由は、凍結時の温度・圧力・塩分・冷却速度・不純物と、凍結後の温度履歴が氷の内部構造を変えるからです。
- 日常の普通の氷は主に六方晶の氷Ihである
- 淡水と海水では塩分のため凍結温度が違う
- 海氷では塩の多くが排出され、一部がブラインとして残る
- 若い海氷と多年氷では塩分や内部構造が異なる
- 気泡や不純物の量によって透明度が変わる
- 凍結速度や冷却方向によって気泡・結晶の入り方が変わる
- 自然の氷厚は気温だけでなく雪、水流、塩分、日射などにも左右される
- 高圧では日常の氷Ihとは異なる氷相が存在する
つまり氷は、同じH₂Oからできていても一種類の均一な物質として現れるわけではありません。どこで、どんな水が、どんな条件で凍ったかという履歴が、その氷の見た目や塩分、結晶構造、強さなどの違いとして残るのです。

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