なぜ土の腐植をめぐる分解と蓄積は季節や環境によって変わるのか?

結論から言うと、土の腐植が季節や環境によって変化するのは、土へ入る落ち葉・枯れ根・作物残さなどの有機物量と、それらを微生物が分解する速さ、さらに粘土や団粒に守られて残る量が、温度・水分・酸素・植物の生育・土地管理によって変わるからです。ただし、季節ごとに大きく動きやすいのは新鮮な有機物や易分解性有機物、微生物活動です。長期間残る安定した腐植の総量は、通常はそれよりゆっくり変化します。

つまり「夏になったら腐植が一気に減り、冬になったら一気に増える」という単純な変化ではありません。季節によって供給と分解の速度が変わり、その差が積み重なることで、年単位・長期では腐植量にも変化が現れます。

目次

腐植は有機物の「供給」と「分解」のバランスで決まる

土壌中の腐植や土壌有機物の量を考えるうえで、最も基本になるのは収支です。

土へは、落ち葉、枯れ根、作物残さ、根から出る有機物、堆肥などが入ります。一方、それらは細菌や菌類などによって分解され、炭素の一部は二酸化炭素として大気へ戻ります。

農研機構の総説では、土壌有機物量は、土壌への有機物供給量と土壌微生物による分解量によって決まると整理されています。FAOも、土壌有機物は固定された物質ではなく、有機物の投入と分解の動的な平衡で保たれると説明しています。

したがって季節変化を見るときは、「今どれだけ有機物が入っているか」と「今どれだけ速く分解されているか」を同時に見る必要があります。

春に腐植をめぐる動きが活発になりやすいのはなぜか

冬の低温期には、多くの土壌微生物の活動が弱くなります。春になって地温が上がり、適度な水分があると、微生物の代謝や有機物分解が活発になりやすくなります。

植物も春から成長を始め、根から糖や有機酸などを土中へ放出します。根の近くでは微生物が増え、根圏での有機物分解や養分循環が活発になります。

このため春は、冬の間に地表へたまった残さや土中の易分解性有機物が分解されやすくなる時期です。

ただし、春に分解が活発になることと、安定した腐植が短期間で大幅に減ることは同じではありません。分解されやすい画分と、鉱物や微細団粒に守られた安定画分では変化の速さが違います。

夏は温度だけでなく水分によって分解速度が変わる

有機物の分解は、一般に微生物が活動できる範囲では温度が高いほど速くなりやすい傾向があります。

農研機構の総説でも、作物残さは土壌温度が高く、水分と酸素が十分あるほど分解されやすいとされています。FAOも、温度が土壌有機物の分解速度を左右する主要因の一つだと説明しています。

しかし夏は、温度が高いだけではありません。乾燥が強くなると微生物が利用できる水が不足し、分解はかえって遅くなります。

つまり夏の腐植動態は、高温による分解促進と乾燥による分解抑制のどちらが強いかで変わります。

大雨や長雨で土が過湿になるとどうなるのか

微生物の活動には水が必要ですが、水が多すぎても分解は進みにくくなることがあります。

土の孔隙が水で満たされると、空気中の酸素が入りにくくなります。多くの有機物分解は酸素を使う微生物によって進むため、酸素不足になると分解速度が低下します。

FAOは、長く水で飽和する土では通気が悪くなり、好気性の生物活動と有機物の無機化が遅くなるため、有機物が蓄積しやすくなると説明しています。

湿地や泥炭地で有機物が多く蓄積するのは、このように植物からの供給が続く一方で、過湿・低酸素によって分解が追いつきにくいからです。

乾燥した後に雨が降ると分解が一時的に活発になることがある

土が長く乾燥すると、微生物活動は低下します。ところが、その後に雨が降って土が再び湿ると、微生物活動や土壌呼吸が一時的に大きくなることがあります。

乾燥中に壊れた微生物細胞や、利用しやすい有機物が再湿潤後に分解されるためです。また、水が戻ることで溶存有機物や養分が移動しやすくなります。

そのため、乾季と雨季がはっきりした地域では、雨季の始まりに有機物分解と窒素の無機化が急に進むことがあります。FAOも、乾湿季のある地域では最初の雨で微生物活動が高まり、無機態窒素が一時的に増える現象を紹介しています。

秋は有機物の「供給」が増えやすい

落葉樹林では秋になると大量の落ち葉が地表へ供給されます。草本植物や作物でも、生育終了後に枯れた地上部や根が土へ戻ります。

この時期は、新しい有機物の投入量が増えるため、土壌有機物の収支では「入る側」が大きくなります。

ただし、落ち葉や枯れ根が土へ入った時点で、すべてが腐植になったわけではありません。まず土壌動物や微生物によって細かくされ、分解され、その一部が微生物由来物質や鉱物との結合体として長く残るようになります。

腐植の形成は、落ち葉が入った瞬間ではなく、その後の分解と安定化の結果です。

冬は分解が遅くなりやすい

地温が低下すると、微生物の代謝は一般に遅くなります。そのため、冬は有機物分解が春や夏より遅くなりやすい傾向があります。

寒冷地では土壌凍結によって液体の水が減り、微生物活動がさらに制限される場合があります。一方、積雪が厚い場所では雪が断熱材のように働き、土が極端に冷えるのを抑えることもあります。

つまり冬でも条件は一様ではなく、積雪量、凍結深、土壌水分によって有機物分解の程度は変わります。

冬の分解が遅い地域では、秋に供給された落ち葉や残さが春まで残りやすくなります。

植物の種類と生育時期でも腐植の材料が変わる

植物は腐植の主要な材料を供給します。

森林では落ち葉や枝が地表へ供給され、草地では細かな根が土中へ大量に入り、農地では作物残さや根が主な材料になります。

また、生きた根は糖や有機酸などを放出し、根圏の微生物を活性化します。農研機構の総説では、植物根からの分泌物が周囲の土壌有機物分解を促進または抑制する「根圏プライミング効果」が紹介されています。

したがって、植物の生育期と休眠期、作物の種類、収穫後に残さを残すか持ち出すかによって、腐植形成へ入る炭素量も変わります。

有機物の質によって分解の速さが違う

土へ入る有機物は、すべて同じ速さで分解されるわけではありません。

糖やタンパク質などを多く含む材料は比較的分解されやすく、木質化した残さやリグニンを多く含む材料は分解に時間がかかります。

農研機構の総説では、作物残さは破片が大きく、リグニンが多く、炭素と窒素の比率が高いほど分解されにくいと整理されています。

そのため、秋に同じ重さの植物残さが土へ入っても、落葉樹の葉、稲わら、木質残さ、緑肥では分解速度と腐植として残る割合が同じではありません。

粘土や鉱物が多い土では有機物が長く残ることがある

環境条件だけでなく、土そのものの性質も腐植の変化速度を左右します。

土壌有機物の一部は、粘土鉱物や鉄・アルミニウム酸化物の表面へ吸着したり、無機物と結びついたりします。このような有機物は、微生物や酵素から利用されにくくなり、分解が遅くなる場合があります。

また、微細な団粒の内部に取り込まれた有機物は、分解者や酸素から物理的に隔離されます。

農研機構の総説では、粘土との結合や微細団粒内への取り込みが、土壌有機物の長期的な安定化に関係すると説明されています。

このため、同じ気温・降水条件でも、砂質土と粘土質土では季節的な有機物分解への反応が同じではありません。

耕起すると腐植の減少が速まることがある

耕起は、土を混ぜて空気を入れ、団粒を崩します。

それまで団粒内部に守られていた有機物が微生物へ利用されやすくなり、酸素供給も増えるため、分解が速まる場合があります。

また、作物残さを収穫とともにほ場外へ持ち出す管理では、土へ戻る有機物量が減ります。

反対に、作物残さを還元する、堆肥を入れる、カバークロップを育てる、耕起を減らすといった管理では、有機物の投入や保護が増えやすくなります。

農研機構の土壌有機物管理ツールが、作物、堆肥量、緑肥などの情報から年間の土壌有機物増減を計算するのは、このような管理条件が長期収支へ影響するからです。

侵食や流出でも腐植は失われる

腐植は表土に多く含まれるため、強い雨や風で表土が失われると、腐植も一緒に流出します。

斜面上部では侵食によって有機物が減りやすく、斜面下部では流れてきた有機物を含む土が堆積して増える場合があります。

したがって、大雨や台風などの環境変化は、単に微生物分解の速さを変えるだけでなく、腐植を含む土そのものを移動させることがあります。

このような物理的な損失は、季節変化の中でも比較的大きな影響を残します。

季節で変わるのは「腐植量」より「腐植をめぐる流れ」のほうが大きい

ここは重要なポイントです。

安定した腐植の総量は、通常は数日や数週間で大きく増減するものではありません。一方、新鮮な植物残さ、溶存有機物、微生物バイオマス、易分解性有機物、有機物分解速度は季節によって大きく変わります。

農研機構の総説では、土壌有機物を易分解性画分と難分解性画分に分け、難分解性の腐植に近い画分は長い時間残る一方、易分解性有機物は比較的短い期間で代謝されると整理されています。

したがって「腐植が季節で変化する」ときには、まず土壌有機物の各画分と分解・供給速度が変わり、その結果が年単位で安定画分の増減へつながると理解するのが正確です。

温暖化や降水パターンの変化も長期的な腐植量に影響する

気温や降水条件が長期的に変われば、有機物供給と分解のバランスも変化します。

温暖化によって分解が速まる可能性がある一方、植物生産量が増えれば土へ入る有機物量も増える場合があります。また、干ばつが強まれば植物生産と微生物活動の両方が低下する可能性があります。

FAOは、気温・土壌水分・土性・地形などが土壌有機物の蓄積と分解を左右する主要因だとしています。

したがって、環境変化の影響は「気温が上がるから腐植が必ず減る」という単純なものではなく、植物から入る量と分解される量の両方を見て判断する必要があります。

季節や環境による腐植変化をまとめると

  • 腐植量は有機物の供給量と分解量の収支で決まる
  • 春は地温上昇と植物生育によって微生物活動が高まりやすい
  • 夏は高温で分解が速まりやすいが、強い乾燥では逆に低下する
  • 過湿・低酸素では好気的分解が遅くなり、有機物が蓄積しやすい
  • 乾燥後の再湿潤で微生物活動が一時的に高まることがある
  • 秋は落ち葉や枯れ根など新しい有機物の供給が増えやすい
  • 冬は低温や凍結によって分解が遅くなりやすい
  • 植物種や残さの質によって分解速度と腐植化の割合が変わる
  • 粘土や微細団粒は有機物を保護し、長く残りやすくする
  • 耕起・残さ管理・堆肥施用・侵食なども長期的な腐植量を変える

つまり、土の腐植が季節や環境によって変化するのは、植物から入る有機物と微生物による分解、鉱物・団粒による安定化、侵食による損失のバランスが、温度・水分・酸素・植物・管理条件によって変わるからです。季節ごとに最も大きく変わるのは有機物の流れと分解速度であり、その積み重ねが長い時間をかけて腐植の総量を変えていきます。

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出典・参考資料

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