なぜ巻雲は場所や条件によって高さや形が違うのか?

結論からいうと、巻雲には、巻雲ができる高度の気温・湿度、対流圏界面の高さ、上空の風、空気を持ち上げる仕組み、氷晶のでき方が場所や条件によって異なるため、高さ・厚さ・形・氷晶の大きさ・広がり方に違いが生まれます。

巻雲はどれも高い空にできる主に氷晶からなる雲ですが、熱帯の巻雲と中緯度の巻雲、前線に伴う巻雲と積乱雲から広がる巻雲、山岳波でできる巻雲では成り立ちが同じではありません。巻雲の違いを見ると、上空の温度・水蒸気・風・大気の動きの違いが見えてきます。

目次

巻雲に共通する基本は「高い空の氷晶」

気象庁は巻雲を上層雲に分類しており、成田航空地方気象台の資料では、巻雲は氷晶が集まってでき、通常はもっとも高いところに現れる雲と説明されています。典型的には白く繊維状で、ほうきで掃いたような筋や巻き毛のような形になります。

Met Officeも、巻雲は高高度にある氷晶主体の雲で、雲底の代表的な高さを約20,000〜40,000フィートとしています。つまり巻雲には「高高度」「低温」「氷晶」という共通点があります。

ただし、高い空の温度や湿度、対流圏界面の高さは地域や季節によって違います。そのため、同じ巻雲でも存在する高度や氷晶の成長条件に違いが出ます。

熱帯と中緯度では巻雲ができる高さが違う

巻雲の地域差で重要なのが、緯度による対流圏の厚さの違いです。

航空機観測をまとめた「Cirrus Guide II」では、巻雲は中緯度では比較的低い高度に分布し、熱帯ではより高い高度まで現れることが示されています。大きな理由は、熱帯ほど対流圏界面が高く、中緯度へ行くほど低くなるためです。

熱帯では深い対流が非常に高いところまで達し、積乱雲上部から氷晶が広がって巻雲になることもあります。一方、中緯度では前線やジェット気流に伴う上昇域で巻雲ができることが多く、平均的な高度も熱帯とは異なります。

したがって「巻雲は何キロメートルにある」と一つの高さで固定するのではなく、地域の対流圏の高さに合わせて存在高度が変わると考える必要があります。

前線に伴う巻雲と、積乱雲由来の巻雲では成り立ちが違う

巻雲は一つの仕組みだけでできる雲ではありません。

Met Officeは、巻雲が温暖前線の前方など高い空で空気が持ち上げられる場所に現れやすいと説明しています。この場合は、高高度の水蒸気が冷却され、氷晶となって広い範囲に巻雲が形成されます。

一方、発達した積乱雲では、雲頂が非常に低温になり、多数の氷晶を含みます。積乱雲が衰えても、かなとこ状に広がった上部の氷晶が残り、上空の風に流されて巻雲として広がることがあります。

前線性の巻雲と積乱雲由来の巻雲では、氷晶ができるまでの上昇のしかたや雲の厚さ、広がる方向などが違います。

山岳の風がつくる「地形性巻雲」もある

山の近くでは、地形によって特有の巻雲ができることがあります。気象庁の気象衛星センターは「地形性巻雲」の事例を紹介しています。

山岳を越える強い風が安定した成層の中を流れると、山の風下側に波のような上下運動ができます。その上昇部分で高層の空気が冷え、十分に湿っていれば氷晶ができて巻雲になります。

気象庁によると、この地形性巻雲は安定成層中の山岳波で形成され、構成する氷晶の粒径が小さいことがあります。積乱雲の雲頂にある小さな氷晶と衛星画像上で似た特徴を示す場合もあります。

つまり、山地では地形そのものが上空の流れを変え、平地とは違う巻雲をつくることがあります。

上空の湿度によって巻雲の厚さと寿命が変わる

巻雲ができて長く残るには、低温だけでなく、氷晶が維持・成長できるだけの水蒸気が必要です。

空気が氷に対して十分に湿っていれば、氷晶へ水蒸気が付着し、巻雲は成長・維持されます。反対に周囲の空気が乾燥していれば、氷晶は昇華して水蒸気へ戻り、巻雲は薄くなって消えていきます。

そのため、同じ高度に巻雲があっても、上空の湿度が高い場所では広く長く残り、乾いた場所では細い筋が短時間で消えることがあります。

飛行機雲も同じように、上空が氷に対して湿っていると長く残って広がり、巻雲状になることがあります。Met Officeは、飛行機雲が広がって巻雲や巻層雲になる場合があると説明しています。

上空の風で巻雲の形が変わる

巻雲の氷晶は空中に固定されているわけではありません。重力で少しずつ落下しながら、上空の風に運ばれます。

風向や風速が高さによって変化すると、氷晶の集まりが引き伸ばされ、細い筋や鉤状の形になります。Met Officeは、もっとも一般的な巻雲の一つであるcirrus fibratusが、高高度の風向に沿って平行な白い筋として並ぶことが多いとしています。

風の鉛直変化が大きければ、上と下の氷晶が違う速度で流されるため、尾を引くような形や曲がった形になりやすくなります。逆に風の変化が小さければ、比較的一様な筋として広がることがあります。

氷晶の大きさや形も条件によって違う

巻雲をつくる氷晶は、すべて同じ大きさ・形ではありません。

氷晶の形成には温度、氷に対する湿度、氷晶核となる微粒子、形成後の成長時間などが関係します。観測研究では、巻雲中の氷晶の数や代表的な大きさが高度・緯度・形成過程によって変化することが示されています。

たとえば、山岳波で急速に形成される地形性巻雲では小さな氷晶が多くなる場合があります。一方、比較的長く水蒸気が供給される環境では、氷晶が成長して大きくなることがあります。

氷晶の違いは、巻雲の明るさや衛星から見た反射特性、落下する氷晶の速度にも影響します。

巻雲の見た目が「薄い筋」「濃い塊」に分かれるのはなぜか

巻雲というと細い筋を思い浮かべますが、実際には薄い繊維状だけでなく、比較的濃い塊状や房状のものもあります。

Met Officeでは巻雲を複数のspeciesに分類し、細く繊維状のfibratus、先端が鉤状になるuncinus、比較的厚く濃いspissatus、房状のfloccus、塔状のcastellanusなどを紹介しています。

この違いは、上昇運動の強さ、氷晶量、上空の安定度、風の状態などが同じではないために生まれます。積乱雲のかなとこから残った巻雲は厚いspissatusになることがあり、穏やかな高層の流れでは細い繊維状の巻雲が現れやすくなります。

季節によって巻雲の出方が変わる理由

季節が変わると、対流圏界面の高さ、ジェット気流、前線の位置、積乱雲の発達しやすさが変わります。そのため、巻雲が現れる場所やでき方の比率も変化します。

暖候期には深い積乱雲が発達しやすく、かなとこ由来の巻雲が増える場面があります。一方、中緯度の前線活動が活発な時期には、温暖前線の前面やジェット気流周辺の上昇域に伴って巻雲が広がることがあります。

したがって、巻雲の季節差は「気温が高い・低い」だけでなく、高層大気全体の流れが季節で変わることによって生まれます。

巻雲が示す天気の意味も、でき方によって違う

巻雲が見えたからといって、必ず同じ天気変化が起きるわけではありません。

温暖前線に先行して巻雲が増え、やがて巻層雲・高層雲へと厚くなる場合は、低気圧や前線の接近を示す手がかりになります。気象庁も、巻雲がまっすぐ広がる場合などに天気が崩れることがあるとしています。

一方、積乱雲が衰えたあとに残った巻雲や、飛行機雲から広がった巻雲は、同じ意味で前線接近を示すものではありません。

巻雲を見るときは、「巻雲があるか」だけでなく、広がる方向、時間変化、ほかの雲との組み合わせを見ることが重要です。

場所や条件による違いを整理すると

  • 熱帯:対流圏界面が高く、巻雲もより高高度まで現れやすい
  • 中緯度:熱帯より対流圏界面が低く、前線やジェット気流に伴う巻雲も多い
  • 山地:山岳波によって地形性巻雲ができることがある
  • 積乱雲周辺:かなとこ部分の氷晶が広がり、巻雲として残ることがある
  • 湿った上空:氷晶が維持・成長し、巻雲が広く長く残りやすい
  • 乾いた上空:氷晶が昇華し、巻雲が消えやすい
  • 強い上空風・風シア:巻雲が細い筋や鉤状に引き伸ばされやすい
  • 飛行機が多い高層空域:条件が整えば飛行機雲が広がり、巻雲状になることがある

まとめ

「なぜ雲の巻雲には場所や条件による違いがあるのか?」への最も簡単な答えは、巻雲ができる高い空の温度・湿度・対流圏界面の高さ・風・上昇の原因が地域や条件によって異なり、それが氷晶の数や大きさ、雲の高度・形・寿命を変えるからです。

熱帯では高い対流圏の上部まで巻雲が現れやすく、中緯度では前線やジェット気流、山地では山岳波、積乱雲周辺ではかなとこから広がる氷晶が巻雲をつくることがあります。巻雲の違いは、高い空の大気環境の違いを目に見える形で示しているのです。

参考資料

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