結論からいうと、雲の氷晶は、季節や環境によって変わる気温・湿度・上昇気流・過冷却水滴の量・氷晶核となる微粒子の種類や数の影響を受けるため、できやすさ・数・大きさ・形・成長のしかたが変化します。
「冬は寒いから氷晶が多く、夏は少ない」と考えるとわかりやすそうですが、実際はそれほど単純ではありません。雲の中で氷ができるには低温が重要である一方、氷晶の形成を助ける微粒子や水蒸気、上昇流、過冷却水滴なども必要です。季節や地域によってこれらの条件が同時に変わるため、同じ氷点下の雲でも氷晶の状態は違います。
雲の氷晶とは何か
氷晶は、雲の中に浮かぶ非常に小さな氷の結晶です。気象庁は、雪は大気中の水蒸気がちり・ほこりなどを核として氷の結晶になり、さらに水蒸気が付着して成長することでできると説明しています。
雲の中では、氷晶だけでなく液体の水滴が同時に存在することがあります。特に0℃より低いのに凍らず液体のまま残る水滴を過冷却水滴といいます。氷晶と過冷却水滴が共存する雲では、水蒸気の移動や水滴の付着凍結によって氷晶が成長します。
したがって、氷晶の変化を理解するには「何℃か」だけでなく、「水蒸気がどれだけあるか」「過冷却水滴があるか」「氷をつくるきっかけがあるか」を一緒に見る必要があります。
季節変化の第一要因は雲の中の温度
季節が変わると、同じ高度でも気温が変わり、0℃以下になる高度も上下します。寒い季節には低い高度まで氷点下になるため、比較的低い雲でも過冷却水滴や氷晶が存在しやすくなります。
一方、暖かい季節には0℃の高度が上がるため、低い雲は液体水滴が主体になりやすく、氷晶が多くなるのはより高い部分です。ただし、積乱雲のように非常に高く発達する雲では、夏でも雲頂付近は十分低温になるため、多数の氷晶ができます。
つまり、「季節」は氷晶を直接変えるというより、雲が通過する温度帯を変えることで氷晶の存在範囲を変えます。
0℃以下でもすぐ氷晶になるわけではない
雲の水滴は、0℃を下回った瞬間にすべて凍るわけではありません。気象庁は、非常に小さな雲粒は凍るきっかけとなる核がなければ、マイナス10〜20℃以下でも液体のままでいられる場合があると説明しています。
このため、冬の雲でも液体水滴が残っていることがあります。反対に、氷晶形成を助ける微粒子が多い環境では、比較的高い氷点下でも氷が生じることがあります。
この違いが、同じ気温の雲でも氷晶の割合が異なる理由の一つです。
氷晶の形は温度と湿度で変わる
氷の結晶は六角形を基本としますが、成長時の温度と水蒸気量によって、板状・柱状・針状・樹枝状など形が変わります。
気象庁は、雪結晶の形や状態から、結晶が成長した雲の気温や水蒸気量を調べられると説明しています。また南極・昭和基地の解説では、大きな樹枝状結晶はおよそマイナス15℃で湿度が高く、風が弱いときに成長しやすいとされています。
そのため、冬でも乾燥した雲と湿った雲では結晶の成長が違います。季節や地域ごとの湿度差は、氷晶の数だけでなく形や大きさにも影響します。
夏の積乱雲と冬の積乱雲では氷晶が育つ高さが違う
日本では、夏と冬の積乱雲に大きな高さの違いがあります。気象庁の北陸地方の解説によると、夏の積乱雲は高さ10,000メートル以上まで発達することがある一方、冬の日本海側の積乱雲は上空の安定層の影響で、およそ3,000〜6,000メートル程度にとどまる場合があります。
それでも冬の日本海側では、冷たい季節風が比較的暖かい日本海から熱と水蒸気を受け取るため、低い高度から対流が起こり、雲の中で氷晶やあられが形成されます。
つまり、夏は高い雲の上部で氷相過程が進みやすく、冬の日本海側では低い高度でも低温環境がそろうため、比較的浅い雲の中で氷晶が重要な役割を持ちます。
氷晶核の量や種類も季節で変わる
氷晶形成には、鉱物ダストや生物由来粒子など、氷ができるきっかけとなる氷晶核(ice-nucleating particles:INPs)が関係します。
氷晶核は一年中同じ量・同じ種類で存在するわけではありません。風で運ばれる砂じん、海洋由来粒子、生物由来粒子、森林や土壌からの粒子など、その供給源は季節や地域で変化します。
NOAAが収録する北極域の通年観測では、氷晶核の濃度に明確な季節変化が確認され、冬から春は低く、夏の海氷融解期に高くなる傾向が示されました。研究では、夏の増加に地域の海洋生物活動が関係する可能性が指摘されています。
この例は、気温だけで氷晶のできやすさを説明できないことを示しています。暖かい季節でも、氷晶核が増える環境では氷形成条件が変化することがあります。
北極では夏の融解環境が氷晶核を増やすことがある
北極では、海氷の季節変化そのものが氷晶形成環境を変えることがあります。
NOAAが紹介した2026年の研究では、夏の海氷上にできる融解水に、生物由来の氷晶核が多く含まれる例が確認されました。これらの粒子の一部は、マイナス10℃以上という比較的高い温度でも氷形成を促す性質を持っていました。
海氷が厚く閉ざされる冬と、融解水や開水面が増える夏では、大気へ供給される粒子の種類が変わります。したがって、極域の氷晶の季節変化は温度だけでなく、海氷・海洋・生物活動の季節変化とも結びついています。
砂じんの多い季節・地域では氷形成が変わることがある
鉱物ダストは、代表的な氷晶核の一つです。砂漠や乾燥地域から舞い上がった粒子は長距離を運ばれ、雲の中で氷形成を助けることがあります。
NOAAが収録するチベット高原の研究では、春に砂じんの流入が増えることで、混合相雲の氷晶濃度が季節的に高くなることが示されています。
このように、春の黄砂のような大規模な粒子輸送、夏の海洋生物由来粒子、森林や火災由来の粒子など、環境ごとのエアロゾル供給が氷晶形成に影響します。
ただし、粒子が多ければ必ず氷晶が増えるわけではありません。粒子の種類、温度、過飽和度、雲の上昇速度などが同時に関係します。
上昇気流の強さで氷晶の数や大きさが変わる
上昇気流は、氷晶ができる温度帯へ水蒸気や水滴を運びます。強い上昇気流を持つ積乱雲では、水滴や氷粒子が長時間雲の中に保たれ、成長する機会が増えます。
一方、上昇気流が弱い雲では、大きくなった氷晶は比較的早く落下します。そのため、同じ気温でも強い対流雲と穏やかな層状雲では、氷晶の大きさや分布が異なります。
また、強い上昇流では多数の小さな氷晶が形成される場合があり、雲頂付近の氷晶粒径が小さくなることがあります。氷晶の状態は、単純な温度だけでなく、空気がどの速さで上下しているかにも左右されます。
過冷却水滴の量で氷晶の成長方法が変わる
氷点下の雲で、氷晶と過冷却水滴が共存すると、氷晶には複数の成長経路が生まれます。
一つは、水蒸気が氷晶へ直接付着して成長する方法です。もう一つは、過冷却水滴が氷晶へ衝突し、その表面で凍りつく方法です。後者が進むと、きれいな六角形の結晶というより、表面に凍った水滴をまとった不規則な氷粒子やあられへ変化します。
そのため、過冷却水滴が豊富な雲と少ない雲では、同じ氷点下でも氷粒子の姿が異なります。
乾燥した環境では氷晶が小さくなったり消えたりする
氷晶は、周囲の空気が氷に対して十分湿っていれば水蒸気を取り込んで成長します。しかし乾燥した空気へ入ると、氷から水蒸気へ戻る昇華が起こり、氷晶は小さくなります。
巻雲の細い筋が時間とともに消える場合や、降ってきた氷晶が地上まで届かず空中で消える場合には、この昇華が関係します。
季節風や乾燥した空気の流入などで上空の湿度が変われば、氷晶の寿命も変わります。したがって、氷晶の季節変化には「つくられる量」だけでなく「消えやすさ」の違いも含まれます。
雲の種類によって季節変化の現れ方が違う
- 巻雲:高高度の低温環境で氷晶が主体となり、上空の湿度や氷晶核、風の変化を受ける
- 積乱雲:強い上昇流で水滴を低温域まで運び、氷晶・あられ・ひょうなど多様な氷粒子が形成される
- 冬の日本海側の対流雲:雲頂は夏より低いことが多いが、寒気のため低高度でも氷相過程が活発になる
- 混合相雲:過冷却水滴と氷晶が共存し、氷晶核の季節変化の影響を受けやすい
同じ「氷晶の季節変化」を比べる場合でも、雲の種類が違えば高度・温度・上昇流が違います。季節差を正しく理解するには、同じ種類の雲や同じ高度帯を比較することが重要です。
「冬ほど氷晶が多い」と単純に言えない理由
冬は大気が低温になるため、氷晶が存在できる高度は低くなります。しかし、氷晶の数は温度だけで決まりません。
夏の積乱雲は非常に高く発達して大量の氷晶をつくることがあります。また北極のように、夏の海氷融解期に氷晶核が増える地域もあります。春に砂じんが増える地域では、鉱物ダストによって氷形成が変わる場合もあります。
したがって、氷晶の季節変化は「気温」「水蒸気」「上昇気流」「過冷却水滴」「氷晶核」の組み合わせとして考える必要があります。
季節や環境による変化を整理すると
- 寒い季節:氷点下の層が低くなり、低い雲でも過冷却水滴や氷晶が現れやすい
- 暖かい季節:低い雲は液体主体になりやすいが、発達した積乱雲上部では多数の氷晶ができる
- 高湿度:氷晶が水蒸気を取り込んで成長しやすい
- 乾燥環境:昇華によって氷晶が小さくなり、消えやすい
- 氷晶核が多い環境:条件が整えば比較的高い氷点下でも氷形成が起こりやすい
- 砂じんの多い地域・季節:鉱物ダストが氷晶核として働くことがある
- 北極の夏の融解期:海洋・生物由来の氷晶核が増える観測例がある
- 強い上昇気流:氷晶や過冷却水滴を雲内に長く保ち、氷粒子の成長を促す
まとめ
「なぜ雲の氷晶は季節や環境によって変化するのか?」への最も簡単な答えは、氷晶をつくり育てる温度・水蒸気・過冷却水滴・上昇気流・氷晶核の条件が、季節や地域によって変わるからです。
冬は氷点下の層が低くなり、低い雲でも氷晶ができやすくなりますが、夏でも高く発達した積乱雲では大量の氷晶ができます。また、北極の夏の融解期や春の砂じんシーズンのように、氷晶核そのものに季節変化がある環境もあります。
雲の氷晶は、気温だけで決まるものではありません。季節ごとの大気循環、水蒸気、微粒子、雲の上昇運動が組み合わさって、その数・形・大きさ・寿命を変えているのです。
参考資料
- 気象庁「雨・雪について」
- 気象庁「南極・昭和基地周辺の自然現象」
- 気象庁「冬季の雷」
- NOAA Library「Annual cycle observations of aerosols capable of ice formation in central Arctic clouds」
- NOAA Library「Decreased dust particles amplify the cloud cooling effect by regulating cloud ice formation over the Tibetan Plateau」

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