同じ相対湿度でも、日なたと日陰では水の蒸発速度が同じとは限りません。大きな理由は、日なたでは日射によって水面へ多くのエネルギーが供給され、水温が上がり、蒸発に使えるエネルギーと水面の飽和水蒸気圧がともに大きくなりやすいからです。
日陰では直射日光が当たりにくいため、水面が受け取る放射エネルギーが小さく、水温も上がりにくくなります。相対湿度が同じでも、水面温度が違えば、水面から空気へ水蒸気を送り出す条件は変わります。
つまり、蒸発速度は相対湿度だけで決まるのではなく、水面へのエネルギー供給、表面温度、風、空気側の水蒸気状態が組み合わさって決まります。
蒸発にはエネルギーが必要
液体の水が水蒸気へ変わるには、分子が液体中の結びつきから抜け出すためのエネルギーが必要です。
この相変化に必要なエネルギーが蒸発潜熱です。水面が太陽から日射を受けると、そのエネルギーの一部が水を温め、一部が蒸発に使われます。
日本の水文研究でも、水面蒸発を決める仕組みは熱収支と水蒸気移動の両方で考えられ、日射量が重要な気象要素として扱われています。
そのため、空気の湿度が同じでも、日射を受ける日なたでは日陰より蒸発に使えるエネルギーが多くなりやすいのです。
日なたではなぜ水温が上がりやすいの?
日なたの水面には太陽からの短波放射が直接届きます。
水面や容器がそのエネルギーを吸収すると、水温が上がります。水温が上がると水分子の運動が活発になり、液体から飛び出せる分子が増えます。
さらに、水面温度が高いほど、その温度での飽和水蒸気圧も高くなります。
つまり日なたでは、単に「暖かいから乾く」というだけではなく、水面側の飽和水蒸気圧が上がり、空気側との水蒸気圧差が大きくなりやすいため、蒸発が進みやすくなります。
同じ相対湿度でも水蒸気圧は同じとは限らない
相対湿度は、その気温での飽和水蒸気圧に対して、実際の水蒸気圧が何%かを示す割合です。
そのため、相対湿度が同じ50%でも、気温が違えば実際の水蒸気圧も異なります。
また蒸発を考えるときに重要なのは、空気温度だけでなく水面温度に対応する飽和水蒸気圧です。
日なたで水面温度が高く、日陰で低ければ、空気の相対湿度が同じでも、水面と空気との水蒸気圧差は同じになりません。
日射量が増えると蒸発量が増えやすいのはなぜ?
池田湖を対象にした日本の研究では、日射量、気温、相対湿度、風速の変化が湖面蒸発へ与える影響を比較し、日射量の増加が蒸発量を大きく増やすことが示されました。
その研究では、日射量が増えると湖面が受け取るエネルギーが増え、さらに湖面と大気との水蒸気圧差も拡大することが確認されています。
つまり日射は、蒸発のためのエネルギーを供給するだけでなく、水面温度を上げて蒸発の駆動力も強めるという二つの方向から効くことがあります。
では日陰なら蒸発しないの?
日陰でも蒸発します。
水面は周囲の空気、地面、建物などからも熱を受け取ります。また、水分子は温度が0℃を超えていれば常に動いており、一部は水面から飛び出しています。
そのため直射日光がなくても、空気が乾いていたり、風が吹いていたりすれば蒸発は進みます。
違うのは、日なたと比べて水面への放射エネルギー供給が小さいため、同じ条件なら蒸発が遅くなりやすいという点です。
風が強いと日陰でもよく乾くのはなぜ?
水面のすぐ上には、蒸発した水蒸気を多く含む薄い空気層ができます。
風が弱いと、この湿った空気が水面近くに残り、水面と空気との水蒸気圧差が小さくなっていきます。
風が吹くと湿った空気が運び去られ、代わりにより乾いた空気が水面へ接します。そのため蒸発が続きやすくなります。
USGSも、風は水面近くの湿った空気をより乾いた空気と入れ替えることで、蒸発を促進すると説明しています。
したがって、風の強い日陰が、無風の日なたより速く乾くこともあり得ます。
日なたなら必ず日陰より蒸発が速い?
必ずではありません。
日なたでも、周囲の空気が非常に湿っていて風がほとんどなければ、蒸発は抑えられます。
一方、日陰でも乾いた風が強く吹けば、水蒸気が効率よく運び去られ、蒸発が速くなることがあります。
さらに、水面の大きさ、容器の材質、水の深さ、地面から受ける熱なども影響します。
そのため「日なた=必ず速い」という固定的な関係ではなく、日射は蒸発速度を左右する重要な一要因と考えるのが正確です。
浅い水と深い水でも違いは出る?
出ます。
浅い水は全体の熱容量が小さいため、日射を受けると短時間で温まりやすくなります。
深い水は多くの熱を蓄えられるため、水面温度の変化が比較的ゆっくりになります。
そのため、小さな皿に入れた水と深い池では、同じ日射を受けても水温の上がり方や蒸発の時間変化が異なります。
湖面蒸発の研究で熱収支や水温を同時に扱うのは、この蓄熱の影響があるためです。
地面の材質も蒸発速度に影響するの?
影響します。
黒いアスファルトや濃い色の容器は日射を吸収しやすく、周囲や容器内の水を温めやすいことがあります。
芝生や湿った土では、受け取ったエネルギーの一部が植物の蒸散や土壌水分の蒸発にも使われます。
同じ相対湿度でも、水が置かれている場所の表面温度や熱の受け取り方が違えば、水面温度も変わり、蒸発速度に差が生まれます。
洗濯物が日なたで乾きやすいのも同じ理由?
基本的には同じです。
日射を受けると衣類の温度が上がり、繊維に含まれた水の蒸発が進みやすくなります。
さらに屋外では風があることが多く、衣類の周囲にたまる湿った空気も入れ替わります。
そのため、日なた・風ありという条件では、日陰・無風より乾燥が速くなりやすくなります。
ただし、気温・湿度・風の組み合わせによっては、明るい日陰でも十分速く乾くことがあります。
植物の蒸散も日射の影響を受ける
植物では、水は葉の気孔から水蒸気として放出されます。
USGSは、蒸散に影響する要因として日射、湿度、気温、風などを挙げています。
日射が強いと葉温や光合成活動が変わり、植物の気孔開閉にも影響します。
ただし植物は生きた組織なので、単純な水面とは違い、乾燥が強すぎると気孔を閉じて水分損失を抑えることがあります。
蒸発を比較するときは相対湿度だけをそろえても不十分
二つの場所で相対湿度が同じでも、次の条件が違えば蒸発速度は変わります。
- 日射量
- 水面温度
- 気温
- 風速
- 水面積
- 水の深さ
- 周囲の地面や容器から受ける熱
USGSの湖沼蒸発研究でも、蒸発量を評価するために気温、相対湿度、風速、日射・放射など複数の気象要素が使われています。
つまり、相対湿度が同じという条件だけでは、蒸発速度を同じにするには不十分です。
日なたと日陰の違いを仕組みで整理すると
- 日なたでは水面が日射エネルギーを多く受け取る
- 水面温度が上がると飽和水蒸気圧が高くなる
- 水面と空気との水蒸気圧差が広がりやすい
- 蒸発潜熱に使えるエネルギーも増える
- 日陰ではこれらの効果が小さくなりやすい
- ただし風、気温、水面積などによって結果は逆転することもある
まとめ
同じ相対湿度でも日なたと日陰で水の蒸発速度が違うのは、相対湿度だけでなく、水面へ供給されるエネルギーと水面温度が蒸発を左右するからです。
日なたでは日射によって水面が暖まり、蒸発に必要なエネルギーが供給されます。さらに水面温度の上昇によって飽和水蒸気圧が高くなり、空気との水蒸気圧差も大きくなりやすくなります。
日陰では直射日光によるエネルギー供給が小さいため、同じ相対湿度なら蒸発は遅くなりやすい傾向があります。ただし、風や気温などの条件によって結果は変わります。
蒸発を比べるときは「湿度が同じか」だけでなく、水面がどれだけ熱を受け取り、どれだけ暖まり、周囲の空気がどれだけ入れ替わっているかを見ることが大切です。

コメント