なぜ星までの距離は近さによって測り方が違うのか?

星までの距離は、すべて同じ方法で測れるわけではありません。近い星なら、地球が太陽のまわりを公転することで生じる「年周視差」を使って幾何学的に距離を求められます。しかし星が遠くなるほど視差は小さくなり、やがて直接測るのが難しくなります。

そこで天文学では、近い星で正確に測った距離を基準にして、星の色・スペクトル・本来の明るさ、変光周期などを利用する方法へ段階的につないでいきます。さらに遠い銀河では、セファイド変光星やIa型超新星など、明るさを推定できる天体を「標準光源」として使います。

つまり、星までの距離に応じて測り方が違うのは、遠くなるほど直接的な幾何学測定が難しくなり、別の物理的な手がかりを利用する必要があるからです。この複数の方法をつないだ仕組みは「宇宙の距離はしご」と呼ばれます。

目次

近い星は年周視差で直接測れる

比較的近い恒星の距離を測る基本的な方法が年周視差です。地球は1年かけて太陽のまわりを公転しているため、半年違いで観測すると地球の位置は太陽をはさんで反対側になります。

その2つの位置から近い星を見ると、非常に遠い背景の星に対して、近い星の位置がわずかにずれて見えます。これは、顔の前に指を立てて左右の目を交互に閉じると、背景に対して指の位置がずれて見えるのと同じ三角測量の原理です。

国立天文台は、地球の公転によって生じる恒星の見かけの位置変化である年周視差と、地球・太陽間の距離を使えば、三角測量と同じように恒星までの距離を求められると説明しています。

この方法の大きな利点は、星がどのような種類かを仮定しなくても、角度と既知の長さから幾何学的に距離を求められることです。そのため、年周視差は恒星距離を決める最も基本的な基準になります。

遠い星ほど視差が小さくなる

年周視差は、星が近いほど大きく、遠いほど小さくなります。近くの物体ほど見る位置を変えたときに大きく動いて見え、遠くの物体ほどほとんど動かないのと同じです。

国立天文台暦計算室によると、最も近い恒星の一つであるケンタウルス座α星でも年周視差は1秒角に満たないほど小さな角度です。肉眼では到底見分けられず、高精度の観測装置が必要です。

ESAのGaia衛星は、非常に高い位置測定精度で多数の恒星の視差を測り、銀河系内の星の三次元分布を調べてきました。それでも距離が大きくなるほど視差角は小さくなり、測定誤差に対して信号が弱くなります。

このため、年周視差だけで宇宙のすべての星や銀河までの距離を測ることはできません。

パーセクは年周視差から生まれた距離の単位

恒星の距離では「パーセク」という単位がよく使われます。1パーセクは、年周視差が1秒角になる距離として定義され、約3.26光年に相当します。

視差を秒角で表すと、距離をパーセクで表した値は視差の逆数になります。たとえば年周視差が0.1秒角なら距離は10パーセク、0.05秒角なら20パーセクです。

この関係からも、距離が遠くなるほど視差が急速に小さくなることが分かります。100パーセクなら0.01秒角、1000パーセクなら0.001秒角です。

「光年」が光が1年間に進む距離を表すのに対し、パーセクは恒星の位置測定と直接結びついた天文学独自の単位です。

視差が難しくなると星本来の明るさを利用する

年周視差が十分な精度で測れない星では、「星が本来どれくらい明るいはずか」を推定し、地球から見える明るさと比べる方法が使われます。

光は距離が遠くなるほど広い面積へ広がるため、見かけの明るさは距離の2乗に反比例して弱くなります。そのため、本来の光度と見かけの明るさが分かれば、距離を逆算できます。

しかし問題は、本来の光度をどう知るかです。そこで恒星のスペクトルや表面温度、進化段階を調べ、H-R図上でどの種類の星かを推定します。国立天文台も、星の色と本当の明るさの関係をH-R図で利用し、遠い星までの距離を推定できると説明しています。

この方法では、まず年周視差で距離が正確に分かっている近い星を基準にして、同じようなスペクトルを持つ星の光度を校正します。つまり、遠い星の距離測定も近い星の視差測定に支えられています。

同じ色の星でも明るさが同じとは限らない

星の色が同じなら表面温度は似ていますが、それだけで光度が決まるわけではありません。同じ表面温度でも、主系列星・巨星・超巨星では半径が大きく異なるため、放出する総エネルギーも変わります。

そのため、スペクトルから距離を推定するときは、温度だけでなく「光度階級」も調べます。OpenStaxは、スペクトル型と光度階級が分かればH-R図上の位置を定め、本来の光度を推定できると説明しています。

この方法は歴史的に「分光視差」と呼ばれることがありますが、実際に視差角を測っているわけではありません。スペクトルから星の本来の明るさを推定し、見かけの明るさとの差を距離へ変換する方法です。

年周視差より仮定が増えるため、個々の星の距離にはより大きな不確かさが生じますが、視差では届かない遠方まで調べられる利点があります。

星団では主系列星の並びを比べて距離を求める

同じ時期に生まれた星が集まる星団では、多数の星をH-R図に並べ、その主系列の位置を、距離が分かっている星団や近傍星の主系列と比較できます。

星団全体が同じ距離にあるとみなせるため、個々の星ではなく集団として明るさのずれを測れるのが利点です。見かけの等級と絶対等級の差から、その星団までの距離を推定できます。

この「主系列フィッティング」も、近距離の年周視差で校正された恒星の性質を土台にしています。距離測定の方法が独立に並んでいるのではなく、一つの方法が次の方法の基準になる点が重要です。

セファイド変光星はさらに遠い距離を測る手がかりになる

より遠い場所では、周期的に明るさが変わる「セファイド変光星」が重要な距離指標になります。

セファイド変光星には、変光周期が長いほど本来の光度が高いという「周期光度関係」があります。周期は時間変化を観測すれば測れるため、周期から本来の光度を推定できます。

そして、その本来の光度と地球から見た明るさを比較すれば距離が求められます。OpenStaxは、セファイドの周期を測り、周期光度関係から光度を求め、見かけの明るさと比較して距離を計算する手順を説明しています。

セファイドは非常に明るいため、天の川銀河内だけでなく近隣銀河でも観測できます。これにより、視差やH-R図だけでは届きにくい距離まで測定範囲を広げられます。

さらに遠い銀河ではIa型超新星などを使う

銀河がさらに遠くなると、個々の普通の恒星やセファイド変光星を十分な精度で観測することが難しくなります。その場合、より明るい標準光源が必要です。

代表例がIa型超新星です。一定の補正を行うと最大光度を比較しやすく、非常に明るいため遠方銀河でも観測できます。NASAは、遠方の超新星を標準光源として用い、見かけの明るさから距離を調べる方法を宇宙膨張の研究にも利用してきたと説明しています。

この段階では、もはや「一つの星までの距離」というより、その超新星が存在する銀河までの距離を測っていることになります。

それでも根本の考え方は同じです。本来の明るさを何らかの方法で知り、地球からどれくらい暗く見えるかを使って距離を推定します。

距離測定は「はしご」のようにつながっている

天文学の距離測定が「宇宙の距離はしご」と呼ばれるのは、近距離の方法から遠距離の方法へ、校正をつないでいくからです。

最初の段は幾何学的な年周視差です。次に、距離が既知の星を使ってH-R図やスペクトルと光度の関係を校正します。さらに、その距離が分かった星団やセファイド変光星を使って周期光度関係を確かめます。その関係を使えば、もっと遠い銀河まで距離を伸ばせます。

さらに遠方ではIa型超新星などの標準光源へつなぎます。各段階は前の段階の測定値に依存するため、最初の視差測定の精度向上は、宇宙の大きな距離スケール全体の精度向上につながります。

測り方が違うのは「星ごとに特別扱いする」からではない

近い星と遠い星で測定方法が違うのは、星の種類によって気まぐれに方法を変えているからではありません。観測できる情報の精度が距離によって変化するためです。

近距離では視差という直接的な幾何学情報が十分大きく測れます。遠距離ではその角度が小さすぎるため、スペクトルや明るさ、変光周期など別の観測量へ切り替えます。

さらに、すべての遠い星に同じ方法が使えるわけでもありません。セファイド変光星が存在しなければ周期光度関係は使えず、Ia型超新星も常に起きているわけではありません。そのため対象天体や距離範囲に応じて、使える手がかりを選びます。

星間塵も距離推定を難しくする

明るさを利用する距離測定では、星と地球の間にある星間塵の影響も考える必要があります。

星間塵は光を吸収・散乱し、星を本来より暗く見せます。もしこの減光を距離のせいだと誤解すると、実際より遠いと推定してしまいます。

そのため、色やスペクトルを使って星間赤化や減光の程度を推定し、補正してから距離を求めます。距離が遠くなるほど通過する星間物質の影響が無視できなくなる場合があります。

明るさを使う方法では、「距離による暗さ」と「途中で光が失われた暗さ」を分けることが重要です。

光年の数値は「過去を見ている時間」でもある

星までの距離を光年で表すと、その数字は光が届くまでにかかった時間でもあります。

100光年離れた星を今見ているなら、私たちが受け取っているのは約100年前にその星を出た光です。1000光年なら約1000年前の姿を見ていることになります。

OpenStaxは、光年という距離単位には、宇宙を遠く見ることが同時に過去を見ることでもあるという意味があると説明しています。

したがって、遠い星ほど「現在の姿」を直接見ているわけではありません。距離の違いは、空間的な違いだけでなく、観測している時代の違いにもつながります。

まとめ

星までの距離によって測り方が違うのは、遠くなるほど年周視差の角度が小さくなり、直接的な三角測量が難しくなるからです。近い星では年周視差を使い、遠くなるとスペクトルやH-R図から本来の光度を推定する方法、さらにセファイド変光星やIa型超新星などの標準光源を使う方法へ切り替えます。

これらの方法は別々に独立しているのではなく、近距離の正確な測定で次の方法を校正し、その方法でさらに遠い距離を測るという「宇宙の距離はしご」を作っています。

つまり、星までの距離の違いは単に数値が大きいか小さいかという違いではありません。距離が大きくなるほど観測できる直接情報が小さくなり、幾何学・恒星物理・変光・標準光源を段階的に組み合わせる必要があることが、測り方の違いを生み出しているのです。

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