植物の葉にある気孔は、いつも同じ大きさで開いているわけではありません。明るく水分に余裕があるときには開きやすく、乾燥が進むと閉じやすくなります。では、なぜ気孔は光や乾燥に応じて開いたり閉じたりできるのでしょうか。
結論からいうと、気孔を囲む孔辺細胞が、光・二酸化炭素濃度・乾燥などの情報を受け取り、細胞膜のイオン輸送を切り替えることで細胞内の浸透圧と水分量を変え、膨圧を増減できるためです。孔辺細胞が水を取り込んで膨らむと気孔は開き、水を失ってしぼむと気孔は閉じます。
気孔の開閉を動かすのは孔辺細胞
気孔は一対の孔辺細胞にはさまれた小さなすき間です。孔辺細胞は普通の表皮細胞とは形や細胞壁の性質が異なり、膨圧が変わると中央のすき間が広がったり狭まったりします。
つまり、気孔の開閉に直接必要なのは「穴を開ける筋肉」のような器官ではありません。孔辺細胞の中にどれだけイオンや水が入っているかによって細胞の体積と形が変わり、その結果として気孔の幅が変化します。
光が当たると青色光をフォトトロピンが受け取る
多くの植物では、朝になって光が当たると気孔が開きやすくなります。特に気孔開口の信号として重要なのが青色光です。
孔辺細胞にはフォトトロピンという青色光受容体があります。フォトトロピンが青色光を受けると自己リン酸化し、その後の情報伝達を始めます。
日本の植物生理学研究では、青色光がフォトトロピンに受容され、孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseを活性化することが気孔開口の中心機構として示されています。
H+-ATPaseが水素イオンを外へくみ出す
青色光シグナルが伝わると、孔辺細胞の細胞膜にあるH+-ATPaseが活性化します。
このポンプはATPのエネルギーを使ってH+を細胞外へ送り出します。すると細胞内側の電位がより負になり、膜が過分極します。
この電気的変化が、次にK+を細胞内へ取り込む内向き整流性K+チャネルを開きやすくします。
K+などが入ると水も入って孔辺細胞が膨らむ
K+が孔辺細胞へ入ると、電気的なつり合いを保つため、Cl−やリンゴ酸などの陰イオンも蓄積します。
溶質が増えると孔辺細胞の水ポテンシャルが低下し、周囲から水が入ります。水の多くは液胞へ入り、孔辺細胞の膨圧が高まります。
この膨圧上昇によって孔辺細胞が変形し、二つの孔辺細胞の間にある気孔が開きます。
孔辺細胞の形と細胞壁が「膨らむと開く」動きをつくる
孔辺細胞は、単純な風船のように均等に膨らむわけではありません。
気孔側の細胞壁は比較的厚く、外側とは伸び方が異なります。また、セルロース微繊維の配列も孔辺細胞の変形方向を制限します。
そのため膨圧が高まると、孔辺細胞は気孔を広げる方向へ湾曲します。イオンと水の移動だけでなく、この特殊な細胞壁構造が開閉運動を可能にしています。
赤色光や光合成も気孔開口に関わる
気孔は青色光だけに反応するわけではありません。赤色光によって光合成が活発になると、葉内部の二酸化炭素濃度が低下し、気孔が開く方向へ調節されることがあります。
つまり光は、孔辺細胞のフォトトロピンを直接刺激する経路と、葉肉や孔辺細胞の光合成状態を変える経路の両方から気孔開口に影響します。
植物は単に「明るいから開く」のではなく、光の波長や光合成による炭素需要を組み合わせて開度を調整しています。
気孔が開くと二酸化炭素を取り込みやすくなる
気孔が開く最大の利点は、大気中の二酸化炭素を葉内部へ取り込みやすくなることです。
二酸化炭素は気孔を通り、細胞間隙から葉肉細胞へ拡散して光合成に使われます。
一方、気孔が開くと水蒸気も外へ出ていきます。そのため気孔開口は、炭素を得る利益と水を失うコストを同時に生みます。
乾燥するとアブシシン酸が増え、閉口シグナルになる
土壌が乾いたり、葉の水分状態が悪化したりすると、植物ではアブシシン酸(ABA)が重要な閉口シグナルとして働きます。
ABAは孔辺細胞のPYR/PYL/RCAR系受容体に受容され、PP2Cというタンパク質脱リン酸化酵素の働きを抑えます。
すると、それまでPP2Cに抑えられていたOST1というプロテインキナーゼが活性化し、閉口側のイオン輸送を進めます。
OST1がSLAC1を活性化して陰イオンを外へ出す
ABAシグナルで活性化されたOST1は、SLAC1という陰イオンチャネルをリン酸化して活性化します。
SLAC1が開くと、Cl−やNO3−などの陰イオンが孔辺細胞から外へ出ます。
この陰イオン流出によって細胞膜は脱分極し、今度はK+を外へ出すチャネルが働きやすくなります。
つまり開口時とは反対に、孔辺細胞から溶質を外へ減らす流れが始まります。
K+が出ると水も出て孔辺細胞がしぼむ
陰イオンとK+が外へ出ると、孔辺細胞内の溶質濃度が下がります。
すると水ポテンシャルが上がり、水が細胞外へ移動します。液胞の体積が小さくなり、孔辺細胞の膨圧が低下します。
その結果、二つの孔辺細胞は気孔を閉じる形へ戻ります。
Ca2+や活性酸素も閉口シグナルを補助する
ABAによる気孔閉鎖には、Ca2+や活性酸素種も関わります。
ABA刺激によって孔辺細胞内のCa2+濃度が変化すると、Ca2+依存性プロテインキナーゼなどが陰イオンチャネルを調節します。また、NADPHオキシダーゼが生み出す活性酸素も情報伝達に関与します。
気孔閉鎖は一本の直線的な経路ではなく、ABA、OST1、Ca2+、活性酸素、陰イオンチャネルなどが組み合わされたネットワークで制御されています。
二酸化炭素濃度が高いと閉じる方向へ働く
葉内部の二酸化炭素濃度が高くなると、植物は気孔を閉じる方向へ調節することがあります。
逆に、光合成が盛んで葉内部の二酸化炭素が消費されると、気孔は開きやすくなります。
この反応により、必要以上に気孔を開いて水を失うことを避けながら、光合成に必要な二酸化炭素を取り込めます。
気孔開閉は「開く経路」と「閉じる経路」が競い合って決まる
実際の葉では、青色光、赤色光、二酸化炭素濃度、湿度、土壌水分、ABAなど複数の信号が同時に存在します。
孔辺細胞はそれらの情報を統合し、H+-ATPaseやK+チャネルを中心とする開口側の輸送と、SLAC1などを中心とする閉口側の輸送のどちらを優位にするかを調整します。
そのため気孔は単純なオン・オフではなく、環境に応じて連続的に開度を変えます。
乾燥した空気そのものも閉じる方向へ影響する
土壌に水があっても、空気が非常に乾燥していると葉からの水分損失は大きくなります。
外気との蒸気圧差が大きくなると、葉の水分状態や孔辺細胞のシグナルが変化し、気孔開度が小さくなることがあります。
植物は土壌水分だけでなく、葉からどれだけ水が失われそうかという大気側の条件にも応答しているのです。
夜になると閉じる植物が多い理由
多くのC3・C4植物では、夜は光合成に光を使えないため、気孔を大きく開いて二酸化炭素を取り込む利益が小さくなります。
そこで夜にはH+-ATPaseの活性が低下し、気孔は閉じる方向へ動きます。
ただし、完全に閉じない植物もあり、CAM植物では逆に夜に気孔を開く種類があります。気孔開閉の時刻パターンは植物の光合成様式によっても異なります。
気孔はどれくらい速く動けるのか
青色光の受容やH+-ATPaseの活性化は比較的速く始まりますが、K+や水が十分に移動して気孔開度が大きく変わるまでには分単位からそれ以上かかります。
葉の周囲の光が雲などで頻繁に変わると、気孔の応答速度が光合成や水利用効率に影響します。
近年は、気孔がどれだけ速く開閉できるかも、作物の光合成生産と節水を両立する重要な性質として注目されています。
気孔を閉じればよいわけではない
乾燥時に気孔を閉じると水は守れますが、二酸化炭素の取り込みも減ります。
そのため、気孔を閉じすぎると光合成速度が低下し、成長が遅くなります。
逆に開きすぎれば二酸化炭素は取り込めても、水不足の危険が高まります。植物にとって重要なのは、気孔を最大限開くことでも最大限閉じることでもなく、その瞬間の環境に合った開度を保つことです。
気孔の「形成」と「開閉」は別の仕組み
若い葉で気孔を何個、どこにつくるかという形成過程と、完成した気孔をいつ開閉するかという運動は別の仕組みです。
気孔形成ではSPCH、MUTE、FAMAなどの転写因子やEPF系の細胞間シグナルが重要です。
一方、本記事で扱う開閉では、フォトトロピン、H+-ATPase、K+チャネル、ABA、OST1、SLAC1などが中心です。
気孔という同じ構造でも、「つくる仕組み」と「動かす仕組み」は分けて理解すると整理しやすくなります。
身近な植物で気孔開閉を考えるポイント
気孔そのものは小さいため肉眼では見えませんが、植物の反応から開閉を考えることができます。
- 朝に光が当たり始めると蒸散量が増えるか
- 晴れて乾燥した午後に葉がしおれることがあるか
- 水やり後に葉の張りが戻るか
- 暗くすると蒸散量が低下するか
- 乾燥に強い植物と弱い植物で気孔反応が違うか
- CAM植物では夜間にガス交換が増えるか
実際の気孔開度を調べるには、顕微鏡観察やポロメーター、ガス交換測定装置などが使われます。
まとめ
気孔が光や乾燥に応じて開いたり閉じたりできるのは、孔辺細胞が環境情報をイオン輸送へ変換し、細胞内の浸透圧と水分量を変えることで膨圧を調節できるためです。
青色光ではフォトトロピンからH+-ATPaseへ信号が伝わり、K+などが孔辺細胞へ入り、水も流入して気孔が開きます。乾燥時にはABAがOST1やSLAC1などを介して陰イオンとK+の流出を促し、水が抜けて気孔が閉じます。
気孔は、二酸化炭素を取り込んで光合成する必要と、水を失いすぎない必要の間で、孔辺細胞のイオン輸送を使って開度を連続的に調整する装置なのです。
参考資料
- 高橋洋平・井上晋一郎・島崎研一郎「気孔の開・閉を司る孔辺細胞の情報伝達機構」
- 木下俊則ほか「孔辺細胞における細胞膜H+-ATPaseのリン酸化反応と複合体の解析」
- Blue Light Regulation of Stomatal Opening and the Plasma Membrane H+-ATPase
- Guard Cell Signal Transduction Network: Advances in Understanding Abscisic Acid, CO2, and Ca2+ Signaling

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