葉の表面には、二酸化炭素を取り込み、水蒸気を放出する気孔があります。しかし、気孔の数や大きさ、葉の表側と裏側のどちらに多いかは、植物によって大きく異なります。同じ植物でも、生育した光や水分条件によって気孔密度が変わることがあります。なぜ葉の気孔の数・大きさ・表裏の配置は、種類や環境によって違うのでしょうか。
結論からいうと、気孔の形態は二酸化炭素を効率よく取り込みたい要求と、水を失いすぎたくない要求のバランスによって調整されるためです。気孔が多ければ高いガス交換能力を持ちやすくなりますが、蒸散の可能性も増えます。また、気孔の数と大きさにはトレードオフがあり、少数の大きな気孔を持つ植物もあれば、多数の小さな気孔を持つ植物もあります。
気孔の数は「気孔密度」で比べられる
気孔の多さは、単位葉面積あたりにいくつ気孔があるかという気孔密度で表されます。
気孔密度が高い葉では、同じ面積に多くのガス交換口があります。そのため、条件が整えば二酸化炭素を多く取り込み、高い気孔コンダクタンスを実現できる可能性があります。
ただし、気孔が多ければ必ず光合成速度が高いわけではありません。光合成速度は葉肉の酵素能力、葉脈からの水供給、光、温度などにも制限されます。
気孔の数と大きさにはトレードオフがある
自然界では、気孔密度が高い植物ほど一つ一つの気孔が小さく、気孔密度が低い植物ほど大きな気孔を持つ傾向があります。
これは、葉の表皮に使える面積が限られているためです。大きな気孔を非常に高密度に並べることは難しく、表皮細胞との配置バランスも必要になります。
海外の研究では、多数の小さな気孔と少数の大きな気孔という二つの戦略が広く見られ、気孔サイズと密度の組み合わせが最大ガス交換能力や応答速度に影響すると整理されています。
小さい気孔は速く開閉しやすい場合がある
小さな孔辺細胞は体積が小さいため、イオンや水の出入りに必要な時間が短く、比較的速く開閉できることがあります。
光が雲で遮られたり、湿度が急に変わったりする環境では、気孔を素早く調整できれば、不要な水損失を抑えながら二酸化炭素を取り込めます。
そのため、高密度で小型の気孔は、速いガス交換制御に有利な場合があります。
大きい気孔には大きい気孔の利点がある
一方、大きな気孔は一つの孔が大きいため、十分に開けば大きな開口面積を確保できます。
ただし、大きな孔辺細胞は開閉に時間がかかる場合があり、急激な環境変化への追従性では小型気孔に劣ることがあります。
植物は、気孔の数と大きさを別々に最大化するのではなく、葉面積、表皮細胞サイズ、水供給能力、環境変動の速さなどに合わせて組み合わせています。
多くの陸上植物では気孔が葉の裏側に多い
多くの陸上植物では、気孔は葉の下面に多く配置されます。この配置はhypostomyと呼ばれます。
葉の下面は、上面より直射日光を受けにくく、風の影響も比較的小さいことがあります。そのため、気孔を下面に置くことで、二酸化炭素を取り込みながら過度な水分損失を抑えやすくなると考えられています。
広い葉や木本植物、日陰に生育する植物では、下面だけに気孔を持つ配置がよく見られます。
両面に気孔を持つ葉もある
葉の表面と裏面の両方に気孔を持つ配置はamphistomyと呼ばれます。
両面に気孔があると、二酸化炭素が葉の両側から入れるため、葉内部の葉緑体までの拡散距離を短くできます。
そのため、強い光の下で高い光合成速度を維持する植物や、成長速度の速い草本で両面気孔が多く見られる傾向があります。
一方、両面に気孔を持つと水蒸気の出口も増えるため、水分損失とのバランスが必要です。
浮葉植物では気孔が上面にあることがある
スイレンのように水面へ浮かぶ葉では、葉の下面が水に接しています。
この場合、下面に気孔があっても大気とのガス交換に使いにくいため、気孔が上面だけに配置されることがあります。
つまり、表裏のどちらに気孔を置くかは、葉がどのような向きで空気と接するかにも強く影響されます。
同じ植物でも葉の表裏で気孔密度は違う
気孔が両面にある植物でも、上面と下面で同じ密度とは限りません。
日本の芝草研究では、植物種によって気孔密度が異なるだけでなく、同じ植物でも葉の表裏、葉位、葉内の位置によって気孔密度や気孔開度が異なることが報告されています。
葉の中でも、受ける光、温度、風、発生時の細胞増殖条件が異なるためです。
強い光の下では気孔密度が高くなることがある
強い光の下で育つ葉は、光合成能力が高くなる場合があります。
その高い能力を使うには、二酸化炭素を十分に葉内へ供給する必要があります。そのため、発生中の葉で気孔密度が高くなることがあります。
ただし、すべての植物で同じ方向に変化するわけではありません。気孔密度の光応答は植物種や葉齢、水分条件によって異なります。
乾燥環境では気孔数を減らす戦略がある
水が不足しやすい環境では、ガス交換口を少なくすることで最大蒸散能力を下げる戦略があります。
実験的に気孔密度を低下させた植物では、水利用効率や水不足への耐性が改善する例があります。
一方、乾燥地植物すべてが低い気孔密度を持つわけではありません。小型気孔を高密度に持ち、必要なときだけ素早く開閉する戦略もあります。
そのため、乾燥適応は気孔密度だけではなく、気孔サイズ、開閉速度、クチクラ、根系、葉厚などとの組み合わせで考える必要があります。
降水量や温度とも気孔形態は関係する
多数の植物群集を比較した研究では、気孔密度は降水量と、気孔サイズは温度と関連する傾向が報告されています。
これは、水供給条件や蒸散需要が長期的に異なる環境で、気孔形態の適応が進んできたことを示します。
ただし、現在の環境だけでなく植物の系統史も強く影響するため、気候だけで個々の植物の気孔形態を予測することはできません。
大気中のCO₂濃度も気孔密度に影響する
大気中の二酸化炭素濃度が高いと、少ない気孔でも必要なCO₂を取り込める場合があります。
そのため、多くの植物では高CO₂条件で発生した葉の気孔密度が低下することがあります。
この性質を利用し、化石葉の気孔密度から過去の大気CO₂濃度を推定する研究も行われています。
ただし、CO₂への応答の大きさや方向は植物種によって異なり、光・水分・温度などとの相互作用もあります。
C3・C4植物で気孔特性が違うことがある
C4植物は葉内部に二酸化炭素を濃縮する仕組みを持つため、C3植物より低い気孔開度でも高い光合成速度を維持できることがあります。
日本のイネ科植物の比較研究でも、気孔密度、気孔コンダクタンス、蒸散、水利用効率の関係が植物群によって異なることが示されています。
ただし、C3かC4かだけで気孔密度が一意に決まるわけではなく、葉脈構造や葉肉の生化学特性も重要です。
CAM植物では低い気孔密度が見られることがある
CAM植物は、夜に気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、昼は気孔を閉じることで水分損失を抑えます。
多肉性のCAM植物では、近縁のC3植物より低い気孔密度や低い最大気孔コンダクタンスを示す傾向があります。
ただし、これはCAMという光合成様式だけでなく、大きな貯水細胞や表皮細胞サイズなど、葉の構造全体とのトレードオフにも関係します。
気孔密度は葉が発生している時期に決まる
成熟した葉では、気孔の一つ一つを新たに増やしたり減らしたりすることは基本的にできません。
気孔密度は、若い葉で表皮細胞が分裂・分化する時期に決まります。
そのため、光、CO₂、水分などの環境情報が気孔密度を変える場合、その多くは新しく発生している葉の気孔形成過程へ影響していると考えられます。
気孔密度は「気孔を作る数」だけで決まらない
気孔密度が変わる原因は、気孔になる細胞の数が変わることだけではありません。
葉の表皮細胞が大きく成長すれば、同じ数の気孔があっても単位面積あたりの気孔密度は低下します。
逆に、表皮細胞が小さければ、同じ発生率でも気孔密度は高くなります。
そのため、気孔密度を比較するときは、気孔形成率、表皮細胞サイズ、葉の拡大成長を分けて考える必要があります。
種類による違いには進化の歴史も影響する
気孔の大きさ・密度・配置は、環境への適応だけでなく、植物が受け継いできた系統的特徴にも左右されます。
同じ環境に生える植物でも、木本と草本、被子植物とシダ植物、C3とC4などで気孔形態は異なることがあります。
自然界の気孔形態は、「今の環境に最適化された結果」だけではなく、「その植物群が進化の過程で持つようになった発生上の制約」の影響も受けています。
気孔の表裏配置にも光と水のトレードオフがある
両面に気孔を持てばCO₂拡散距離を短くし、高い光合成能力を支えやすくなります。
一方、上面は直射光や風へさらされやすいため、気孔を上面へ増やすことは蒸散リスクを高める可能性があります。
比較研究では、両面気孔は強光環境や草本で多く、下面気孔は木本、大きな葉、日陰環境で多い傾向があります。
つまり、表裏配置も二酸化炭素獲得と水分保持のバランスを反映しています。
「気孔ができる仕組み」と「気孔形態が違う理由」は別の問い
気孔がどのように形成されるかという問いでは、SPCH、MUTE、FAMAなどの転写因子やEPF系の細胞間シグナルが重要です。
また、成熟した気孔がどう開閉するかという問いでは、フォトトロピン、H+-ATPase、K+チャネル、ABA、OST1、SLAC1などが中心になります。
一方、本記事で扱っているのは、完成した葉で気孔の数・大きさ・表裏の配置が、なぜ種類や環境によって違うのかという比較の問いです。
身近な植物で気孔の違いを観察するポイント
- 同じ倍率で複数の植物の気孔数を比べる
- 一つの葉の上面と下面で気孔数を比べる
- 日向葉と日陰葉で気孔密度が違うかを見る
- イネ科植物と広葉植物で気孔の形や並び方を比べる
- 浮葉植物では気孔がどちら側にあるか確かめる
- 気孔の大きさと密度が逆方向に変わる例があるか比べる
観察には葉の表皮レプリカや顕微鏡が必要ですが、同じ面積を同じ倍率で比べると種類や葉面による違いがわかりやすくなります。
まとめ
葉の気孔の数・大きさ・表裏の配置が種類や環境によって違うのは、二酸化炭素を取り込む能力と、水を失いすぎないための節水能力のバランスが植物ごとに異なるためです。
気孔には、少数で大きな気孔を持つ型と、多数で小さな気孔を持つ型があります。多くの陸上植物では気孔を下面へ配置して水分損失を抑えますが、高い光合成能力が求められる強光環境の植物では両面に気孔を持つことがあります。光、CO₂、水分、温度などは、発生中の葉の気孔密度やサイズにも影響します。
つまり、気孔の違いは単なる表皮模様の差ではありません。植物がどれだけ速く炭素を得て、どれだけ水を守るかという生存戦略が、数・大きさ・配置という形に表れたものなのです。
参考資料
- 林貴之ほか「屋上緑化用芝草の気孔分布の特徴」日本緑化工学会誌
- 川満芳信ほか「イネ科C3, C4植物における光合成および水利用効率の制御と気孔密度および維管束間距離の関係」生物環境調節
- Stomatal design principles in synthetic and real leaves
- A comparative study of the distribution and density of stomata in the British flora

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