同じ植物を観察していると、春に出た葉と夏に出た葉で大きさや切れ込み方が違ったり、水辺の植物では水中についた葉と空気中についた葉でまったく違う形になったりすることがあります。葉の形は植物の種類ごとに決まっているように見えますが、実際には同じ種類・同じ個体でも、葉がつくられる時期や環境によって変化することがあります。
同じ植物でも葉の形が季節や生育条件によって変わるのは、葉が発達する途中で、温度、光、水分、冠水などの環境情報が遺伝的な発生プログラムに作用し、細胞分裂や細胞の伸び方を調節するためです。
ただし、完成した葉が季節ごとに自由に別の形へ作り替わるわけではありません。多くの場合、環境の違いはこれから形成される新しい葉に反映されます。また、成長段階そのものによって葉形が変わる現象と、環境によって変わる現象は区別して考える必要があります。
葉の形はいつ決まるのか
葉は、茎の先端にある成長点の周辺から小さな葉原基として生まれます。そこから細胞分裂と細胞伸長を繰り返し、葉身が広がり、葉の縁や切れ込み、葉柄などが形成されます。
この過程では、どの場所の細胞がどれだけ増えるか、どの方向へ伸びるかが遺伝子や植物ホルモンによって調節されています。そのため、葉の基本形には強い遺伝的な制御があります。
一方、葉が発達している途中には、光、温度、水分、二酸化炭素濃度、冠水など周囲の環境情報も取り込まれます。植物はそれらの情報に応じて、発生プログラムの働き方を変えることができます。これが、同じ遺伝的性質を持つ植物でも異なる葉形をつくれる理由です。
環境に応じて葉形が変わる性質を「表現型可塑性」という
同じ遺伝子を持つ個体が、環境によって異なる形や性質を示す能力を表現型可塑性といいます。葉は外界と直接接する器官なので、植物の中でも特に可塑性が現れやすい部分です。
葉形が環境に応じて大きく変わる現象は、異形葉性または heterophylly と呼ばれます。研究レビューでは、光の強さや質、温度、水分状態、冠水などが葉形の変化を引き起こす環境要因として整理されています。
ただし、葉形の変化がすべて異形葉性というわけではありません。植物が若い段階から成体へ移るにつれて葉形が変わる現象はheteroblastyと呼ばれ、主に発達段階による変化として区別されます。
季節によって葉の形が違うのはなぜか
季節が変わると、気温、日長、光の強さ、土壌水分、湿度などが同時に変化します。また、植物自身も春の成長開始期、夏の旺盛な成長期、秋の成長停止期では発達状態が異なります。
そのため、春につくられた葉と夏につくられた葉では、発達中に受けた環境が違います。植物によっては、春の比較的低温な時期につくられた葉と、高温期につくられた葉で切れ込みの深さや葉身の形が変わることがあります。
重要なのは、「春の葉が夏になると別の形へ変形する」のではなく、異なる季節に新しくつくられた葉が、それぞれ異なる形になる場合が多いことです。
温度だけで葉の形が大きく変わる植物もある
葉形の可塑性がよく研究されている植物の一つに、北米原産の水辺植物 Rorippa aquatica があります。この植物では、低温条件で深く切れ込んだ葉が形成され、高温条件では切れ込みの少ない葉が形成されることが知られています。
このような例では、植物は温度情報を葉の発生制御へ取り込み、細胞分裂や葉の縁の成長パターンを変えています。つまり、温度は単に葉の成長速度を変えるだけでなく、最終的な形そのものにも影響することがあります。
ただし、すべての植物が温度によって大きく葉形を変えるわけではありません。どの程度の可塑性を持つかは種によって異なります。
水中と陸上ではまったく違う葉になることがある
環境による葉形変化が特にはっきり見られるのが、水生植物や水陸両生植物です。同じ植物でも、水中につくられた葉は細く深く切れ込み、空気中につくられた葉は幅広くなることがあります。
日本植物生理学会の研究では、水生の異形葉植物 Ludwigia arcuata が、陸上では丸みのある気中葉を、水中では細い水中葉を形成することが報告されています。発達途中の若い葉には形態形成の可塑性があり、環境変化に応じて葉の基部などの成長パターンが変化します。
水中と空気中では、光の届き方、二酸化炭素や酸素の拡散速度、浮力、水流、蒸散の有無などが大きく違います。水中では薄く細い葉や深く切れ込んだ葉が、水との物質交換や水流への抵抗の面で有利になる場合があります。
光の強さでも葉の大きさや形は変わる
日向と日陰では、葉が受ける光の量が大きく違います。同じ植物でも、日向で形成された葉と日陰で形成された葉では、葉の厚さ、大きさ、葉柄の長さなどが変化することがあります。
日陰では、限られた材料でできるだけ広い面積をつくり、弱い光を多く受けることが有利になる場合があります。一方、強い光の下では、葉を厚くし、単位面積当たりの光合成能力を高める方が有利な植物もあります。
この変化は必ずしも「輪郭」の違いだけではありません。葉の幅と長さの比、面積、厚さ、葉柄、切れ込みなど、複数の形態的特徴が組み合わさって変わります。
乾燥すると葉は小さくなるのか
水が不足すると、植物は細胞を十分に膨らませにくくなります。葉が発達している時期に強い乾燥を受けると、細胞分裂や細胞伸長が抑えられ、最終的な葉面積が小さくなることがあります。
小さな葉は、葉温を調節しやすく、全体として水を失う面積を抑える点で乾燥環境に適する場合があります。そのため、乾燥地では小型の葉を持つ植物が多く見られます。
ただし、「乾燥すれば必ず葉が小さくなる」とは限りません。多肉植物のように葉を厚くして水を蓄える戦略や、乾季に葉を落とす戦略などもあります。環境への対応方法は植物ごとに異なります。
植物ホルモンは環境情報を葉形へつなぐ
環境が葉の形へ影響するとき、その情報を細胞の成長へ伝える役割を植物ホルモンが担うことがあります。
異形葉性の研究では、アブシジン酸、エチレン、ジベレリン、オーキシンなどが葉形変化に関係することが報告されています。たとえば水中では、気体であるエチレンが植物体内に蓄積しやすくなり、そのシグナルが細胞分裂や伸長を変える場合があります。
Ludwigia arcuata の研究では、エチレンが細胞分裂面の方向を変えることを通じて、水中葉に特徴的な細い形の形成に関与することが示されています。
つまり植物は、環境を直接「形」に変えているのではなく、環境情報を受容し、ホルモンや遺伝子発現を介して細胞の成長方向を調節しています。
同じ植物でも葉の位置によって形が違うことがある
一本の植物の中でも、下の方の葉と上の方の葉では形が違うことがあります。この違いには環境だけでなく、植物の発達段階も関係します。
若い植物がつくる葉と、成熟した植物がつくる葉の違いは heteroblasty の代表例です。葉の切れ込み、葉柄の長さ、葉身の縦横比などが、節位が上がるにつれて段階的に変化する植物があります。
そのため、「上の葉は日当たりが違うから形が変わった」と単純に判断することはできません。葉の位置を比較するときは、光などの環境差に加えて、葉がつくられた発達段階も考える必要があります。
完成した葉は環境が変わると形を変えられるのか
葉がまだ若く、細胞分裂や伸長が活発な時期には、環境変化に応じて最終形を変えられる余地があります。しかし、葉が成熟して細胞の配置や葉脈、輪郭がほぼ完成すると、形を大きく作り替える能力は小さくなります。
そのため、植物を日陰から日向へ移したり、水中から陸上へ移したりしたときには、すでに完成している古い葉より、その後に形成された新しい葉の方に大きな形の違いが現れることがあります。
一方、成熟葉でも気孔の開閉、葉の向き、光合成酵素の量などは比較的短時間で調節できます。つまり、植物の環境応答には、すぐ変えられる生理的反応と、新しい器官をつくるときに現れる形態的反応があります。
環境による葉形変化は必ず「適応」なのか
環境に応じて形を変える性質は、その環境で光合成や水分利用を有利にすることがあります。そのため、多くの異形葉性は環境への適応として研究されています。
しかし、観察された葉形の違いをすべて「その環境に最適になるために変わった」と説明するのは慎重であるべきです。表現型可塑性には遺伝的な制約やコストがあり、ある環境で生じた変化が必ずしも適応的とは限らないことも指摘されています。
また、葉形は一つの機能だけで決まるものではありません。光を受ける効率、水分損失、温度調節、葉を支えるコスト、水流や風への抵抗など、複数の条件のバランスとして形成されます。
季節や環境による葉形の違いを観察するときのポイント
身近な植物で葉形の変化を調べる場合は、異なる植物種を混ぜず、同じ種類、できれば同じ個体を継続して観察するとわかりやすくなります。
| 比較する条件 | 観察するとよい点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 春の葉と夏の葉 | 長さ、幅、切れ込み、葉柄 | 葉齢をそろえる |
| 日向と日陰 | 面積、厚さ、縦横比 | 水分条件も違う可能性がある |
| 湿潤時と乾燥時に形成された葉 | 葉面積、厚さ、形 | 完成葉ではなく新葉を比べる |
| 水中葉と気中葉 | 幅、切れ込み、厚さ | 異形葉性を示す種で観察する |
| 下位葉と上位葉 | 輪郭、切れ込み、葉柄 | 発達段階の影響も考える |
写真を同じ倍率で残し、葉の長さや幅を測ると、感覚的な違いではなく数値で比較できます。また、一枚だけではなく複数の葉を比べることで、その植物に共通する変化かどうかを判断しやすくなります。
まとめ
同じ植物でも葉の形が季節や生育条件によって変わるのは、発達中の葉が温度、光、水分、冠水などの環境情報を受け取り、遺伝子や植物ホルモンを通じて細胞分裂・細胞伸長のパターンを変えるためです。
環境による葉形の可塑的な変化は異形葉性として研究され、水中と陸上、低温と高温、日向と日陰などで大きな違いが現れる植物があります。一方、植物の成長段階に応じて葉形が変わる heteroblasty もあり、環境による変化とは区別する必要があります。
また、成熟した葉が季節ごとに大きく形を変えるのではなく、多くの場合は新しい環境のもとで形成された新葉に違いが現れます。葉形を見るときは、季節、光、水分、温度だけでなく、葉齢や植物の発達段階も合わせて考えることが大切です。
参考文献・出典
- 日本植物生理学会「エチレンによる細胞分裂面の方向制御を介した可塑的な葉形変化」
- How Do Plants and Phytohormones Accomplish Heterophylly, Leaf Phenotypic Plasticity, in Response to Environmental Cues
- Mechanisms of the Morphological Plasticity Induced by Phytohormones and the Environment in Plants
- Mechanisms Underlying the Environmentally Induced Plasticity of Leaf Morphology

コメント