なぜ果実の落果には種類や環境による違いがあるのか?

結論からいうと、果実の落果に種類や環境による違いがあるのは、果実が枝から離れる「離層」の形成や働き方が植物ごとに異なり、その動きがエチレンやオーキシンなどの植物ホルモン、受粉・受精、種子の発達、果実同士の養分競争、さらに温度・日照・水分などの環境条件によって変化するからです。

落果というと、強風で実が落ちるような物理的な現象を思い浮かべやすいですが、果樹では外から大きな力が加わらなくても果実が自然に落ちることがあります。これは「生理的落果」と呼ばれ、植物の発育の一部として起こります。ただし、どの時期にどれくらい落ちるかは、リンゴ、カキ、モモ、カンキツなどで同じではありません。

目次

果実はどこから外れて落ちるのか

多くの果実では、果柄と枝の境目などに「離層」と呼ばれる特殊な細胞の層があります。落果が始まると、この部分で細胞同士をつなぐ細胞壁成分が分解され、果実を支える力が弱くなります。

離層は、単なる切れ目ではありません。果実が成長している間はしっかり結合を保ち、落果の合図が強くなると細胞分離を進めるように調節された組織です。ペクチンなど細胞同士を接着する物質の分解に関わる酵素が活性化すると、果柄が次第に外れやすくなります。

この離層の位置、形成時期、ホルモンへの反応性は植物によって異なるため、果実が落ちやすい種類と落ちにくい種類、成熟前に落ちやすい品種と樹上に残りやすい品種が生まれます。

エチレンは落果を進める重要なシグナル

果実の落果に深く関わる植物ホルモンの一つがエチレンです。エチレンは果実の成熟にも関わりますが、離層では細胞壁を弱める酵素の働きを促し、果実の離脱を進める方向に作用します。

カキを使った研究では、生理的落果とエチレン発生量の間に密接な関係が示されており、落果が進む過程でエチレンが重要な役割を持つことが確認されています。また、近年のレビューでも、成熟中の果実と離層の間でエチレン、オーキシン、アブシシン酸など複数のホルモンが相互作用しながら落果時期を調節すると整理されています。

ただし、「エチレンが多いほど必ず落果する」という単純な仕組みではありません。離層がエチレンに反応できる状態になっているかどうかが重要で、その感受性をオーキシンなど別のホルモンが調節しています。

オーキシンは果実を枝につなぎ止める側に働く

発育中の果実や種子から供給されるオーキシンは、多くの場合、離層がエチレンに敏感になりすぎるのを抑える方向に働きます。

果実が順調に成長している間は、果実から果柄を通してオーキシンが供給され、離層は分離しにくい状態に保たれます。しかし、果実の発育が止まったり、種子が正常に育たなかったりすると、オーキシンの供給や輸送が低下することがあります。すると離層のエチレン感受性が高まり、細胞分離が起こりやすくなります。

このため落果は、一つのホルモンだけで決まるのではなく、「果実から届く成長のシグナル」と「離層を外すシグナル」のバランスで決まると考えると理解しやすくなります。

受粉や種子の発達が不十分だと落果しやすいことがある

多くの果樹では、受粉・受精が成功して種子が発達すると、果実の成長を支えるホルモンシグナルが維持されます。そのため、受粉不良や受精不良が起こると、幼果が十分に発育せず、早い段階で落ちる場合があります。

カキでは、品種によって種子形成と着果安定性の関係が大きく異なります。種子ができることで果実保持が安定しやすい品種がある一方、単為結果性が強く、種子が少なくても果実を保ちやすい品種もあります。

つまり、同じ「カキ」でも落果のしやすさは同じではありません。受粉への依存度、単為結果する能力、種子から出るホルモンへの反応性など、遺伝的な違いが落果率の差につながります。

果実が多すぎると一部が落ちることがある

花が多数咲き、多くの幼果が一度に形成されても、樹がすべてを成熟まで育てられるとは限りません。葉が光合成で作る糖や、根から吸収する水・無機養分には限りがあるからです。

果実数が多いと、果実同士で炭水化物などを奪い合う状態になります。十分な同化産物を得られない幼果では成長が弱まり、種子や果実からのホルモンシグナルも変化し、結果として落果しやすくなる場合があります。

農業で行われる摘果は、この競争を人為的に調節する作業でもあります。果実数を適切に減らすことで、一つ一つの果実に十分な資源を回し、果実肥大や翌年の花芽形成とのバランスを整えます。

「ジューンドロップ」のように時期が決まった落果がある

果樹によっては、開花後しばらくして幼果がまとまって落ちる時期があります。英語では「June drop」と呼ばれる現象が知られていますが、実際の時期は地域や果樹によって異なります。

この時期の落果には、受精できなかった果実、種子の発達が止まった果実、成長競争で不利になった果実などが含まれます。植物側から見ると、成熟まで育てる果実数が調整される過程の一つとみなすことができます。

ただし、すべての果実が同じ一回の波で落ちるわけではありません。カンキツやモモなどでは、生育段階に応じて複数回の落果ピークが観察されることがあり、その原因も受精不良、栄養競争、種子の発達異常などで異なります。

日照不足は落果を増やすことがある

日照は、葉が光合成によって糖を作るために必要です。曇天が続いたり、樹冠内部が強く遮光されたりすると、果実へ供給できる炭水化物が減り、幼果の成長が不利になることがあります。

カキ「秋王」を用いた研究では、日照時間や遮光条件が生理的落果に影響することが示されています。光が不足すると、果実同士の資源競争が強まり、保持されにくい果実が増える可能性があります。

このため、同じ品種でも、梅雨時期に日照が少ない年、枝葉が混み合って樹冠内部が暗い樹、日当たりの悪い場所では、落果の程度が変わることがあります。

高温でも落果率が変わる

温度も果実の落果に影響します。温度は呼吸、光合成、果実成長、ホルモン生成、離層の活動など多くの生理反応を変えるためです。

ウンシュウミカンや「不知火」などを用いた研究では、満開後の平均気温を対照より2℃高くした条件で、生理落果が多くなる傾向が示されました。興味深いのは、高温条件では果実肥大が進んでいても落果率が高くなる場合があったことです。

つまり、「よく大きくなっているから落ちない」とは限りません。温度上昇によって果実の成長速度、呼吸による糖消費、ホルモン状態などが同時に変化し、離層を介した落果にも影響すると考えられます。

乾燥や水分不足も落果の原因になりうる

水分不足になると、植物は気孔を閉じて蒸散を抑えます。その結果、光合成が低下し、果実へ送られる糖も減ることがあります。また、水分不足そのものが植物にストレスシグナルを与え、アブシシン酸やエチレンなどのホルモン状態を変化させます。

乾燥が強い場合には、植物が葉や果実の一部を落とすことで水分消費を抑える方向に反応することがあります。一方、過湿や根の酸素不足も根の働きを弱めるため、落果につながることがあります。

そのため水管理では、多ければよい、少なければよいということではなく、その果樹と生育段階に合った水分状態を保つことが重要です。

強風による落果と生理的落果は仕組みが違う

台風や強風で果実が落ちる場合には、果柄が物理的に切れたり、枝が激しく揺れて離層部分に大きな力が加わったりします。これは主に機械的な力による落果です。

ただし、成熟が進んで離層がすでに弱くなっている果実は、同じ風でも落ちやすくなります。つまり、自然落果と物理的落果は完全に別々ではなく、果実がどの程度枝から離れやすい生理状態にあるかによって被害の出方が変わります。

品種によって果柄の太さ、果実重量、離層の発達時期などが違うため、風への耐性にも差が生まれます。

成熟前の落果と成熟時の落果は意味が違う

幼果期の生理的落果は、受精不良や資源競争などによって起こることが多いのに対し、成熟期の落果は、果実が熟して種子散布の段階に近づくことと関係します。

リンゴなど一部のクライマクテリック型果実では、成熟に伴ってエチレン生成が増え、それと同時に離層の活動も高まることがあります。収穫が遅れると果実が自然に落ちやすくなるのは、この成熟と落果の仕組みが連動しているためです。

一方、樹上で長く保持されやすい果実では、成熟しても離層がすぐには活性化しないことがあります。ここにも種類や品種による遺伝的な違いがあります。

落果しやすさは「種類」と「環境」の組み合わせで決まる

果実の落果は、種類だけでも環境だけでも説明できません。

植物種や品種は、離層の位置や形成時期、エチレンへの感受性、受粉や種子形成への依存度、果実の成熟様式などの基本的な性質を決めます。一方、日照、温度、水分、風、着果量などの環境や栽培条件は、それらの仕組みがどの程度働くかを変えます。

たとえば、もともと生理的落果が起こりやすい品種で日照不足や高温が重なると、落果がさらに増える場合があります。反対に、適切な受粉、樹冠管理、摘果、水分管理によって果実の発育条件を整えると、落果を減らせる場合があります。

まとめ

果実の落果に種類や環境による違いがあるのは、果実を枝から切り離す「離層」の働きが、植物ごとの遺伝的な性質と、そのときの生育条件の両方によって調節されているからです。

落果にはエチレンが重要な役割を持ち、発育中の果実から供給されるオーキシンは離層を外れにくい状態に保つ方向に働きます。受粉不良、種子の発達停止、果実同士の養分競争などによって成長シグナルが弱まると、幼果が落ちやすくなります。

さらに、日照不足、高温、乾燥などは光合成やホルモン状態を変え、生理的落果の量や時期に影響します。成熟期には、エチレン生成と離層の活性化が連動して収穫前落果が増える果実もあります。

つまり、果実の落果は単なる「実が弱くて落ちる」現象ではありません。植物が果実を育てる能力、種子の発達、成熟の進み方、周囲の環境を反映した複雑な生理現象なのです。

参考資料

関連記事

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次