植物の光合成には、最も効率よく進みやすい温度があります。しかし、その「適温」は一年中同じとは限りません。同じ植物でも、春の低温期と夏の高温期、日向で育った場合と日陰で育った場合、十分に水がある状態と乾燥状態では、光合成速度が最大になりやすい温度が変わることがあります。
その理由は、植物が周囲の温度に合わせて光合成装置を調整する「温度順化」を行うからです。さらに、葉の年齢、気孔の開き方、水分状態、呼吸、光呼吸なども季節とともに変化します。したがって、温度の影響は単に「何℃だから光合成が速い・遅い」と決まるのではなく、その葉がどのような環境で育ち、どのような生理状態にあるかによって変わります。
光合成には温度応答曲線がある
光合成に関わる反応の多くは酵素によって進みます。低温では酵素反応や電子伝達、糖代謝などが遅くなりやすいため、光合成速度も低くなります。温度が上がると反応は速くなり、ある範囲までは光合成速度も増えます。
しかし、温度を上げれば上げるほど光合成が増えるわけではありません。高温になると、C3植物では光呼吸の影響が強まり、呼吸による炭素消費も増えます。さらに高温では酵素や膜、光化学系がストレスを受けるため、光合成速度は低下します。
このため、光合成速度を温度に対して描くと、ある温度で最大になる山型の曲線になります。この最大付近の温度が光合成の最適温度です。ただし、その位置は固定ではなく、生育条件によって動きます。
植物は育った温度に合わせて最適温度を変える
植物は数日から数週間、ある温度条件にさらされると、光合成装置をその環境に合わせて調整します。これを温度順化といいます。
高温環境で育つと、高い温度でも光合成を維持しやすい方向へ酵素量や電子伝達、呼吸特性などが調節されることがあります。反対に低温環境で育つと、低い温度でも炭素固定を進めやすい方向へ変化します。
実際、樹木を対象とした研究では、光合成速度が最大になる最適温度が季節とともに変化し、夏に高温側へ移動する例が報告されています。つまり、植物は現在の温度にその場で反応するだけでなく、しばらく続いた生育温度を反映して光合成の仕組みを調整しているのです。
春と夏では、同じ葉でも温度への反応が違うことがある
春は気温が低く、葉が展開したばかりの時期には、光合成装置も発達途中です。若い葉ではRubiscoや電子伝達系、気孔調節などがまだ十分に成熟していないことがあります。
季節が進み気温が上がると、葉の成熟と温度順化が同時に進みます。そのため、春に15℃で測ったときと夏に15℃で測ったときでは、同じ植物でも光合成速度が違う場合があります。
さらに、春に形成された葉と夏に形成された葉では、葉がつくられたときの温度が異なります。植物によっては、新しい葉をその時期の温度に合わせた性質でつくることで、季節を通じて高い光合成能力を維持します。
葉の展開パターンによって温度順化の方法も変わる
すべての植物が同じ方法で温度順化するわけではありません。春に一斉に葉を展開する植物と、季節を通じて順次新しい葉を出す植物では、温度変化への対応方法が異なります。
順次新しい葉を出す植物では、その時期の温度に合わせた性質の葉を次々につくることができます。一方、春に展開した葉を長期間使う植物では、すでに完成した葉の酵素や代謝を調節して温度変化へ対応する必要があります。
ブナとケヤマハンノキを比較した研究では、両者とも光合成パラメータの最適温度に季節変化が見られましたが、葉の展開方法の違いによって光合成能力の維持の仕方が異なりました。季節変化への適応は、葉の寿命や葉のつくり方とも関係しています。
葉齢だけでも見かけの最適温度は変わる
季節による最適温度の変化をすべて「温度順化」と考えると、誤解が生じることがあります。野外では葉齢そのものが変化しているからです。
若い葉では気孔や光合成酵素が発達途中で、成熟すると能力が高まり、老化が進むとRubiscoやクロロフィルなどが減少します。こうした葉齢の変化によって、温度と光合成速度の関係も変わります。
近年の野外研究では、光合成の最適温度と生育温度の相関の一部が、若葉の低い気孔コンダクタンスや加齢による生理特性の変化でも説明できることが示されています。つまり、季節変化を正しく理解するには、温度順化と葉の発達・老化を分けて考える必要があります。
乾燥すると高温の影響が大きく見えることがある
夏は気温が高いだけでなく、空気が乾燥し、土壌水分も不足しやすくなります。植物は水を守るために気孔を閉じますが、気孔が閉じると葉内へ入る二酸化炭素(CO₂)が減ります。
その結果、高温による酵素反応の変化に加えて、CO₂不足によって光合成速度が低下します。温度応答曲線を測ると、乾燥による気孔閉鎖の影響が「高温で光合成が低下した」ように見えることがあります。
このため、野外で測定した光合成の最適温度は、生育温度だけでなく、葉の水分状態や空気の乾燥度にも左右されます。同じ30℃でも、水が十分な朝と乾燥した午後では光合成への影響が違うのです。
高温ではC3植物の光呼吸が増えやすい
C3植物では、RubiscoがCO₂だけでなく酸素とも反応します。温度が高くなると、CO₂固定に対して酸素との反応が相対的に増えやすくなり、光呼吸による炭素損失が大きくなります。
そのため、高温期には同じ量の光を受けていても、固定した炭素の一部を失いやすくなります。乾燥で気孔が閉じ、葉内CO₂濃度が低下すると、この影響はさらに強まります。
一方、植物は高温環境へ順化することで、Rubiscoの活性化や電子伝達、代謝の配分などを調整し、高温での光合成低下をある程度抑えることができます。ただし、極端な高温では順化だけでは対応できず、光合成装置そのものが損傷します。
呼吸の温度応答も季節によって順化する
植物の炭素収支を考えるときは、光合成だけでなく呼吸も重要です。呼吸は糖を分解してATPを得る反応で、一定の範囲では温度が高いほど速くなります。
もし夏に呼吸速度が高温のたびに大きく増え続ければ、昼に光合成で固定した炭素を夜に大量に失ってしまいます。そこで多くの植物では、長期間高温にさらされると呼吸速度も順化し、同じ測定温度で比べたときの呼吸速度が低くなる場合があります。
光合成の温度順化と呼吸の温度順化が組み合わさることで、植物は季節を通して正味の炭素獲得を調整しています。
冬の低温では「光があるのに使えない」状態が起こる
冬や早春の晴天では、葉は強い光を受ける一方で気温は低いことがあります。低温ではカルビン・ベンソン回路などの酵素反応が遅くなるため、光反応でつくられたエネルギーを十分に炭素固定へ使えません。
この状態では余剰エネルギーが生じ、光化学系を傷つける危険があります。そのため植物は、余った光を熱として逃がす非光化学消光などを強め、光合成装置を守ります。
常緑植物では冬も葉を残すため、低温に順化して炭素固定能力を調節すると同時に、光防御を強めることが重要です。つまり冬の低温順化は、光合成速度を高くするだけでなく、損傷を避けるための調節でもあります。
同じ温度でも日向葉と日陰葉では反応が違う
温度の影響は光条件によっても変わります。日向葉は強い光に順化し、電子伝達や炭素固定能力が高いことが多いため、適温下では高い光合成速度を示します。
一方、日陰葉では光そのものが制限になるため、温度を上げても光合成速度があまり増えない場合があります。つまり、温度が制限要因になるかどうかは、十分な光があるかによっても変わります。
さらに、強光と高温が重なると葉温が上がり、蒸散も増えます。日向と日陰では葉温や水分状態も異なるため、同じ気温でも光合成への影響が同じとは限りません。
CO₂濃度によって高温の不利が変わる
C3植物では、空気中のCO₂濃度が高いとRubiscoがCO₂と反応しやすくなり、光呼吸の相対的な影響が小さくなります。そのため、高CO₂条件では高温側でも光合成速度を維持しやすくなる場合があります。
反対に、葉内CO₂濃度が低いと、高温で光呼吸の影響が強く出やすくなります。乾燥時に高温の影響が大きくなるのは、気孔閉鎖によってCO₂が入りにくくなることも関係しています。
このように、光合成の温度応答は温度単独で決まるのではなく、光、水分、CO₂など他の条件との組み合わせで決まります。
季節によって変わるのは「最適温度」だけではない
植物が温度順化すると、光合成速度が最大になる温度だけでなく、同じ温度での最大カルボキシル化速度や電子伝達能力、呼吸速度、気孔応答なども変化します。
つまり、温度順化は温度応答曲線を横へずらすだけの単純な現象ではありません。光合成装置全体の能力配分を、その季節に多い温度条件へ合わせ直すことです。
| 季節・生育条件 | 温度の影響が変わる主な理由 |
|---|---|
| 春・若葉 | 葉や光合成装置が発達途中で、低温条件にも影響される |
| 夏・高温順化 | 酵素・電子伝達・呼吸などが高温に合わせて調整される |
| 夏・乾燥 | 気孔閉鎖でCO₂供給が減り、高温の不利が強く見えやすい |
| 秋・老化 | Rubiscoやクロロフィルが減り、温度応答そのものが変わる |
| 冬・低温 | 低温で炭素固定が遅くなり、光防御が強まる |
| 日向・日陰 | 光量、葉温、葉緑体・酵素能力が異なり、温度が律速になる程度が変わる |
まとめ
同じ植物でも光合成に適した温度が季節や育ち方によって変わるのは、植物が生育温度に合わせて光合成装置を順化させるからです。高温期には高温側で働きやすいように、低温期には低温でも機能しやすいように、酵素、電子伝達、呼吸、光防御などが調整されます。
ただし、野外で見える最適温度の変化は温度順化だけで決まりません。葉齢、気孔閉鎖、乾燥、光条件、CO₂濃度も温度応答を変えます。春の若葉、夏の乾燥した成熟葉、秋の老化葉では、同じ温度でも光合成速度が違うのはそのためです。
つまり、光合成の「適温」は植物に固定された一つの数字ではありません。その葉がどの季節に形成され、どんな温度・光・水分条件を経験してきたかによって変わる、動的な性質なのです。
参考資料
- 日本生態学会:開葉パターンが異なるブナとケヤマハンノキにおける光合成能力の温度応答性
- 日本森林学会:野外において光合成最適温度を変化させる生育温度以外の要因について
- Photosynthetic acclimation to changing environments
- The effect of increasing temperature on crop photosynthesis: from enzymes to ecosystems
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