植物の光合成は、温度によって大きく変わります。低温では酵素反応や電子伝達が遅くなり、高温では光呼吸や呼吸が増え、さらに極端な高温では光合成装置そのものが傷むことがあります。そのため、光合成には最も効率よく進みやすい温度範囲があります。
この温度反応は、植物の成長や繁殖に直接つながります。光合成が十分に進めば、葉・茎・根をつくるための糖や炭素骨格を多く供給できます。一方、温度が不適切で光合成が低下すると、成長に回せる資源が減ります。さらに繁殖期には、花粉形成、受粉、受精、果実・種子の発達も温度の影響を受けるため、光合成の適温と収量の適温が完全に一致するとは限りません。
光合成には温度応答曲線がある
光合成に関わる多くの反応は酵素によって進みます。低温では分子の動きや酵素反応が遅くなり、カルビン・ベンソン回路や電子伝達の速度が低下します。温度が上がると反応は速くなり、ある範囲までは光合成速度も増えます。
しかし、温度が高くなりすぎると光合成速度は低下します。C3植物では高温になるほどRubiscoが酸素と反応する割合が増え、光呼吸による炭素損失が大きくなります。さらに高温ではRubisco activaseなどの酵素機能、チラコイド膜、光化学系IIなども影響を受けます。
このため、光合成速度を温度に対して描くと、ある温度付近で最大になる山型の曲線になります。この最大付近が光合成の最適温度です。
最適温度から外れると、一日に得られる炭素が減る
植物の成長は、一瞬の光合成速度ではなく、一日・数週間・生育期間を通じてどれだけ炭素を獲得できたかで決まります。
低温で光合成が遅い日が続けば、糖やデンプンの生産量が減り、新しい葉や根をつくる材料が不足します。高温で光合成が低下する場合も同じで、葉から他の器官へ送れるショ糖が少なくなります。
温度ストレスが短時間なら植物は回復できることもありますが、長期間続けば、葉面積、根量、乾物重、果実成長などに差が積み重なります。温度が成長へ影響する理由の一つは、この「日々の炭素収支の積み重ね」です。
低温では光があっても炭素固定を十分に進められない
低温ではカルビン・ベンソン回路や糖代謝などの酵素反応が遅くなります。そのため晴れた寒い日には、葉が十分な光を受けていても、そのエネルギーを炭素固定へ使い切れないことがあります。
この状態では、余った光エネルギーが光化学系へ負担をかけます。植物は非光化学消光などを使って余剰光を熱として逃がし、光損傷を防ぎます。
つまり、低温下では「光が足りない」のではなく、「光を利用する後段の反応が遅い」ために光合成が制限される場合があります。この制限が続けば成長速度も低下します。
高温では光呼吸と呼吸が炭素収支を悪化させる
C3植物では、温度が高くなるとRubiscoがCO₂より酸素と反応しやすくなり、光呼吸が増えます。光呼吸は完全な無駄ではありませんが、炭素とエネルギーを消費するため、正味の光合成量を低下させます。
さらにミトコンドリア呼吸も一般に高温で速くなります。昼に固定した炭素のうち、呼吸によって消費される割合が増えるため、植物体に残る正味の炭素量は小さくなります。
その結果、高温では「光合成速度が下がる」だけでなく、「固定した炭素を呼吸で多く使う」という二重の影響によって、成長に回せる炭素が減ることがあります。
高温は空気を乾燥させ、気孔を閉じさせる
温度が上がると、空気が保持できる水蒸気量が増えます。実際の水蒸気量が同じなら、飽差(VPD)は大きくなり、葉から水が失われやすくなります。
植物は水分を守るために気孔を閉じます。しかし気孔が閉じるとCO₂も葉内へ入りにくくなります。そのため高温の影響は、酵素への直接作用だけでなく、乾燥と気孔閉鎖を通じて光合成を低下させる場合があります。
特に高温と土壌水分不足が同時に起こると、光合成と成長への影響は大きくなります。高温条件を考えるときには、水分環境を切り離せません。
植物は育った温度に合わせて光合成を順化させる
植物の光合成の最適温度は固定された一つの数字ではありません。一定期間、低温または高温で育つと、その生育温度に合わせて光合成装置を調節します。
日本植物生理学会の研究では、低温で栽培すると光合成の最適温度が低温側へ移ることが示されています。この温度順化には、RuBPカルボキシレーションとRuBP再生など、光合成を構成する複数の反応のバランス変化が関わります。
この順化によって、植物は季節や生育環境が変わっても、ある程度は炭素獲得を維持できます。ただし極端な温度では順化だけで対応できず、成長や繁殖が大きく低下します。
成長に適した温度と光合成に適した温度は同じとは限らない
光合成速度が最大になる温度で、植物体全体の成長が必ず最大になるわけではありません。成長には細胞分裂、細胞伸長、呼吸、養分吸収、糖輸送など多くの過程が関わり、それぞれの温度応答が異なるからです。
また、高温では発育速度が速くなり、葉が展開してから老化するまでの期間や、作物の生育期間が短くなることがあります。一日あたりの光合成が大きくても、生育期間が短くなれば、季節全体で固定できる炭素量が減る場合があります。
したがって、植物の成長を考えるときは、葉1枚の光合成速度だけでなく、葉面積、生育期間、呼吸、炭素配分まで含めて評価する必要があります。
繁殖は栄養成長より温度に敏感なことがある
植物の繁殖では、花芽形成、花粉形成、開花、受粉、受精、胚発生、種子・果実の成長など、多くの段階があります。これらの中には、葉の光合成よりも狭い温度範囲で正常に進む過程があります。
そのため、葉が光合成を続けられる温度でも、繁殖が失敗することがあります。高温や低温によって花粉が正常に形成されなかったり、花粉発芽や受精が阻害されたりすると、十分な光合成産物があっても種子はできません。
つまり、温度が繁殖へ及ぼす影響は、光合成による炭素供給だけでは説明できません。生殖器官自体の温度感受性も非常に重要です。
イネでは開花時の高温が不稔を起こすことがある
イネは開花期の高温に敏感な作物です。日本作物学会の総説では、開花時の高温によって受粉や花粉発芽などが阻害され、不稔が起こることが整理されています。
この影響は、葉の光合成が完全に止まるより低い温度域でも起こり得ます。つまり、植物体が見た目には元気で葉も光合成していても、開花の短い時間帯に高温を受けるだけで最終的な種子形成が大きく低下することがあります。
繁殖にとって重要なのは、生育期間の平均温度だけではありません。どの発育段階で、どの時間帯に高温へさらされたかも重要です。
トウガラシでも、高温は葉より果実生産に強く影響することがある
トウガラシ属植物の研究では、高温処理によって定植後の純光合成速度が大きく低下しない条件でも、果数や果重が減る例が報告されています。
これは、高温への耐性を葉の光合成だけで評価できないことを示しています。栄養成長器官と生殖成長器官では温度への感受性が異なり、落花や果実肥大の抑制が収量を左右する場合があります。
したがって、温度が成長や繁殖に重要なのは、光合成への影響と生殖器官への直接影響が重なって最終的な生産量を決めるからです。
高温はソースからシンクへの炭素輸送にも影響する
葉で光合成産物をつくれても、それを果実や種子へ運べなければ繁殖には結びつきません。高温ストレスは、ショ糖の輸送や代謝、師管の働きなどにも影響します。
成熟葉はソース器官として炭素を供給し、果実や種子はシンク器官として受け取ります。高温によってシンク側の成長や糖利用が低下すると、葉でつくられた炭素の行き先も変化します。
このため、収量は「葉の光合成能力」だけでなく、「炭素を運ぶ能力」と「果実・種子が受け取る能力」の温度応答にも左右されます。
低温も繁殖を妨げることがある
高温だけでなく、低温も繁殖に大きな影響を与えます。花粉形成や減数分裂、開花、受精などの段階で低温が続くと、不稔や種子形成不良が起こる植物があります。
低温では光合成による炭素供給も減りますが、それとは別に生殖細胞や花器官の発達が直接影響を受ける場合があります。
したがって、繁殖には「できるだけ低温」でも「できるだけ高温」でもなく、光合成と生殖発達の両方が正常に進む適切な温度範囲が必要です。
温度の影響は光・水・CO₂と組み合わせて決まる
温度は単独で作用するわけではありません。強光と低温が重なると余剰光が増え、強光と高温・乾燥が重なると気孔閉鎖によってCO₂不足が起こります。
また、大気中CO₂濃度が高い条件では、C3植物の光呼吸が相対的に抑えられ、高温の不利が一部緩和される場合があります。一方、水不足や栄養不足があると、高CO₂の効果を十分に利用できません。
植物の成長・繁殖にとっての「適温」は、光、水、CO₂、栄養、葉齢、発育段階との組み合わせで決まる動的な条件です。
温度が少し違うだけでも、生育期間全体では大きな差になる
温度による光合成速度の変化が一日では小さく見えても、数週間・数か月続けば、固定炭素量には大きな差が生まれます。
さらに温度は、発芽、葉の展開、開花、結実、成熟の速度も変えます。高温で発育が速くなりすぎると、葉が光合成できる期間や穀粒の登熟期間が短くなり、最終収量が低下することがあります。
このため、温度の影響は「その日の光合成速度」だけでなく、「植物がどれくらい長く光合成と生殖成長を続けられるか」という時間軸でも考える必要があります。
| 温度条件 | 光合成・成長・繁殖への主な影響 |
|---|---|
| 低温 | 酵素反応や電子伝達が遅く、炭素固定と成長が低下しやすい |
| 適温 | 光合成・呼吸・成長のバランスがよく、炭素獲得を維持しやすい |
| やや高温 | 光呼吸や呼吸、VPDが増え、正味の炭素獲得が低下する場合がある |
| 高温ストレス | 酵素・膜・光化学系が影響を受け、光合成と成長が低下する |
| 開花期の高温 | 受粉・花粉発芽・受精が阻害され、葉が光合成できても不稔になることがある |
| 長期的な生育温度変化 | 光合成の最適温度が順化するが、極端な温度には限界がある |
まとめ
光合成に適した温度が植物の成長や繁殖を左右するのは、温度が光合成酵素、電子伝達、気孔、光呼吸、呼吸を通じて正味の炭素獲得量を変えるからです。適温から外れると、葉・茎・根をつくる糖や炭素骨格の供給が減り、長期的な成長が抑えられます。
ただし、繁殖はさらに複雑です。葉が光合成を続けられる温度でも、開花、花粉形成、受粉、受精、果実・種子の発達が高温や低温に弱い場合があります。そのため、光合成の最適温度と、最終的な収量や繁殖成功の最適温度は必ずしも一致しません。
つまり、植物にとって重要なのは「光合成だけが最大になる温度」ではなく、光合成で十分な炭素を得ながら、成長と生殖発達を最後まで正常に進められる温度範囲です。温度は、炭素をつくる能力と次世代を残す能力の両方をつなぐ重要な環境条件なのです。
参考資料
- 日本植物生理学会:光合成系温度馴化の分子メカニズムの解析
- 日本作物学会紀事:開花期の高温によるイネの不稔
- The effect of increasing temperature on crop photosynthesis: from enzymes to ecosystems
- Temperature stress and plant sexual reproduction: uncovering the weakest links

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