なぜ磁性体は身近な技術で重要なのか?

磁石に鉄のクリップが付く一方で、銅やアルミニウムは同じようには強く引きつけられません。見た目はどれも金属なのに、磁場への反応が違うのは、材料の内部にある電子の磁気的な性質や、そのそろい方が異なるためです。

このように、磁場に対して何らかの磁気的な応答を示す物質を広い意味で磁性体と呼びます。磁性体には、強く磁化されるもの、わずかに磁場へ引かれるもの、逆にごく弱く押し返されるものなど、さまざまな種類があります。

結論から言うと、磁性体が身近な技術で重要なのは、材料を選ぶことで「磁場を強くする」「磁化を残す」「磁化をすばやく反転させる」「磁場の変化を電気信号として読む」といった機能をつくれるからです。永久磁石、モーター、変圧器、磁気センサー、ハードディスクや磁気メモリなどの性能は、使われる磁性材料の性質に大きく左右されます。

目次

磁性体とは磁場に反応する材料の総称

物質に外部から磁場を加えると、その内部には磁気的な応答が生じます。この応答の強さや向きは材料によって大きく異なります。

OpenStaxの大学物理では、物質の磁場への応答を理解する基本的な分類として、強磁性体、常磁性体、反磁性体が説明されています。強磁性体では内部の磁気的な向きが協力してそろいやすく、外部磁場を取り去ったあとも磁化が残る場合があります。常磁性体は外部磁場と同じ向きにわずかに磁化され、反磁性体は外部磁場と反対向きにわずかな磁化を生じます。

日常で「磁石に付く材料」として意識されるのは主に鉄などの強磁性材料ですが、磁性という現象そのものはより広い物質に存在します。そのため、磁性体という言葉を単に「磁石に強く付く物質」と考えると、磁気材料の多様性を見落としてしまいます。

強磁性体では磁区の向きが重要になる

鉄などの強磁性体の内部には、原子レベルの磁気的な向きがまとまった「磁区」と呼ばれる領域があります。一つの磁区の中では多くの磁気モーメントが同じ方向へそろっています。

磁化されていない状態では、複数の磁区が異なる方向を向いているため、材料全体として大きな磁化が現れないことがあります。外部磁場を加えると、磁場に沿った磁区が成長したり、磁気的な向きが回転したりして、材料全体の磁化が大きくなります。

この磁区の動きや磁化反転のしやすさは、磁性材料の性能を決める重要な要素です。物質・材料研究機構では、永久磁石材料の内部磁気構造を評価し、磁気特性との関係を調べる研究が進められています。強い永久磁石をつくるにも、磁化をすばやく反転させる材料をつくるにも、内部の磁気構造を理解する必要があります。

「磁化しやすい」と「磁化を保ちやすい」は同じではない

磁性材料を理解するときに大切なのが、磁化しやすさと、磁化を保持する性質を分けて考えることです。

外部磁場を加えると簡単に磁化され、外部磁場を取り除くと磁化が小さく戻る材料は、一般に軟磁性材料として利用されます。一方、いったん磁化すると、その向きを簡単には変えず、磁化を長く保つ材料は永久磁石に適しています。

つまり、技術では「最も磁気が強い材料」を一種類選べばよいわけではありません。繰り返し磁化を切り替えたいのか、それとも磁化を長期間維持したいのかによって、適した材料は変わります。

永久磁石では磁化を保つ性質が重要

永久磁石は、外部から電流を流し続けなくても磁場をつくり続けます。そのためには、材料内部の磁化が簡単に反転しないことが重要です。

NIMSは、ネオジム・鉄・ホウ素系などの永久磁石材料がハイブリッド車や電気自動車のモーターなどに広く使われ、高い磁気特性を持つ永久磁石がモーターの高効率化、小型化、省エネルギー化につながると説明しています。

永久磁石の性能は化学組成だけでは決まりません。結晶粒の大きさ、粒界、内部の磁区構造などの微細組織も、磁化を保つ能力に影響します。そのため、高性能磁石の研究では、材料を「何で作るか」だけでなく、「内部をどのような構造にするか」まで設計します。

軟磁性材料はモーターや変圧器で磁場を導く

永久磁石とは反対に、磁化の向きをすばやく変えたい装置では軟磁性材料が重要です。軟磁性材料は、外部磁場に応じて磁化しやすく、磁場を弱めたり逆向きにしたりすると磁化も変化しやすい材料です。

代表的な用途が変圧器、モーター、発電機、電磁石の鉄心です。コイルだけでも磁場はつくれますが、適切な軟磁性材料を鉄心として使うと、磁束を必要な経路へ導きやすくなります。

NIMSは、鉄基アモルファス合金などの軟磁性材料がトランスやモーターに広く利用されていると説明しています。これらの装置では交流や回転にともなって磁化方向が何度も変わるため、磁化反転に伴うエネルギー損失を小さくすることが重要です。

したがって、軟磁性材料では「磁化しやすいこと」だけでなく、「磁化を切り替えるたびに失われるエネルギーを少なくできること」も重要な性能になります。

モーターでは永久磁石と軟磁性体を組み合わせる

現代のモーターでは、異なる種類の磁性材料が役割分担しています。たとえば永久磁石モーターでは、強い磁場を維持する永久磁石と、磁束を通しやすい鉄心材料が組み合わされます。

永久磁石は磁場の源として働き、軟磁性の鉄心は磁場を効率よく回転子や固定子へ導きます。さらにコイルへ流す電流を制御し、磁場を時間的に変化させることで回転力を生み出します。

このように、モーターの性能は一つの磁石だけで決まるものではありません。永久磁石の保磁力や磁束密度、鉄心の磁化しやすさや損失、温度特性など、複数の磁性材料の性質を組み合わせて設計されます。

磁気センサーでは磁性材料の変化を信号に変える

磁性体は、力を発生させるだけでなく、磁場を測るためにも使われます。磁気センサーでは、外部磁場によって材料の電気抵抗などが変化する現象を利用し、その変化を電気信号として読み取ります。

NIMSの磁性・スピントロニクス材料研究センターでは、磁性体が示す磁気・電気・熱・機械的な性質や、それらの相関現象を利用し、磁気ストレージ、磁気センサー、熱流センサーなどの材料・デバイス研究が進められています。

自動車では回転位置や速度を検出し、スマートフォンでは方位を測り、工場では機械部品の位置を非接触で検出するなど、磁気センサーはさまざまな場所に使われています。ここでは磁性材料が、目に見えない磁場を電気的に読み取れる情報へ変換する役割を担います。

磁気記録や磁気メモリでは磁化の向きを情報として使う

磁性体の磁化方向は、情報を記録するためにも利用できます。ハードディスクでは、記録媒体の微小な領域の磁化状態を制御し、それを読み取ってデジタル情報として扱います。

また、MRAMなどの磁気メモリでは、磁性層の相対的な磁化方向によって電気抵抗が変わる性質を利用します。NIMSは、強磁性体を利用した磁気抵抗素子がハードディスクの読み取りヘッドや磁気ランダムアクセスメモリなどに応用されていると説明しています。

この用途では、「強く物を引きつけるかどうか」よりも、非常に小さな領域で磁化を安定に保持し、必要なときには確実に反転させ、電気信号として高精度に読み出せることが重要です。

磁性材料では性能を定量的に測る必要がある

磁性材料を製品に使うには、「磁石に付く」「強い磁石になる」といった感覚的な評価だけでは足りません。磁化、磁気感受率、保磁力、残留磁化、透磁率などの量を測り、必要な性能を定量的に確認します。

NISTは、永久磁石、軟磁性材料、ナノ磁性体、磁気冷凍材料など幅広い磁性材料について、磁気特性を定量的に測定するための計測技術や標準の研究を行っています。

磁性体の特性は、材料の組成や加工方法だけでなく、温度、形状、結晶構造、微細組織にも影響されます。同じ元素を含む材料でも、作り方が変われば磁気特性が変わることがあります。そのため、材料開発では測定と評価が欠かせません。

温度が変わると磁性も変化する

磁性は材料固有の不変な性質ではなく、温度によって変化します。強磁性体では、温度が高くなると熱運動によって磁気的な秩序が乱れ、ある温度を超えると強磁性を失う場合があります。この境界となる温度はキュリー温度と呼ばれます。

実際のモーターや電子機器では運転中に発熱するため、室温で高性能でも、高温で磁気特性が大きく低下する材料では用途が限られます。永久磁石には高温でも磁化を保つ能力が求められ、軟磁性材料には高周波や高温での損失を抑えることが求められる場合があります。

このように、磁性材料は使用環境まで含めて選ぶ必要があります。

すべての金属が磁石に強く付くわけではない

身近な誤解の一つに「金属は磁石に付く」というものがあります。しかし、銅やアルミニウムは日常的な永久磁石には鉄のように強く吸着しません。ステンレス鋼も種類や組織によって磁気的な性質が異なります。

これは、金属かどうかではなく、電子の磁気モーメントが材料内部でどのように振る舞うかが磁性を決めるからです。強磁性、常磁性、反磁性などの違いは、その物質が磁場にどう応答するかという物理的な性質の違いです。

そのため、磁気吸着や磁気センサーを設計するときには、見た目や材質名だけで判断せず、対象材料の磁気特性を確認する必要があります。

磁性体は「磁場を機能へ変える材料」

磁性体の重要性を一言で表すなら、「磁場を実用的な機能へ変える材料」だからです。

永久磁石では磁場を長く保ち、軟磁性材料では磁束を通しやすくして磁化を繰り返し変化させます。磁気センサーでは磁場の変化を電気信号へ変換し、磁気記録では磁化方向を情報として保存します。

同じ「磁性体」という大きな分類の中でも、必要とされる性質は用途ごとに反対になることさえあります。だからこそ、磁性材料の研究では、磁化の強さだけでなく、磁化のしやすさ、保持しやすさ、反転しやすさ、温度安定性、電気的な応答などを細かく設計します。

まとめ

磁性体とは、外部の磁場に対して磁気的な応答を示す物質です。強磁性体、常磁性体、反磁性体などがあり、それぞれ磁場への反応の仕方が異なります。特に強磁性材料では、内部の磁区や磁化の変化が実用上の重要な性質を生み出します。

永久磁石には磁化を保つ材料が、変圧器やモーターの鉄心には磁化を切り替えやすい軟磁性材料が適しています。さらに磁気センサーや磁気メモリでは、磁気と電気の相互作用を利用して測定や情報処理を行います。

磁性体が身近な技術で重要なのは、単に磁石に付くからではありません。材料ごとに異なる磁気特性を選び分けることで、磁場を「保持する」「導く」「変化させる」「読む」「記録する」といった多様な機能へ変換できるからです。

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