なぜ同じ粒子でも温度や味、時間でざらつきやなめらかさが違って感じるのか?

同じ大きさの粒子を含む食品でも、温度や味、口に入れてからの時間が違うと、「ざらつく」「なめらか」と感じる程度が変わることがあります。

実際、農研機構の研究では、同じ微結晶セルロース粒子を含む試料でも、高温や甘味の付加によって粒子感が弱くなり、クエン酸を加えた条件では嚥下後に粒子感が強くなるという時間差が観察されました。

つまり、食感は食品の物理構造だけで決まるのではありません。口の中での温度、味覚、唾液との混合、潤滑、舌と口蓋の動き、そして嚥下までの時間が重なって最終的な口中感覚が作られます。

目次

結論:粒子そのものが同じでも、口の中の温度・味覚・潤滑状態・経過時間が粒子の感じ方を変えるから

  • 高温では、同じ粒子を含む試料でも粒子感が弱くなる条件がある
  • 甘味を加えるだけでも、粒子感が弱くなり、なめらかさが高まることがある
  • 酸味では、口に入れた直後より嚥下後の方が粒子感が強くなる条件がある
  • 粒子感は舌と口蓋の接触だけでなく、喉の奥などでも時間差をもって知覚されることがある
  • 唾液との混合と潤滑状態が、ざらつきやなめらかさを左右する
  • 食品は口の中で絶えず構造が変わるため、食感も時間とともに変化する

そのため、「粒子の大きさが同じなら食感も同じ」とは限りません。

粒子感とは何?

粒子感は、食品中の細かな固体が舌や口蓋、粘膜に触れたときに感じる、ざらつきや粒っぽさの感覚です。

粒子が大きいほど感じやすい傾向はありますが、実際の知覚は粒径だけでは決まりません。

粒子の硬さ、形、濃度、食品全体の粘度、唾液との混ざり方、口腔表面との摩擦なども影響します。

農研機構の研究では何が分かったの?

2020年の研究では、ニンジンピューレと微結晶セルロース懸濁液を使い、温度や味・香りが粒子感となめらかさへ与える影響が調べられました。

ニンジンピューレでは、10℃、20℃、60℃の温度差や、砂糖・クエン酸の添加が比較されました。

微結晶セルロース懸濁液では、さらに「口に入れた直後」「口腔内で保持中」「嚥下後」という時間段階ごとに粒子感が評価されました。

この実験により、同じ粒子でも条件によって感じ方が変わることが示されました。

高温にすると粒子感が弱くなることがある

微結晶セルロース懸濁液では、60℃の高温条件で、20℃のコントロールより粒子感が有意に弱くなりました。

一方、10℃の低温条件では、粒子感に有意な差が見られませんでした。

つまり、温度効果は「冷たいほどざらつく、温かいほどなめらか」という単純な直線関係ではありません。

なぜ高温で粒子感が弱くなるの?

高温になると、食品全体の流れ方や口腔内での広がり方が変わります。

さらに唾液との混合、口腔表面との摩擦、舌と口蓋の接触条件も変化します。

粒子そのものが消えるわけではなくても、粒子が口腔表面へ伝える局所的な力の変動が小さくなれば、ざらつきは弱く感じられます。

口腔トライボロジーのレビューでも、なめらかさやざらつきは単純な粘度だけではなく、食品と口腔表面の摩擦状態と関係すると整理されています。

甘味を加えるだけでも粒子感が変わる

同じ農研機構の研究では、砂糖を加えた試料で粒子感が低下しました。

ニンジンピューレのうち粒子を感じやすい粗い条件では、砂糖添加によってなめらかさの評価も高まりました。

重要なのは、粒子そのもののサイズを変えていないのに、味を加えただけで食感評価が変わったことです。

なぜ甘味でなめらかに感じるの?

味覚と食感は脳内で完全に独立しているわけではありません。

甘味は「まろやか」「やわらかい」といった食品経験と結び付きやすく、同じ物理刺激でも全体の口中感覚を変えることがあります。

また、砂糖を加えると液体の物性もわずかに変化するため、感覚統合と物性変化の両方が関係する可能性があります。

研究結果だけから心理的要因と物理的要因を完全に切り分けることはできません。

酸味では、時間がたってから粒子感が強くなることがある

クエン酸を加えた微結晶セルロース試料では、口に入れた直後より、嚥下後の方が粒子感が強く評価されました。

これは、粒子感が口に入れた瞬間だけで決まる感覚ではないことを示しています。

味覚が先に強く知覚され、少し遅れて粒子感へ注意が向く可能性や、嚥下後に喉の奥など別の部位で粒子を感じる可能性が考えられます。

「口に入れた直後」と「嚥下後」で食感が違うのはなぜ?

食品は口の中へ入った瞬間から変化し続けます。

舌で広げられ、唾液と混ざり、温度が変わり、粒子同士の距離や食品全体の粘度も変化します。

嚥下へ向かうにつれて食塊が形成され、舌と口蓋だけでなく咽頭周辺でも感覚刺激が起こります。

そのため、食感は一つの瞬間の静的な性質ではなく、口腔内処理の時間経過とともに変化する動的な知覚です。

海外レビューでも、食感は動的に作られるとされている

食品口腔処理のレビューでは、食品構造は咀嚼や舌運動によって継続的に壊れ、唾液の潤滑作用と混合によって食塊へ変換されると整理されています。

その間に、硬さ、ざらつき、なめらかさ、粘着性など複数の感覚が段階ごとに現れます。

つまり、「食べる前の食品構造」と「食べている途中で感じる食感」は同じものではありません。

なめらかさは粘度だけでは決まらない

なめらかさやクリーミーさは、食品が流れやすいかどうかだけでは決まりません。

口腔トライボロジーでは、舌・口蓋などの表面間に食品がどのような薄膜を作り、どれくらい摩擦を減らすかが重要です。

摩擦が小さい条件では、同じ食品でもよりなめらかに感じられることがあります。

このため、温度や唾液で潤滑状態が変わると、粒子サイズが同じでも口当たりが変化します。

唾液は食感をどう変えるの?

唾液は食品を薄めるだけでなく、粒子を包み、食塊をまとめ、口腔表面を潤滑します。

時間がたつほど唾液との混合が進むため、粒子が直接口腔表面へ当たる状態から、唾液や食品成分に包まれた状態へ変化します。

その結果、同じ粒子でも「ざらつき」が弱くなったり、逆に嚥下後の残留粒子が目立ったりすることがあります。

機械測定と人の食感評価が一致しないこともある

農研機構の研究では、低温のニンジンピューレで機器測定上の硬さや付着性は高くなりました。

しかし、人が感じた粒子感やなめらかさには有意差が見られませんでした。

一方、高温や砂糖添加では機器測定値に大きな差がなくても、なめらかさ評価が高まる条件がありました。

つまり、機械が測る硬さや粘度だけでは、人の口中感覚を完全には予測できません。

香りは粒子感を変えなかった条件もある

同研究では、バニラエッセンスやレモンエッセンスを加えても、微結晶セルロースの粒子感に有意な変化は見られませんでした。

味や温度は食感評価を変えた一方、香りは同じようには作用しなかったわけです。

この結果からも、すべての感覚刺激が食感へ同じように影響するわけではないことが分かります。

粒子を感じやすい食品ほど影響が出やすい

ニンジンピューレでは、破砕が粗く粒子を感じやすい条件ほど、高温や甘味によるなめらかさ増加が目立ちました。

もともと非常になめらかな食品では、温度や味によって変化できる余地が小さい可能性があります。

つまり、温度や味の影響は、食品がもつ基礎的な粒子感の強さにも依存します。

同じ温度でも食品によって結果が違う

温度変化が食感へ与える影響は、食品マトリクスによって異なります。

ピューレ、乳化食品、ゲル、スープ、クリームでは、温度が粘度や脂肪、粒子同士の相互作用へ与える影響が違います。

したがって、60℃で粒子感が弱くなった一つのモデル系の結果を、すべての食品へそのまま当てはめることはできません。

食感は「時間を含めて測る」必要がある

従来の官能評価では、一口食べた後に一つの数値で食感を答える方法がよく使われます。

しかし、粒子感が嚥下後に強くなるような現象は、一つの時点だけでは見逃されます。

そのため、口に入れた直後、咀嚼中、嚥下前、嚥下後など、時間段階ごとに評価する方法が重要です。

食品開発ではなぜ重要なの?

ピューレ、スープ、介護食、乳製品、ソースなどでは、ざらつきやなめらかさが食べやすさと好ましさへ大きく影響します。

粒径だけを小さくするのではなく、提供温度、甘味や酸味、粘度、唾液との混ざり方まで考えることで、より好ましい食感を設計できる可能性があります。

特に嚥下調整食品では、嚥下後に残る粒子感も含めて評価することが重要です。

まとめ

同じ粒子でも、温度や味、時間によってざらつきやなめらかさが違って感じられることがあります。

農研機構の研究では、高温や甘味によって粒子感が弱くなり、粗いニンジンピューレではなめらかさが高まりました。一方、クエン酸添加では嚥下後に粒子感が強くなるという時間差が見られました。

この違いには、食品の流動性、口腔表面との摩擦、唾液による潤滑、食塊形成、味覚との多感覚統合などが関係します。

つまり、食感は食品の粒子サイズだけで決まる静的な性質ではなく、口の中で温度・味・唾液・動き・時間が重なって作られる動的な感覚なのです。

参考資料

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