飲み物を凍らせると、液体だった水分が固体の氷へ変わります。このとき起きているのは、単に水分子の動きが止まることではありません。水分子どうしの水素結合が組み替わり、規則性を持つ三次元の結晶ネットワークがつくられています。
常圧付近で私たちが普段目にする氷の多くは「氷Ih」と呼ばれる六方晶系の氷です。そこでは、1個の水分子のまわりにほぼ四面体状に4個の隣接水分子が配置され、水素結合のネットワークをつくります。
つまり飲み物の氷の「仕組み」を理解するには、何℃で凍るかだけでなく、液体の水分子がどのような結合と配置へ組み替わって固体になるのかを見ることが重要です。
水分子はどんな形をしているの?
水分子H2Oは、1個の酸素原子と2個の水素原子からできています。
分子全体では、酸素側がやや負、水素側がやや正に偏った極性を持っています。この電荷の偏りによって、ある水分子の水素原子と、別の水分子の酸素原子との間に引力が働きます。
この分子間の引力が水素結合です。
水素結合は、水が液体であるときにも存在しています。しかし液体中では、水分子は絶えず移動し、水素結合も切れたりつながったりしながら短時間で組み替わっています。
液体の水と氷では何が違うの?
液体では水素結合のネットワークが絶えず変化する
液体の水でも水分子どうしは水素結合していますが、熱運動によって分子の位置や向きは絶えず変化しています。
そのため、局所的には氷に似た四面体状の配置があっても、液体全体として長距離にわたる規則正しい結晶構造にはなっていません。
氷では水素結合ネットワークが結晶として広がる
温度が下がって氷が安定になる条件では、水分子はより規則的な位置関係をとり、水素結合を通じた結晶格子を形成します。
2023年の氷構造に関する日本のレビューでは、氷に特徴的な局所構造として、水素結合で結ばれた四面体状の構造単位が挙げられています。
海外の氷構造レビューでも、多くの氷相で1個の水分子が4本の水素結合をつくり、四面体状の局所配位を形成することが、氷の多様な結晶構造の基本とされています。
普段の飲み物にできる氷はどんな結晶なの?
常圧では主に氷Ihができる
氷には実は多数の結晶構造があります。
2025年の「氷の科学」の解説では、温度や圧力によって20種類近い氷の多形が知られていることが紹介されています。
しかし、家庭の冷凍庫や一般的な飲料の凍結のような常圧付近の条件で主にできるのは、氷Ihと呼ばれる構造です。
氷Ihでは、水分子の酸素原子が六角形を含む三次元ネットワークをつくり、水素結合によって互いにつながっています。
雪の結晶に六角形の対称性が現れやすいことも、この氷Ihの結晶構造と深く関係しています。
なぜ氷では1個の水分子のまわりに4個の水分子が集まるの?
水分子は、水素結合の「与え手」と「受け手」の両方になれます。
1個の水分子には2個の水素原子があり、それぞれが隣の水分子へ水素結合を与えることができます。また、酸素原子側では2方向で水素結合を受け取ることができます。
そのため氷では、1個の水分子が周囲の4個の水分子と水素結合しやすくなり、ほぼ四面体状の配置が基本単位になります。
この「4方向へつながる」という性質が、氷の結晶格子に空間的な広がりを与えています。
氷が水より軽いのは、この構造と関係するの?
大きく関係します。
多くの物質は液体から固体になると分子がより密に並び、密度が高くなります。しかし水では、氷Ihになると水素結合による四面体状ネットワークが発達し、分子どうしの間に比較的大きな空間を含む構造になります。
このため常圧の氷は液体の水より密度が小さく、水に浮きます。
飲み物を凍らせると体積が増えるのも、この疎な結晶構造がつくられることと関係しています。
したがって、容器いっぱいに入れた飲料を凍らせると、膨張によって容器へ力がかかる場合があります。
氷の中の水素原子は完全に規則正しく並んでいるの?
酸素原子の位置には結晶としての規則性がありますが、通常の氷Ihでは水素原子の向きまで完全に一通りにそろっているわけではありません。
水素結合ネットワークでは、各酸素の近くに2個の水素があり、酸素どうしを結ぶ水素結合上では一定の規則を満たしながら、水素の配置には多数の組み合わせがあります。
こうした特徴は「アイスルール」と呼ばれ、氷の構造を理解する重要な考え方です。
日本鉱物科学会の研究でも、氷の構造を水素結合ネットワークとして表すことで、アイスルールやさまざまな氷構造を整理できることが示されています。
氷はどのように大きな結晶へ成長するの?
最初に安定した小さな氷の核ができると、その表面へ周囲の水分子が次々に取り込まれます。
取り込まれた水分子は、すでにある氷結晶の構造に合う向きへ配置され、水素結合ネットワークの一部になります。
こうして結晶の表面が外側へ伸び、氷結晶が成長します。
実際の飲み物では、糖や塩、有機酸、タンパク質などが含まれているため、すべての成分が氷結晶へ同じように取り込まれるわけではありません。多くの溶質は氷格子へ入りにくく、残った液体側へ押し出されます。
そのため、氷結晶の成長は「水だけが固まる」現象ではなく、周囲の液体の組成も変えながら進みます。
砂糖や塩は氷の結晶構造そのものになるの?
通常の濃度では、砂糖や塩の多くは水分子がつくる氷Ihの格子そのものには入りにくい成分です。
水分子が規則的な氷格子をつくる一方、溶質は未凍結部分へ集まりやすくなります。
このため飲み物が部分的に凍ると、氷の部分は比較的水に富み、残った液体は糖や酸などが濃縮された状態になります。
ただし、溶質は氷の「外」にあるだけではありません。氷結晶の表面や成長界面、未凍結液相の性質を変えることで、結晶の成長速度や形、大きさへ影響します。
氷結晶の形や大きさは何で変わるの?
氷結晶の基本的な分子構造が同じでも、目に見える結晶の形や大きさは凍結条件で変わります。
凍結食品に関する研究では、熱がどの方向へどの速さで移動するか、水が凍結界面へどれだけ移動できるかによって、氷結晶の形や大きさが変化します。
冷却条件によって細かな結晶が多数できる場合もあれば、少数の結晶が大きく成長する場合もあります。
食品工学では、氷結晶の大きさや再結晶化が食感や品質へ大きく影響するため、凍結速度や保存温度の制御が重要です。
一度できた氷結晶は、そのまま変わらないの?
変わることがあります。
凍結した状態でも、温度が変動すると小さな氷結晶が溶けたり、その水が別の大きな結晶へ移動したりして、結晶が粗大化することがあります。これを再結晶化といいます。
2018年の食品工学の研究では、凍結糖溶液中の氷結晶の再結晶化速度が、凍結濃縮相に残る水の運動性と深く関係することが示されています。
そのため、冷凍飲料やフローズンドリンクでも、保存中の温度変動によって氷が粗くなり、口当たりが変わることがあります。
透明な氷と白い氷は分子構造が違うの?
白く見える氷が、必ず別の結晶構造になっているわけではありません。
家庭で作った氷が白く見える主な理由には、凍結中に溶けていた空気や微細な気泡、ミネラルなどが氷の内部へ閉じ込められ、光を散乱することがあります。
透明度は、凍結方向や凍結速度、溶存気体、溶質の量などによって変わります。
つまり、透明か白いかという見た目と、氷Ihという基本的な分子結晶構造は分けて考える必要があります。
氷には本当にいろいろな種類があるの?
あります。
水は、水素結合で多様なネットワークを作れるため、圧力や温度を大きく変えると、氷Ihとは異なる結晶構造を形成します。
2023年のレビューでは、氷の多形やアモルファス氷の構造多様性が、水素結合ネットワークや四面体構造の観点から整理されています。
ただし、高圧下で生じる氷VIや氷VIIなどは、家庭の飲み物を冷凍するときに通常できる氷とは条件が大きく異なります。
日常の飲み物を考えるときは、まず常圧付近で形成される氷Ihの構造を理解すれば十分です。
氷の分子構造を知ると何が分かるの?
氷の構造を知ると、なぜ水が凍ると膨張するのか、なぜ氷が水に浮くのか、なぜ凍結時に溶質が液体側へ濃縮されるのかを理解しやすくなります。
また、氷結晶の成長や再結晶化を制御することは、アイスクリーム、シャーベット、冷凍果汁、冷凍食品などの口当たりや品質保持にもつながります。
つまり氷の「構造」は、結晶学だけの話ではなく、飲み物のおいしさや保存性にも関係する基礎的な仕組みです。
まとめ
飲み物の氷は、液体の水分子が単に動かなくなってできるのではありません。
水分子どうしの水素結合が規則性を持ってつながり、常圧付近では主に氷Ihと呼ばれる結晶構造を形成します。1個の水分子のまわりにはほぼ四面体状に4個の水分子が配置され、この三次元ネットワークが氷の基本構造になります。
この構造は液体水より疎なため、氷は水より密度が低く、水に浮きます。飲み物を凍らせたときの体積増加にも関係します。
さらに実際の飲み物では、糖や塩などの溶質が氷格子へ入りにくいため、氷の成長とともに未凍結液体へ成分が濃縮されます。保存中には氷結晶の再結晶化も起こります。
つまり飲み物の氷の仕組みは、温度だけでなく、水分子の水素結合がどのような結晶ネットワークをつくり、その結晶がどのように成長・変化するかという分子構造から理解できるのです。
関連記事
参考資料
- 川本竜彦「氷の科学」化学と教育
- 小松一生「氷の結晶多形およびアモルファス氷の構造多様性と水素結合」高圧力の科学と技術
- Open questions on the structures of crystalline water ices
- 萩原知明「凍結食品中の氷結晶成長の予測と制御」日本食品工学会誌

コメント