シャツやブラウスを着たあと、ひじや腰まわりに折れ目が残ったり、洗濯後の衣服に細かな線ができたりすることがあります。こうした「しわ」は、布が押されたり曲げられたりしたあと、元の形へ十分に戻れず、変形が残ることで生じます。
衣服にはしわが「必要」なわけではありません。しわは、着る、座る、折りたたむ、洗う、脱水する、乾かすといった日常の動作の中で、布へ力と水分が加わることで生じやすい現象です。
特に綿のようなセルロース系繊維では、水分によって繊維内部の分子どうしの結びつきが変わりやすく、変形した状態で新しい結びつきができると、その形がしわとして残りやすくなります。つまり、衣服のしわは「布が一度変形し、その後どれだけ元へ戻れるか」という回復性の問題なのです。
しわは「布の変形が残った状態」
布へ力を加えると、糸や繊維は曲がったり、ずれたり、圧縮されたりします。力を取り除いたとき、完全に元へ戻れば目立つしわは残りません。
しかし、変形の一部が残ると、表面に凹凸や折れ線として現れます。これが衣服のしわです。
日本規格協会のJIS L 1059-1:2024では、布を折り畳んで一定の荷重を与えたあと、どれだけ角度が回復するかを測ることで防しわ性を評価します。またJIS L 1059-2:2024では、しわを付けたあとの外観から回復性を評価します。
このように、しわの出やすさは見た目だけの問題ではなく、布が変形後にどれだけ形を取り戻せるかという測定可能な性能です。
着用中は、座る・曲げる・押さえる動作でしわが生まれる
衣服を着ていると、布には常に力が加わっています。
ひじを曲げれば袖が折れ、椅子に座れば腰や太ももの布が圧縮されます。腕を組んだり、バッグを肩に掛けたりすると、同じ場所が長時間押されることもあります。
このとき、布の糸や繊維が一時的に曲がるだけなら元へ戻りますが、長時間力が続いたり、水分や熱が加わったりすると、変形が残りやすくなります。
そのため、衣服のしわは「洗濯したときだけ」できるのではなく、着用中の姿勢や動作によっても生じます。
洗濯では、力と水分が同時に加わる
洗濯中の衣服は、水を含んだ状態で回転し、ねじれ、押され、他の衣類と接触します。脱水ではさらに強い圧力や折れ曲がりが加わることがあります。
乾いた布より、水分を含んだ布のほうが繊維内部の構造が動きやすくなる場合があります。その状態で折れ曲がると、乾燥後まで形が残りやすくなります。
特に綿では、吸湿・吸水によってセルロース分子間の結びつきが変化し、外力による分子鎖のずれが起きやすくなります。そのため、洗濯から乾燥までの間にできた折れや圧縮が、しわとして固定されることがあります。
綿がしわになりやすいのは、セルロースの構造が関係する
綿の主成分はセルロースです。セルロースは長い分子鎖からできており、分子鎖どうしは水素結合などによって支えられています。
近年の天然繊維の防しわ加工に関するレビューでは、綿では外力によって水素結合が切れ、分子鎖がずれたあと、新しい位置で結合ができると、元の形へ戻りにくくなり、しわにつながると整理されています。
特に水分を含むと、セルロースの非晶領域へ水分子が入り、繊維が膨潤します。これによって分子鎖どうしの結びつきが弱まり、ずれが起きやすくなります。
そのため、綿は吸湿性や肌触りに優れる一方、条件によってはしわが残りやすい性質も持っています。
水分は、綿のしわを固定しやすくする
綿の衣服を湿った状態で丸めたり、洗濯後に長時間重なったまま置いたりすると、しわが強く残ることがあります。
これは、水分によってセルロース分子の動きが起こりやすくなり、変形した位置で新しい結びつきが形成されやすくなるためです。
Textile Research Journalの研究でも、綿布のしわ感受性は水分量の変化に強く影響され、湿潤状態や乾燥過程がしわ形成と回復に関係することが示されています。
つまり、水そのものが「しわを作る」のではなく、水分が繊維内部の構造を動きやすくし、その状態で外力が加わることで、変形が残りやすくなるのです。
乾燥すると、変形した形が残ることがある
洗濯後の綿布が、しわのある状態で乾くと、その形が残りやすくなります。
水分が減る過程で、セルロース分子どうしが再び結びつきます。このとき、分子鎖が元の位置へ完全に戻らず、ずれた位置で新しい結合が形成されると、布全体では折れやしわとして現れます。
そのため、洗濯物を干す前に軽く振ったり、形を整えたりすると、強い折れを伸ばした状態で乾かしやすくなります。
衣服のしわは、洗濯中だけでなく「どの形で乾いたか」にも左右されます。
しわの出やすさは繊維の種類によって違う
すべての繊維が同じようにしわになるわけではありません。
綿や麻のようなセルロース系繊維は、水分を取り込みやすく、分子鎖の結びつきが変化しやすいため、しわが残りやすい傾向があります。
一方、ポリエステルなどの合成繊維は、綿とは分子構造や吸湿性、弾性回復の性質が異なり、日常の着用や洗濯では比較的しわが残りにくい場合があります。
ただし、「合成繊維なら絶対にしわにならない」という意味ではありません。高温、強い圧力、布構造、加工条件などによっては、合成繊維でも折れや変形が残ります。
糸や布の構造もしわの出方を変える
衣服のしわは、繊維の種類だけでなく、糸の太さ、撚り、織り方、編み方、布の厚さなどにも影響されます。
薄く柔らかい布は、小さな力でも変形しやすい一方、変形が分散されて目立ちにくい場合もあります。厚く硬い布は折れ線がくっきり残ることがあります。
また、織物と編物では、糸の交差や伸縮の仕方が異なるため、同じ繊維を使っていても、しわの出方や回復性が変わります。
そのため、衣服の「しわになりやすさ」は素材表示だけで判断できず、生地構造まで含めて決まります。
同じ綿でも、防しわ加工で回復性を高められる
綿のしわを減らすために、繊維内部の分子鎖がずれにくくなるよう加工する方法があります。
防しわ加工では、セルロース分子鎖の間へ架橋を作り、外力が加わっても分子鎖が自由に移動しにくくする考え方が使われます。
J-STAGEに掲載された改質綿布の研究では、通常の綿布と比べて、改質綿布では乾燥時・湿潤時ともにしわ回復性が改善していました。
近年の防しわ加工研究でも、セルロース分子鎖の移動を制限することで綿布のしわ回復性を高める方法が広く検討されています。
防しわ加工には、別の性能とのバランスもある
しわを減らす加工には利点がありますが、性能を一つだけ見ればよいわけではありません。
繊維へ強い架橋を作ると、分子鎖が動きにくくなる一方、加工条件によっては布の強度、柔らかさ、吸水性などへ影響することがあります。
そのため、防しわ加工では、しわ回復性を高めながら、着心地、耐久性、洗濯性などをどこまで保てるかが重要です。
「まったくしわにならないこと」だけを目標にするのではなく、用途に必要な程度のしわ回復性を持たせることが現実的です。
プリーツとしわは、どちらも布の形が残る現象
スカートのプリーツのように、意図的に折り目を付けた衣服もあります。
プリーツと不要なしわは、見た目の目的は違いますが、「布へ形を与え、その形を保持させる」という点では共通しています。
パーマネントプレス加工織物の研究では、防しわ性だけでなくプリーツ保持性も評価されており、布が変形から回復する性質と、意図した折り目を維持する性質の両方が衣服設計で重要であることが分かります。
つまり、布の形が残る性質そのものが悪いのではなく、必要な折り目は残し、不要なしわは戻りやすくすることが衣服では求められます。
アイロンでしわが伸びるのは、熱と水分で形を整え直すから
アイロンは、熱と圧力を利用して布を平らな形へ整えます。スチームを使うと水分も加わります。
綿などでは、水分と熱によって繊維内部の結びつきが動きやすくなり、その状態で布を平らに押さえると、分子鎖や糸の配置を新しい形へ整えやすくなります。
その後、冷えて乾くと、平らに近い状態が保たれます。
これは、洗濯中にしわが固定される仕組みを逆向きに利用して、布の形を整え直していると考えることができます。
乾燥機や高温でも、しわの出方は変わる
乾燥機では、衣服が回転しながら熱と風を受けます。衣類が自由に動けば、折れが固定されにくくなる場合がありますが、詰め込みすぎたり、乾燥後に長時間丸まった状態で放置したりすると、しわが残ることがあります。
また、熱に弱い合成繊維では、高温で強い折れや圧力が加わると変形が残る場合があります。
そのため、衣服ごとの洗濯表示や乾燥条件を守ることが重要です。
しわを減らすには、洗濯後の扱いが重要
家庭でしわを減らしたい場合、素材を変える以外にもできることがあります。
脱水後に衣服を長時間洗濯機の中へ置かず、早めに取り出して形を整えると、強い折れが固定されにくくなります。干す前に軽く振ったり、縫い目や襟、袖を伸ばしたりすることも有効です。
ハンガーへ掛けると、自重によって一部のしわが伸びることがあります。必要に応じてスチームやアイロンを使えば、さらに形を整えられます。
ただし、温度やスチームの可否は繊維によって異なるため、洗濯表示を確認する必要があります。
「しわになりにくい服」は、素材・構造・加工の組み合わせで作られる
衣服のしわ対策は、一つの方法だけで決まりません。
しわ回復性の高い繊維を使う、ポリエステルなどを混紡する、生地構造を工夫する、防しわ加工を施すなど、複数の方法があります。
ISO 9867:2022は、人工的にしわを付けた後の布の外観から、しわ回復性を評価する国際規格です。ISO 2313-1:2021では、折り畳みじわからの回復角を測る方法が定められています。
このように、しわになりにくさは衣服の設計性能の一つとして評価され、素材や加工の改良に利用されています。
生活の中では、しわの少なさと着心地の両方を見る
しわになりにくい衣服は、アイロンがけや見た目の手入れを減らしやすいという利点があります。
一方、綿のように吸湿性や肌触りを重視したい場合、多少のしわが出やすくても、その素材を選ぶ価値があります。
また、カジュアル衣料では自然なしわ感をデザインとして生かすこともあります。
そのため、衣服を選ぶときは「しわにならないこと」だけを基準にせず、肌触り、吸湿性、乾きやすさ、手入れのしやすさ、見た目などを合わせて考えることが大切です。
まとめ
衣服にしわができるのは、着用、洗濯、脱水、乾燥などで布が曲げられたり圧縮されたりし、その変形が十分に元へ戻らないからです。
特に綿では、水分によってセルロース分子どうしの結びつきが変わりやすくなり、外力で分子鎖がずれたあと、新しい位置で結合ができると、その形がしわとして残りやすくなります。
しわの出やすさは、繊維の種類だけでなく、湿度、生地構造、加工、洗濯や乾燥の方法にも左右されます。つまり、衣服のしわは「必要な機能」ではなく、布が受けた力と水分、そして元へ戻ろうとする回復性のバランスによって生じる現象なのです。
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参考資料
- 日本規格協会「JIS L 1059-1:2024 繊維製品の防しわ性試験方法-第1部」
- 繊維製品消費科学「改質綿布の防しわ性に関する2,3の実験」
- ISO 9867:2022 Textiles — Evaluation of the wrinkle recovery of fabrics — Appearance method
- ISO 2313-1:2021 Textiles — Determination of the recovery from creasing of a folded specimen of fabric
- Advances in Anti-Wrinkle Finishing Agent for Natural Fabrics

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