同じ照明器具を同じ場所で使っていても、物体を壁へ近づけたときと離したときでは、影の輪郭が違って見えることがあります。また、部屋の壁が白いか暗いか、別の照明を点けているかどうかでも、影の濃さは変わります。
なぜ同じ照明でも、物体と壁の距離・反射光・他の光源で影の濃さや輪郭が変わるのでしょうか。結論からいうと、影は「光源からの光が物体に遮られた場所」ですが、実際の明るさは遮られた主光源だけでなく、周囲から回り込む反射光や別の光源から届く光にも左右されるからです。また、物体と影を受ける面の距離が変わると、半影の広がり方も変化します。
影は「光がゼロの場所」とは限らない
影というと、光が完全に届かない真っ暗な場所を想像しがちです。しかし実際の室内では、壁や天井で反射した光、窓から入る光、別の照明からの光が影の中にも届きます。
そのため、同じ照明器具が同じ方向から物体を照らしていても、周囲の反射条件や他の光源の有無が変われば、影の明るさは変わります。
つまり、影の濃さは「主光源が遮られたか」だけでなく、「遮られなかった別方向の光がどれだけ入るか」で決まります。
物体が壁に近いと、影の輪郭は比較的はっきりしやすい
大きさのある光源では、物体の後ろに「本影」と「半影」ができます。本影は光源全体が物体に隠れる領域、半影は光源の一部だけが隠れる領域です。
物体が壁やスクリーンなど影を受ける面に近い場合、光源の一部だけが見える領域は比較的小さくなります。そのため、影の輪郭は比較的くっきりしやすくなります。
逆に、物体を壁から離すと、光源の一部だけが遮られる半影の領域が広がり、影の縁はぼやけやすくなります。
物体と壁の距離を変えると、影の大きさも変わる
光源から来る光は、物体の輪郭を通ってその後ろへ進みます。そのため、物体と壁の距離を大きくすると、影の投影範囲が広がることがあります。
特に、光源が物体に比較的近い場合は、光線の広がりが大きいため、壁を遠ざけるほど影も大きくなりやすくなります。
これは、映画館の映写機とスクリーンの関係に似ています。投影面を遠ざけるほど、同じ角度の光が広い範囲へ広がります。
半影が広がると、影の縁がやわらかくなる
大きさのある光源では、一点からだけ光が来るわけではありません。光源の右側・左側・上側・下側など複数の位置から光が届きます。
物体の後ろのある場所では、光源の左側は物体に隠れても、右側からの光は届くことがあります。このように光源の一部だけが遮られた場所が半影です。
物体を壁から離すほど、この「一部だけ光が届く範囲」が広がるため、影の境界は徐々に明るくなるようななだらかな変化になります。
白い壁や天井があると、影の中へ反射光が入りやすい
照明から出た光は、物体だけでなく壁・天井・床にも当たります。明るい色の壁や天井は、入射した光の多くを室内へ戻します。
その反射光は、主光源とは違う方向から物体の裏側へ回り込みます。そのため、主光源が遮られて影になっている場所にも少し光が届き、影が薄く見えることがあります。
一方、黒や濃い色の壁・天井は光を多く吸収するため、室内へ戻る反射光が少なくなります。同じ照明と同じ物体でも、暗い内装の部屋では影が濃く感じられることがあります。
間接照明を点けると、主光源の影が薄くなることがある
壁や天井を照らす間接照明は、広い面から反射光を作ります。その反射光が主光源とは別方向から物体へ届けば、主光源によってできた影の中も明るくなります。
たとえば、机上のスポットライトだけを点けた場合は手の影が濃く見えても、天井照明や間接照明を追加すると、影の部分にも光が回り込み、明暗差が小さくなります。
このため、作業空間では一方向の強い光だけでなく、周囲からの補助光を組み合わせて影を抑えることがあります。
別の光源を点けると、影が薄くなったり複数になったりする
一つの物体を二つ以上の光源で照らすと、それぞれの光源から別の方向へ影ができます。
ある光源が作った影の中へ、別の光源の光が届けば、その影は薄くなります。一方、二つの光源が離れた場所にある場合は、それぞれの光源に対応する影が別方向に現れ、二重の影として見えることがあります。
つまり、「別の照明を点けると影が消える」とは限らず、光源の位置関係によっては複数の影に分かれることもあります。
他の光源の明るさで影の濃さも変わる
補助光が弱い場合、影の中には少しだけ光が入り、影はまだはっきり見えます。
補助光を強くすると、影の中の明るさが周囲の明るさへ近づき、影は薄くなります。
逆に、主光源だけを非常に強くし、周囲の反射光や補助光が少ない状態では、影部分と明るい部分の差が大きくなり、影が濃く感じられます。
この「明暗差」が、影の見え方に大きく関係します。
机の上では、手や頭の位置でも影が変化する
同じ照明器具でも、作業者の姿勢や手の位置が変われば、光を遮る位置が変わります。
照明学会のタスク・アンビエント照明に関する研究では、タスクライトの位置によって作業面上の影の面積や影の程度が変化することが報告されています。
たとえば右利きの人が右側から強い光を受けると、手の影が筆記位置へかかることがあります。照明を反対側へ移すと、同じ器具でも影が作業位置から外れる場合があります。
ここで変わっているのは光源そのものではなく、光源・手・作業面の位置関係です。
影の濃さは「物体の材質」でも変わることがある
完全に光を通さない物体なら、主光源の光は遮られます。しかし、半透明の素材では一部の光が内部を通過したり散乱したりします。
そのため、薄いカーテン、乳白色の樹脂、半透明の紙などでは、同じ照明でも真っ黒な影ではなく、明るさが残った影になることがあります。
また、表面が光沢を持つ物体では反射光が周囲へ回り込み、影の近くの明るさへ影響することもあります。
昼と夜でも影の見え方が変わる
同じ照明器具を点けていても、昼間は窓から自然光が入り、夜はその光がありません。
昼間は窓からの光が補助光として影の中へ入り、影を薄くすることがあります。夜に同じ照明だけを点けると、補助光が減るため、影が濃く感じられる場合があります。
つまり、照明器具を何も変えていなくても、周囲の光環境が変わることで影は変化します。
同じ照明でも影が変わる主な条件
- 物体と壁・床など影を受ける面の距離
- 物体と光源の位置関係
- 壁・天井・床の反射率や色
- 間接照明や補助光の有無
- 他の光源の位置と明るさ
- 窓から入る昼光の量
- 物体が光を通すかどうか
これらは、同じ照明器具を使っていても変化する条件です。
影を調整するときは「光源」以外も見る
影が濃すぎるからといって、必ずしも照明器具そのものを交換する必要はありません。
物体を壁へ近づける、補助光を加える、白い壁や天井からの反射を利用する、作業者の手が光を遮らない位置へ照明を移す、といった方法でも影の見え方を変えられます。
一方、影の輪郭をはっきり見せたい展示や写真では、反射光や補助光を減らし、物体と投影面の位置関係を調整することがあります。
まとめ
同じ照明でも影の濃さや輪郭が変わるのは、影が主光源だけで決まるものではなく、物体と投影面の距離、周囲からの反射光、別の光源、昼光など複数の光が関係するからです。
物体を壁から離すと半影が広がりやすく、影の輪郭はやわらかくなります。白い壁や天井から反射光が入れば影は薄くなり、別の照明を点ければ影の中が明るくなったり、別方向の影が追加されたりします。
影を考えるときは、照明器具の性能だけでなく、「光源・物体・影を受ける面・周囲の反射光・他の光源」の位置関係を一つのシステムとして見ることが重要です。
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参考資料
- 産業技術総合研究所「影とは何か」
- 照明学会誌「タスク・アンビエント照明における作業面上の照度特性と影の特性について」
- 照明学会「室内空間の照度分布シミュレーション」
- OpenStax「Eclipses of the Sun and Moon」

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