海の水がしょっぱいのは、海水の中に塩化物イオンやナトリウムイオンをはじめとする多くの「塩類」が溶けているからです。こうした成分は、主に陸上の岩石が雨や川の水によって少しずつ風化・溶解し、イオンとして川から海へ運ばれることで加わります。さらに、海底の熱水活動や火山活動も海水中の成分に影響します。一方、水が海面から蒸発するときには塩類の多くが海に残ります。この「入ってくる仕組み」と「水だけが出ていく仕組み」が、海をしょっぱくする基本です。
ただし、「川が塩を運び続けるから、海は昔からずっと塩辛くなり続けている」と考えるのは正確ではありません。海水中の成分は、生物に取り込まれたり、海底の堆積物や鉱物として固定されたり、海底の岩石との反応で取り除かれたりもします。現在の海の塩分は、塩類が加わる過程と取り除かれる過程が長い時間をかけてつくった結果です。
海水の「塩」は食塩だけではない
私たちが「塩」と聞いて思い浮かべるのは、食卓で使う塩化ナトリウムです。海水にも塩化ナトリウムのもとになる塩化物イオンとナトリウムイオンが非常に多く含まれています。そのため海水をなめると強い塩味を感じます。
しかし、海水は単なる「食塩水」ではありません。マグネシウム、硫酸イオン、カルシウム、カリウムなど、さまざまな成分が溶けています。JAMSTECは、地球の海には多種類の物質が溶けており、塩化ナトリウム以外の成分も含まれることを紹介しています。つまり、海の味や性質は、塩化ナトリウムだけで説明できるものではありません。
世界の海水の平均的な塩分はおよそ35‰(パーミル)です。これは海水1kgあたりにおよそ35gの溶存塩類が含まれるイメージで、重量比では約3.5%に相当します。ただし、どの海でも同じ35‰というわけではありません。蒸発や雨、川からの淡水流入、海氷の形成や融解などによって、塩分は場所ごとに変わります。
塩分はどこから海へ入ってくるのか
大きな供給源の一つが、陸上の岩石です。雨水は大気中の二酸化炭素を取り込むため弱い酸性になります。その雨水が地面や岩石に触れると、岩石中の成分がごく少しずつ溶け出します。さらに物理的な風化も加わり、溶けた成分はイオンとして地下水や川に入り、最終的に海へ運ばれます。
ここで疑問になるのが、「それなら川の水もしょっぱいはずでは?」という点です。川の水にも溶けた成分はあります。しかし一般には濃度が海水よりはるかに低く、人の舌で海水のような強い塩味を感じるほどではありません。川は陸地から溶け出した成分を海へ運ぶ通り道でもあります。
海へ入る塩類の供給源は、陸地だけではありません。海底にも重要な仕組みがあります。海水が海底の割れ目から地下へ入り、熱い岩石と反応し、熱水として再び海底から噴き出す「熱水活動」です。この過程では、海水と岩石の間でさまざまな元素がやり取りされます。海底火山の活動も海水中の成分に影響します。
ただし熱水活動は「海へ塩を足すだけ」の一方通行ではありません。海水中の一部の成分が海底の岩石との反応によって取り除かれることもあります。海と海底は、長い時間スケールで成分を交換していると考える方が正確です。
なぜ海に入った塩は残りやすいのか
海水が太陽に温められると、水は蒸発して水蒸気になります。このとき、海水に溶けている塩類の大部分は水蒸気と一緒には移動せず、海側に残ります。
家庭で塩水を加熱し、水だけを蒸発させると最後に塩が残るのと基本的には同じです。自然界では、海から蒸発した水蒸気が雲になり、雨や雪として陸や海へ戻ります。陸に降った水は川などを通って再び海へ戻ります。こうして水そのものは地球上を循環しますが、海に溶けた塩類は水と同じようには蒸発しません。
この違いが、「川の水はあまりしょっぱくないのに、海の水はしょっぱい」という現象の重要なポイントです。海は地球の水循環の大きな受け皿であり、陸地から運ばれてきた溶存成分が集まりやすい場所でもあります。
海はずっとしょっぱくなり続けるのか
川が毎年のように溶けた成分を海へ運んでいるなら、「海の塩分は毎年上がり続けるのではないか」と考えたくなります。しかし、現在の海を単純な「塩の貯金箱」とみなすことはできません。
海水中の成分には、それぞれ海から取り除かれる経路があります。生物が利用するものもあれば、化学反応によって別の物質になり、海底に沈殿・堆積するものもあります。海底の岩石との反応によって取り除かれる成分もあります。NOAAも、河川などから海へ入る物質がある一方、海底への堆積などによって取り除かれる仕組みがあることを説明しています。
つまり海の塩分は、「供給量」だけで決まるのではありません。海へ入る量と、海から取り除かれる量、さらに海水の循環や水収支が組み合わさって決まります。地球の長い歴史の中では海水の化学組成も変化してきましたが、現在の海ではこれらの過程が大きな物質循環をつくっています。
どの海も同じしょっぱさではない
平均塩分が約35‰といっても、海面付近の塩分は場所によってかなり違います。JAMSTECの解説でも、雨が多い海域や大きな川の河口付近では塩分が低く、蒸発が盛んな亜熱帯域などでは高くなる傾向が示されています。
理由は水の出入りです。蒸発が盛んな場所では、水分が空気中へ移動しても塩類は残るので、海水は相対的に濃くなります。反対に、雨が大量に降ったり川から淡水が大量に流れ込んだりすると、海水は薄められて塩分が下がります。
寒冷域では海氷も関係します。海水が凍るとき、塩の多くは氷の中にそのまま取り込まれず周囲の海水側に残るため、海氷が形成される場所では周囲の海水の塩分が高くなることがあります。一方、海氷が融ければ淡水が加わるため、表層の塩分を下げる方向に働きます。
こうした塩分の違いは、単なる「味の違い」ではありません。塩分は海水の密度に影響し、温度とともに海水の上下方向の動きや大規模な海洋循環にも関係します。そのため塩分は、海洋学や気候研究でも重要な観測項目です。
なぜ湖にはしょっぱい湖としょっぱくない湖があるのか
海と比較すると、塩分がたまる仕組みが理解しやすくなります。多くの湖には川が流れ込み、別の川として水が流れ出します。この場合、溶けた成分も水と一緒に外へ出ていくため、塩分が極端に高くなりにくい傾向があります。
一方、外へ流れ出す川がほとんどなく、水の主な出口が蒸発である湖では事情が違います。水だけが蒸発し、溶けていた塩類が湖に残り続けるため、高い塩分になることがあります。世界の塩湖が非常に塩辛いのは、このような水収支が大きく関係しています。
海にも水の蒸発はありますが、海は巨大で、河川からの流入、雨、海氷、海洋循環、海底との物質交換など多数の過程が同時に働きます。そのため「蒸発するから塩辛い」という一言だけでは、海の塩分を十分に説明できません。
昔の海も今と同じしょっぱさだったのか
地球ができた直後から、現在と同じ海水が存在していたわけではありません。地球内部から放出された物質、岩石の風化、海底での化学反応、生物活動などによって、海水の化学組成は長い時間をかけて変化してきました。
そのため、「海ができた瞬間から3.5%の塩分だった」と考えるのは適切ではありません。現在観測される海水は、地球の地質活動と水循環、生物活動が長期間相互作用してきた結果です。
ここで大切なのは、海の塩分を「昔の塩がただ蓄積したもの」とだけ捉えないことです。海水の成分は常に動いており、供給・除去・循環が続いています。現在の組成は、その動的なバランスの一断面です。
「海水を煮詰めれば食塩になる」は半分正しい
海水を蒸発させれば固形物が残ります。そのため「海水を煮詰めれば塩が取れる」という説明自体は間違いではありません。実際、海水を利用した製塩は古くから行われてきました。
ただし、海水に溶けているのは塩化ナトリウムだけではありません。マグネシウムやカルシウムなどの成分も含まれるので、単純に水を全部飛ばした残りがそのまま一般的な食塩と同じ組成になるわけではありません。製塩では、濃縮や結晶化などを利用して成分を調整します。
また、自然の海水を家庭で煮詰めて食べることは衛生面などから勧められません。「水が蒸発すると塩が残る」という仕組みを理解するための例として考えるのがよいでしょう。
よくある誤解:海がしょっぱいのは魚や生物のせい?
海の塩分は、魚などの生物が塩を出してつくったものではありません。主な背景は、岩石の風化による陸からの供給、海底での物質交換、そして水だけが蒸発して塩類が残る水循環です。
生物は海水中の成分を取り込んだり、殻や骨格をつくったりするため、海の物質循環には重要な役割を果たします。しかし、「生物がいるから海がしょっぱい」という因果関係ではありません。
もう一つの誤解は、「海水の塩分はどこでも3.5%ぴったり」というものです。約3.5%は世界の海を代表する目安であり、実際の塩分は海域や深さ、季節によって異なります。
海から雨が降るのに、なぜ雨はしょっぱくないのか
海から大量の水が蒸発して雲になるなら、「海の上でできた雨には塩が混ざるのでは」と疑問に思うかもしれません。しかし、蒸発するのは主に水分子で、海水に溶けた塩類の大部分は海に残ります。水蒸気が冷えて雲粒となり、雨として戻るとき、その水は海水よりはるかに塩分が少ない状態です。
この仕組みは地球の天然の「蒸留」に少し似ています。もちろん実際の大気中には海塩粒子やほこりなどが存在するため、雨水が完全な純水というわけではありません。それでも、海水そのものが丸ごと蒸発して雲になるわけではないため、雨は海水のようなしょっぱさにはなりません。
この淡水が陸上に降り、岩石と接触しながら川となって海へ戻る過程で、再び少量の溶存成分を海へ運びます。つまり「海→蒸発→雲→雨→川→海」という水循環と、「岩石→溶解→川→海」という物質の移動が重なって、海の塩分をつくる長期的な仕組みになっています。
まとめ
海の水がしょっぱい直接の理由は、海水中に塩化物イオンやナトリウムイオンなどの塩類が大量に溶けていることです。その成分の多くは陸上の岩石の風化によって川から海へ運ばれ、海底の熱水活動なども海水の組成に関わります。
さらに、水が蒸発するときには塩類の多くが海に残ります。しかし塩類は一方的に増え続けるのではなく、生物、堆積物、鉱物、海底岩石との反応などを通じて海から取り除かれる経路もあります。現在の海の塩分は、こうした地球規模の物質循環の結果です。
そして、海のしょっぱさはどこでも同じではありません。雨、蒸発、川、海氷、海流などによって塩分は変化します。「海がしょっぱい」という身近な事実の背景には、岩石・水・大気・海底・生物をつなぐ、非常に大きな地球の循環があります。
参考資料
JAMSTEC(海洋研究開発機構)「『海って何ですか?』子供もなっとくする、実に明解でシンプルな答え!」
NOAA National Ocean Service “Why is the ocean salty?”
U.S. Geological Survey “Why is the Ocean Salty?”

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