なぜ海には多様な生き物がいるのか?

海に多様な生き物がいるのは、海が非常に広くて深い三次元の空間であり、場所によって光、水温、水深、塩分、流れ、酸素、栄養塩、海底の形などの条件が大きく違うからです。さらに、サンゴ礁、干潟、藻場、外洋、深海、海山、熱水噴出域など性質の異なる生息場所があり、それぞれの環境に適応した生き物が長い進化の過程で分かれてきました。海の生物多様性は、単に「海が広いから」生まれたのではなく、多様な環境、生息場所、食物網、移動と隔離、適応と進化が重なって成立しています。

目次

まず「生物多様性」とは何か

生物多様性という言葉は、単に生き物の種類が多いことだけを意味しません。環境省は、生物多様性には「種の多様性」だけでなく、同じ種の中にある遺伝的な違い、さらにサンゴ礁や干潟など異なる生態系そのものの多様性も含まれると説明しています。

海を見ると、魚、貝、甲殻類、クラゲ、海藻、サンゴ、微生物など、姿も生活のしかたもまったく違う生物がいます。そして同じ海でも、岸辺と外洋、表層と深海、熱帯と極域では生物の顔ぶれが大きく変わります。これが海の生物多様性です。

理由1:海は広く、しかも「深さ」を持つ三次元の世界だから

陸地にも山や谷がありますが、海では水平方向の広がりに加えて、海面から深海底までの大きな鉛直方向の広がりがあります。環境省は、海洋では水深に応じて異なる水の層があり、生物や生態系が三次元的に分布していることを海洋生態系の特徴として挙げています。

海面近くには太陽光が届き、植物プランクトンが光合成できます。一方、深くなるほど光は弱くなり、水温や圧力、食べ物の量も変わります。さらに深海では太陽光がほぼ届かず、表層とはまったく違う条件になります。

このように、同じ「海」の中に異なる環境が縦にも横にも広がっているため、それぞれの条件に合う生物が暮らす余地が生まれます。

理由2:場所によって水温、光、栄養、流れなどが違うから

海はどこでも同じ水が満たされているように見えますが、実際には環境条件が大きく異なります。赤道付近と極域では水温が違い、沿岸と外洋では栄養塩の供給のされ方が違います。浅い海と深海では光と圧力が大きく異なり、海流の強さや酸素量にも地域差があります。

生き物には、それぞれ生存しやすい温度、深さ、塩分、餌の種類などがあります。そのため、ある魚が暖かい浅海に適していても、別の生物は冷たい深海に適していることがあります。

環境条件の違いは、生物にとって「住み分け」のきっかけになります。同じ資源をすべての生物が奪い合うのではなく、それぞれが異なる条件や餌、深さを利用することで、多くの種が同じ海域に共存しやすくなります。

理由3:サンゴ礁、干潟、藻場、深海など多様な生息場所があるから

海の中には、性質の異なる生息場所が数多くあります。沿岸には砂浜、岩礁、干潟、藻場、マングローブ、サンゴ礁などがあり、沖には外洋の水柱、海山、大陸斜面、深海底などがあります。

こうした場所は、隠れ場所、餌場、産卵場所、幼生が育つ場所として異なる役割を持っています。特にサンゴ礁のように立体的な構造を持つ場所では、すき間や表面、砂地、上層水など小さな環境が多数できます。

NOAAは、サンゴ礁が海洋生物に食物やすみかを提供する非常に多様な生息地であると説明しています。また深海でも、深海サンゴや海綿が魚、エビ、カニなどの重要な生息場所になります。

つまり、生息場所そのものの多様さが、そこで暮らせる生物の種類を増やしているのです。

理由4:食べ物をつくる仕組みが場所によって違うから

海の多くの生態系では、植物プランクトンが食物網の出発点になります。植物プランクトンは太陽光を使って光合成を行い、有機物をつくります。それを動物プランクトンが食べ、さらに小魚、大型魚、海鳥、海洋哺乳類などへとつながっていきます。

一方、光の届かない深海にも生態系があります。深海の多くの場所では、表層から沈んでくる有機物が重要な食料になります。さらに熱水噴出域や冷水湧出域では、太陽光ではなく化学反応から得たエネルギーを使う微生物が食物網の基礎になる場合があります。

NOAAは、深海には海山、峡谷、深海サンゴ、熱水噴出域、冷水湧出域など多様な生息場所があり、それぞれに特殊な生物が適応していると紹介しています。

このように、エネルギーや栄養を得る方法が一つではないことも、海の生物の多様さを支える要因です。

理由5:長い時間をかけて、それぞれの環境に適応して進化したから

現在見られる生物の多様性は、短期間で生まれたものではありません。環境省は、生物多様性を長い進化の歴史を経て形づくられてきた生命の「個性」と「つながり」と説明しています。

海では、水温、深さ、光、圧力、餌、流れなどが違う環境に生物集団が置かれることで、異なる特徴が有利になることがあります。世代を重ねるうちに、環境に適した形や行動、生理機能が残りやすくなり、集団同士の違いが大きくなることがあります。

たとえば深海の生物には、暗闇の中で感覚器官を発達させたものや、自ら光を出す生物、少ない餌で生活できるように適応した生物がいます。環境の違いが長く続けば、それだけ異なる進化の道が生まれる可能性があります。

理由6:海はつながっている一方で、完全には混ざらないから

環境省は、海では生物そのものだけでなく水も移動し、極域から熱帯まで広い範囲で生物のつながりがあることを特徴として挙げています。魚の回遊や、卵・幼生が海流に運ばれることによって、生物は広い範囲へ分散できます。

しかし、海がすべて均一に混ざるわけではありません。海流の境目、水温差、深海と浅海の違い、島や海山、海盆などは、生物集団の移動を制限することがあります。

広く移動できることは新しい場所への進出を可能にし、一方で移動が制限されることは集団同士の違いを生みやすくします。この「つながり」と「隔たり」の両方が、生物の分布と多様化に関わっています。

なぜ沿岸は特に生き物が多く見えるの?

海岸近くの浅い海では、太陽光が海底まで届きやすく、川や陸から栄養塩や有機物が供給される場所もあります。また、岩場、砂浜、藻場、干潟、サンゴ礁など異なる環境が近い範囲に並ぶことがあります。

環境省は、日本の沿岸域について、陸域との境目は環境の変化が多く、汽水域、藻場、砂浜、干潟、マングローブ林、サンゴ礁など、生物多様性に富む環境が存在すると説明しています。

そのため私たちは、磯や干潟、サンゴ礁などで多くの生物を目にしやすいのです。ただし、外洋や深海に生物が少ないという意味ではありません。観察しにくい場所にも、特殊な環境に適応した多様な生物が存在します。

サンゴ礁に多くの生き物が集まるのはなぜ?

サンゴ礁は、単なる岩の集まりではありません。サンゴがつくる複雑な立体構造には、大小さまざまなすき間や表面があり、多くの生物に隠れ場所や餌場を提供します。

NOAA Fisheriesは、サンゴ礁が海洋面積のごく一部に限られながらも、多数の海洋生物の生息場所になっていると説明しています。これは、生息場所の複雑さが多くの生物の共存を支える代表的な例です。

小さな魚はすき間を隠れ場所にし、藻類を食べる生物、サンゴを利用する生物、それらを捕食する大型魚などが同じ場所で異なる役割を持ちます。その結果、複雑な食物網が形成されます。

深海にも多様な生き物がいるのはなぜ?

深海は暗く、冷たく、高い水圧がかかり、食べ物も少ない厳しい環境です。それでも生き物が存在します。理由は、深海が一様な砂漠ではなく、海山、海溝、峡谷、深海サンゴ、熱水噴出域など多様な環境を持つからです。

NOAAは、深海の生物が極端な高圧、暗闇、低温、少ない餌などに適応していると説明しています。深海サンゴや海綿のように、複雑な構造をつくり、他の動物の生息場所になる生物もいます。

まだ詳しく調査されていない海域も多いため、深海の生物多様性には未解明の部分が少なくありません。海の生物多様性を考えるときには、「私たちがよく見る生き物」だけで判断しないことが重要です。

日本周辺の海に多様な生き物がいるのはなぜ?

日本列島は南北に長く、暖かい海から冷たい海まで幅広い水温帯にまたがっています。さらに黒潮や親潮など性質の異なる海流が流れ、沿岸には複雑な地形があります。

環境省は、日本周辺では深浅の変化に富む地形、黒潮や親潮などの海流、南北に長い列島が組み合わさることで多様な環境が生まれ、多くの海洋生物が生息・生育しているとしています。

熱帯性の生物が多い南の海、冷水を好む生物が多い北の海、潮目付近、深海、干潟や藻場などが一つの国の周辺に存在するため、日本の海では異なる生物群を観察できます。

「海は広いから生き物が多い」だけではない

海の面積が広いことは、生物が暮らせる空間が大きいという意味で重要です。しかし、広さだけでは多様性を十分に説明できません。

もし海がどこまでも同じ温度、同じ深さ、同じ餌、同じ海底だったなら、生息できる生活様式の幅は今より小さくなるでしょう。実際の海には、光のある場所とない場所、暖かい場所と冷たい場所、栄養の豊富な場所と乏しい場所、平らな海底と複雑なサンゴ礁や海山があります。

この環境の「違い」が、生き物にさまざまな生活の場を与えています。そして長い時間の中で、それぞれに適応した生物が現れ、相互に食べたり食べられたり、共生したり競争したりすることで、多様な生態系が形づくられてきました。

海の生物多様性は変化し続けている

生物多様性は一度できたら変わらないものではありません。水温、海流、酸素量、海氷、海岸環境などが変われば、生物の分布や生態系も変わります。また、人間活動による漁業、沿岸開発、汚染、気候変動なども海洋生態系に影響します。

環境省やUNESCOは、海洋の生物多様性を継続的に観測し、保全していく重要性を示しています。海に多様な生き物がいる理由を理解することは、その多様性がどのような環境によって支えられているかを理解することでもあります。

まとめ:海の多様な環境が、多様な生き物を生み出してきた

海に多様な生き物がいるのは、海が広いだけではなく、環境の種類が非常に多いからです。光、水温、水深、圧力、流れ、栄養、海底地形などが場所ごとに異なり、それぞれに適した生き物が進化してきました。

  • 海は水平にも垂直にも広がる三次元の生息空間である
  • 水温、光、栄養、流れ、圧力などの条件が場所ごとに違う
  • サンゴ礁、干潟、藻場、外洋、深海など多様な生息場所がある
  • 植物プランクトンを基礎とする食物網に加え、深海では別のエネルギー利用もある
  • 長い進化の中で、それぞれの環境に適応した生物が分かれてきた
  • 海流によるつながりと、環境差による隔たりの両方が多様化に関係する

つまり海の生物多様性は、「広い海の中にたくさんの異なる世界がある」ことの結果です。その一つひとつの環境と、生物同士のつながりが重なることで、現在の豊かな海の生態系が成り立っています。

参考資料

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