なぜ浅い海と深い海では暮らす生き物が違うのか?

浅い海と深い海で生き物が違う最大の理由は、深さによって「光・水温・水圧・餌の量・海底環境」が大きく変わるからです。浅い海には太陽光が届くため、植物プランクトンや海藻、海草が光合成を行い、それを出発点とする食物網が発達します。一方、深海では太陽光がほとんど届かず、水温も低く、水圧は非常に高くなります。そのため、浅い海とは違う方法で餌を得たり、高圧や暗闇に適応した生き物が暮らしています。

ただし、「浅い海には生き物が多く、深海にはほとんどいない」という意味ではありません。深海にも多様な生物が生息しており、熱水噴出孔の周辺のように、太陽光に頼らない独自の生態系が成立している場所もあります。違うのは、生き物の有無ではなく、その環境で生き残るために必要な体のつくりや生活方法です。

目次

浅い海と深い海では環境そのものが違う

海は上から下まで同じ環境ではありません。一般に、植物プランクトンが光合成できる程度の光が届くのは海面からおよそ200mまでで、それより深い海を「深海」と呼ぶことが多くあります。

JAMSTECは、深海を高圧・低温・暗黒の世界と説明しています。水深が10m増えるごとに水圧は約1気圧ずつ増え、水深1,000mでは約100気圧になります。また、水深1,000m付近の水温はおよそ2〜4℃で、それより深い場所でも低温が続きます。

このように、数百mから数千mという深さの差だけで、生き物を取り巻く条件は大きく変わります。浅海で有利な性質が深海では役に立たないこともあり、逆に深海に適応した生物は浅い海では暮らしにくい場合があります。

浅い海では太陽光が食物網の出発点になる

浅い海で最も重要な条件の一つが太陽光です。光が届く海では、植物プランクトン、海藻、海草などが光合成によって有機物をつくります。

この有機物は、動物プランクトン、小魚、貝、甲殻類などに食べられ、さらに大型の魚や海鳥、海洋哺乳類などへつながります。つまり、浅い海の多くの生態系では太陽エネルギーが食物網の基本的なエネルギー源です。

NOAAは、海面から約200mまでの有光層では、光合成を行う植物プランクトンや大型藻類が海洋の一次生産の大部分を担うと説明しています。この一次生産があるため、多くの生物が浅い海で直接または間接的に餌を得ることができます。

ただし、光があるだけで生き物が必ず多くなるわけではありません。植物プランクトンが増えるには、窒素やリンなどの栄養塩も必要です。そのため、透明な外洋の表層より、栄養塩が供給される沿岸や湧昇域の方が生物生産の高い場合があります。

浅い海には多様な「すみか」がある

浅い海では、砂浜、岩礁、干潟、藻場、サンゴ礁など、海底環境にも大きな違いがあります。こうした環境の違いは、生き物が使える隠れ場所や餌場を増やします。

岩礁では岩に付着する海藻や貝類が見られ、砂地では砂に潜る二枚貝やゴカイ類が暮らします。藻場では小魚や甲殻類が身を隠し、サンゴ礁では複雑な立体構造が多くの魚や無脊椎動物の生息場所になります。

さらに岸に近い浅海では、川から栄養塩や有機物が供給されることもあります。潮の満ち引き、波、季節変化など環境の変動は大きいものの、その変動に適応した多様な生物が暮らしています。

深くなると光が減り、光合成ができなくなる

海中では深くなるほど太陽光が弱くなります。NOAAは、約200〜1,000mを光が急速に減る「薄明帯」とし、1,000mより深い海には太陽光がほぼ届かないと説明しています。

光が届かなくなると、植物プランクトンや海藻は光合成できません。そのため、深海には浅海のような「植物がつくる餌」がその場で大量に生産される環境がほとんどありません。

深海の多くの生物は、浅い海や表層でつくられた有機物が沈んでくるのを利用します。死んだプランクトン、排せつ物、小さな有機物の粒などがゆっくり沈み、深海生物の餌になります。このような沈降物は「マリンスノー」と呼ばれることがあります。

しかし、表層でつくられた有機物の多くは途中の生物に食べられたり分解されたりするため、深くなるほど届く餌は少なくなります。NOAAによれば、深海は一般に食物が乏しく、そのことが生物の密度や生活戦略に大きく影響します。

餌が少ないため、深海生物は省エネルギー型になりやすい

深海では次の餌がいつ来るかわからないことがあります。そのため、エネルギーをできるだけ節約する生き方が有利になる場合があります。

JAMSTECは、深海生物の中には餌が少ない環境でエネルギー消費を抑えるため、ゆっくり動く種類がいると紹介しています。一方で、少ない餌を探すために広い範囲を移動する生物もいます。

大きな口や長い歯を持つ魚、体の大きさに対して大きな胃を持つ魚なども知られています。これは、偶然出会った餌を逃さず利用するうえで有利になる場合があります。

ただし、すべての深海生物が同じ特徴を持つわけではありません。深海は非常に広く、海底、海中、熱水噴出孔、海溝など場所によって条件も大きく異なります。

深海の高い水圧が体のつくりを変える

深くなるほど水圧は大きくなります。水深1,000mでは海面付近の約100倍、水深6,000mでは約600倍もの圧力がかかります。

このため、深海生物は高圧でも細胞や酵素が正常に働くような性質を持っています。逆に、浅海の魚を急に深海へ移せば、高圧によって正常に生活できないことがあります。

特に気体は圧力の影響を受けやすいため、深海魚では浅海魚のようなガスを満たした浮き袋を持たない種類や、別の方法で浮力を調整する種類が見られます。

深海生物を水面まで急に引き上げると、圧力の急激な低下で体に大きな影響が出ることがあります。深海生物は「高圧に耐えている」というより、長い進化の中で高圧を通常の環境として生活できるよう適応しているのです。

深海が暗いことで感覚や見た目も変わる

太陽光の届かない深海では、浅い海と同じように色を見分けることの意味は小さくなります。その一方で、わずかな光を捉える大きな目を持つ生物や、反対に視覚への依存が小さく、目が退化した生物もいます。

また、深海では生物自身が光を出す生物発光が広く見られます。光を使って獲物を誘ったり、仲間を見つけたり、捕食者から身を守ったりする生物がいます。

暗闇では、嗅覚や触覚、振動を感じる能力なども重要です。浅い海で視覚が大きな役割を持つ生物と、深海で別の感覚に頼る生物では、行動や体の形にも違いが生まれます。

深海では水温が低く、変化も小さい

浅い海は太陽や季節の影響を受けるため、水温が大きく変化します。夏と冬、昼と夜、暖流や寒流の影響によって環境が変わり、それに合わせて生物の活動や回遊も変化します。

一方、深海では太陽光が届かず、水温は多くの場所で数℃程度の低温です。しかも季節による変化は浅海より小さくなります。

低温では生物の代謝反応も遅くなる傾向があります。餌の少なさと低温が組み合わさることで、ゆっくり成長し、長い時間をかけて生活する深海生物もいます。

ただし、熱水噴出孔の近くでは局所的に非常に高温の水が噴き出すなど、深海にも大きな環境差があります。

熱水噴出孔には太陽光に頼らない生態系がある

深海では光合成ができないため、すべての生態系が表層から落ちてくる餌だけに頼っているように思えるかもしれません。しかし、例外的にその場で大きなエネルギー源を利用できる場所があります。代表例が熱水噴出孔や冷湧水域です。

熱水噴出孔では、海底から硫化水素などを含む熱水が噴き出します。そこには、光ではなく化学物質のエネルギーを利用して有機物をつくる化学合成微生物がいます。

JAMSTECは、太陽光の届かない深海底でも、硫化水素やメタンなどをエネルギー源とする化学合成細菌を基盤にした生態系が成立すると説明しています。NOAAも、化学合成生物のいる場所は、食物の少ない深海の中で生命が集中する「オアシス」のような場所になるとしています。

この周囲には、微生物と共生する貝類やチューブワーム、甲殻類など、浅海とは大きく異なる生物群集が形成されます。

浅い海の生物が深海で暮らせないのはなぜか

浅海の生物がそのまま深海へ移動しても、多くは生活できません。光、水温、水圧、餌、酸素などの条件が急激に変わるからです。

たとえば、海藻や海草は光合成を必要とするため、太陽光の届かない深海では成長できません。浅海魚の中には高圧に弱い体の構造を持つものもいます。また、暖かい水に適応した生物は数℃の低温環境では正常に活動できない場合があります。

逆に、深海生物を浅い海へ移しても、高温や低圧、強い光などが負担になる場合があります。つまり、海の深さごとに生き物が違うのは、それぞれが長い時間をかけて特定の環境へ適応してきた結果です。

深さによって生き物はきっぱり分かれているわけではない

「浅海生物」と「深海生物」が水深200mを境に完全に分かれているわけではありません。200mという数字は、主に光合成できる光が届く目安から使われる区分です。

実際には、生物の分布は徐々に変化します。昼は深い場所にいて夜になると表層へ移動する動物プランクトンや魚もいます。このような移動は日周鉛直移動と呼ばれます。

また、同じ種類でも成長段階によって暮らす深さが変わることがあります。JAMSTECは、深海生物の中にも幼生やプランクトンの時期に浅い海まで移動する種類がいると紹介しています。

したがって、浅い海と深い海は別世界のように見えても、生物や物質の移動を通じてつながっています。

深海に生き物が少ないとは限らない

深海は食物が少ないため、広い範囲で見ると生物の密度が低い場所が多くあります。しかし、それは生物の種類まで少ないことを意味しません。

深海底には泥底、岩盤、海山、海溝、熱水噴出孔、冷湧水域、沈んだ鯨の骨など多様な生息場所があります。NOAAは、深海底の生物多様性が熱帯サンゴ礁に匹敵する可能性を示す研究もあると紹介しています。

つまり、浅い海は光合成による高い生物生産と多様な生息場所によって多くの生物を支え、深海は低エネルギー・高圧・暗黒という条件の中で、それぞれに特化した生物を育んでいるのです。

結局、なぜ浅い海と深い海では生き物が違うのか

主な違いを整理すると、次のようになります。

  • 光:浅海では光合成ができるが、深海では太陽光がほとんど届かない。
  • 餌:浅海ではその場で一次生産が行われ、深海では上から沈む有機物への依存が大きい。
  • 水圧:深くなるほど急激に高くなり、高圧への特別な適応が必要になる。
  • 水温:浅海は比較的暖かく季節変化が大きいが、深海は低温で安定している。
  • 生息場所:浅海には藻場・岩礁・干潟・サンゴ礁などがあり、深海にも海山・海溝・熱水噴出孔など独自の環境がある。
  • エネルギー源:多くの浅海生態系は太陽光が出発点だが、深海の熱水域には化学合成を基盤とする生態系もある。

浅い海と深い海では、利用できるエネルギーと物理環境がまったく違うため、そこで有利になる体のつくりや生活方法も違います。浅海では光を利用する生態系が発達し、深海では暗黒・低温・高圧・少ない餌に適応した生物が生きています。

海の深さによる生物の違いは、「深いほど過酷だから生き物がいなくなる」という単純な話ではありません。地球上の生物が、それぞれ異なる環境に合わせて多様な進化を遂げてきた結果なのです。

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参考資料

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