季節によって海流の流れ方が変わるのは、海面を押す風の向きや強さ、海水の温度・塩分、海面の高さなどが季節とともに変わるからです。とくに海面近くの流れは風の影響を強く受けるため、季節風が変われば海流の強さや進む向きも変化します。
ただし、「海流は夏と冬で必ず反対向きになる」という意味ではありません。インド洋のモンスーン海流やソマリ海流のように季節によって向きが大きく変わる海流もありますが、黒潮や対馬暖流のような大規模な海流では、基本的な流れる方向を保ったまま、流量、速さ、位置、蛇行のしかたなどが季節によって変わる場合が多くあります。
NOAAは、海流を生み出す主な要因として風、水温と塩分による密度差、重力などを挙げています。季節はこれらを同時に変えるため、海の流れにも季節変化が現れるのです。
海流には「風で動く流れ」と「密度差で動く流れ」がある
海流は一つの仕組みだけで動いているわけではありません。大きく見ると、海面近くでは風の影響が強く、深い海では水温や塩分による密度差が重要になります。
海面付近では、貿易風や偏西風、季節風などが海面へ力を加えます。風によって動かされた海水は、地球の自転によるコリオリの力、大陸や島の配置、海岸線の形などの影響を受けながら大規模な循環をつくります。
一方、海水は水温が低いほど、また一般に塩分が高いほど密度が大きくなります。冷却や蒸発などによって重くなった海水が沈み、別の場所の海水が補うことで深い循環も生じます。
季節変化は風だけでなく、水温、降水、蒸発、海氷などにも影響するため、表層から深層までさまざまな時間スケールで海流を変化させます。
最も直接的な原因は「季節によって風が変わる」こと
海面近くの流れにとって、季節風の変化は非常に重要です。
風が海面を吹くと、空気と海水の間の摩擦によって海水が動き始めます。強い風が長く続けば、表層の流れも強くなります。風向きが変われば、海水へ加わる力の方向も変わります。
そのため、夏と冬で卓越する風向きが大きく違う地域では、海流にも明瞭な季節変化が現れます。
とくにインド洋北部では、アジアモンスーンの影響が非常に強く、夏と冬で風向きが反転します。NOAAのインド洋観測計画では、北インド洋の循環は強い季節性を持ち、1〜2月と7〜8月では主要な海流の向きが大きく変わると整理されています。
ソマリ海流は季節によって向きが変わる代表例
季節風によって海流が変わるわかりやすい例が、アフリカ東岸を流れるソマリ海流です。
北半球の夏には南西モンスーンが発達し、アラビア海では強い南西風が吹きます。この風に対応してソマリ海流は北東方向へ強く流れるようになります。
冬になると北東モンスーンへ変わり、風向きが逆転します。それに伴い、ソマリ海流の表層流も南西方向へ変わります。
NOAAの研究でも、ソマリ海流は主に季節変化するモンスーン風に駆動され、冬季には南西向き、夏季には北東向きになることが示されています。
このような海域では、「季節によって海流の流れ方が変わる」という言葉どおり、流れの向きそのものが大きく反転します。
なぜモンスーンの風向きは季節で変わるのか
モンスーンは、大陸と海洋の温まり方・冷え方の違いによって生じる大規模な季節風です。
夏は大陸が海より速く暖まり、大陸上の気圧が低くなりやすいため、海から陸へ湿った空気が流れ込みます。冬は大陸が強く冷え、反対に陸から海へ風が吹きやすくなります。
NOAAは、モンスーン地域では季節による陸と海の温度差によって卓越風の向きが反転すると説明しています。
海流はこの風の変化に応答するため、インド洋のようなモンスーンの強い海では、季節による海流変化も大きくなります。
日本近海でも海流の強さは季節で変わる
日本近海でも、海流には明瞭な季節変動があります。代表例の一つが対馬暖流です。
対馬暖流は、東シナ海側から対馬海峡を通って日本海へ入り、北東方向へ流れる暖流です。基本的な方向は年間を通じて大きく変わりませんが、流量や流れの強さには季節差があります。
気象庁によると、対馬暖流は冬から春に弱く、夏から秋に強くなる傾向があります。対馬海峡を通る流量の観測でも、月平均では秋に大きく冬に小さい季節変動が確認されています。
つまり、日本近海では「方向が逆になる」よりも、「同じ方向に流れながら季節によって勢いが変わる」という形の季節変化も多いのです。
季節による水温変化も海流を変える
季節が変わると、海が太陽から受け取る熱と大気へ失う熱の量も変わります。
夏には海面が暖められ、表層に軽い暖水ができやすくなります。冬には海面が冷やされ、海水の密度が大きくなって、上下方向の混合が進むことがあります。
この水温変化は、海面近くの水の密度や海面の高さを変えます。暖かい海水は同じ質量でも膨張するため、暖水が厚く存在する場所では海面がわずかに高くなることがあります。
海面に高さの差ができると、重力は高い方から低い方へ水を動かそうとします。そこに地球の自転の影響が加わり、海流の速さや位置が変化します。
塩分の季節変化も海水の密度を変える
水温だけでなく、塩分も海流に関係します。
雨が多い季節には海面の塩分が低下しやすく、河川流量が増える沿岸では低塩分水が広がります。反対に蒸発が強い季節には、海面の水だけが失われるため塩分が高くなることがあります。
塩分が変われば海水の密度も変わります。低塩分の水は比較的軽く表面に広がりやすく、高塩分で冷たい水は沈みやすくなります。
JAMSTECは東インド洋について、夏季モンスーン期に大河川から大量の淡水が流入し、海の成層構造が発達すると説明しています。このように、季節ごとの降水や河川流入も、海の層構造と流れを変える要因になります。
海面高度差が変わると海流の強さも変わる
海流は、風に直接押されている部分だけでできているわけではありません。海面のわずかな傾きも重要です。
風が海水を一方へ集めたり、暖かい水がたまって膨張したりすると、場所によって海面の高さに差ができます。すると重力によって水は低い方へ移動しようとします。
しかし地球は自転しているため、その流れはまっすぐ低い方へ進まず、コリオリの力によって曲げられます。結果として、海面高度差に沿うような大規模な流れができます。
季節風や海面水温の変化によって海面高度の分布が変われば、それに対応する海流の強さや位置も季節的に変わります。
海岸線や海峡があると季節変化が強調される
海流の季節変化は、風や密度だけでなく地形にも左右されます。
広い外洋では海水がさまざまな方向へ広がれますが、海峡では流れが狭い通路に集中します。そのため、海峡の両側に生じる海面高度差が季節的に変わると、通過流量の変化がはっきり現れることがあります。
対馬海峡を通る対馬暖流が季節変動するのも、周辺の海面高度差や大規模な海洋循環の季節変化が、狭い海峡を通る流量に表れるためです。
また、海岸線の向きによっては、季節風が岸から沖へ表層水を運び、深い場所から冷たい水が上がってくる湧昇が強まることがあります。風向きが変われば、湧昇の強さや発生場所も変わります。
黒潮も季節によって逆向きになるのか
黒潮は、夏と冬で完全に逆向きになる海流ではありません。黒潮は北太平洋の亜熱帯循環を構成する強い西岸境界流で、基本的には日本の南岸に沿って北東方向へ流れます。
ただし、黒潮の流量、流軸の位置、蛇行、周辺の暖水渦や冷水渦の分布などは時間とともに変化します。その変化には季節だけでなく、数か月から数年規模の海洋変動も関係します。
したがって、「季節で海流が変わる」という説明を黒潮にそのまま当てはめて、夏と冬で反転すると考えるのは誤りです。
海流ごとに、季節変化の現れ方は違います。方向が反転するもの、強さだけが変わるもの、流れる位置が移動するものがあります。
深い海の流れは季節にすぐ反応するとは限らない
季節変化の影響が特に大きいのは海面に近い層です。風や日射、降水はまず海面へ作用するからです。
深い海では、海面の季節変化がそのまま短期間で伝わるわけではありません。深層循環は、高緯度で形成された高密度水がゆっくり沈み込み、長い時間をかけて世界の海を巡る流れです。
そのため、深海の大規模な循環は季節ごとに大きく反転するというより、長期的で安定した流れとして存在します。
ただし、日本海のように冬季の強い冷却で深い水が形成される海域では、深層水形成そのものに季節性があります。気象庁は、日本海北部で冬に海面が強く冷やされ、密度が大きくなった海水が沈み込むことで日本海固有水が形成されると説明しています。
季節変化と「毎年同じ」は同じではない
海流には季節的な傾向がありますが、毎年まったく同じ時期に、同じ強さで変化するわけではありません。
モンスーンの開始や強さは年ごとに違います。エルニーニョやラニーニャ、インド洋ダイポールモードなどの気候変動も、風や海面水温を変えて海流に影響します。
さらに、海洋には暖水渦や冷水渦があり、それらが海流へ近づくと流軸や速度が一時的に変わります。
そのため、観測される海流には「毎年繰り返す季節変化」と「年ごとの変動」が重なっています。季節性は平均的な傾向であり、実際の流れには日々・月々・年々の変化も加わるのです。
季節による海流変化は生き物にも影響する
海流が変化すると、水温、塩分、栄養塩、プランクトンなどが運ばれる場所も変わります。
たとえば湧昇が強まる季節には、深い海から栄養塩に富む水が表面へ上がり、植物プランクトンが増えることがあります。それを餌とする動物プランクトンや魚も集まり、漁場が季節的に変化します。
また、暖流の強さや位置が変わると、暖かい水を好む魚の回遊経路も変わることがあります。
海流の季節変化は、単なる水の動きの変化ではなく、海洋生態系や漁業にもつながる重要な現象です。
「季節によって海流が変わる」を整理すると
- 季節風が変わる:海面を押す力の方向と強さが変化し、表層流が変わる。
- 海面水温が変わる:海水の密度や海面高度が変化し、流れの強さや位置に影響する。
- 降水・蒸発が変わる:塩分と密度の分布が変わり、成層や海流を変える。
- 河川流量が変わる:雨季には低塩分水が広がり、沿岸流や成層が変化する。
- 海峡や海岸地形が影響する:季節的な海面高度差が狭い海峡の流量として強く現れることがある。
- 変化のしかたは海流ごとに違う:向きが反転する海流もあれば、強さや位置だけが変わる海流もある。
結局、なぜ季節によって海流の流れ方が変わるのか
季節が変わると、海を動かす風、海水の温度と塩分、海面高度の分布が変化するためです。とくに表層海流は風の影響を強く受けるので、モンスーンのように風向きが大きく変わる地域では、海流そのものが季節的に反転することがあります。
一方、日本近海の対馬暖流のように、基本的な方向を保ちながら夏〜秋に強く、冬〜春に弱くなる海流もあります。黒潮のような大規模海流でも、流量や位置、蛇行などは変化しますが、季節ごとに単純に逆向きになるわけではありません。
つまり、海流の季節変化は「季節で風と海の状態が変わり、それに海水が応答する結果」です。海流を見るときは、向きだけでなく、速さ、流量、流軸の位置、上下の水の動きまで含めて考えることが大切です。

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