海水温が季節によって変わるのは、海が太陽から受け取る熱と、大気へ放出する熱のバランスが季節ごとに変わるからです。春から夏にかけては日射が強まり、海が受け取る熱が増えるため表面付近の海水は暖まります。秋から冬にかけては日射が弱まり、海から大気へ逃げる熱が増えるため海水温は下がります。
ただし、海は地面や空気より大量の熱を蓄えられるため、気温ほど急には温度が変わりません。北太平洋の中高緯度では、海面水温が最も低くなるのはおおむね2〜3月、最も高くなるのは8〜9月で、気温の季節変化より少し遅れる傾向があると気象庁は説明しています。
さらに、海面を暖めたり冷やしたりするだけでなく、風による混合、海流による熱の輸送、深い水の湧昇なども水温を変えます。そのため、同じ季節でも沖縄と北海道、外洋と内湾、黒潮域と親潮域では海水温の変わり方が違います。
季節で海が受け取る太陽の熱が変わる
海水温の季節変化の出発点は、太陽から届くエネルギーの変化です。
地球の自転軸は公転面に対して傾いています。そのため、北半球では夏に太陽高度が高くなって昼の時間も長くなり、海面が受ける日射量が増えます。冬は太陽高度が低く、昼も短くなるため、海へ入る太陽エネルギーが減ります。
気象庁は、海面が受ける日射量が季節によって変化するため、世界の海面水温分布も季節変化すると説明しています。特に中緯度から高緯度では季節差が大きく、北半球では夏に暖かく冬に冷たいという周期がはっきり現れます。
赤道付近では年間を通して日射量が比較的大きいため、海面水温の季節変化は中緯度ほど大きくない地域が多くあります。
夏は海面近くが太陽に暖められる
春になると日射量が増え、海面から海へ入る熱が増え始めます。夏には強い日射によって表面付近の海水がさらに暖められます。
暖かい海水は冷たい海水より密度が小さいため、暖められた水は表面にとどまりやすくなります。その結果、上に暖かい水、下に冷たい水という安定した層構造ができます。
このような状態では、表面の暖かい水と下層の冷たい水が混ざりにくくなります。気象庁によると、日本近海では夏の表層混合層はおよそ10〜20m程度の海域が多く、熱が比較的薄い層へ集中するため海面水温が上がりやすくなります。
つまり、夏の海は「強い日射で熱を受け取る」だけでなく、その熱が浅い層にたまりやすいことも水温上昇を助けています。
冬は海から熱が逃げ、風で深くまで混ざる
秋から冬になると日射量が減り、空気も冷たくなります。すると海面から大気へ熱が逃げやすくなり、表面の海水が冷やされます。
海水が冷えると密度が大きくなり、表面の水が下へ沈みやすくなります。さらに冬は季節風が強くなる地域が多く、風が海面をかき混ぜます。
その結果、夏より深いところまで上下の水が混ざり、水温がほぼ一様な表層混合層が厚くなります。気象庁は、日本近海では冬に混合層が100mを超える海域も広く見られるとしています。
夏は薄い層だけを暖めれば海面水温が上がりますが、冬は厚い層全体が冷却・混合されます。そのため、同じ量の熱が出入りしても海面水温の反応のしかたは季節によって変わります。
海水温が気温より遅れて変わるのはなぜか
一年で太陽から受けるエネルギーが最も多い時期と、海水温が最も高い時期は完全には一致しません。
北半球では夏至のころに日射条件が強くなりますが、日本近海を含む北太平洋中高緯度の海面水温は、多くの場所で8〜9月ごろに最も高くなります。冬も同じで、冬至を過ぎても海はしばらく熱を失い続けるため、2〜3月ごろに低温の底を迎える海域が多くあります。
これは海が大量の熱を蓄えられるためです。海水は少し暖めるだけでも多くのエネルギーを必要とし、一度蓄えた熱もすぐには失いません。
たとえるなら、空気は薄い金属板のように温度が変わりやすく、海は大きな鍋いっぱいの水のようにゆっくり暖まり、ゆっくり冷える性質があります。この海の熱的な慣性が、季節変化を遅らせます。
「日射が強いほどすぐ高水温」ではない
海水温は日射量だけで決まるわけではありません。海面での熱収支には、太陽からの短波放射だけでなく、海面から出る赤外放射、大気との顕熱交換、蒸発に伴う潜熱交換などが関わります。
たとえば晴れて日射が強くても、強い風が吹いて蒸発が盛んになれば、海は潜熱として多くの熱を失います。また、冷たい空気が海上へ流れ込めば、海から大気への熱放出が大きくなります。
逆に、雲が多く日射が少なくても、風が弱く暖かく湿った空気に覆われていれば、海面からの熱損失が小さく、水温が下がりにくいことがあります。
日本海を対象にした学術研究でも、海面での熱交換と海流による熱輸送の両方が、海洋の熱収支の季節変化に重要であることが示されています。
海流は季節ごとの水温をどう変えるのか
海はその場で暖まったり冷えたりするだけでなく、海流によって熱を運んでいます。
たとえば黒潮は低緯度の暖かい海水を日本の南から北東方向へ運びます。親潮は北太平洋の冷たい海水を南へ運びます。そのため、同じ緯度でもどの海流の影響を受けるかによって海面水温は大きく違います。
海流の流量や流路にも季節変化や年々変動があります。暖流が強く入り込めば、その海域の水温は平年より高くなりやすく、冷水の影響が強まれば低くなります。
つまり、季節による海水温変化は「太陽の熱をその場所で受ける量」だけではなく、別の海域からどれだけ暖水・冷水が運ばれてくるかにも左右されます。
湧昇が起こる海では夏でも冷たいことがある
海岸付近や赤道域の一部では、風によって表面の海水が別の場所へ運ばれ、その穴を埋めるように深いところから冷たい水が上がってくることがあります。これを湧昇と呼びます。
湧昇が強い海域では、夏で日射が強くても表面水温が低く保たれることがあります。気象庁の北西太平洋の解説でも、千島列島付近では深いところから冷たい水が上昇・混合するため、夏でも周囲より海面水温が低いことが示されています。
反対に、風が弱くなって上下の混合が弱まれば、夏の強い日射によって表面の薄い層が急速に暖まることがあります。
このため、同じ地域でも風の状態が変わるだけで、数日から数週間の海面水温に大きな差が生まれる場合があります。
台風が来ると海水温が急に下がることがある
台風は季節的な水温変化とは別の、短期的な変化を起こします。
台風の強い風は海面を激しくかき混ぜ、表面の暖かい水とその下の冷たい水を混ぜます。また、風によって表面水が移動すると、深い場所から冷たい水が上がることもあります。
その結果、台風通過後に海面水温が数日で大きく下がることがあります。気象庁の海面水温診断でも、台風通過後に強風の影響で高温域が縮小し、場所によって平年より低い水温が現れた例が報告されています。
これは「秋になったから海が冷えた」という季節変化ではなく、強風による鉛直混合が急激に強まったためです。
沿岸の海は外洋より変化が大きいことがある
浅い湾や沿岸では、外洋より水量が少なく、陸や河川の影響も受けやすいため、季節による水温変化が大きくなることがあります。
夏の浅い海では日射によって海底近くまで暖まりやすく、冬には冷たい空気によって比較的早く冷やされます。川から流れ込む水の温度も季節で変わるため、河口や内湾の水温に影響します。
一方、深い外洋では大量の海水が熱を蓄えているため、短期間の天気変化には比較的反応しにくくなります。
そのため、同じ県の海岸でも、浅い内湾と沖合では最高水温・最低水温の時期や変化幅が違うことがあります。
熱帯の海では季節変化が小さい場所が多い
赤道付近では一年を通して太陽高度が高く、日射量の季節差が中高緯度ほど大きくありません。そのため、海面水温も年間を通して高く、季節変化が小さい海域が多くあります。
JAMSTECのArgo観測データでも、北太平洋亜寒帯域では春から夏に海面水温が大きく上昇する一方、赤道域では年間を通した表層水温の変化が比較的小さいことを確認できます。
ただし、熱帯でもモンスーン、湧昇、エルニーニョ・ラニーニャなどによって海面水温が大きく変わる地域があります。
したがって、「赤道に近いほど季節変化が必ず小さい」と完全に決まるわけではなく、風や海流の仕組みも合わせて見る必要があります。
深い海は季節によってあまり変わらない
季節変化が最も大きいのは海面近くです。太陽光と大気との熱交換が直接作用するからです。
深くなるほど季節による加熱・冷却は届きにくくなります。JAMSTECの観測例では、北太平洋亜寒帯域で夏に表面水温が大きく上昇しても、100mより深い水は低温のまま保たれる様子が示されています。
さらに深海では、季節ごとの日射変化より、高緯度で形成された深層水や長い時間スケールの海洋循環の影響が大きくなります。
つまり「海水温が季節で変わる」と言うとき、主に大きく変化しているのは表層の海です。
水温変化は海の生き物にも影響する
海水温は魚やプランクトン、サンゴ、海藻などの生息環境を左右する重要な条件です。
春に表層が暖まり、日射が増えると、植物プランクトンが増える海域があります。魚も適した水温を追って移動するため、季節によって漁場が変化します。
一方、夏に海水温が異常に高い状態が長く続けば、サンゴの白化や養殖生物への影響が起こることがあります。冬の低水温も、生物の分布や活動を変えます。
このため、海面水温の観測は天気や気候の監視だけでなく、漁業や海洋生態系の把握にも使われています。
「気温が高い日=海水温もすぐ高い」とは限らない
真夏に急に猛暑になっても、その日の海水温が気温と同じように急上昇するとは限りません。
海は熱容量が大きく、表層混合層全体を暖めるには大量のエネルギーが必要です。また、風が強ければ上下の水が混ざり、表面だけの急激な昇温が抑えられることがあります。
逆に、数日間晴天と弱風が続けば、表面の薄い層に熱が集中し、海面水温が上がりやすくなります。
海水温を見るときは、その日の気温だけでなく、それまでの天気、日射、風、海流などの積み重ねを見る必要があります。
季節による海水温変化を整理すると
- 春〜夏は日射が増える:海が受け取る熱が増え、表層水温が上がる。
- 夏は混合層が浅くなりやすい:熱が薄い表層に集中し、海面水温が上がりやすい。
- 秋〜冬は熱を失う:日射が減り、冷たい空気や蒸発によって海から大気へ熱が逃げる。
- 冬は風と冷却で混合が深くなる:表面の冷水が沈み、厚い混合層ができる。
- 海は大量の熱を蓄える:そのため気温より季節変化が遅れやすい。
- 海流や湧昇も水温を変える:暖水・冷水の輸送によって地域差が生まれる。
- 変化幅は場所によって違う:中高緯度や浅い沿岸では大きく、熱帯や深海では小さい場合が多い。
結局、なぜ海水温は季節によって変わるのか
季節ごとに太陽から受け取る熱と大気へ失う熱のバランスが変わり、さらに風による混合や海流による熱輸送も変化するからです。
夏は強い日射によって海面付近が暖まり、浅い混合層に熱がたまりやすくなります。冬は日射が弱まり、冷却と強い風で海水が深くまで混ざるため、水温が低下します。
ただし、海は大量の熱を蓄えられるため反応が遅く、日本近海を含む北太平洋中高緯度では、海面水温の最高・最低の時期が気温よりやや遅れる傾向があります。
つまり海水温の季節変化は、単に「夏は暑いから海も暖かく、冬は寒いから海も冷たい」というだけではありません。日射、海面熱交換、混合層、風、海流、湧昇が組み合わさった海の熱収支の結果なのです。

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