なぜ登山道は斜面をジグザグに進むことが多いのか?

結論からいうと、登山道が斜面をジグザグに進むことが多いのは、斜面をまっすぐ上るより道の勾配を緩くでき、歩きやすさ・安全性を高めながら、雨水による道の侵食も抑えやすくなるからです。 同じ標高差を上る場合でも、直線的に上れば距離は短い代わりに急勾配になります。そこで斜面を横切るように進み、何度か方向を変えることで、移動距離を長くする代わりに一度に上る傾きを小さくできます。

このような折り返しは「つづら折り」や、英語ではswitchbackと呼ばれます。ただし、どんな斜面でも細かくジグザグにすればよいわけではありません。地形、土質、排水、植生、落石リスク、維持管理のしやすさなどを考え、必要な場所に適切な線形をつくることが重要です。

目次

まず、ジグザグにすると勾配が緩くなるのはなぜ?

山腹をまっすぐ上へ進むと、斜面の傾きをほぼそのまま登ることになります。

一方、斜面を斜め横方向へ進むと、同じ標高差をより長い距離を使って上ることになります。たとえば100m高くなるために200m進む道より、500m進む道のほうが平均的な上り勾配は小さくなります。

登山道のジグザグは、この単純な幾何学的な関係を利用しています。斜面そのものが急でも、道を斜面に対して斜めにつけることで、歩く人が感じる道の傾きを緩くできるのです。

米国国立公園局のトレイル技術資料でも、switchbackは急斜面で高度を得る際、急な直登ではなく中程度の勾配を保ちながら方向を反転して登る方法と説明されています。

理由1:急な直登より歩行負担を抑えやすい

急な登山道では、一歩ごとに大きく体を持ち上げる必要があります。ふくらはぎや太ももへの負担も大きくなり、呼吸も速くなりやすくなります。

ジグザグにして勾配を緩くすると、距離は長くなりますが、一歩ごとの高低差を小さくできます。そのため一定のリズムで歩きやすくなり、長い上りを続けやすくなります。

米国森林局の低負荷利用に関する資料でも、switchbackは急斜面で侵食を抑えるだけでなく、登山者のエネルギーを節約する目的を持つと説明されています。

つまり、ジグザグは「遠回り」ではありますが、急な坂を直接登るより現実的な歩行ルートになることが多いのです。

理由2:下りで速度が出すぎるのを抑えやすい

急な直線の下りでは、体重が斜面下方へ強くかかり、一歩ごとに脚で減速する必要があります。

特に砂や小石、ぬれた土、落ち葉がある道では滑りやすく、急勾配ほど転倒しやすくなります。

ジグザグの道では、一つの区間の勾配を比較的緩くできるため、下りでも速度を調整しやすくなります。方向転換部分ではいったん歩行方向が変わるため、長い急坂を一直線に下り続けるより、歩行を区切りやすいという利点もあります。

環境省の自然公園等施設技術指針でも、登山道の線形は侵食防止だけでなく利用者の安全確保を考えて設定し、一般には縦断勾配15%以下が望ましいとしています。

理由3:まっすぐな急坂は雨水の「水路」になりやすい

山の登山道で大きな問題になるのが雨水です。

急斜面を上から下へまっすぐ延びる道は、雨が降ると水が道に沿って流れやすくなります。登山者に踏み固められた路面は周囲より水がしみ込みにくくなることもあり、くぼんだ道がそのまま小さな水路のようになる場合があります。

流れる水が集中すると、細かい土砂が運び去られ、道が深く掘れます。さらに石や根が露出し、歩きにくくなり、登山者が道の脇を歩くことで侵食範囲が広がることもあります。

環境省は、登山道では雨水を分散させることが重要であり、水路になりやすい線形を避け、必要に応じてルートのつづら折り化を検討するとしています。

理由4:斜面を横切る道は水を外へ逃がしやすい

登山道を斜面に沿って横方向へつけると、雨水を長い距離にわたって道の中へ閉じ込めず、途中で斜面下方へ排水しやすくなります。

実際の登山道では、路面をわずかに外側へ傾ける「外傾」、一度道を少し上げ下げして水を外へ逃がす勾配変化、横断排水などが組み合わされます。

米国森林局のトレイル施工資料でも、路面を水路にしないため、水が道を横切って斜面下方へ流れるように線形や路面勾配を設計することが重視されています。

ジグザグそのものが自動的に排水を解決するわけではありませんが、直線の急坂よりも、水を分散して外へ逃がす設計をしやすくなります。

理由5:侵食が進むと登山道はさらに急で歩きにくくなる

登山道の侵食は、単に土が少し削れるだけではありません。

水が同じ場所を繰り返し流れると、路面が深くえぐられ、段差や溝ができます。登山者はその歩きにくい部分を避けて左右へ広がり、植生を踏みつけるようになることがあります。

環境省の技術指針でも、使用頻度が高く急な登山道は踏圧や雨水によって深く侵食されやすく、歩きにくくなることで脇へ踏み分け道が広がる問題が指摘されています。

北海道の大雪山国立公園で行われた長期研究でも、登山道の侵食には流出水や道の勾配が関係していることが報告されています。

そのため、最初から勾配と排水を考えたルートをつくることが、長期的な登山道保全につながります。

ジグザグなら何でも侵食に強いわけではない

ここで重要なのは、「ジグザグにすれば必ずよい道になる」わけではないことです。

折り返しの間隔が短すぎたり、道の上下が近すぎたりすると、登山者が間を直線的にショートカットしたくなります。その結果、急な踏み分け道ができ、雨水が流れて侵食されることがあります。

米国国立公園局や森林局も、switchbackのショートカットは植物を踏み荒らし、急な新しい道をつくって侵食を悪化させると注意しています。

したがって、適切なジグザグ道では、折り返し地点を地形や岩、植生になじませ、ショートカットしにくい配置にすることも重要です。

なぜショートカットしてはいけないのか

ジグザグの道を見ると、「ここを真っすぐ下れば早い」と感じることがあります。しかし、ショートカットには大きな問題があります。

本来の登山道は、勾配や排水を考えてつくられています。その間を直線的に歩くと、急斜面に新しい踏み跡ができます。

その踏み跡では植物が傷み、土が露出します。さらに人が通るほど土が踏み固められ、雨水が集中して流れ、溝状の侵食へ発展することがあります。

米国森林局は、switchbackのショートカットが急速に侵食され、既存の登山道にも土砂を流し込む原因になるとしています。

登山道のジグザグは無駄に遠回りしているのではなく、斜面と水の条件を考えた線形なので、基本的には決められた道を歩くことが大切です。

階段ではなくジグザグにする理由は?

急な登山道では階段を設置する方法もあります。

しかし、長い区間をずっと階段にすると、一歩の高さが固定され、かえって疲れやすいことがあります。また、施工量が増え、自然地形の改変や維持管理も大きくなります。

環境省の技術指針では、縦断勾配15%以上の登山道で侵食防止のため段差工を設ける場合がある一方、現地を確認して必要な場所だけに設置し、長区間にわたる階段の連続は避けるよう配慮するとしています。

そのため、地形に余裕がある場所ではジグザグで勾配そのものを緩くし、それでも急になる場所では階段や段差工を組み合わせる設計が使われます。

尾根道ではジグザグが少ないこともある

すべての登山道が山腹をジグザグに進むわけではありません。

尾根には比較的なだらかな部分もあり、地形に沿ってそのまま進めることがあります。また、尾根は山腹の谷状地形より水が集まりにくい場合があり、排水面で有利なこともあります。

環境省も、登山道では雨水の集中を避ける観点から、条件に応じて尾根道を選択する考え方を示しています。

逆に、尾根が非常に細い場所や崖がある場所では安全上通れないため、山腹へ回り込むこともあります。

登山道の形は、単に最短距離ではなく、安全性、排水、地形改変、自然環境への影響を合わせて決められます。

岩場では直線的な道になる場合もある

岩盤が露出した場所では、土の侵食よりも、歩行可能な岩棚や割れ目の位置がルートを決めることがあります。

その場合、鎖や梯子、岩段などを使って短い急斜面を直線的に上ることもあります。

また、ジグザグに道をつけようとしても、崖、沢、落石帯、希少植物の生育地などがあれば迂回できないことがあります。

したがって、登山道の線形は「必ず緩勾配」という単一の原則ではなく、その場所の自然条件と利用条件を総合して決められます。

ジグザグにすると道が長くなるのは欠点ではないのか

確かに、つづら折りにすると登山距離は長くなります。

しかし登山道では、距離が短いことだけが良いルートの条件ではありません。急すぎる最短ルートは歩行負荷が大きく、転倒しやすく、雨水で侵食されやすくなる場合があります。

適度に距離を伸ばして勾配を緩くすることは、歩きやすさ、耐久性、排水性のバランスをとる方法です。

一方で、switchbackを増やしすぎると施工・維持が難しく、ショートカットも起こりやすくなります。米国国立公園局の技術資料でも、必要以上に多くのswitchbackをつくることは避けるべきだとされています。

つまり、登山道設計では「最短」と「最もジグザグ」の中間にある、地形に合った線形を探します。

自然保護の面でもジグザグの設計が重要

登山道は人が自然の中へ入るための通路であると同時に、人の影響を一定の範囲へ集める役割も持っています。

適切な道がなければ、登山者がそれぞれ歩きやすい場所を選び、斜面に多数の踏み跡ができることがあります。

ジグザグの登山道を適切に整備し、その道を利用してもらうことで、踏圧や植生破壊を限定された範囲へ抑えやすくなります。

反対に、ショートカットが増えると踏み分け道が広がり、植生の損傷と土壌侵食が面的に広がります。

そのため登山道の線形は、人の歩きやすさだけでなく自然環境への影響を小さくするためにも重要です。

ジグザグの登山道が役立つ仕組みを整理すると

  1. 急斜面を斜め横方向へ進む
  2. 同じ標高差をより長い距離で上る
  3. 登山道そのものの勾配が緩くなる
  4. 上り下りの負担や転倒リスクを抑えやすくなる
  5. 雨水が道を一直線に流れ下るのを避けやすくなる
  6. 途中で水を斜面へ逃がし、路面侵食を減らしやすくなる
  7. 結果として登山道と周囲の植生を長く保ちやすくなる

まとめ

登山道が斜面をジグザグに進むことが多い最大の理由は、急な山腹をそのまま直登するより、道の勾配を緩くし、歩きやすさと安全性を高めながら雨水による侵食を抑えやすくなるからです。

  • ジグザグにすると同じ標高差を長い距離で上るため、勾配を緩くできる
  • 急な直登より一歩ごとの負担を抑え、上り下りを続けやすい
  • 斜面をまっすぐ下る道より雨水が集中しにくい
  • 排水を途中で斜面外へ逃がす設計をしやすい
  • 侵食による深い溝や登山道の拡幅を防ぎやすい
  • ショートカットは急な踏み跡をつくり、植生破壊と侵食を悪化させる
  • 地形によっては尾根道、階段、岩場の直登など別の方法が適することもある

つまり登山道のジグザグは、単なる遠回りではありません。急な自然斜面の上に、人が安全に歩けて、雨にも壊れにくく、周囲の自然への影響も抑えられる道をつくるための工夫なのです。

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