深い湖の底が暗いのは、湖面から入った太陽光が水の中を進むうちに、水そのものや植物プランクトン、土砂、溶けた有機物などに吸収・散乱され、深くなるほど光が弱くなるからです。
湖面では明るくても、光は水中を無制限に進めるわけではありません。深さが増すにつれて届く光は急速に減り、やがて光合成に使えるほどの光もほとんど届かない層になります。深い湖では湖底がその暗い層よりさらに下にあることが多いため、底は非常に暗くなります。
ただし、すべての湖で同じ深さから暗くなるわけではありません。水が澄んでいる湖では光が比較的深くまで届き、濁った湖では浅い場所でも急速に暗くなります。
水中では光が少しずつ失われていく
太陽光が湖面から水中へ入ると、その光の一部は水そのものに吸収されます。また、一部は水分子や水中の粒子によって別の方向へ散らされます。
国立環境研究所の摩周湖観測資料では、水中の植物プランクトンや土砂、溶存物質、さらに湖水そのものが光を吸収・散乱し、深さとともに光を弱くすると説明されています。
光は一度に消えるのではありません。しかし、少し進むたびに吸収と散乱が繰り返されるため、深くなるほど目に届く光の量は少なくなります。
その結果、湖面近くは明るくても、深層では昼間でも薄暗くなり、十分に深い湖底では太陽光がほとんど利用できない状態になります。
赤い光と青い光では届く深さが違う
太陽光には赤、橙、黄、緑、青などさまざまな波長の光が含まれていますが、すべての色が同じように水中へ進むわけではありません。
米国地質調査所(USGS)は、水が赤や赤外線のような長い波長の光を比較的早く吸収し、青のような短い波長の光はより長く残ると説明しています。
そのため、深くなるにつれてまず赤っぽい光が弱まり、残る光の色も変化します。深く澄んだ水が青く見えやすいのは、この波長ごとの吸収の違いも関係しています。
しかし、青い光であっても永遠に届くわけではありません。深さが増せば最終的には十分弱くなり、湖底が非常に深ければ自然光はほとんど届かなくなります。
植物プランクトンや土砂が多いとさらに暗くなる
水中の明るさを決めるのは水深だけではありません。
湖に植物プランクトンが多いと、その色素が光を吸収します。大雨の後などに細かな土砂が大量に流れ込むと、その粒子が光を散乱させます。湿地や森林から溶け出した有機物も、特定の波長の光を吸収します。
USGSがレイク・ヒューストンで行った研究では、光の減衰には浮遊物質による散乱、溶存有機物やクロロフィルによる吸収が関係し、濁度や水の色が強いほど光が減衰しやすいことが示されています。
つまり、同じ100mの水深でも、非常に澄んだ湖と濁った湖では明るさがまったく同じではありません。濁った湖では、かなり浅い段階で光が弱くなります。
「透明度」は光の届きやすさを知る手がかり
湖の水がどれくらい澄んでいるかを見る代表的な指標が透明度です。
環境省は、湖沼の透明度が水中へ届く光の量を左右し、水生植物の光合成や生育に関係すると説明しています。
透明度の測定では、一般に白い円盤を水中へ沈め、見えなくなる深さを測ります。透明度が高い湖では、目で確認できる光学的なコントラストが深くまで保たれています。
ただし、透明度の値は「それより下には光が一切ない」という境界ではありません。透明度より深い場所にも弱い光は届くことがあります。透明度は、あくまで水中の光環境を比較するための分かりやすい目安です。
光合成できる深さには限界がある
植物プランクトンや水草が光合成するには、一定以上の明るさが必要です。
水面から入った光が深さとともに弱まり、光合成に十分な光が届く範囲を有光層と呼びます。USGSの湖沼研究では、水面の光に対してごく少量しか残らなくなる深さを、水中での光利用可能範囲を考える指標として扱っています。
有光層より深い場所では、光合成による有機物生産が難しくなります。そのため深い湖では、表層では植物プランクトンが活発でも、湖底にはほとんど光が届かないという大きな環境差が生まれます。
「湖面は明るいのに湖底は暗い」というのは、同じ湖の中で光の条件が深さとともに大きく変化しているためです。
非常に透明な湖でも深い湖底は暗くなりやすい
摩周湖は国内でも特に透明度の高い湖として知られています。
国立環境研究所の観測では、1980年代後半以降の透明度は平均20〜25m程度で推移しており、2017年5月には26mの透明度が観測されています。一方、調査が行われる最深部は約210mあります。
これは、透明な湖であっても湖底までの水の厚さが非常に大きいことを示します。光は途中の水柱で吸収・散乱を何度も受けるため、湖底へ近づくほど弱くなります。
つまり「透明な湖=湖底まで明るい」とは限りません。透明度が高いほど光は深くまで届きやすくなりますが、水深がそれ以上に大きければ、底は暗い環境になります。
季節によって暗くなる深さも変わる
湖の透明度や水中光は一年中一定ではありません。
植物プランクトンが増える季節には光の吸収が増え、大雨で土砂が流れ込めば散乱も増えます。反対に、プランクトンや浮遊物が少なくなると透明度が上がり、光がより深く届くことがあります。
摩周湖の観測でも、2009年5月は透明度32.5mだったのに対し、8月は16.5mとなり、植物プランクトン増加に伴って水中の光吸収が大きくなっていました。
そのため同じ湖でも、春は比較的明るい深さが夏には暗くなるなど、水中の光環境は季節によって変化します。
雨や風でも光の届き方は変わる
天候も湖底の明るさに影響します。
曇天では湖面へ入る太陽光そのものが少なくなります。大雨では流域から土砂や有機物が流れ込み、水の濁りが増えることがあります。強い風で浅い湖底の泥が巻き上がれば、浮遊粒子が増えて光がさらに通りにくくなります。
摩周湖では2016年に台風の影響で土壌粒子が湖へ入り、9月の透明度が6.3mまで低下しました。その後、粒子が沈むにつれて透明度は回復しました。
このように湖の暗さは水深だけで決まるのではなく、その日の天候や直前の雨、風にも左右されます。
深い湖底では植物が少なくなる理由
湖底まで届く光が少なくなると、光合成を必要とする水草や藻類は生育しにくくなります。
環境省は、透明度が低下して水中光量が少なくなると、水生植物の光合成が妨げられ、生育・生息機能にも影響するとしています。
そのため、多くの湖では水草が岸近くの浅い場所に多く、深い湖底には広がりにくくなります。
ただし、湖底が暗くても生き物がいないわけではありません。深い場所には、上層から沈んでくる有機物を利用する微生物や底生動物など、光合成に直接頼らない生物が暮らすことがあります。
深い湖の底は「完全な暗闇」とは限らない
「深い湖の底は暗い」という表現は一般的には正しいものの、すべての湖底が完全な暗闇になるわけではありません。
湖が十分に澄んでいて、水深がそれほど大きくなければ、湖底まで弱い光が届くことがあります。逆に、水深が浅くても濁りが非常に強ければ、底は暗くなります。
したがって本当に重要なのは水深だけではなく、光を吸収・散乱する物質がどれだけあるかという「光の減衰のしやすさ」です。
深さと水の透明度を組み合わせて考えることで、その湖底がどの程度明るいのかを理解できます。
人工のライトなら深い湖底も見える
太陽光がほとんど届かない深い湖底でも、水中カメラや潜水機にライトを付ければ周囲を見ることができます。
これは湖底が黒い物質でできているから暗いのではなく、自然光が届いていないことを示します。人工光を当てれば、湖底の泥、岩、生物などはその光を反射して見えるようになります。
ただし人工光も水中で吸収・散乱されるため、遠くまで無限に見えるわけではありません。濁った水ではライトの光が粒子に散乱され、近距離しか見えないことがあります。
まとめ
深い湖の底が暗いのは、湖面から入った太陽光が水中を進む間に、水そのものや植物プランクトン、土砂、溶存有機物によって吸収・散乱され、深さとともに急速に弱くなるからです。
- 光は水中を進むほど吸収・散乱されて弱くなる
- 赤い光は比較的早く吸収され、青い光はより深くまで残りやすい
- 植物プランクトン、土砂、溶存有機物が多いほど光は減衰しやすい
- 透明度が高い湖ほど光は深く届きやすいが、十分に深ければ湖底は暗くなる
- 季節、雨、風によって透明度や光の届く深さは変わる
- 光が不足する深い湖底では、光合成を必要とする植物は生育しにくい
湖の底が暗いのは「深いから」という一言だけではなく、深い水の層を通る間に光が何度も吸収・散乱されるためです。湖の深さと透明度を見ると、その湖の水中世界がどこまで明るいのかを考えることができます。
参考資料
- 環境省「地域環境目標『沿岸透明度』について」
- 国立環境研究所「摩周湖DB 観測結果」
- U.S. Geological Survey「Light attenuation in a shallow, turbid reservoir, Lake Houston, Texas」
- U.S. Geological Survey「Introduction to Aquatic Remote Sensing」

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