なぜ季節や環境の変化で震源分布が変わることがあるのか?

結論から言うと、すでに起きた一つの地震の震源が季節によって移動するわけではありません。震源とは、その地震で地下の岩盤破壊が最初に始まった点です。季節や環境によって変化しうるのは、次にどの場所の断層が破壊しやすくなるかという条件であり、その結果として、ある期間に観測される震源の分布や深さに変化が見える場合があります。

特に、降雨、融雪、地下水、流体圧、積雪荷重などの影響を受けやすい浅い地殻や群発地震域では、地震活動が季節的に増減したり、震源が時間とともに移動したりする例が知られています。一方、深いプレート内地震や巨大なプレート境界地震について、季節変化だけで震源位置が決まると考えることはできません。

目次

まず「震源が変化する」の意味を整理する

気象庁は、震源を「地下の岩盤のずれが始まったところ」と説明しています。大きな地震では、その一点から断層破壊が広い範囲へ広がりますが、震源という言葉自体は破壊開始点を指します。

したがって、ある地震が発生した後に、その地震の震源が春から夏にかけて別の場所へ移動することはありません。

一方で、同じ地域で小地震が次々に起きる場合には、それぞれの地震は別々の震源を持ちます。時間の経過とともに、先に浅い場所で地震が起こり、その後はより深い場所へ震源が並ぶようになれば、地震活動全体として「震源が移動した」と表現されることがあります。

この記事で扱う季節・環境による変化とは、このような震源分布の時間変化です。

震源の場所は何によって決まるのか

地震は、断層にかかる力が摩擦抵抗などの限界を超え、急に滑り始めることで起こります。

そのため、次の地震の震源は、地下でどこが最も破壊条件に近づいているかによって決まります。

  • 断層にかかるせん断応力
  • 断層面を押し付ける力
  • 岩石の温度や圧力
  • 断層内の間隙水圧
  • 断層や割れ目の向き
  • 周囲の地震による応力変化

これらの基本条件はプレート運動や地下構造によって長期的に作られます。ただし、浅い場所では雨や雪、地下水などの環境変化が小さな追加条件として重なることがあります。

雨や融雪水が震源分布へ影響することがあるのはなぜか

大量の雨や融雪水の一部は地中へ浸透し、地下水位や岩盤中の流体圧を変化させます。

断層や亀裂の中の水圧が上がると、岩盤どうしを実質的に押し付ける力が弱くなり、断層が滑りやすくなる場合があります。

ただし、水が地表から何kmもの深さへ直接すぐ到達するという単純な仕組みではありません。地下には透水性の高い亀裂や、逆に水を通しにくい層があります。圧力変化が地下の割れ目ネットワークを通じて伝わることで、離れた場所の断層条件が変わる場合があります。

そのため、地下水系が断層とよくつながっている地域では、降雨や融雪の後に特定の深さ・場所で小地震が増え、時間とともに震源位置が移動することがあります。

融雪後に震源が深く移動した例がある

USGSが報告した米国カリフォルニア州ロングバレー・カルデラ周辺の研究では、浅い地震活動が融雪と強く関係していることが示されています。

2017年の地震群を精密に再決定したところ、震源は約1kmから約3kmの深さへ下向きに移動しました。研究では、融雪によって地下水が補給され、その圧力変化が透水性の高い構造を通って地下へ伝わり、浅い地震活動を加速したと解釈されています。

また、長期間の統計では、非常に湿潤な時期の浅い地震活動率が、非常に乾燥した時期より大幅に高かったことも報告されています。

この例は、季節的な水循環が、条件の整った浅い断層で「どの深さから順に地震が起こるか」を変える可能性を示しています。

日本でも流体と震源移動の関係が研究されている

日本の代表例として、1960年代に長野県で続いた松代群発地震があります。

J-STAGEに掲載された研究では、高精度の震源分布から、震源が時間とともに上方へ移動する傾向が確認されました。研究者は、その移動速度をもとに、地殻中の間隙水圧の伝播と透水性との関係を検討しています。

松代群発地震は季節変化だけで説明される現象ではありませんが、地下流体の圧力変化が震源の時間的・空間的な移動と結び付くことがあることを示す重要な事例です。

つまり、震源が移動する現象を理解するときには、断層の応力だけでなく、地下の水や流体がどのように移動するかも重要になります。

季節変化が効きやすいのは浅い地震

地表の雨・雪・地下水変化の影響は、一般に浅い地殻ほど現れやすいと考えられます。

USGSによる米国西部の火山地域の研究では、複数地域で地震活動に季節性が認められ、その傾向は特に地表から約3km以内の浅い地震で目立ちました。積雪が減ることによる荷重変化や地下水補給が、数kPa程度の応力変化を生み、地震発生率を変調する可能性が示されています。

一方、数十kmから数百kmの深さで起こる地震では、地表の降雨や積雪がそのまま震源まで水として届くわけではありません。季節的な表面荷重の影響も深さとともに小さくなります。

そのため、「季節によって震源が変わる」という現象を一般化するのではなく、浅い地震活動や流体の影響が強い地域で特に検討される現象と考えるのが適切です。

積雪の重さも地震が起こる場所へ影響しうる

冬に大量の雪が積もる地域では、雪の重さが地表を押します。春に雪が融けると、その荷重が取り除かれます。

この荷重・除荷によって地殻はごくわずかに弾性変形し、断層にかかる法線応力やせん断応力も変化します。

変化量はプレート運動によって長期的に蓄積される応力に比べれば小さいものですが、断層がすでに破壊寸前の状態なら、発生時刻や発生場所の順番をわずかに変える可能性があります。

その結果、ある季節に特定の浅い震源クラスターが活発になるなど、震源分布に季節性が見えることがあります。

地下水位の変化と震源の深さは単純に一致しない

地下水位が1m上がったから、震源も1m深くなる、といった単純な関係はありません。

震源は、地下で実際に断層が破壊した場所です。地下水位は地表近くの水の位置を表します。両者の間には、岩盤の透水性、亀裂のつながり、圧力拡散速度、断層の向きなど多くの条件があります。

そのため、環境変化と震源移動の因果関係を判断するには、降水量だけでなく、地下水観測、高精度震源分布、発震機構、地殻変動などを組み合わせる必要があります。

単に「雨の後に地震があった」という時間的一致だけでは、雨が原因だったとは結論できません。

群発地震で震源が移動しやすく見えるのはなぜか

群発地震では、突出して大きな一つの本震がなく、小地震が時間をかけて多数発生することがあります。

地下流体が関係する群発地震では、流体圧の高まりが断層や亀裂に沿って広がるにつれ、地震発生域が少しずつ移動することがあります。

この場合、震源移動の速度や方向から、地下の透水性や流体の移動経路を推定できることがあります。

一方、本震-余震型では、本震による応力再配分が余震分布を強く支配します。したがって、震源分布が時間変化していても、それが季節環境によるものか、本震後の応力変化によるものかを区別する必要があります。

火山地域では環境変化と地下流体の影響が重なりやすい

火山地域には、地下水だけでなく熱水や火山性流体が存在します。

そこへ降雨や融雪による地下水補給が重なると、地下の圧力状態が複雑に変化します。そのため、浅い火山性地震や群発地震で季節的な発生率の変化が見られることがあります。

ただし、火山地域の地震活動にはマグマ移動、熱水循環、火山体の応力変化なども関係します。

季節性が見えたからといって、すべてを雨や雪だけで説明することはできません。

人間活動でも震源分布が移動することがある

季節や自然環境とは別に、人間活動による流体圧変化でも震源分布が変化することがあります。

地下への流体注入、貯水池への大量貯水、地下水のくみ上げなどによって地下応力や間隙水圧が変わると、断層が滑りやすくなることがあります。

流体圧変化が地下へ広がるにつれて地震活動域が移動する事例もあり、こうした現象は誘発地震の研究で重要です。

自然の融雪水による地震群と人工的な流体注入による地震群では原因は異なりますが、「圧力変化が断層条件を変え、震源分布が時間とともに変化する」という共通した物理過程があります。

震源の見かけの変化には観測・解析条件もある

震源は地下を直接見て決めるのではありません。気象庁では、複数の地震観測点で記録されたP波・S波の到着時刻を使って、震源の緯度・経度・深さを計算します。

そのため、観測点の配置、利用できる観測点数、地震波速度モデル、解析方法によって、震源位置の精度は変わります。

気象庁の地震カタログでも、観測網や震源計算方法の改善に伴って震源が再決定されることがあります。

つまり、長期間の震源分布を比較するときには、物理的な震源移動だけでなく、観測・解析条件の変更による「見かけ上の変化」も区別する必要があります。

季節によって震源が深くなるという一般法則はない

「夏は震源が浅い」「冬は震源が深い」といった世界共通の一般法則はありません。

地域によって、降水の多い季節、融雪時期、地下水系、断層の透水性、積雪量は異なります。また、断層の向きや応力状態も異なります。

ある地域では春の融雪後に浅い地震が増える一方、別の地域では明瞭な季節性が見られないこともあります。

したがって、震源の季節変化は地域固有の現象として検証する必要があります。

大地震の震源を季節から予測できるわけではない

季節的な地震活動の変化が研究されていても、そこから個別の大地震の震源位置や発生日を予測できるわけではありません。

雨や雪による応力変化は小さく、断層内部の応力・水圧を高精度で把握することも難しいためです。

さらに、大きな地震では長年から数百年以上にわたるプレート運動による応力蓄積が主要な原因であり、季節変化はあっても副次的な調整要因にすぎません。

季節性の研究は、地震を日時指定で予知するためではなく、断層が小さな外力や流体変化にどう反応するかを理解するために重要です。

まとめ

地震の震源が季節や環境によって変化するという場合、すでに発生した一つの地震の震源が移動するわけではありません。

変化するのは、ある期間にどの場所で次の地震が起こりやすくなるかという条件です。降雨、融雪、地下水、積雪荷重などが断層の応力や間隙水圧をわずかに変えると、浅い地震活動や群発地震では震源分布が時間とともに移動する場合があります。

実際に、融雪後に震源が約1~3kmへ下向きに移動した群発地震や、日本の松代群発地震で流体圧の伝播と関連する震源移動が研究されています。ただし、このような季節・環境依存性をすべての地震へ一般化することはできません。

つまり、季節や環境によって変わるのは「震源そのもの」ではなく、「次にどの場所が破壊しやすいか」という地下の応力・流体条件であり、その結果として震源分布に変化が現れることがあるのです。

参考資料

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