なぜ季節や環境は地震のマグニチュードを直接決めないのか?

結論から言うと、地震のマグニチュードそのものが「夏だから大きく、冬だから小さい」というように季節だけで決まることはありません。一つの地震の規模は、どれだけ広い断層面が、どれだけ大きくずれたかなど、その地震で実際に起きた断層破壊によって決まります。

一方で、積雪、降雨、融雪、地下水、海水などによる荷重や間隙水圧の変化が、すでに破壊寸前にある断層の「滑り始めるタイミング」をわずかに変える例は研究されています。そのため、季節によって地震の発生数や発生時期に偏りが見える地域はあります。

ただし、これは季節がマグニチュードを直接変えるという意味ではありません。正確には、季節や環境が地震発生のきっかけの一部に影響し、その結果として「どの地震がいつ起きるか」が変わる可能性がある、という話です。

目次

マグニチュードは何で決まるのか

マグニチュードは地震そのものの規模を表す指標です。

気象庁では、気象庁マグニチュード(Mj)とモーメントマグニチュード(Mw)を主に使っています。Mjは観測された地震波の振幅などから比較的すばやく求められ、Mwは断層運動の物理的な規模をより直接的に反映します。

USGSによると、Mwの基礎となる地震モーメントは、概念的には次の三つの積で決まります。

  • 断層周辺の岩石の剛性
  • 実際にずれた断層面積
  • 断層の平均すべり量

つまり、大きな面積が大きくずれるほど地震モーメントは大きくなり、結果としてMwも大きくなります。

この式の中に「季節」や「気温」という項目はありません。

同じ地震のマグニチュードが季節で変わるわけではない

一度発生した地震について、冬に測ればM6.5、夏に測ればM7.0になる、というようなことはありません。

その地震でどれだけの断層がどれだけずれたかは、地震が終わった時点で決まっています。

ただし、地震発生直後に発表されたマグニチュードが、その後更新されることはあります。

気象庁によると、地震直後は利用できる観測点や地震波データが限られるため、まず速報値を求めます。その後、より多くの観測データや長い地震波形を解析することで、より適切な値へ更新される場合があります。

これは季節の影響ではなく、観測データと計算方法の違いによるものです。

季節によって変わりうるのは「地震が起こる条件」

季節や環境が関係する可能性があるのは、マグニチュードそのものより、断層が滑り始める条件です。

断層には、長年のプレート運動によって応力が蓄積しています。その断層が破壊直前の状態に近づいていると、非常に小さな追加応力でも地震発生の時刻が少し早まったり遅れたりすることがあります。

季節変化によって生じる代表的な外力には、次のようなものがあります。

  • 積雪の重さと春の融雪による荷重変化
  • 降雨や融雪による地下水の増減
  • 断層内の間隙水圧の変化
  • 海水や陸水の季節的な荷重変化

これらは通常、プレート運動による長期的な応力蓄積に比べれば小さな変化です。

地下水圧が地震を起こしやすくすることがある

断層の割れ目に水が入り、間隙水圧が高くなると、岩盤同士を実質的に押し付ける力が弱まる場合があります。

すると、同じせん断応力でも断層が滑りやすくなります。

このため、降雨や融雪による地下水変化が、条件の整った浅い断層や群発地震域で地震発生率を変化させる例があります。

ただし、水が増えたから大きな地震になるわけではありません。水圧が変化した場所で地震が始まっても、その破壊がどこまで広がるかは、断層の応力分布、摩擦特性、岩石の強度、周囲の断層構造など多くの条件で決まります。

季節的に地震の発生数が変わる例はある

USGSが報告したカリフォルニア州パークフィールド周辺の研究では、サンアンドレアス断層の一部で地震発生率に年周期や半年周期の変動が確認されました。

研究では、水循環に伴う地殻荷重や間隙水圧の変化によって、約kPa単位の小さな応力変化が生じ、すでに臨界状態に近い断層で地震を誘発する可能性が検討されています。

また、米国西部の火山地域でも、積雪の減少や地下水補給と浅い地震活動の季節変動との関係が報告されています。

こうした研究が示しているのは、地震の発生率や発生時期が季節的に変調されることがあるという点です。

地震一つ一つのマグニチュードが季節によって一定方向に増減することを示しているわけではありません。

日本でも大地震の季節性は研究されてきた

日本でも、地震の発生季節に偏りがあるかどうかは古くから研究されています。

1982年に発表された日本地震学会の論文では、日本付近の大きな浅い地震について月別発生数を調べ、地域によって発生時期に偏りがみられる可能性が報告されました。研究では、積雪、地下水、潮位などによる荷重変化が、臨界状態の断層を刺激する可能性が議論されています。

ただし、この種の研究を読むときには注意が必要です。

巨大地震は発生回数そのものが少ないため、統計的な検証には長い観測期間が必要です。また、季節的な偏りが見えても、それが「季節が地震の規模を決めた」ことを意味するわけではありません。

季節によって「大きい地震が増える」とは言えない

最も大切なのは、発生数の季節変動とマグニチュード分布を分けて考えることです。

ある地域で冬に地震が多かったとしても、冬の地震ほど必ずマグニチュードが大きいとは限りません。

また、過去の記録で特定の季節に大地震が多く見えても、発生数が少ない巨大地震では偶然の偏りが含まれる可能性があります。

そのため、「春は大地震が大きくなる」「雨季はマグニチュードが上がる」といった一般則は現在の地震学では確立していません。

環境条件が破壊の大きさへ間接的に関係する可能性はある

地震の規模は断層破壊の面積とすべり量で決まるため、断層の強度や応力状態が変われば、理論上は破壊の進み方にも影響し得ます。

たとえば間隙水圧が上昇すれば断層が滑りやすくなり、どの部分から破壊が始まるかに影響する可能性があります。

しかし、その変化が最終的なマグニチュードをどれだけ変えるかを季節条件だけから予測することはできません。

断層破壊は非常に複雑で、破壊開始点、断層面の強弱、応力分布、隣接断層との関係などによって進展が大きく変わります。

したがって、環境変化は「地震発生を少し促す要因」になり得ても、「M6をM8にする季節スイッチ」のように考えるのは正しくありません。

人間による流体注入では環境影響が大きくなる場合がある

自然の季節変化とは別に、人間活動による地下への流体注入や大量の流体くみ上げが地震を誘発する例があります。

この場合、地下の間隙水圧や応力が自然の季節変化より大きく局所的に変わることがあります。

ただし、誘発された地震の最大規模も、注入量だけで単純に決まるわけではありません。近くにどのような断層があり、どれほど応力が蓄積していたかが重要です。

この点からも、環境変化は「地震を起こす条件」とは関係しても、マグニチュードを一つの環境値だけで決めるものではないことがわかります。

マグニチュードの違いを季節差と誤解しやすい理由

季節ごとに発生した地震を並べると、たまたまある季節に大きな地震が集中して見えることがあります。

しかし、地震は一回ごとに震源、断層、深さ、破壊面積が異なります。そのため、異なる季節に起きた地震のマグニチュード差は、まず地震そのものの違いとして考える必要があります。

また、地震発生直後の速報値と後から精査された値が違う場合もあります。MjとMwのように異なるマグニチュード尺度を比べれば、同じ地震でも数値が少し違うことがあります。

こうした違いを「季節でマグニチュードが変わった」と解釈しないことが重要です。

防災では季節ごとのマグニチュード予測はできない

現在の科学では、「この季節はM7以上が起こりやすいので注意する」といった形で、季節だけから大地震の規模を予測することはできません。

季節性が研究されている地域でも、それは統計的な地震発生率の小さな変調を調べる研究です。個々の地震がいつ、どこで、どの規模で起こるかを決めるものではありません。

防災では、季節に関係なく、その地域で想定される最大級の地震や揺れに備える必要があります。

一方で、冬の積雪、梅雨時の斜面災害、高い地下水位による液状化など、同じ地震でも被害条件は季節によって変わることがあります。マグニチュードの季節差よりも、こちらのほうが実際の防災では重要な場合があります。

まとめ

地震のマグニチュードが季節や環境によって直接変化するという一般則はありません。

一つの地震の規模は、断層の剛性、破壊した断層面積、すべり量などによって決まります。季節や気温そのものがマグニチュード計算に入るわけではありません。

一方、積雪、降雨、融雪、地下水、海水などによる荷重や間隙水圧の変化は、すでに臨界状態にある断層で地震発生のタイミングや発生率をわずかに変調することがあります。

その結果、特定の地域で地震発生数に季節的な偏りが見える場合はありますが、そこから「その季節は大きなマグニチュードになる」と結論することはできません。

つまり、季節や環境が主に変えるのは「地震が起こるきっかけやタイミング」であり、マグニチュードそのものは実際にどこまで断層破壊が広がったかによって決まります。

参考資料

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