地震の長周期地震動が周囲の自然や暮らしに影響するのは、ゆっくりした大きな揺れが遠くまで伝わり、高層ビルや大型タンクなど「長い周期で揺れやすい構造物」と共振すると、地上の震度だけでは分かりにくい大きな揺れが長時間続くからです。
特に高層ビルでは、高層階ほど大きく揺れ、家具や什器が移動・転倒したり、人が立っていられなくなったり、エレベーターや内装・設備に影響が出たりします。また、大型の石油タンクでは液面が大きく揺れるスロッシングが起こり、火災や油の漏出につながる場合があります。
一方、長周期地震動は、斜面崩壊や液状化のように自然地形を直接変えることを特徴とする現象ではありません。自然環境との関係では、平野・盆地の深い堆積層などの地質条件が長周期の波を増幅・長時間化し、その結果として都市や産業施設への影響を大きくする、という見方が重要です。
長周期地震動とは「ゆっくりした揺れが長く続く地震動」
気象庁は、長周期地震動を、大きな地震などで生じる周期の長い大きな揺れとして説明しています。
一般の低層住宅が影響を受けやすい短い周期の揺れとは違い、長周期地震動は数秒程度のゆっくりした揺れを多く含みます。
さらに、長周期の波は短周期の波より減衰しにくく、震源から数百km離れた場所まで伝わることがあります。
そのため、震源から遠い大都市でも、高層ビルの上層階では大きく長く揺れる場合があります。
なぜ高層ビルが特に大きく揺れるのか
建物には、それぞれ固有の揺れやすい周期があります。
一般に、高い建物ほど固有周期が長くなります。地震波の周期と建物の固有周期が近づくと、共振によって建物の揺れが大きくなります。
USGSも、小さな建物は短周期・高周波の地震波の影響を受けやすく、高層建物は長周期のゆっくりした地震波の影響を受けやすいと説明しています。
つまり、地面の揺れが同じでも、低層住宅と高層ビルでは受ける影響が同じではありません。
長周期地震動は、高層建物という「長い周期で揺れやすい構造物」に対して特に大きな意味を持つのです。
高層階では地上より大きく揺れることがある
長周期地震動を受けた高層ビルでは、一般に低層階より高層階の揺れが大きくなる傾向があります。
気象庁は、長周期地震動によって高層ビルが大きく長く揺れると、家具や什器が転倒するだけでなく、大きく移動する危険があると説明しています。
2011年東北地方太平洋沖地震後に東京の高層住宅で行われた調査でも、上層階では家具の移動・転倒が多く、人の行動も大きく制限されたことが報告されています。
建物そのものに重大な構造被害がなくても、室内ではコピー機、棚、キャスター付き家具などが大きく動き、けがや避難障害につながることがあります。
震度が小さくても高層ビルでは大きく揺れることがある
長周期地震動の重要な特徴は、通常の震度だけでは高層階の揺れを十分に表せない場合があることです。
震度は主に地表付近の揺れを表す指標ですが、高層ビルでは建物の共振によって上層階の揺れが増幅されることがあります。
気象庁は、2011年東北地方太平洋沖地震で、大阪市の高層ビルが大きく揺れて内装材などに被害が出た一方、地上の震度は3だった事例を紹介しています。
このため、気象庁では通常の震度とは別に「長周期地震動階級」を設け、高層ビルでの人の行動困難さや家具・什器被害の程度を4段階で示しています。
エレベーターや設備にも影響する
高層ビルの暮らしでは、室内の家具だけでなく設備への影響も重要です。
建物が大きく長く揺れると、エレベーターの安全装置が作動して停止したり、設備機器や配管、内装材などに損傷が生じたりすることがあります。
高層住宅やオフィスでエレベーターが止まれば、上層階との移動が難しくなり、帰宅・避難・物資運搬にも影響します。
病院や事業所では、設備停止が業務継続に関係することもあります。
そのため長周期地震動対策では、建物の耐震性だけでなく、家具固定、設備の転倒防止、エレベーター停止時の対応なども重要になります。
大型石油タンクでは液面が大きく揺れる
長周期地震動の影響は高層ビルだけではありません。
大型の石油タンクや貯槽も長い固有周期を持つため、長周期地震動によって内部の液体が大きく揺れることがあります。これをスロッシングといいます。
2003年十勝沖地震では、苫小牧の石油タンクで長周期地震動によりスロッシングが励起され、タンク火災や浮屋根の沈没などの大きな被害が発生しました。
液体がタンクからあふれたり、設備が損傷したりすると、火災、操業停止、周辺への油漏れなど二次的な社会・環境影響につながる可能性があります。
このため、長周期地震動は住宅防災だけでなく、臨海工業地帯やエネルギー供給施設の安全対策でも重要です。
遠くの都市でも影響が出るのはなぜか
長周期の地震波は、短周期の波に比べて遠くまで伝わりやすい性質があります。
USGSが2011年東北地方太平洋沖地震後に調べた高層建物の研究では、震央から約770km離れた建物でも長時間の応答が記録されました。
これは、長周期成分が遠方まで伝わることに加え、地盤と建物の固有周期が近く、建物の減衰が小さいと揺れが長く残るためです。
したがって、大きな海溝型地震では、震源近くの被災地だけでなく、遠く離れた大都市の高層建物も警戒対象になります。
平野や盆地が長周期地震動を増幅する
自然環境との関係で重要なのが、地下の地質構造です。
関東平野、大阪平野、濃尾平野などの大規模な平野・盆地では、硬い地震基盤の上に柔らかい堆積層が厚く積もっています。
こうした深い堆積層では長周期の地震波が増幅され、盆地内で反射・屈折することで長時間揺れが続くことがあります。
つまり、自然環境は長周期地震動によって「被害を受ける側」であるだけでなく、どの場所で長周期地震動が大きくなりやすいかを決める条件でもあります。
大都市が大規模な平野部に多く立地していることも、長周期地震動が暮らしへ大きく影響する理由の一つです。
長周期地震動は斜面崩壊や液状化の主な指標ではない
地震による自然災害には、斜面崩壊、地すべり、液状化、地割れなどがあります。
しかし、これらを長周期地震動だけで説明するのは適切ではありません。
斜面崩壊は斜面の地質・勾配・地下水と地震動全体の強さなどが関係し、液状化は地下水位の高い緩い砂地盤と強い繰り返しせん断が重要です。
長周期地震動の特徴的な影響は、むしろ高層建物、大型タンク、免震建物など、長い固有周期を持つ構造物で顕著に現れます。
この区別をしておくと、「長周期地震動が強い地域では自然災害がすべて増える」と誤解せずに済みます。
高層住宅では人の行動そのものが難しくなる
長周期地震動が強いと、ゆっくりした大きな揺れが長く続きます。
短時間の激しい揺れとは違い、体が左右へ大きく振られるような状態が続くため、高層階では歩行や移動が難しくなることがあります。
2011年東北地方太平洋沖地震時の東京の高層住宅調査では、大きな揺れによって住民の行動がかなり制限されたことが報告されています。
そのため、揺れが始まってから家具を押さえたり、急いで長い距離を移動したりするのは危険です。
高層階では、家具固定やキャスターのロックなどを地震前に済ませておくことが特に重要です。
長周期地震動情報は何に使われるのか
気象庁の長周期地震動階級は、高層ビルでどの程度の揺れや室内被害が起こりうるかを判断するための情報です。
長周期地震動階級は、地上の地震計で得られた観測データから、高層ビルに影響しやすい周期帯の応答を評価して求めます。
施設管理者は、高層階の被害状況確認、エレベーターや設備の点検、入居者への注意喚起などに利用できます。
ただし、同じ階級でも建物の高さ、固有周期、構造形式、減衰、階によって実際の揺れは異なります。
長周期地震動階級は、個々の建物の被害を断定する数字ではなく、防災対応を始めるための重要な目安です。
暮らしではどのような備えが必要か
長周期地震動への備えでは、高層階特有の揺れを前提にすることが重要です。
- 背の高い家具や棚を壁へ固定する
- キャスター付き家具・機器をロックする
- 棚の上に重い物を置かない
- 大きく移動しそうな家具の周囲に避難経路を作らない
- エレベーター停止時の移動方法を確認する
- 長周期地震動階級と震度の両方を確認する
低層住宅と同じ地震対策に加え、「家具が倒れるだけでなく大きく滑る」「揺れが長時間続く」という特徴を考えて準備する必要があります。
まとめ
地震の長周期地震動が周囲の自然や暮らしへ影響するのは、周期の長い揺れが遠くまで伝わり、高層ビルや大型タンクなど長い固有周期を持つ構造物と共振しやすいからです。
高層ビルでは上層階の揺れが大きく長く続き、家具・什器の移動や転倒、人の行動困難、設備・内装・エレベーターへの影響が生じます。大型石油タンクではスロッシングによって火災や漏洩につながる場合があります。
また、関東平野などの深い堆積盆地は長周期の地震波を増幅・長時間化することがあり、自然の地下構造が都市の影響の大きさを左右します。
つまり、長周期地震動は「自然環境を直接大きく壊す特殊な揺れ」というより、自然の地下構造によって増幅され、高層建物や大型施設など現代の暮らしに特有の構造物へ大きな影響を与える地震動です。震度だけでは分かりにくい危険があるため、長周期地震動階級を確認し、高層階に合った備えをすることが重要なのです。
参考資料
- 気象庁「長周期地震動とは?」
- 田村和夫ほか「2011年東北地方太平洋沖地震における東京の高層住宅での揺れと室内被害および対応行動に関するアンケート調査」
- 座間信作「2003年十勝沖地震にみる石油タンク被害の特徴と対策」
- U.S. Geological Survey「How Seismic Waves Affect Different Size Buildings」

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